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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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閑話05:冒険者シモン・クドス

今度はリアーナと北門で戦ったシモンです。

 俺はこの街で冒険者をやっている。

 元々はカーネラル王国の北にあるランデール王国の出身だ。

 今はファルネット貿易連合国と都市ピル=ピラを拠点にして活動している。


 俺はクドス子爵家の五男として生まれた。

 貴族と言っても貴族と言う枠の端っこに何とか掴まっている程度だ。

 そんな家の五男の俺には当主とかは全く縁が無い。

 冒険者になると言った時も両親は反対しなかった。

 十六になると同時に冒険者になり家を出た。

 家を出る時に両親から金貨五枚を餞別に持たせてくれた。

 何かあったら何時でも戻って来いと言われた。

 両親は貧乏貴族だがたくさんの愛情を俺に注いでくれたと思う。


 生意気にも独りでやって行きたいと思っていた俺はランデールの隣りのバークリュール公国を拠点にした。

 カーネラル王国の方が近かったが、国境での小競り合いが多く情勢が不安なのもあったのでやめた。

 案の定、数年後戦争になった。


 俺は冒険者として普通に生計を立てる事が出来た。

 新人にしては腕が立ち、無理な依頼を受けずに確実に依頼を達成するのでギルド内では有望株扱いだ。

 父が騎士団の隊長だったので父に扱かれたのがここで役に立っている。

 俺自身も必死に父の鍛錬を頑張った甲斐があったと思う。


 冒険者を続けていると一人の冒険者の話が俺の耳に入ってきた。

 ピル=ピラを拠点にしているSランク冒険者、剛剣のガリアスだ。

 常に大剣一本に命を預け、その一撃は岩をも容易く両断し、ドラゴンを単独で討伐すると言う凄腕の剣士である。

 俺の聞いたのはSランクの魔物であるクアール討伐の話だ。

 彼はピル=ピラを拠点にしているがSランクになると色んな街から応援や指名依頼を受ける事があり、ファルネット全域で活動している。


 俺はガリアスに憧れた。

 ガリアスはパーティーをほとんど組まず一人で魔物を討伐してくる。

 それがSランクの魔物でも。

 俺はその強さに惹かれた。

 そして俺は拠点をピル=ピラに移す事にした。

 バークリュールには特に思い入れも無いので迷う事は無かった。


 ピル=ピラに着く頃にはCランクまでランクが上がった。

 ここに来てから分かったのがガリアスはほとんどギルドには顔を出す事が無かった。

 この街にいる奴に話を聞くといつも自宅に依頼をギルド職員が届けるらしい。

 自分から依頼を探す事は無く、受ける依頼はギルドに全部お任せの様だ。

 この街でガリアスに憧れを抱く冒険者は非常に多い。

 一度でも話をしてみたいと思ったが周囲に他の冒険者が大勢いるので中々話す事は出来なかった。


 そんなある日、ガリアスと直接対面する機会が出来た。

 それは去年、俺がAランクの昇級試験の担当がガリアスだったのだ。

 一応、俺は期待の新人扱いで二十二歳でAランク昇級試験を受ける人間は稀にしかいない。

 なんとガリアスから俺の昇級試験の担当をしたいと申し出があった事だ。

 それを聞いて物凄く嬉しかった。


 昇級試験の依頼は西の草原にいるワイバーンの単独討伐と南の森にいるキラーマンティスの単独討伐だった。

 どちらも問題無く討伐し、ギルドに戻るとガリアスとの模擬戦だった。

 この時、俺は初めて戦うガリアスに気分が高揚し、少しでも勝機があるのでは無いかと思っていた。

 今思えば俺は周囲より早い昇級で調子に乗っていたと思う。


 しかし、それは甘い考えだった。

 ガリアスと対峙した俺は何も出来ず負けた。

 手も足も出なかった。

 勝負は一瞬で決着だ。

 気が付いたら剣を振る前に俺の眼前に剣があった。

 理解が出来ない程のレベル差があった。

 何も出来なかった自分に歯噛みした。

 ガリアスは別れ際に「ここで負けて悔しいのであればもっと磨け。お前は光る石だ」と。


