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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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閑話03:ヒルデガルド・オーデンス③

 私とアリアちゃんはそれからよく一緒にお茶をする仲になりました。

 街に出かける時も私と一緒です。

 アリアちゃんも神殿に来てから侍女のハンナさん以外に親しい人はおらず寂しい思いをしていた様で、境遇も近い所がありすぐに仲良くなりました。

 年齢が十歳近く離れていますが、私の初めて出来た友達でした。


 二十年以上、碌にに友達がいないと言うのも寂しい人間だと自分でも思います。

 学生時代も私が教皇の娘と言う点しか見ない方ばかりで辟易していました。

 唯一、真面に話せたのはヴィクトル殿下ぐらいでしょうか?

 一応、生徒会の副会長を務めた時にヴィクトル殿下が生徒会長でしたので、仕事上お話する機会が多かったのです。

 彼も繋がりを持ちたいと言う輩が多く集まり、それに嫌気が差していた様でした。

 傍から見て決して仲が良いとは思われない関係でした。

 傍から見れば(・・・・・・)


 それは生徒会室で毎日の様に私とヴィクトル殿下は事ある毎に怒鳴りあっていたからです。

 実はこれには裏があって最初は偶然だったのです。

 偶々、企画の内容で意見が食い違い怒鳴りあいの口喧嘩になったのですが、終わった後に二人で先生に怒られて反省しながら歩いている時に妙に気分がすっきりしていました。

 ヴィクトル殿下も同じ気持ちでした。

 私達は境遇の関係でその様に感情を露にする事、ましてや怒鳴りあう等ありえません。


 そこで私達は思ったのです。

 生徒会室は防音がしっかりした部屋且つ、関係者以外立ち入る事はありません。

 私達はストレス発散に口喧嘩の怒鳴りあいをしていたのです。

 他の生徒会の方々は最初は困った顔をして、次第には呆れ、終いには夫婦漫才だと言って茶化してくるぐらいです。

 そう言う意味ではヴィクトル殿下も数少ない友達と言えるのかもしれません。


 そんな友達の碌にいない私の幸せは長くは続きませんでした。

 今から一年前、神殿である事件が起こりました。


 教皇である母が暗殺されたのです。


 報せを受けた私は呆然としました。

 一瞬、頭に浮かんだのはカナリス派の誰かでは無いかと思いました。

 カナリス派は種族融和を掲げる母とは対立しており、自分達の考える施策がほとんど通らない。

 それどころかカナリス派の司教や神官の不正が見つかりかなりの人数が処罰を受けており、母を邪魔者として排除したいと思っているのは間違い無いのです。

 遅れて暗殺した犯人の情報が私の耳まで届きました。


 何と聖女であるアリアちゃんが母を殺した犯人だと言うのです。

 まだ付き合いは浅いですがそんな事をする様な人間では無いし、母とアリアちゃんはそんな仲が悪い訳ではありません。

 寧ろ仲が良いのです。

 母は実の娘の様に可愛がり、アリアちゃんはまるで母親の様に慕っており、彼女が母を殺す動機がありません。


 母の葬儀が神殿で盛大に執り行われました。

 その一週間後、教皇選挙で教皇になったのは枢機卿だったカナリス派のボーデン・カナリスでした。

 マイリア様に色々お聞きしましたがお答えを聞けませんでした。

 カナリス派が神教の趨勢を握った事によりマイリア様も今までの様に動けない様で、私に危険が及ばない様に私と距離を置く事にしたのだと思いました。


 母の殺害の犯人となったアリアちゃんは【深淵の寝床】に封印されたと耳にしました。

 アリアちゃんが悪魔と同様の扱いにされた事に驚きました。

 普通は裁判があり処分が決まるのですが、ほぼボーデンの独断の決定でした。

 教皇を殺害する様な者は悪魔に心を売り渡した者だとして。

