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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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03:朝食は甘い物以外も食べましょう

 ここは冒険者ギルド併設の宿泊施設だ。

 国を出奔した三人は冒険者として生計を立てている。

 今いるのはカーネラル王国の西に位置する西の大陸との貿易で栄えるファルネット貿易連合国だ。

 元々は一つの国では無く小国が点在していた地域ではあったが、西方貿易の拠点が多く、東のカーネラル王国、南のバンガ共和国の侵攻に備えて小国が一つとなったのだ。


 この街はカーネラル王国のから続く街道沿いの街、ピル=ピラ。

 街道の要衝になる街で人の往来も多く、それに合わせて冒険者の活動も盛んだ。

 食堂もたくさんの冒険者で賑わっている。

 ギルドの食堂はセルフサービスだ。

 その為、厨房のカウンターに料理が並んでいるので、それを自分のトレイに乗せて空いている席で自由に食べるシステムだ。


 アリアはカウンターに並んでいる二種類のパンを一つずつ取り、サラダとドリンクに牛乳を取る。

 牛乳を飲むのは朝の習慣となっている。

 自らの足りない部分の成長を促す為に。

 四人掛けの席にちょうど空きがあったのでそこを確保する。

 朝食の内容は三者三様だ。

 リアーナは騎士の時の習慣で朝からよく食べる。

 ソーセージやハムに卵焼き、大盛りサラダ、パンも五個と中々の量だ。

 ドリンクは西方特産の爽やかな苦味に独特の渋みが特徴のお茶だ。

 アリアはこのお茶が苦手なのだが、リアーナは大好物だ。

 食後に飲むと口の中がさっぱりする。

 ハンナはと言うと甘いホットケーキに牛乳と言うおやつ仕様だ。

 ホットケーキもたっぷりの蜂蜜がかかっている。


「甘い物ばかり食べてて太らない?」


 甘い物ばかり食べるハンナに呆れつつも問う。


「問題ありません。毎日、適切な運動していれば余計な脂肪は付きません」


 自信有りげに言い、蜂蜜がたっぷりかかったホットケーキを一口。


「寧ろ食べる物で言えばリアーナ様が一番、よく食べていらっしゃるかと」


「騎士は身体が資本だからな。このぐらい珍しくも無い。冒険者も一緒だ」


 三人の中でアリア以外は身体を動かす仕事なので必然と栄養が必要なのかもしれない。

 アリアはそう思う事にした。


「ハンナ、何か情報はあったか?」


 リアーナの表情が切り替わる。


「対象は一年前のあの事件の後、教会運営の孤児院に異動となっており、孤児院で寝泊りをしている様です」


 対象の情報を聞き、アリアの表情が険しくなる。


「付近を聞き込みしていると、どうもこの孤児院はきな臭い感じです」


「どう言う事だ?」


 怪訝な感じで聞き返すリアーナ。


「その孤児院は三年前に設立されたのですが、孤児の入れ替わりが不自然に多いのです。街の者から聞くのは、里親がやたら多く見つかると言う事です。一年に五十人も入れ替わるのは普通にありえません」


「それはいくらなんでもおかしいでしょ」


 普通に教会運営の孤児院に文句は言えないだろうが明らかにおかしいのは間違いない。

 アリアも孤児院にいたから孤児院の事情はよく知っている。


「孤児院がおかしいのは周辺調査も兼ねて調べるとして、普段は孤児院で何をやっているの?」


 アリアにとって大事なのは孤児院よりも対象の状況だ。


「対象は孤児院で子供達の世話をしていますが、孤児院からはほとんど出ません。用事がある際は神父かお手伝いの街の住民が行っている様です」


 孤児院から一歩も出ないのは厄介だ。

 接触しようにも難しい。


「周辺の住民にも聞き込みをしましたが、孤児院から出た姿を見た事は無いそうです。子供の面倒見が良い神官と言う事で対象の悪い噂は特にありません」


「まぁ、子供の面倒見が良いのは昔からだから予想通りだね。でも孤児院から一歩も出てないのは不自然。やはり神教側から監視が付いて軟禁状態と見た方が良いのかな?」


 異動した神官が外に一歩も出ないのは普通には考えられない。

 アリアは対象の性格はよく知っているから尚更だ。


「そう見て問題無いと思う。あの事件を直接知る人間だ。監視が付くのは当然だ。ただ左遷先が孤児院と言うのが解せんな。厄介物ならメッセラントにある砂漠の修道院にでも送れば良いものを」


 メッセラント――国土の半分以上が砂漠で占めるカーネラルの南に位置する大国である。

 メッセラントの中央に広がる愚者の砂漠にあるアルスメリア神教の修道院。

 神教内の異端者の更生施設と言われているが実体は異端者の監獄。

 一度入ったら出てくる事は無い。

 別名【異端の監獄】と呼ばれている。


「それにしても孤児院から一歩も出ないのは厄介だな」


 アリアが挙手する。


「対象の見える所に私が神官姿でおびき寄せるとかはどう?」


 自信たっぷりに案を述べる。

 だが彼女の場合、自信があってもまともに採用される事は無い。


「却下だ。」


 リアーナから即答で却下される。


「アリア様、そんな事をしたら今後、動きにくくなります」


 ハンナからもダメ出しをされ、口を尖らせる。


「でも対象が外に出てこないとなると忍び込むしかなくなるよ」


 アリアはこの手段を余り芳しくないと思っている。

 孤児院の子供を巻き込みたくないからだ。

 彼女自身もリアーナに引き取られるまでは孤児院で育った為、子供達の境遇についてはよく分かっている。

 監視が付いている事を考えると最悪、戦闘になる事も考えられるし、孤児院と言う場所だと子供達まで巻き込んで殺しかねないからだ。


「そうですね。子供達を巻き込む可能性を考慮すると避けたい所ですね。子供達に罪はありませんので」


「私も子供達は巻き込みたくないと言うのには賛成だ。対象が逃げる訳では無い。周辺調査を進めて、もう一度作戦を練ろう」


 二人とも子供達を巻き込むのは良しとしない。


「分かった。対象は私が食べるよ。他の邪魔者はリアーナさんとハンナで分けて食べるので良いよね」


 二人は無言で頷いた。


「きっと物凄く美味しいと思うんだ。多分、私に食べられる直前とか凄いんだろうな」


 ある事件以降アリアは変わってしまった。

 決して良い変化では無い事は彼女自身も理解しているし、リアーナやハンナも理解している。


「少しお裾分けぐらいはしてくれると嬉しいかな。出来ればハンナにも少しはダメかな?」


「もちろん!後はその時のタイミング次第かな」


 彼女達は何処か普通の人と違った。

 それは人として忌避するべき事に対して嫌悪感を抱かなくなった事だ。

 三人は目的の為に仕方がない事だと割り切った。

 今ではそれを楽しみにする様になっている。


「今日は私とアリアで通常通りの依頼をこなして、ハンナには引き続き対象の調査に当たってもらう」


「うん。分かったよ」


「畏まりました」


 三人は残りの朝食を片付け、席を立つ。



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