24:マイリーンの処遇
「これからどうするんだ?」
ニールは頭を掻きながら聞いた。
「私はマイリーンさんを討伐する様な事はしたくない」
「私もアリアちゃんと同感です。ニールさんは?」
アリアとヒルデガルド同意見だった。
ただ理由は違う。
アリアはまだ孤児院から離れたばかりのアリアを世話をしてくれたアイリーンを見捨てる事が出来なかった。
それに加えて自らも半分は悪魔と化しているのもあった。
ヒルデガルドは単純にアリアの意見を尊重したいとの思いだ。
「俺は正直迷ってる。俺はこの人の事を直接は知らないが、自分の街に住んでいた人間がこんな目にあって素直に討伐する気にはなれん」
ニールもマイリーンを討伐するのは出来ればしたくは無いと考えていた。
だが問題もあった。
「問題はギルドに報告しなければならんと言う事だ。普通に報告すれば討伐しろと言われる可能性が高い」
正直にギルドに報告した所でマイリーンを保護する可能性は極めて低い。
元神官だったマイリーンと言う事を報告すれば当然、神教にも報告が上がる事になる。
神教は人間至上主義者が多く締める組織、そこに魔物になった人間がいれば異端扱いされ処分と言う形になるのが目に見えて明らかだった。
「神教に報告が上がるのは非常に拙いです。下手をすれば異端狩りが派遣される可能性が高いと思います」
異端狩り、それは異端を排除する為に作られた神教の暗部、正式名称は葬送隊と呼ぶ。
この部隊は異端を排除する為であれば多少の非合法、犠牲を良しとされており、神教内ではトップクラスの強さを誇る集まりだ。
「それはなんだ?」
ニールは首を傾げた。
「神教の暗部組織だよ。異端排除の為なら手段を問わない性質の悪い連中だから相手はしたくないんだよね」
「神教にそんな奴らがいるのか……意外と闇が深いんだな。何か良い案はあるか?」
「うーん、これと言って案が思い浮かばない」
アリアとヒルデガルドは首を横に振る。
「私の為に悩むぐらいなら討伐して頂ければ……」
マイリーンは申し訳なさそうに言った。
「それは絶対ダメ。マイリーンさんは悪くない」
「それは本当に八方塞がりだった時だけの最終手段だ」
三人は頭を捻るも良い案が浮かんでくる訳では無かった。
「ギルド以外で保護してくれそうな方って、いませんか?」
「それも難しいな」
魔物を扱うのは精々、馬車屋ぐらいだ。
馬以外の魔物を馬代わりにする事があるからだ。
だがマイリーンはそう言うのとは違う。
「そう言えば魔物を連れている人を街で見掛けますが、何か許可だったりいるのですか?」
ヒルデガルドはふと頭の中で街で目にした狼の魔物を連れた冒険者を思い出した。
「その場合は首輪を付けてギルドに登録すれば問題無いぞ。ん、ちょっと待てよ……」
ニールは考えを巡らす。
「どうしたのニールさん?」
「いや、その人を誰かが従えている魔物と言う扱いにすれば何とかならないかと思ったんだ。まぁ、首輪がいるから奴隷っぽい扱いになってしまうんだが……」
ニールは少し気まずそうにマイリーンを見た。
「私の事はお気になさらず。生きる道があると言うだけで有難いと思いますので」
マイリーンは気にするニールを気遣う様に言った。
「それは有りかもしれません。誰が主となるかですね。マイリーンさんが望むとしたら誰に主になってもらいたいですか?」
「叶うのであればアリア様にお仕えしたいです」
マイリーンははっきりとアリアを見て言った。
「マイリーンさん、私なんかで良いの?もう聖女じゃ無いよ」
「私は神教の聖女では無く、アリア様ご自身が尊い存在と思っております。そこに神教の地位なんて関係有りません」
マイリーンは迷い無く言った。
彼女はアリアを聖女との認識を持っているが、それは神教の地位では無く聖女としての在り方だと思っている。
「ニールさん、私が面倒を見る形にするけど良いかな?」
「俺は問題無いぞ。首輪なら街の入口で言えば少し時間は掛かるが何とかなる」
従えた魔物に付ける首輪はギルドか大きい街であれば街の門で買う事が出来る。
「マイリーンさんに首輪を付けるのはやだな」
アリアはマイリーンを奴隷みたいに扱うのが嫌だった。