 何度かアリアちゃんに会う事が出来ないかと思い【深淵の寝床】へ侵入を試みたのですが、封印に阻まれ無理でした。


 私は通常業務をしながらカナリス派を探りました。

 母とアリアちゃんはカナリス派の謀略に嵌められたとしか思えなかったのです。

 母が亡くなってからの動きはボーデンに余りにも都合が良すぎました。

 カナリス派の中心人物以外は私を慰める様な声が多くありました。


 ただ神教の派閥の流れが変わりました。

 今まで種族融和を推し進めてきた派閥は母が亡くなった事で私を担ぎ上げようと言う動きが出てきました。

 私は派閥の旗頭になるつもりは更々ありません。

 母の後を継ぐと言う選択肢が無い訳では無かったのですが、それよりも母を殺した犯人を突き止めたかった。


 調べていく内に本当の実行犯と思わしき神官が不正を理由に処刑されている事が判明しました。

 母もアリアちゃんも嵌められたに違いありません。

 ただそれ以上の情報は手に入れる事が出来ませんでした。


 そしてあの事件から半年程経った頃でしょうか。

 神殿でとある事件が起こりました。

 アリア様の義母であるリアーナ様と侍女であるハンナ様が神殿に侵入し、大暴れされたのです。

 お二人ともアリアちゃんを溺愛しており封印されているアリアちゃんを解放する為に来たのが分かりました。

 一騎当千、それはまさにリアーナ様に相応しい言葉でしょう。

 リアーナ様の突撃は神教の警備、神官では止める事が出来ませんでした。


 そしてこの日、神教を揺るがす大事件が起きました。

 【深淵の寝床】の結界が破られ封印されていたアリアちゃんと悪魔三体の封印が解かれてしまったのです。

 その日を境に封印されていたアリアちゃん、神殿に乗り込んできたリアーナ様にハンナ様は姿を消しました。


 ここでおかしな事は起こりました。

 神殿に乗り込んで暴れたリアーナ様とハンナ様についてカーネラル王国は指名手配をしなかったのです。

 神教は当然、二人を指名手配し、処刑する様に抗議しました。

 しかし、カーネラル王国は神教からの抗議を拒否しました。

 恐らく王国上層部は母の暗殺が現教皇ボーデンが絡んでいると見たのではないかと思いました。


 神教からアリアちゃん達の討伐隊が組まれる事になり私も志願しましたが、母の娘だからなのか却下されました。

 実際にアリアちゃんに会ったら討伐隊を壊滅させるつもりでした。

 それから暫くして私がメッセラントの修道院への異動を言い渡されました。

 体の良い厄介払いでしょう。

 いくら対立派閥の旗頭にならないとは言え、前教皇の娘は邪魔で仕方が無いのでしょう。


 この異動の辞令で私は出奔を決意しました。

 神教にいては母の復讐は叶わないと思いました。

 異動前に西のネッタの監査へ行く予定があり、そのタイミングで出て行く事を決意しました。

 私はヴェニスのアパートを出発日に合わせ解約し、家財道具は空間収納に全て放り込み、個人で馬車を一台購入しました。

 幸いな事に今まで散財をしてこなかったのでかなりお金が余っていたのは良かったです。

 先立つ物が無いと出れませんからね。


 監査へは他の護衛の方も同行との話も上がりましたが、ネッタはそんなに遠くはなく、盗賊なら私一人で何とかなると言いお断りしました。

 魔法の戦闘なら神教内ではかなり強い方だと自負しています。


 まずはネッタに向いリアーナ様達の同行を探る事にしました。

 アリアちゃんは間違いなくリアーナ様と一緒にいる可能性が高いと踏んでました。

 あの二人があのタイミングでアリアちゃんを保護しなかったとは考えられません。

 ネッタで聞き込みをすると一月前に少女と大柄の美人と狐の獣人の三人組がファルネット貿易連合国方面に向かっている情報がありました。

 その三人の細かい情報を聞くとリアーナ様達で間違いなさそうでした。


 ただ気になったのは三人の内の少女が異様な強さで冒険者の模擬試験の試験官を倒し、単独でAランクの魔物を倒したりしているそうです。

 更にその少女は眼帯に背中に大剣を背負っていると聞き、アリアちゃんとは合致しません。

