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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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33:後を追う者と家族を追う者

 ミレルとブレンは謎のクアールを従えた少女、カトリーヌを連れてネッタの街に入った。

 乗った乗り合い馬車が王都ドルナードとネッタを往復する定期便なので、一度ネッタでファルネット方面へ行く馬車へ乗り換えが必要なのだ。

 ネッタはカーネラル王国内では交易都市として栄え、西はファルネット貿易連合国、北は神教の総本山のヴェニスにバークリュール公国、東に王都ドルナード、南にはメッセラント王国へ向う街道を備える。

 商業的に見ればカーネラル王国で一番品が揃う街でもあり、店の数も王都ドルナードより多い。

 ドルナードはお店の数や量より質を重視した店が多いのが特徴だ。


 ミレル達は街に入って冒険者ギルドへ向った。

 理由はギルドの宿舎の空を確認するのと情報収集だ。


「カトリーヌは今日は何処に泊まるの?私達はギルド併設の宿舎に泊まろうと思っているけど」


「私もギルドの宿舎にする予定かな。あそこだとルーと一緒に泊まれるし」


 普通の宿では魔物の一緒の宿泊は断られる事も多い。

 ギルド併設の宿舎は魔物を従えている冒険者にとっては確実に従えている魔物と一緒に泊まれる数少ない宿なので欠かせない存在だ。


「そっか。確かにギルドの宿舎ならそれは安心だな。俺達は単純に安いからだが」


 安いのも魅力の一つだ。


「私達は宿を取ったら情報収集を兼ねて酒場に行くけど、どうする?」


「私は先にご飯を食べて寝ようかな。あんまり馬車に乗りなれていないから疲れちゃったし」


 普段はクアールの背中に乗って移動しているから快適だ。

 乗合馬車は人数を乗せる事を優先している為、お世辞にも乗り心地は良くない。


「明日は朝、食堂で一緒にご飯を食べてから出発で良い?」


「うん。分かった」


 簡単に明日の行動を決めるとギルドの受付で宿舎の部屋の空室を確認する。

 部屋の空きに余裕があったので三人バラバラで部屋を取る事にした。


「私は先に部屋で休むね」


 カトリーヌはルーを連れて宿舎へ向った。

 ミレルとブレンは辺りを見渡して声が掛けやすそうな冒険者を捜す。

 ちょうどブレンの目に留まったのはカウンターに座って酒を飲みながら楽しげに話している二入組みの冒険者だった。

 ターゲットを決めてブレンはミレルに目で合図をし、その冒険者の隣りの席に座る。


「お楽しみの所悪いんだが、この街での情報を教えて欲しいんだ」


「あん?何だお前?」


 厳つい冒険者の片割れはブレンの方を見る。


「俺は王都で冒険者をやっているブレンって言うんだが、この街周辺の情報を仕入れたいと思ってな。あ、マスター、俺とこっちの二人にエールを一杯ずつ頼む」


 ブレンはマスターに隣りにいる二人組みの冒険者の分の酒も注文する。

 情報収集する上で情報が欲しい側が酒を奢るのが暗黙の了解だ。

 これをしないとスルーされる事も多い。


「お、よく分かってるじゃねぇか。俺はギドーで、こっちがビルだ。いいぜ、何が知りたい?」


 隣りのスキンヘッドがギドーで奥のモヒカン男がビルらしい。


「お、サンキュ、更に追加一杯までならいいぜ。まず聞きたいのは周辺に変な魔物が出てないかだな」


 旅をする上で周辺に現れる魔物の情報は必須だ。

 特に変異種が出ていて未討伐だと襲われるとかなり危険だからだ。


「三ヶ月前にヘルハウンドの小さな群れが見つかったぐらいだな」


 ブレンは厄介だと思った。

 ヘルハウンドはBランクの魔物だが群れで狩りをする習性がある為、一匹見掛けると周辺に最低でも四、五匹以上いる思わないといけない。

 中堅の冒険者には厳しい相手だ。


「それは厄介だな」


「ま、でも新人が討伐しちまったからな」


 ギドーは手持ちのエールを一気に飲み干す。

 ちょうど良いタイミングで頼んだエールが来た。


「新人?新人がヘルハウンド討伐は無理だろ?どうせ強い奴が一緒にいて死体だけ持って帰ってきただけじゃないのか?」


 ブレンはギドーの言葉に有り得ないと思った。

 Bランクの魔物は決して新人冒険者に務まる程優しい魔物では無い。

 油断をすればAランクの冒険者でさえ危ない。

 よく貴族の子息が冒険者をやる際に強い冒険者に魔物を狩らせてランクを上げようとする事がある。

