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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
34/224

28:追跡

本編再開です。

 翌朝、リアーナとハンナは早々に宿舎を出て孤児院の監視ポイントにいた。

 孤児院から里親の元に出される子供達を尾行する為だ。

 一年に五十人以上も里親を捜すのは決して簡単な事ではない、と言うより無理だろう。

 孤児を積極的に引き取る人間はそうたくさんはいない。

 そこには何かしらの裏があると見た方が良いだろう。

 よくあるのは奴隷を扱う商人が孤児院と結託している場合だ。

 孤児院から孤児を引き取って奴隷にする行為は禁じられているが非合法の奴隷商では珍しくもない話だ。

 教会運営の孤児院でそれが行われているとは考えにくいとはリアーナは思っているが、神職の腐敗は年々酷くなっている現状もある為、一つの可能性として考えていた。


 孤児院を見張っていると一台の馬車が孤児院の前に停まった。

 その馬車は神教の刻印が無い馬車だった。

 孤児院では無く里親側が馬車を手配したのであれば有り得ない事ではない。

 孤児院から六人の子供と対象であるサリーンが出てきた。

 子供達との別れを惜しむ様な光景が見て取れる。

 子供達はサリーンの事を親の様に慕っている様に涙を流しながら別れを済ませている。

 子供達が馬車に乗り込んだ所で馬車は出発した。


「ハンナ、頼む。何かあれば直ぐに戻ってこい」


「畏まりました」


 ハンナはその場から姿を消す。


「これで何か掴めると良いが……」


 孤児院から出てきた対象から目を離さずに呟いた。

 サリーンは馬車を見送って孤児院の中へと戻っていく。

 物陰で孤児院を監視しながら時間が過ぎていった。




 ハンナは孤児院を出た馬車をずっと尾行していた。

 向っているのは南門、バンガ国境方面ハルネートへ向う街道に出る様だ。

 旅人を装いながら距離を確保しながら相手に気付かれない様に後を追う。

 馬車が停まりハンナは街道脇の林の中へと姿を隠す。

 どうやら昼食の為に停まった様だ。

 今の所、おかしな様子は無い。

 再び動き出した馬車の尾行を続ける。


 ピル=ピラとハルネートの間には広大な森が広がっており街道は森の中を突っ切る形で整備されている。

 この森林地帯は盗賊が多いので街道を行く者にとっては要注意のポイントだ。

 その為ギルドでは定期的にこの森を拠点とする盗賊の討伐依頼が出るのだ。

 以前にアリアとリアーナが受けた盗賊の討伐依頼もこの付近の物である。


 ファルネットとバンガは国境を巡り争いが絶えない。

 国境から近いハルネートはファルネットで一番治安が悪い。

 ハルネートにはこの大陸で一番大きいと言われるスラム、貧者の壁が存在する。

 街の東側の急斜面沿いに形成された貧民街の事を指す。

 貧者の壁は治外法権に近い状態になっており、国でさえ手が付けられない状態となっている。

 強盗、殺人、違法奴隷、麻薬等が日常茶飯事な無法地帯だ。

 貧者の壁に住めない人々は森の中で集落を形成して暮らしているが、実質は盗賊村となってしまっている。


 馬車は街道から外れた脇道に逸れていく。

 ハンナは分岐点の木にマーキングを残し尾行を続ける。

 暫く進むと森の中に小さな屋敷があった。

 どうやら馬車はそこに向っていた様だ。

 馬車もその屋敷の前に停まる。

 それと同時に屋敷から使用人とは思えない黒ずくめが数名出てきて馬車の中に入っていく。

 子供達が騒ぐ気配は無い。

 馬車に入っていった黒ずくめ達は子供達を抱えて出てきた。

 子供達はどうやら眠っている様子で身動きする気配が無い。

 恐らく昼食に眠り薬でも入れたのだろう。

 黒ずくめ達と一緒に御者も屋敷の中へ入っていく。


 ハンナはあの孤児院に何かあるのを確信した。

 ここでもう少し様子を確認しても良いが一度、戻って報告する事にした。

 ハンナは踵を返し、街道へ続く道では無く森を駆け抜けていく。

 街道へと続く道は屋敷の黒ずくめの仲間が通る可能性が高く、鉢合わせると面倒だからだ。

 森の出口付近までは森の中を進む事にした。


 突如、背後から殺気を感じ、ハンナは横に飛んだ。

 すぐ脇の木に投擲用のナイフが刺さっていた。

 向こうも尾行に気付かない程の間抜けでは無かったか、とハンナは思った。

 気配からして追ってきたのは二人と判断した。

 人数は少ないがこのままだと追いつかれはしないが、街まで追いかけてくる可能性が高い。

 ハンナは一応、フード付きのマントとマフラーで顔を隠していた。

 ハンナは走るのをやめ、足を止めた。

 ここで迎撃する事にした。


 暫くするとナイフを持った黒ずくめが二人現れた。

 どう見ても暗殺者(アサシン)にしか見えない。

 黒一色の装束に口元をマフラーで隠しており、両手にナイフ、如何にも暗殺者(アサシン)と言わんばかりのスタイルだ。

 怪しさで言えばハンナも充分怪しいが。


「貴様は何者だ?」


 黒ずくめの片割れがハンナに問い掛けた。

 ハンナはこれに答えるつもりはさらさら無いので黙秘で答える。

 いつ攻撃が来ても良い様に腰に差したダガーをいつでも抜ける様に相手に隠れている手を構える。


「ダンマリか。ならそのままここで物言わぬ屍となるがいい」


 言葉が終わる瞬間、ハンナに向って幾つかの銀光が迫る。

 前に進みながら飛来する凶器を避けながら黒ずくめとの距離を詰める。

 右手でダガーを抜き放ち黒ずくめに一閃。

 同時にもう片方の黒ずくめにナイフを投擲。

 ダガーを受け止めた黒ずくめにすかさず魔法を放つ。


風撃(エア・ショット)


