22:ハンターターム討伐
「昼は折角だからグレーターブル焼こうよ」
グレーターブルは旨みの強い赤みの肉でピル=ピラでは人気食材だ。
グレータブルは角、骨、革、肉、内臓と捨てる所がほとんど無い魔物なので冒険者の間でも人気のあるのだ。
「まぁ、俺は構わないが、獲物を狩ったあんた次第だな」
「私は別に構いませんよ。五頭もあるので一頭ぐらい手持ちの食料にした所で問題ありませんので」
ヒルデガルドは自分で解体した肉の塊を取り出す。
綺麗に水で流した大きい石の上に置き、適当なサイズに切り分けていく。
「あんた料理出来るのか?」
「料理ぐらい出来ますよ。ずっと自炊していましたから」
そのぐらいの女子力はあるぞ、と言わんばかりのヒルデガルド。
塩と予め挽いてある胡椒を肉に振り掛ける。
シンプルにステーキにする様だ。
ヒルデガルドが錬成で簡易的に作った鉄板コンロに火を点け焼いていく。
一緒に手持ちの野菜も一緒に焼き、鉄板の上はバーベキューの様になっている。
「美味そうだな、おい」
「お肉、お肉、お肉」
美味しそうに焼けていく食材を前にアリアとニールは鉄板を覗き込む。
ヒルデガルドは食材の焼加減を見ながらひっくり返していく。
「アリアちゃん、あ~ん……」
程よく焼けた一口サイズのお肉をアリアの口元に持っていくと、アリアがパクりと食べる。
「もぐもぐ……美味しい」
お肉のツマミ食いに満足そうな顔を浮かべるアリア。
横目で俺の分は?とジト目で見るニールの姿があったが、ヒルデガルドはアリアの笑顔が見れれば満足な為、ニールに視線には気付かない。
そんな事をやっている間に食材は一通り焼けた様で焼けた物を各自の皿に盛っていく。
「じゃあ、頂きます」
「ヒルダさん、頂きます」
「召し上がれ。私も頂きます」
各自一斉に食べ始める。
「やっぱグレーターブルの肉はうめぇな」
ニールはグレーターブルの肉に舌鼓を打つ。
程よい歯ごたえに旨みの強い赤み肉に塩と胡椒と言うシンプルな味付けが肉本来の旨みを引き立たせているのだ。
「このお肉美味しい!」
アリアもグレーターブルの肉の美味さに満足している様だ。
「これは美味しいですね」
調理した本人も思っているより美味しいのでいつの間にか皿の上が空になっていた。
「たまに食べるコイツ美味かったな。街では高級品だからな」
「そうなんですか?」
「ああ、今日食べた部位だと街の高級店だと銀貨二十枚も取られる」
因みにさっき焼いて食べたのはサーロインだ。
「この街にいる内は自分で獲れば好きに食べれるさ。宿舎の食堂に持ち込めば料理してくれるしな。美味い材料だったらお裾分けしたら無料でやってくれるからな」
宿舎の食堂は基本的に決まったメニューしか扱っていないが、お裾分けをすれば冒険者の持ち込んだ材料で調理してもらえる。
これは厨房の料理人の裁量なのだが、冒険者の持ち込む食材には希少な食材もある為、食材をお裾分けをすれば大概の料理人はやってくれる。
「覚えておこう」
「そうですね」
アリアとヒルデガルドは美味しい食材になる魔物は覚えておこうと思ったのだった。
「仕事の話に戻るが、ハンタータームの巣の場所を確認してあるか?」
ニールはヒルデガルドに依頼対象の詳細を聞く。
「はい。西のロザックへ延びる街道から馬車で一日程行った場所の付近に巣があるとの事でした」
「よし、ちゃんと確認してあるな。ハンタータームの巣の駆除に関してはこの三人でパーティーとして対応する」
アリアはニールの言葉に首を傾げた。
「ヒルダさん一人じゃないの?」
「これはギルドからの要請だ。偵察に行った冒険者の情報では巣がかなり大きく百匹以上いる可能性が高い事が分かった。ちょこちょこ街道を通る人間に被害も出ているから早く確実に処理したいそうだ。だから試験と言うより普通の依頼と思えばいい」
ニールの想定では戦闘に限ればヒルデガルドはSランクと見ても問題無いと判断していた。
特に魔法の熟練度は天網の魔女サベージュと良い勝負が出来るのではないかと考えていた。
「実戦の実力ではお嬢さんが一番強いが地の利と経験を考慮して俺が仕切ろうと思っているが良いか?」
「うーん、私はニールさんで問題無いよ。この付近の魔物はあんまり詳しくないから」
アリアは実戦の強さよりこの地の経験が多いニールが一番と考えた。
魔物の特性やいざと言う時の逃げ場所等、そう言う情報を持っている人が指揮した方が安全だからだ。
正直、アリアは依頼は失敗しても生きていれば良いと思っている。
