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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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30:ギルドへの報告

 昇級試験の依頼を一通り終わったアリア達はピル=ピラに戻ってきていた。

 マイリーンの巣を出たのは翌日の朝だった。

 何だかんだで巣の中の魔物を選別して回収するのに思いの外、時間が掛かったからだ。

 巣を日が昇る前に出発したが街に着いたのは夕方だ。

 マイリーンの姿はかなり目立つのでフード付のマントに大きい胴体部分には大きい布を被せてある。

 多少は周りからの奇異の目を抑えられると考えたからだ。

 街の西門に着くなり、ニールは詰所へ向う。

 ニールが事情を説明してくれている様だ。

 アリア達が説明するよりこの街で名が通っているニールが説明する方が話が早い。

 暫くするとニールが手招きをしてくる。

 アリア達はニールのいる詰所へ向う。

 そこにはニールの横に中年の衛兵が一人いた。


「えーと、こっちの人型の魔物で、魔物を従えたのはこちらのお嬢さんですか?」


 衛兵はアリアとマイリーンを交互に見る。

 アリアはギルドカードを出し衛兵に見せる。


「え、Sランクの方でしたか!あ、えー、これからいくつかの質問に答えてもらえると助かります。一応、規則ですので……」


 アリアは頷く。


「こちらの魔物は人型ですが、人の言葉は理解出来ますか?後、出来ればフードを取って頂けますか?」


 マイリーンは被っていたフードを取る。


「大丈夫だよ。普通に会話が出来るから」


「あ、はい。マイリーンと申します」


 マイリーンは軽く衛兵にお辞儀をする。


「所作が魔物とは思えないぐらい人間地味ていますね。意思疎通は問題無さそうですね。因みに種族を伺っても?」


 人間地味てると言うよりは本当は元人間なのだから当たり前である。


「ハンタータームクイーンの亜種になるのですかね?」


 首を傾げるマイリーン。

 これに関してはアリア達も何とも言えない様だ。


「分かりました。スムーズに会話が進む魔物は手続きが楽で良いですね。先程、ニールさんから新たに従えた魔物と聞いておりますが、それで大丈夫ですか?」


 衛兵は丁寧に質問を続ける。

 やはりニールがいる影響が大きい。

 衛兵によっては魔物に抵抗感があり、不躾な態度を取る者もいるからだ。


「うん。西の草原の依頼中に偶然」


「そうですか。何処の街でもそうですが、街に入るのにこれを着けて頂く必要があります」


 衛兵はアリアに魔石の付いた首輪を渡す。

 アリアの首輪を受け取る表情が険しい。

 これをマイリーンに着けるのに抵抗があるのだ。


「これは魔物を従える為の首輪です。街の中で魔物の暴走を抑える役割があります。これを着けた魔物は主の命令には逆らえません。後、万が一、魔物が事件を起こした場合は従えている者の責任になるので注意して下さい。魔石部分にあなたの魔力を通して首に嵌めてればこちらでの手続きは完了になります」


