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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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04:鬱陶しい奴はどう対処する?

 アリアとリアーナは冒険者ギルド併設の宿舎から移動し、ギルド内の依頼書が貼り出されている掲示版の前にいた。

 ハンナは既に対象の調査の為、別行動を取っている。

 二人は掲示されている依頼書を見ながら今日受ける依頼を探す。

 リアーナの視線が一つの依頼書に留まる。


「アリア、この依頼がちょうど良いんじゃないか?」


 アリアもリアーナの見ている依頼書に目を通す。

 依頼内容を見て思わず笑みを零す。


「本当に良いタイミングで見つけたね。でもハンナは拗ねそうだね」


「まぁ、その分お裾分けを私より多くすれば満足するだろう。これを受けるので良いか?」


「いいよ」


 リアーナは依頼書を掲示板から剥がし、ギルドの受付に持って行く。

 カウンターに座った紫髪の受付嬢は少し気だるそうだ。


「この依頼を受けたい」


 受付嬢に依頼書と二人のカードを渡す。


「リアーナさんとアリアさん、おはようございます。今日はこの依頼を受けられるのですね」


 リアーナがカウンターの前に来るとシャキッとなる。

 この受付嬢はミランダ、ピル=ピラに来る途中で討伐したマーダーウルフの受け渡しをする時にお世話になった。

 マーダーウルフはSランクの災害指定の魔物だった為、三人とも一気にSランクに上がったので、ここのギルドではちょっとした有名人になってしまったのだ。

 冒険者にはその技量に応じてランク分けされている。

 ランクは一番下からF、E、D、C、B、A、Sと言う形となっている。

 依頼には対象ランクが設定されており、ランク外の冒険者は受注出来ない様になっている。

 理由は冒険者の死亡率を下げる事、上位ランクの冒険者が下位ランクの冒険者の仕事を奪わない為である。

 依頼は基本的には冒険者はギルドで受発注を行う。

 ランクは依頼の達成によりギルドで判断され、試験に合格すると上がる。

 但し、依頼の失敗が続いたりした場合はランクダウンもある。

 犯罪を犯した場合は当然、資格剥奪となる。

 