 ギルドの規定では違反だが貴族側もかなりお金を出す為、乗っかる冒険者も少なくはない。

 更に証拠を見つけるのが難しい。

 その為、Cランク以上の昇級試験は上のランクの冒険者との模擬戦が行われる様になっている。

 これだけで貴族による不正ランク上げは大分防げる様になった。


「俺もそう思ったんだよ」


 ビルが手を横に振る。


「それを疑ったCランクの奴がそいつに喧嘩を売ったんだが、一瞬で返り討ちさ」


 新人と言っても騎士崩れみたいな奴か、と思ったブレン。


「その新人はどんな奴なんだ?」


「蒼い髪の小柄な右目に眼帯を着けた少女で体格に不釣合いな大剣を背負っていたな。名前はなんて言ったかな……何だっけ?」


「確かアリアとか言ってなかったか?」


「そうそう。ビル、よく覚えていたな」


 ギドーはポンと手を打つ。


「二年ぐらい経てば良い感じの女になりそうだったからな。でも一緒にいた女の冒険者は怖かったな」


「あぁ、あれはおっかねぇな。目を合わせただけで殺される気しかしねぇ……」


 ギドーは身をぶるりと震わせた。

 ブレンはアリアの名前が引っ掛かった。

 蒼い髪の少女と言うのが気になったのだ。

 だがブレンの記憶では眼帯なんて着けていなかったし、何よりも大剣を扱える様な訓練を受けられる環境の人間では無かった筈だから。

 ただその名前が偶然に出てきたと言うには違和感が大きかった。

 更に同行している女冒険者も気になった。

 ギドーとビルがどのランクの冒険者かは分からないが、それ程威圧を放てる人間は限られている。


「同行している冒険者って、どんな奴だ?そんなにおっかないのか?」


「名前は知らんが銀髪のべっぴんさんと金髪の獣人だったな。そのアリアって言う冒険者に絡む奴らに恐ろしい殺気を放っていたな」


 ブレンはリアーナと侍女のハンナだと確信した。

 騎士団にアリアが来た時も迂闊に話しかけようと彼女に騎士が集まると同じ状況になったからだ。

 二人ともアリアに対しては親馬鹿を超えた過保護っぷりを発揮する。

 それ以上に厚い信頼関係がある。


「へぇ、それはおっかねぇな」


「銀髪の女に喧嘩を売った奴なんか一撃でギルドの外まで吹っ飛ばされたんだ。あれを見てみな」


 ギドーは親指で壁を指す。

 そこには一部だけ新しい石になっている壁があった。


「喧嘩相手が吹っ飛ばされた後だ。女のパンチ一発であれだ。笑えねぇよ……」


 ブレンはそれを聞きながらリアーナに喧嘩を売る馬鹿がよくいたもな、と思った。

 ブレンはリアーナの後輩に当たるので騎士見習い時代の事を覚えていた。

 昔のリアーナは女だてら強いので先輩騎士達から目の敵にされていたのだ。

 忠義を重んじる騎士ではあったが意外と荒くれ者が多いのが実情だった。

 特に訓練では情けない事に多数でリアーナを相手取るなんて事もあった。

 リアーナ本人はそんな事を気にもせず、それを物とも言わせない強さで黙らせていた。

 そんなブレンも幾度と無くリアーナに吹っ飛ばされてきた面々の一人だったりもする。


「そんな女、怖くて声を掛ける気すら……」


 ブレンはふと視線に気付くとミレルの責める様な視線が刺さった。

 会話が聞こえる位置で飲んでいたらしく今の会話を聞いていたのだろう。

 その視線はチクってやると言わんばかりだ。


「あん、どうした?」


 いきなり言葉を止めたブレンに訝しげに見るギドー。


「いや、何でもねぇ。そいつらって、何処に向ったんだ?」


「さぁ、そこまで知らねぇな」


 ギドーは首を横に振る。


「あの女ならドーソンへ行く商隊の護衛を受けてピル=ピラに向ったぜ」


「ビル、よくそんな事を知っていたな」


「あ?知り合いが同じ依頼を受けてたからな」


 ブレンはヴィクトルやヴァンの予測が間違いでは無いと思った。

 明日は予定通りピル=ピラへ向うだけだ。


「でも何でそんな事を聞くんだ?」


「そんだけ強い奴なら一度会ってみたいと思っただけさ。強い女って、惹かれねぇか?」


「いや……俺はあんなおっかない女は勘弁して欲しいな」


「俺も無理だ」


 ブレンの言葉にギドーとビルは理解に苦しむと言わんばかりに首を横に振る。

 暫く下らない会話で盛り上がった後、ブレンは二人から離れてミレルの部屋へ行き、情報の共有を行った。

 その時にリアーナへチクると言われ焦るブレンだった。




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