 至近距離で風の弾に直撃した黒ずくめは後ろに吹っ飛ぶ。

 すぐさまもう片方の黒ずくめにナイフを投擲。

 黒ずくめはあっさりと飛来するナイフを躱わす。

 先程の投擲も避けられていたが牽制用の攻撃なので仕留めれるとは思っていない。

 右手に魔力を集める。


風結界(ヴァン・ヴァリエール)付加(エンチェント)伸刃(ブレード)


 風の魔力をダガーに纏わせる。

 一気に間合いを詰めて一閃、しかし黒ずくめはダガー受け止める。

 すかさず左に差したナイフを抜き、二刀のナイフで連続攻撃を仕掛ける。

 黒ずくめも捌くので手一杯だ。

 その中の一閃を黒ずくめがスウェーバックで避けた瞬間、黒ずくめの首から血が噴き出す。


「え?」


 黒ずくめは自らに何が起きたのか理解出来ていなかった。

 ハンナの右手に持ったダガーには風の刃が付与されており、相手が間合いを把握して避ける瞬間を狙って魔力を込めて風の刃を延ばしたのだ。

 ハンナはその隙を逃さず心臓にダガーを一突き。

 ダガーを抜いた瞬間、黒ずくめの身体は力なく崩れ落ちる。


 吹き飛ばした黒ずくめはゆっくりと立ち上がる。

 さっきの一撃で木に叩きつけられたダメージが残っている様で動きが鈍い。

 ハンナは黒ずくめへと向き直り、一気に距離を詰める。

 このままだと分が悪いと判断した黒ずくめは逃走を図ろうとする。


「ガッ!」


 しかし、黒ずくめの足にナイフが刺さっていた。

 ハンナは振り向き様に投擲していたのだ。

 黒ずくめは転がりそうになる所を踏ん張って走ろうとするが、ナイフが刺さったまま逃げれる程甘いハンナではない。

 一瞬で黒ずくめとの距離を縮めたハンナはナイフの刺さった場所を蹴る。


「ぐあっ!」


 黒ずくめは痛みに地面に転がる。


風結界(ヴァン・ヴァリエール)捕縛(バインド)


 ハンナは黒ずくめを風の結界で動きを戒め、身動きを取れない様にする。


「くっ……」


 ハンナはゆっくり黒ずくめに近づく。

 


「あなたは何者ですか?答えなさい」


「……」


 黒ずくめはハンナの問いに答えるつもりは無いようだ。

 ハンナも素直に吐く様な輩では無いとは踏んでいた。

 溜息を吐きながら勢いよく手を踏み潰す。


「がぁぁぁぁっ!!」


 黒ずくめは手を踏み潰され痛みで絶叫する。

 指は在らぬ方向に折れ曲がっている。

 ハンナは踏みつけたまま黒ずくめの手をぐりぐりと踵を捻じ込む。


「ぐぁぁぁぁぁっ!!


 ハンナは絶叫を上げる黒ずくめを冷たい目で見下ろす。


「この程度では吐きませんか。もう少し別の手段を使いましょうか」




アリア「途中閑話ばかりで私の出番が無かった。ヒルダさんだけで三話とか狡い」


ヒルダ「いや、そんな事を言われましても。閑話の過去語りでちょっといつもとは違うお話が聞けましたね」


ア「個人的にはヒルダさんと森に行った話とか取り上げて欲しかったなんだけどね」


ヒ「アリアちゃん!それはダメです!そんな事を言っていると私のベッドで起こした顛末をリアーナ様達に言ってしまいますよ。人の布団でおね」


ア「ダメ!ダメ!!私が悪かったからそれを言うのはやめて!!」


ヒ「それだからお仕置きでお尻ペンペンされるんですよ」


ア「もうお尻叩かれたくない……」


ヒ「あれは自業自得です」


ア「でもヒルダさん、殿下と仲が良かったんだね」


ヒ「一応、そうですね。でも学院を卒業してからはほとんど会ってませんよ。それに殿下には婚約者の方がいましたからね」


ア「殿下の最初の婚約者がリアーナさんだとは思わなかったよ。婚約者がいるのに未だに独身なんだろう?」


ヒ「それはですね、殿下の婚約者の方のご両親が不正で爵位を剥奪されたからですね」


ア「その婚約者の人はどうなったの?」


ヒ「今は王宮内で文官として務めていますよ。貴族では無く今は平民ですが」


ア「そんな事があったんだ。ヒルダさんとならお似合いだと思うけど」


ヒ「私が王妃はダメでしょう。悪魔姫なんて変な二つ名を貰いそうで怖いので却下です。それに既に嫁ぎ遅れなので無理です」


ア「そうかなー。意外とチャンスはあると思うけど。でもその二つ名は面白そう」


ヒ「アリアちゃんはお尻叩きが余程好きなんですね」


ア「そんな訳で先に部屋に帰るよ!」


ヒ「まぁ、ベッドが隣りなので部屋に逃げても意味が無いと思いますが」



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