「あぁ、街道に盗賊が出たら商人達が困るだろう?」


 何処に行っても盗賊の様なゴロツキは無くならない。

 盗賊が見つかる度に街から冒険者ギルドに討伐依頼が出されるのだ。

 基本的に盗賊の討伐は生死を問わない為、盗賊の首を持ってきてアジトの場所を報告すれば完了になる。

 盗賊の首から下がどうなっていても何も問題は無い。


「そう言って依頼を受けて頂けると助かります」


 ミランダは受け取ったカードと依頼書を処理する。

 冒険者ギルドのカードは身分証明書にもなるので非常に便利だ。

 更にギルドに預けたお金の金額を入力して保存も出来る。

 大金を持ち歩かなくてもギルドに預けて各地のギルドで引き出しが出来る優れ物だ。

 アリア達は手持ちのお金の半分をギルド、残りを空間収納に保管している。


「受注の処理が終わりましたのでカードをお返しします。」


 ミランダからカードを受け取る。


「街道沿いと言うが、どの付近に出没するか分かるか?」


 ミランダは受付のファイルを開いて目を通していく。

 受付に置いてあるファイルには依頼内容だけでは無く、依頼に関する目撃情報だったり、襲撃された人物等の情報が載っている。

 この情報は依頼主、担当するギルド職員、受注した冒険者しか知る事は出来ない。


「南のハルネート方面へ向う街道沿いによく出没しており、南東の山の麓辺りが怪しいと警備隊は踏んでいる様です」


 ハルネートは南のバンガ共和国との国境に近い街だ。


「警備隊は討伐には行かないのか?」


「警備隊はバークリュールとの小競り合いの所為で人員をこちらに避けないんですよ」


 バークリュール、ファルネットの北側の沿岸に構える国だが、ここ数年ファルネット国境付近で小競り合いが続いている。

 原因は国境にある山の鉱山資源の取りあいだ。

 何処も争いばかりだ、とリアーナは心の中で思った。


「分かった。ありがとう」


「気を付けて行って来て下さい」


 受注の終わったリアーナはアリアと一緒にギルドの出口に向う。

 しかし、それは一人の斧を背負った大男によって遮られた。


「最近、ここのギルドで良い気になっている新顔だな?」


 二人を遮った男は二人の活躍を気に入らない者の内の一人だ。

 自分の縄張り意識が強く、その縄張りに入ってくる様な者は嫌がらせ等をして排除する。

 そんな輩だ。

 ただ声を掛けられた二人はその程度の輩に動じる様な人間ではない。

 リアーナは溜息を吐き、アリアは首を傾げる。


「別に良い気になっている訳では無いが、我々に何か用か?」


 リアーナにとってはこの手の輩の相手をするのは慣れていた。

 騎士団にいれば外にも内にもこの様な輩は珍しくはなかった。

 ただリアーナが対応に出たのは、この男が迂闊な事をしてアリアを変に刺激をするのを避ける為だ。


「その盗賊討伐の依頼を俺に譲れ。それはウチのパーティーで受ける予定だったんだ」


「既にこの依頼は我々が受ける事を正式に受理されているし、そもそも依頼の受注は早い者勝ちだ」


 この討伐依頼は以前から掲示されており、期限の設定もされていない為、どうしても受けたければ先に受けておけば良かったのだ。

 この街に来たばかりの新顔へのやっかみだ。


「どうせお前たちみたいなひよっこにはその依頼は無理だからベテランの俺が代わってやるって言ってやってるんだよ。女子供二人で盗賊を倒せねぇだろ?」


 大男は下卑たらしい顔をリアーナの顔に近づけて言った。

 リアーナは眉を顰める。

 大男は朝から酒を飲んでおり酒臭かったのだ。

 横で大人しくしていたアリアだったが、大男の行動に表情を歪める。


「リアーナさんにその汚い顔を近づけないで」


 静かだが相手を威圧する様な低い声で言い放った。


「あん?誰が汚い顔だって?ガキが」


 大男のこめかみがひくつく。

 アリアにとってリアーナは義母だが、心の中では実の姉の様に大切に想っている。

 大事な家族なのだ。

 事件による変化の影響からか敵意や害意を持つ者には一切、容赦しなくなった。


「あなたの顔の事を言ってるのも分からないの?顔が汚いだけじゃなくて脳味噌も足りないんじゃないの?」


 アリアの言葉は火に油、正にそのままだ。

 穏便に済ませようと思っていたリアーナはどうしたものか、と溜息を吐く。


「何だとテメェ!」


 怒気を放ち言い散らかす大男。

 その声にギルドにいる他の冒険者もこの状況に気付く。

 ギルド職員も気付き、こちらに掛け寄ってくる。


「どちらもギルド内の冒険者同士の喧嘩は規則で禁止されてます!」


 ミランダが間に割って入る。


「邪魔すんじゃねぇよ。ミランダ。生意気な新顔にここの流儀を教えてやっているだけだ」


 彼女は少し呆れながら大男に向って言う。


「ゴザさん、それはあなたの勝手なルールで、必要なルールはギルドから伝えますので必要ありません。それに以前にも注意しましたよね?」


 ゴザと言う大男は以前にも同じ様な事で注意されていた様だ。

 ミランダが間に入ったおかげでアリアはこみ上がってきた苛々のぶつけ先が失くなりそうで一人困っていた。


「チッ!テメェらあんまり粋がってると痛い目に合うからな!覚えとけ!」


 ギルド職員の前では都合が悪い様でゴザは捨て台詞を残しギルドから出ていく。

 取り敢えず、喧嘩沙汰は回避出来た事にミランダは胸を撫で下ろす。

 彼女はアリアとリアーナに向って頭を下げる。


「申し訳有りません。以前からもあの人には散々注意していたのですが……」


「気にしなくても良い。私も喧嘩にならなかったからほっ、としている。無用な争いは避けたいしな」


 彼女自身、実力での排除は容易いがそれは最終手段であり、公の場では穏便に済ませたかった。

 ただでさえ街に着いた時に目立ってしまい、更に絡まれて喧嘩して悪目立ちしたくはなかったのだ。


「ありがとうございます。もし何かあれば相談して下さい」


 受付に戻るミランダを見届けるとアリアに注意を促す。


「アリア、あの様に火に油を注ぐ様な物言いはやめなさい。折角、私が穏便に済まそうとしていたのだから……」


「はーい。でもあの汚い顔がお義母さんの目の前にあるのが許せなかったし」


 ちょっと拗ねたような口振りで言い訳を試みる。

 リアーナはガシッ、とアリアの肩を掴む。


「もう一度言ってくれないか?」


「リアーナさん?」


「違う」


「えっと……お義母さん」


 リアーナはアリアをぎゅっと抱きしめた。

 彼女はアリアの事を年齢等関係無く、本当の娘の様に思っていた。

 アリアにだだ甘なのだ。

 そして至福の一言に満面の笑みだ。


「ちょ、ちょっと!ここじゃ恥ずかしいから!」


 ギルドの入口付近で抱きしめられているアリアは恥ずかしさの余り赤面した。

 さっきのゴザとのやり取りで注目され、今度は別の意味で注目を集めている。

 こうなったリアーナは中々収まらない。

 抱きしめながら頭を撫で続けている。

 ギルドにいる人はその微笑ましいやり取りに温かい視線を向けている。


「ふぅ、久しぶりに呼ばれたから嬉しくて我を忘れてしまった様だ」


 通常状態に戻ったリアーナはアリアを解放する。


「次から気を付けよう……」


 少し疲れた様に零す。

 アリアは元に戻ったリアーナとギルドを後にした。





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