ファルネット、カーネラルで奴隷がいない訳では無い。
この周辺の国では奴隷制度は当たり前だ。
ただ自分の親しい人間を奴隷にしたいとは思わない。
「それ以外に彼女を確実に保護する方法は無いぞ。Sランクのお嬢さんが保護すれば迂闊に手が出せなくなるしな」
冒険者のSランクは抑止力にもなる。
Sランクともなると各国からの対応も変わってくる。
何処の国でも取り囲もうと必死になるのだ。
それぐらいSランク冒険者の地位は高い。
特にアリア達はSランク三名で構成されているのは中々無い事なのだ。
「マイリーンさん、良い?」
「私は大丈夫です。一生、アリア様に尽くします」
マイリーンは笑顔で頷く。
彼女自身は魔物である自分に耐え切れなくなっていた。
でもアリアは自分を人として接してくれている事が何よりも嬉しく、この人の為に尽くしたいと思った。
「何かそう言われると違和感が……」
自分はそんな大それた者では無いのに、と思ったアリアだった。
「そう言えばお前さんの産んだ子供をほとんど殺してしまった。すまん……」
ニールはマイリーンに頭を下げた。
ハンタータームとは言え、マイリーンの子供には違いなく、申し訳なく思ったのだ。
「気になさらないで下さい。残っていても連れて行けませんから」
マイリーン自身、産んだハンタータームに愛情は無かった。
自らを魔物と言いながらも産んだ子を自分の子と認識出来る程割り切れてはいなかった。
クイーンの性質上、一週間に卵を一つ産んでしまう為、致し方なくやっていただけなのだ。
「そうか……。因みにあんたは戦いとか大丈夫なのか?」
「そうですね。キラーマンティスぐらいなら一人で狩れるぐらいです」
キラーマンティスは人より頭二つ分ぐらいの大きさを持つ蟷螂の魔物だ。
その鋭い前脚で岩をも容易く切り裂き、Bランクながら危険な魔物だ。
キラーマンティスを単独で倒せるならBランク相当かそれ以上だ。
「それなら問題無いか」
「どうかされましたか?」
「いや、実はヒルデガルドのランク昇級試験の途中だったんだ。ワイバーンを倒す依頼があるからな」
そう、まだ昇級試験の途中なのだ。
案件が大きくてアリアは完全に失念していた。
ニールの言葉にそっぽ向いて部屋を物色したいた。
「マイリーンさん、ここの餌にして置いてある魔物って、貰っていい?」
「構いませんよ。巣は放棄しますので。餌をどうするのですか?」
「素材になりそうな奴を回収して売ればお金になるからね。そうすればマイリーンさんも暫く手持ちには困らないだろうから」
アリアは餌の魔物の保存状態を見ながら言った。
食料系の部位は不安があるが、甲殻や毛皮、牙、爪であれば問題無く売れる状態の物が多かったのだ。
「そうだな。放置していくよりは有効活用した方が良いだろう。ん、あれは……」
ニールは部屋の奥に置いてある魔物の死骸に近寄っていく。
「これはワイバーンじゃないか。これはあんたが狩ったのか?」
マイリーンは首を横に振る。
「赤い子が獲ってきたみたいなんですが、竜と言うのが食べれるか分からなかったので……獲ってきたのは確か一昨日ですね」
ニールが顎に手を当て、考える。
「ヒルデガルド、それを回収してギルドに戻るぞ。不正は良くないがお前さんならワイバーンぐらい余裕で狩れるのは分かっているからそれで依頼をこなした事にする。マイリーンを連れてワイバーンを探しに草原を彷徨くのは避けたいんでな」
「そんな事をして良いのですか?」
「本当はダメだが、この面子でワイバーンを探しにウロウロするのもあれだろ?それにマイリーンを保護するのは早い方が良い。更にワイバーンの討伐は常設依頼だ。依頼の達成なら過去に獲った物でも最悪は問題無い」
ヒルデガルドは納得はいかなかったが、マイリーンの事を考えて諦める事にした。
「分かりました。あれ、アリアちゃんは?」
ヒルデガルドが周囲を見渡すがアリアの姿が無い。
「アリア様なら各小部屋に置いてある魔物を取りに行かれましたが……」
「動きが早いな。取り敢えず、手分けした回収してここから出るぞ」
三人で手分けをして状態の良い魔物を回収していった。
帰り際にボムツリーの実を収穫し、四人は街へと戻った。