 一応、Aランクに昇格したが何処か釈然としなかった。

 それから俺は今まで以上に鍛錬に力を入れる様になった。

 Sランクがどれだけの高みなのか知ったから。


 最近、ファルネットの首都サールナーンへ行く商人の往復の護衛の依頼から帰ってきた時の事だ。

 ギルドはある話で持ち切りだった。

 街の周辺に現れたマーダーウルフを討伐した冒険者の話だ。

 知り合いの冒険者が詳しく知っていたので話を聞くととんでもない話だった。


 その冒険者は女性三人組みでマーダーウルフの討伐を疑いギルドが模擬戦をしたそうだ。

 そのギルドが用意した相手にガリアスがいたのだ。

 そしてガリアスに負けたと言うのだ。

 俺はガリアスが女に負けるなんて想像が出来ない。

 だがそいつは目の前で見ていたと言うのだ。

 名はリアーナと言うそうだ。

 長身の銀髪のハルバートが得物の冒険者。

 俺は一度会ってみたいと思ったがギルドの酒場にはいなかったが、ギルドの宿舎に泊まっていて暫くは街にいるらしいのでギルドにいれば顔を合わせる機会がありそうだ。

 幸い護衛の依頼で報酬はたんまり貰ったから暫くはのんびりしていようと思った。


 普段、街でのんびりしている時の俺はほとんど自宅の裏で鍛錬に勤しんでいる。

 その日は夕方ぐらいまでずっと鍛錬をしていて夕方ぐらいに情報収集を兼ねてギルド併設の酒場にいる知人に適当に声を掛けた。

 聞くと今日もまたギルドで騒動があった様だ。

 それは新人が登録の模擬戦でBランクのゴザを圧倒して倒したと言う話だ。

 まぁ、ゴザは素行は悪いがBランクでもそこそこの腕の冒険者だ。

 決して新人に負ける様な奴じゃない。

 話を聞くと魔法で何十本の剣を作って飛ばしたとか。


 一瞬、俺は耳を疑った。

 新人が何でそんな芸当が出来るのかと。

 身なりが綺麗だから良い所の出で何処かの国の元宮廷魔術師じゃないか、みたいな事を言っていたのでそれなら有り得るかと思った。

 そしてEランクからいきなり昇級試験を受ける事になった様だ。

 確かにゴザを瞬殺する奴ならFランクに置いておいても無駄だ。

 高ランクの仕事をさせた方が有意義だろう。

 しかし、そんな面白い事をやっているタイミングを逃すなんてつくづく運が無い。


 翌日は午前中で鍛錬を切り上げてギルドの酒場でのんびりしていた。

 傍から見ると仕事しろよ、と言われるな、とか思う以前に普通に受付嬢のミランダに言われたさ。

 そんな感じでのんびりしていると一人の冒険者が傷だらけになってギルドに駆け込んできた。

 どうやら北門に例のモンスターが現れたらしい。

 最近、いくつかの魔物をくっつけた様なのがよく出る。

 俺も何回か戦った事はあるがBランク程度の強さだ。

 今入ってきた奴も確かBランクだった筈だがあそこまでボロボロになるとは結構、ヤバイ事態なのかもしれない。


 奥からギルドマスターが出てくると状況を確認している様だ。

 報告に耳を傾けるとケルベロスをベースだと!?

 ケルベロスはAランクでもヤバい魔物だ。

 三つ首の大型の狼の魔物で火のブレスを吐く厄介な奴だ。

 それも六体か。

 頭の中で聞こえてきた状況を整理していると案の定、ギルドマスターから当該の魔物の緊急討伐依頼だ。


 俺はそれを聞いて立ち上がってギルドマスターの元へ行くと同じタイミングで銀髪の長身の女と獣人の女も来た。

 もしかしてと思ったが例の冒険者の内の二人だった。

 これは間近で実力を見るチャンスだと思った。

 軽く戦力の確認をすると銀髪の女、リアーナがハルバートで前衛で獣人の方がハンナで斥候だそうだ。

 俺達は急いで北門へ向った。


 北門に近づくと門が開いていた。

 閉めないと進入を許すと言うのに何をやってるんだと思ったが、ちょうど門の所に一体いて閉められない様だ。

 俺とリアーナで門が閉められる位置まで押し返す事にした。

 リアーナの一撃で魔物はかなり後ろまで吹き飛んだ。

 と言うかその威力がおかしい。

 ケルベロスのベースのコイツは人がハルバートで横殴りして吹き飛ぶなんて事は普通は無い。

 どれだけの力で殴ったと言うのだろうか?

