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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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26:北門の戦い

 リアーナは魔物と対峙する。


「奇妙な魔物だな。合成獣(キメラ)か?」


 予想は付いていたが実物を見るのは初めてだった。

 リアーナは身体に魔力を纏わせる。

 身体に魔力を通す事により身体能力を引き上げる事が出来るのだ。

 リアーナ大地を蹴り、合成獣(キメラ)との距離を一気に詰める。

 目の前の合成獣(キメラ)はシモンの一撃により一つの首を半分程切り裂き動きを止めているが、他の首は動きが止まっていない。

 さっきのダメージで動きが鈍っている内に首を落とす事にした。

 ワイバーンの首に狙いを定めて全力でハルバートを振るう。

 一撃でワイバーンの首が飛ぶ。

 

「フン!」


 反動を利用し怯んだ隙にヴァイパー、蛇の頭になっている首を切り落とす。

 首を全て落とされた合成獣(キメラ)は力なく地面に崩れる。


「まずは一体」


 リアーナは周囲を確認する。

 負傷している衛兵や冒険者はハンナが隙を見つけて門の方へ退避させていた。

 シモンの方は一体の合成獣(キメラ)と対峙しているが、少し手間取っているが応援の必要は無いと判断した。

 四人組パーティーは只管足止めに徹している。

 彼らのお陰で街の中への侵入を許さずに済んだのだ。

 リアーナは一足飛びで一体の合成獣(キメラ)に飛び掛る。


「ハッ!」


 ハルバートの一撃で合成獣(キメラ)首一本を切り落とす。

 全て合成獣(キメラ)の様だが頭はバリエーションがあり、獅子だったり、牛だったり色々とある。


「お前たちは足止めだけに徹しろ!私が順番に倒していく」


「はい!」


 リアーナは振り返らず自らの膂力を引き絞りハルバートを振るう。

 それはまるで嵐の様で振るう度に合成獣(キメラ)の首が飛んでいく。

 血風を撒き散らし合成獣(キメラ)を屠っていく。

 シモンは合成獣(キメラ)と対峙しながら怒涛の様に他の合成獣(キメラ)を薙ぎ払っていくリアーナが目に入った。


「何だよあれ?味方なのが救いかね。俺は俺でコイツを片付ないと面子がないな」


 そう漏らしながら剣を構え直す。

 既に首を一つ落としているがそこから少し苦戦をしていた。

 頭の一つがサラマンダーになっており口から吹く火のブレスの所為で攻めあぐねていた。

 サラマンダーは火山に住む火を纏った蜥蜴の魔物でその口から吐くブレスは岩を溶岩に変える。

 シモンは合成獣(キメラ)に向って真っ直ぐ詰め寄る。

 向こうも距離を開けるべく火のブレスを吐き近づかせまいとする。

 合成獣(キメラ)が火のブレスを吐く瞬間、シモンを地面に手を着いた。


地隆起(アース・リフト)


 突如、地隆起(アース・リフト)により足元が隆起しバランスを崩す。

 シモンへ向けて放つ火のブレスは明後日の方向に放たれる。

 動きを止めるべくシモンは前足を切り落とす。

 前足が半分切り落とされた合成獣(キメラ)はバランスを崩し横倒しになる。

 それを狙ってサラマンダーの首を落としに掛かる。

 が、シモンの剣はサラマンダーの硬い鱗によって阻まれる。


「コイツ、サラマンダーより硬いとか反則だろ!?」


 シモンはすぐさま合成獣(キメラ)から距離を取る。

 すぐ目の前を牛の頭が通り過ぎる。


「危ない、危ない。あんな角でやられたら洒落になってないな」


 一旦、合成獣(キメラ)から離れたシモンの横を一つの影が通り過ぎる。

 一瞬でその影は合成獣(キメラ)の頭上に飛び上がる。

 そしてサラマンダーの頭の上に乗り、両手に持ったダガーで両目を潰す。

 その影はハンナだった。

 負傷者を後方に下げ終わったハンナは決め手に掛けていたシモンの応援に来たのだ。


「そっちの首は任せました」


 ハンナは静かにシモンに牛の首を任せた。


「分かってる!」


 ハンナは暴れるサラマンダーの首から離れ、合成獣(キメラ)の背中に下り、サラマンダーの首にダガーの先端を当てる。


風結界(ヴァン・ヴァリエール)付加(エンチェント)螺旋(スパイラル)