 アリアは手に持った首輪を見つめて動かない。

 マイリーンはアリアが首輪を着ける事に葛藤している事に気付いていた。

 マイリーンは身体をアリアの高さに合わせる様に屈め、両手で長い赤髪を持ち上げ、首を差し出す。


「アリア様、お願い致します」


 ここでマイリーンに首輪を着けない訳にいかない。

 アリアは意を決して首輪の魔石に自分の魔力を流す。

 魔石が淡く光り、アリアの魔力を吸い取り輝きが青色から赤色に変わる。

 アリアはマイリーンの首に首輪を取り付ける。


「ありがとうございます」


 マイリーンはアリアに深々と礼をする。


「凄く礼儀正しい魔物ですね。こんな魔物は初めてです。これで手続きが終わりました。カードへの登録はギルドでお願いします」


 従えた魔物は冒険者ギルドのルールでカードに登録しなければならない。

 これをしておく事により街への入場がスムーズになる。


 アリア達は衛兵に軽く礼を言って門を潜る。

 無事にマイリーンの手続きが終わったが次はギルドへの説明があった。

 かなりややこしい話になるのは想像に難くない。

 しかし、マイリーンの事は報告しなければならないので直でギルドへ向う。




「昇級試験の依頼が終わったから処理を頼みたい。後、厄介な事案が発生したからギルドマスターへ直接報告したい」


 ニールは受付嬢にギルドマスターへのアポイントを頼む。

 受付嬢はアリアの後ろにいるマイリーンを見て、表情が険しくなる。

 マイリーンは街に入ってからフードを被っているが、その大きなハンタータームクイーンの身体はどうしても目立ってしまう。


「ニールさん、後ろの魔物は……」


「厄介な案件の大事な客人だ。ギルドマスターにさっさと繋いでくれ」


 ニールは受付嬢では話にならないと言わんばかりにギルドマスターへのアポイントを促す。


「分かりました。少々、お待ち下さい」


 受付嬢は受付の奥へ行ってすぐに戻ってくる。

 来たのは呼びに行った受付嬢だけではなくガタイの良いスキンヘッドの大男も一緒に受付に来た。


「ニールか、どうしたんだ?」


「ギルドマスター、厄介な事があってな報告と相談だ。ちょっとこの場では話しにくい」


 ニールはそう言ってアリアとマイリーンを顎で指す。


「ん、確かお嬢ちゃんはマーダーウルフ討伐の一人じゃねぇか。で、そっちが訳有りか」


 ギルドマスターはマイリーンを見る目が細くなる。


「こんな所じゃあれだな。俺の部屋で話を聞こう」


 ギルドマスターは来いと言わんばかりに手招きをして受付の奥へと進んでいく。

 アリア達も後ろを着いていく。

 受付の奥の廊下の突き当たりにある部屋へ入る。


「ま、座ってくれ」


 奥からニール、アリア、ヒルデガルドの順に座っていく。


「あー、すまん。あんたは立ったままで頼む」


 ギルドマスターはバツが悪そうにマイリーンを見た。

 マイリーンは下半身がハンタータームクイーンな為、胴体大き過ぎるのだ。

 当然、椅子に座る事は出来ない。


「いいえ、お気になさらないで下さい」


 マイリーンは気にした素振りを見せずニールに視線を移す。


「まず報告からだ―――」


 ニールはマイリーンの名前を伏せて昇級試験の依頼の内の一つ、ハンタータームの巣の駆除について報告した。

 街道の近くに巣があった事、ハンタータームはクイーン以外は全て討伐した事、巣には何もいない事。


「クイーン以外と言うのが引っ掛かるが後ろの奴の事か」


 ギルドマスターはマイリーンに視線を移す。


「マイリーン、フードを取ってもらえるか?」


 マイリーンはニールに促されフードを取る。

 ギルドマスターはマイリーンを見て目が大きく見開く。


「お久しぶりです、ガルドさん。マイリーン・アドニです。私を覚えておられますか?」


 髪は以前より長いがその顔はよく知っていた。

 ガルドは驚きを隠せない。

 二年前に失踪した神官が目の前おり、尚且つその半身が魔物なのだから。


「ああ……当然、覚えているさ。何度も一緒に仕事をしたし、色々世話になったからな。それにしてもその身体は……?」


「それは私から説明させて頂きます―――」


 マイリーンはアリア達に話した事をガルドに説明した。

 誘拐された事から魔物になり脱走した事、そこから草原で過ごした日々を。

 マイリーンはガルドに首輪を見せる。


「私は今後、アリア様に仕える事になります。今の私に人として過ごす事は無理がありますので」


 マイリーンの姿に言葉が出なかった。

 ガルドは頭に手をやり、天を仰いだ。


「マイリーン本人なのは分かった。今の話からするとこの街の近くで合成獣(キメラ)研究をしている馬鹿野郎がいるって事だな」


 ガルドの中で最近出現する複数の魔物の特徴を持つ魔物を合成獣(キメラ)とほぼ断定していた。

 ギルドで極秘に調査を進めていたが、下手人に関してはまだ何も掴めていなかった。


「私は……合成獣(キメラ)の実験にされたからこうなったのですね……」


 マイリーンは自らの身体に起きた事を思い起こして俯く。


「実験材料にされたと見て間違いはないだろう。最近、街の周辺に合成獣(キメラ)と思わしき魔物がよく現れる様になってから下手人捜しにギルドも乗り出しているが、これと言った手掛かりは掴めていない」


「そうですか……」


「そう言えば誘拐されて逃げ出したと聞いたがどんな施設か覚えているか?辛いかもしれんがどんな感じか分かるだけ教えて欲しい」


 ガルドは出来る限りマイリーンから情報を聞きたかった。

 マイリーンは唯一、下手人のアジトへ行った事がある貴重な証人なのだから。


「結構、混乱していて分からない所はあるのですが、森の中のお屋敷みたいな感じでした。私がいたのは地下の牢屋みたいな場所です」


「森の中?」


「はい。その屋敷を出てからずっと森の中を彷徨ってましたので……」


 ふーむ、とガルドは顎を組んだ手に乗せる。


「西の草原に落ち着くまで森以外に何処にいたか分かるか?」


「何処と言われるとちょっと分かりません。でも西の草原に行くまでは森からは出てません」


 ガルドは席を立ち机から一枚の地図を持ってきてテーブルに広げる。


「森のある場所と考えるなら北では無く南か?ハルネート訪問に向う街道は森の中を突き抜けている。森の中の街道を通った覚えはあるか?」


 マイリーンは首を横に振る。


「そうすると必然的に西の草原とハルネート行きの街道の間にその屋敷がある可能性が高いか……」


「それなら街道に近い場所が怪しいんじゃないか?森の中には使われなくなった屋敷がいくつかあるからそこを使っている可能性は無いか?」


 ニールは広げた地図の南のハルネートへ向う街道沿いを指す。


「なるほど。当たってみる価値は有りそうだな。捜査はギルドで責任を持って当たる」


 そしてガルドはマイリーンへ改めて向き直った。




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