 だがそれに見て呆気に取られている訳にはいかない。

 怯んだ魔物の首に一閃。

 もがいている隙にリアーナの乱れ打ちで門が閉められる位置まで下がり、リアーナ合図で門が閉められた。


 外にいる魔物を確認すると数は六体でその内五体は新進気鋭の冒険者パーティーであるウォルト達が足止めをしていた。

 完全に足止めに徹していて門への進入を抑えている。

 この勝てないと理解して応援を待つべく足止めに徹する判断が出来るのが凄いと思う。

 いつ来るか分からない応援を待つのはかなり負担が大きい。

 勝てない相手だから下手をすれば死ぬ可能性もあるからだ。

 もっと実力を着けてAランクに上がってきて欲しい奴らだ。


 俺は魔物と対峙しながらリアーナの戦いが目に入る。

 俺が苦戦しながら戦っているコイツを悉く屠っていくのだ。

 猛スピードで振るわれるハルバートは魔物の首を飛ばし、その血飛沫と巻き起こる衝撃と風を起こす姿は竜巻だ。

 あれはもう人では無いと思った。

 目の前のコイツが雑魚にしか見えないのだから。

 もう討伐と言うよりは虐殺に近い光景なのだ。

 そのぐらい圧倒的だった。


 結局、俺とハンナで一体を倒し、残りの五体はリアーナ一人で倒してしまった。

 正直、ガリアスを倒してのを信じていなかった。

 だがあれを見ると納得出来た。

 あれはSランクでも規格外だと。

 俺に到達出来る存在ではないと思った。

 でもどんな奴か気になったから食事に誘った。

 ウォルト達も一緒だ。


 食事をしているとニアがリアーナに話しかけていた。

 どうやら最近、煮詰まっている様だった。

 冒険者をやっているとどうしても壁にぶち当たる時があるからニアもちょうどその時期なんだろう。

 俺からすればニアは十七歳とまだ若いから焦る必要は無いと思うが。

 真剣に相談するニアに対してリアーナは真摯に答えていく。

 話し方と考え方が何処かの軍属みたいに感じた。

 あれだけの強さがあれば元々は何処かの国のお偉いさんのなのか?

 まぁ、そうだったとしても教えてはくれないだろう。


 ニアが感動して泣き始めたので俺が少しリアーナに色々聞いていると例の新人はリアーナの仲間でAランクの昇級試験を受けているらしい。

 そいつも本当にAランクか怪しいモンだ。

 いきなりSランクにする訳にはいかないからな。

 リアーナから余裕で蜂の巣と言われると俺でも凹むわ。

 だけど元から下手な宮廷魔術師より強いなら納得だ。


 ニアが今度はハンナに斥候の技術を聞き始めた。

 コイツは若いけど愚直に真面目だから将来はAランクは堅いと思っている。

 ハンアは斥候ではなくメイドとはなんだ?

 もう冒険者でもないし。

 話し振りで分かるのはハンナはリアーナの従者でリアーナが何処かの貴族だと言う事だろう。

 だってリアーナだけ様付けは分かりやすいだろう。

 奴隷の様な間柄でも無い様だし。


 時々、軽口を叩きながら話しているのを見ると意外と気さくに話せる奴だと思った。

 彼女の素性は気になるが聞かない方が良いと思った。

 素性を隠している奴の素性を暴いて良い事はほとんど無い。

 大概、厄介事に巻き込まれるだけだ。

 ある意味藪蛇を突かないのも冒険者として長生きする上での教訓の一つだ。

 でもこの街に彼女がいるなら色々話をしてみようと思った。

 こんな風に色んな奴と仕事をしてこんな風に飲んだり食べたりするのも楽しいから。



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