 風結界(ヴァン・ヴァリエール)は風の結界を張る三級の魔法だ。

 ハンナはそれをダガーの周囲にのみ螺旋状に展開したのだ。

 螺旋状に展開した風の結界を纏わせたらどうなるか。

 ハンナは一気にダガーを押し込む。

 その瞬間、螺旋状の風にサラマンダーの首は切り刻まれ、大きな風穴を開けた。

 牛の首がハンナの方に意識が向いており、そこに近づく存在を見落としていた。

 シモンが一気に牛の首を切り落とす。

 そして合成獣(キメラ)は動きを止めた。


「助かった」


 シモンは素直にハンナに礼を言った。


「当たり前の事をしただけです」


 ハンナは後を振り返ると合成獣(キメラ)を薙ぎ倒していく主の姿を捉えた。

 血風を撒き散らしながら合成獣(キメラ)薙ぎ倒していく姿は鮮血の虐殺姫そのものだった。

 ハンナは戦闘中に主の近くに寄る事はほとんど無い。

 荒れ狂う暴風の主となったリアーナに近づくのは自殺行為でしかないからだ。

 普通の人であればあの暴れ回るハルバートの一撃を食らえば両断されるか木っ端微塵にされるのだから。

 それが侯爵家の令嬢と言うのだから恐ろしい話である。

 シモンや四人組の冒険者もその光景ただ見ているだけしか出来ない。

 それ程までにも圧倒的なのだ。


「Sランクって、凄いんだな……」


 シモンは改めてSランク冒険者の凄さを思い知ったのだ。

 Aランクである自分自身を誇りに思っているし、強さもあると自負をしたいた。

 しかし、自分が苦戦した相手を悉く葬り去っていくのだ。

 ピル=ピラ一の剣士、Sランク冒険者でもある剛剣のガリアスに憧れて冒険者になり、腕を磨いてきた。

 今、目の前で繰り広げられている光景を目にし、Sランクと言う物が如何に遠い目標なのかと思ったのだ。

 リアーナは最後の一体の合成獣(キメラ)の三本目の首を落とす。


「これで全部か?」


 リアーナは辺りを見回して取りこぼしが無いか確認する。

 すぐハンナが駆け寄ってくる。


「お疲れ様です。これで全部です」


「そうか」


 ハンナを一瞥し、ハルバートを下ろしてシモンの方へ歩いていく。


「ご苦労だったな。これで大丈夫だろう」


「ほとんどあんた任せだったのは申し訳ない」


 シモンはちょっとバツが悪そうに言った。

 そこに合成獣(キメラ)の足止めをしていた冒険者達もやってきた。


「助かりました、駆けつけて来てくれて本当にありがとうございます」


 その中のリーダー格らしき男が言った。


「気にするな。足止めに徹して応援を待ったのは良い判断だった。君達がいたから門を破られずに済んだんだ」


 実際、彼らが普通に応戦していたら門を破られて街に侵入を許した可能性が高かった。

 彼らの実力であの数の合成獣(キメラ)を相手にするのは無理があったからだ。


「そう言ってもらえると嬉しいです。実際に僕達だけではあの魔物に歯が立ちませんでしたから」


「戦場でそう言う判断が出来る人間は少ない。君達は良い仲間を持ったな」


 冒険者達と話をしていると街の門がいきなり開かれた。

 そこには冒険者達を引き連れたギルドマスターがいた。

 ギルドマスターがリアーナ達を見て駆け寄ってくる。


「終わったのか?」


 ギルダマスターは辺りに転がる合成獣(キメラ)の亡骸を見て言った。


「ああ、ここにいた魔物は全部倒した」


 リアーナの言葉を聞き、ギルドマスターは胸を撫で下ろした。


「助かった。ありがとう。コイツらは俺達で片付けておくからゆっくり休んでくれ」


「ああ」


「了解。なぁ、もし良かったらあんたらも一緒に飯でも食わないか?動いたら腹が減ったよ」