 ただ名前を聞くとアリアと言う少女だ、と言っていたので困惑は深まります。


 アリアちゃんは治癒魔法はとてつもないですが、戦闘に関してはど素人です。

 神殿に来てから治癒魔法の使い方しか教えていません。

 単独でAランクの魔物を倒せる力があるとは思えませんでした。

 でも道中も聞き込みをしてもネッタで聞いたと同じ情報でした。


 そしてピル=ピラに着いた私は神教のカナリス派の教会と孤児院を探りました。

 道中の教会とかも探ったりしていたのですが、不正も無いし、カナリス派でも無いので大した情報は得られませんでした。

 ただピル=ピラの孤児院にはカナリス派の神官で最近異動になった方がいると聞いていたのです。

 少し気になった程度ですが情報収集がてらに訪ねてみましたが、ごくごく普通の何処にでもある孤児院で子供達に好かれている方でした。


 ただ教会を訪れた時に悪魔の気配を感じました。

 正しくは私が感じたと言うよりハルファスが感じ取りました。

 どうやら私か孤児院を監視する者がいるみたいでした。

 宿へ向う途中、尾行されていました。

 ハルファスにお願いして尾行者の特徴を聞くとハンナ様らしきお姿の方でした。

 リアーナ様達はこの街にいる可能性が高いと思ったが束の間、リアーナ様が私の泊まっている宿に訪ねて来られたのです。

 これは何か運命かと思いました。

 宿の方にすぐに応接室にご案内する様にお願いしました。


 応接室で先に待っているとリアーナ様、ハンナ様、そしてアリアちゃんが部屋に入ってこられました。

 私は部屋に入ったアリアちゃんの姿に驚愕を隠しきれませんでした。

 可愛くて美しく綺麗な顔に似つかわしくない眼帯をしていたのです。

 それを通り超して嬉しさの余り抱きついてしまいました。

 こうアリアちゃんに抱きつくと不思議と癒されます。

 ただリアーナ様が私の行動に非常に驚かれていたので少しはしたない行動と取ってしまったのは反省点ですね。


 アリアちゃんから説明を聞きボーデンの差し金で間違いありませんでした。

 母を殺すだけでは飽き足らずアリアちゃんに一生物の傷を残したのです。

 許せる筈がありません。


 アリアちゃん達に会ってある事に気が付きました。

 ハルファスも同じ事を感じていました。

 アリアちゃん、リアーナ様、ハンナ様から悪魔の気配がしたのです。

 私は意を決して自分が悪魔憑き、悪魔との契約者と言う事を明かしました。

 皆さん、私の契約印に驚いておりました。

 でもそのお陰でアリアちゃん達も悪魔との契約者だと言う事を教えてくれました。


 更に驚いたのはアリアちゃん達自身が自らの意思で悪魔になると言った事です。

 私の場合はハルファスと生まれた時に契約している為、契約印が馴染み過ぎて身体が半悪魔化しています。

 ハルファスが言うには普通の手段では契約解除が出来ない様です。

 ハルファスからも契約解除が出来ないので死か私が悪魔になった時以外の解除方法はありません。

 でもハルファスは契約解除する気は無く、私が悪魔になり一緒に世界を旅したいそうです。

 本当にこの方の何処が悪魔なのかよく分かりません。


 話を戻しまして自ら悪魔化するのは人として精神が追いつかないそうです。

 もしかしたら既に精神の一部が壊れてしまったのかもしれません。

 悪魔になる為に人の心臓を食べるなんて常軌を逸しています。

 ハルファスから身体の悪魔化も私と同等程度まで進行しているらしいです。

ですが純粋な悪魔から見て異常過ぎて恐ろしいと言わせるぐらいです。

 何人の人を喰らったか分からないと。


 それでも私はアリアちゃんに着いていくと決めていました。

 母の復讐は当然ですが、これ以上大切な親友を失いたくはありません。

 これから神殿から外に出てこなかった私には想像も付かない人生になるでしょう。

 これは私が望んだ生き方なのだから。




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