 シモンは気さくな笑みをしながら腹に手を当てた。


「そうだな。我々も食事の途中で出てきたからな。ハンナもいいか?」


「はい」


 リアーナは四人組の冒険者を見た。


「君達も一緒にどうだ?」


「はい。是非」


 リアーナ達はは他の冒険者達が後片付けをしているのを片目に先にギルドへ戻っていった。





アリア「そんな訳でまったりお茶するよ!」


ヒルダ「いや、違いますからね。ちゃんと解説?しないとダメですよ」


ハンナ「そんな事を言っているアリア様のケーキは没収します」


ア「私のケーキ!?」


ハ「ちゃんとしないとおやつ抜きです」


ア「ハンナが厳しい……。今日はゲストに我が家の料理、掃除、洗濯、尾行、尋問、暗殺、癒しまでこなす万能メイドのハンナだよ!」


ハ「皆様、未熟者ですが宜しくお願いします」


ア「ハンナ、固いよ。もっと気楽に行こう。今回はハンナの初戦闘……と言ってもリアーナさんがほとんど出番持ってちゃったね。半分はリアーナさん無双」


ヒ「そうですね。でも見えない所で活躍してましたよね。門を閉める所とか衛兵への調整や怪我人の救助とか」


ハ「主より目立ったらダメでしょう」


ア「そこは何と言うか……でもダガーに風の魔法を付与して首を吹き飛ばすとか地味にえげつないよね」


ハ「あれを人でやると手足とかポンポン飛んで後片付けが大変なんですよね。魔物以外には余り使いたくありませんねぇ」


ヒ「さらっと怖い事を言っていますよ、この人」


ハ「対人だと影から心臓一突きが一番です。確実で汚れない。出来れば捨てダガーがベスト」


ヒ「アリアちゃんの家のメイドさんは何でこんなに物騒なんだろう?」


ア「ヒルダさん、それは誤解だよ。ハンナが抜きん出ているだけだから」


ハ「アリア様、屋敷にいる者であればメイド、執事、庭師、料理人と言えどAランクの冒険者如きに遅れを取る様な人間はおりません。私がその中で一番強いのは否定しませんが」


ヒ「ベルンノット家って、何?王都の闇組織だったり?」


ア「そんな闇組織は無いよ!ベルンノット侯爵家は普通の人が多いよ。リアーナさんの屋敷は侯爵家とは別だから。一応、ランデールとの戦争の功績で王家の余っている屋敷を下賜されたんだっけ?」


ハ「その通りです。難点は維持が大変な事ですね」


ヒ「そんなに大変なんですか?」


ア「そう言えばヒルダさん、ウチの屋敷に来た事ないんだっけ?本当は良くないんだけどベルンノット侯爵家より屋敷が大きいんだよ」


ハ「本来であればリアーナ様は新たな家名を受け賜り新たな侯爵となられる筈だったのですが、『子を産めず、戦う事しか出来ない私には過ぎた物』と陛下に申し、断りになられたのです。国としては一番功績を挙げた者に対して恩賞を与えない訳にも行かないので王家の屋敷を恩賞とし下賜されたのです」


ヒ「そんな事情があったのですね」


ア「そのお陰で子が産めないとは言え英雄だからリアーナさんに結婚の申し込みが殺到したんだよね」


ハ「そうです。リアーナ様は余りに多くの申し込みがある為、『私と一対一の決闘で勝った者なら無条件で結婚しよう』と返信したら結婚の申し込みがパタリと無くなりました。全くカーネラルの貴族は根性無しばかりですね」


ア「え、でも第一騎士隊長のヴァンさんはリアーナさんに結婚を申し込んで決闘したって、聞いたけど」


ハ「そう言えばそんな方がいましたね。リアーナ様の余裕の勝利でしたよ」


ヒ「何か気の毒に思えてきました。その条件だと結婚出来る人はいませんね」


ア「そうなんだよね……」


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