「私もニールさんにお願いします」
「すまんな。ワイバーンは道中に出れば狩るがまずはハンタータームの巣を叩く形だな。今日は少し進んだ所で野営をして、明日巣を駆除する」
アリアとヒルデガルドは頷く。
この日は少し先に進んだ所で一夜を明かした。
翌日は朝から草原を南下し街道近くにあるハンタータームの巣を目指していた。
ハンタータームは人より少し小さい蟻の魔物でピル=ピラの西の草原ではメジャーな魔物だ。
地中に巣を作り統率するクイーンとソルジャーに分かれており、地上に出てくるのは専らソルジャーだ。
魔物では珍しく群れで連携して行動を取って襲ってくるのでランクの割には危険なのだ。
一匹見つけたら回りに二十匹はいる、と言われるぐらいである。
巣の駆除となると五十匹以上相手にせねばならず単独ではCランクだが実質Aランク扱いなのだ。
ハンタータームは素材としての旨みが無い。
食料には向かない、甲殻は討伐が容易なメイルスパイダーより柔らかく柔軟性が低く、薬にもならない。
冒険者からは割が合わないので誰も受けたがらないのだ。
ただ今回は街道から巣から近くで既に被害に会っている人がいる為、ギルドとして早く処理したいと言う事情があった。
「お、街道が見えてきたな」
前方にピル=ピラの西にあるロザックへ向う街道が見えてきた。
「あれは一日の距離標じゃないですか?」
ヒルデガルドは街道沿い立つ石柱を指した。
東の大陸の主要な交易路となる街道では馬車での走行日数毎に距離標と呼ばれる石柱が置かれている。
街から一本目の石柱で馬車で一日、二本目で馬車で二日と距離が分かる様になっているのだ。
「あぁ、その様だな」
距離標には日数が分かる様に石柱の上部に大きく数字が表記されている。
「今の所、街道の北側には巣らしき物は見当たらないな」
ハンタータームの巣があると土が人の高さぐらいまで盛り上がっているので見つけるのは容易だ。
「この付近にあるから街道の向こう側も探そう」
ニールは周囲を見渡しながら巣を探す。
特にハンタータームの姿は見当たらない。
「ソルジャーでも見つかれば早いんだがな」
ソルジャー、所謂働き蟻を見つければ巣を探すのが楽になる。
餌を獲ったソルジャーは必ず餌を巣に持ち帰る為だ。
「まずは街道に向おう」
アリアとヒルデガルドは周囲を確認しながらニールの指示に従い、街道へ向った。
街道に着くがハンタータームの姿は見当たらなかった。
「街道から見回しても見当たりませんね」
周囲を見回すヒルデガルド。
「もしかしてあれじゃない?」
アリアは街道から少し距離を離した茂みを指した。
「ん?どれだ?」
ニールはアリアの指した茂みに目を凝らす。
茂みに隠れて盛り上がる土が確認出来た。
「確かに怪しいな。周囲を警戒しながら慎重に近づくぞ。アリアは後を頼む」
一番前にニール、ヒルデガルド、アリアの順に並び近づくと茂みに隠れて盛り上がった土に人が入れるぐらいの大きな穴があった。
「これが巣で間違いないな。茂みに隠すとは蟻にしては中々頭が回る奴らだな」
「取り敢えずどうするの?」
「煙幕を放り込んで一匹ずつ炙り出してここで数を減らしてから中にいるクイーンを倒す。俺とヒルデガルドで基本退治する。お嬢さんはサポートと周りから巣に戻ってくるソルジャーの対応を頼む」
「分かったよ」
ニールは煙幕に火を点け、三個程巣の中に放り投げた。
巣の穴からもくもくと煙が出てくる。
「ソルジャーが出てくるから気合入れて行くぞ!」
ニールは二人に声を掛けて気を引き締める。
暫くすると入口に充満する煙を裂き、ハンタータームが姿を現す。
その姿は白く、大きさは人と同じぐらいで簡単に気を噛み切る強靭な顎を持っている。
「ハァツ!」
ニールは手に持った曲刀を一閃する。
ハンタータームの頭を切り飛ばす。
巣から次々と出てくるハンターターム。
「水断!」
ヒルデガルドも水の刃でハンタータームに応戦する。
巣から出てくるハンタータームをニールとヒルデガルドで倒していく。
アリアは周囲とニール達の様子を確認しながら巣に戻ってくるハンタータームを大剣で薙ぎ払う。
ハンターターム自体はCランク程度の魔物なのでこのメンバーであれば充分余裕がある。
ニールは上手く牽制しながら一匹ずつ確実に仕留めていく。
ヒルデガルドは魔法で作り出した水を周囲に展開し、高圧の水の刃でハンタータームを両断していく。
様子を見ながら水で押し流す様に死体を邪魔にならない様にどかしていく。
「予想より数が多いな……まぁ、この調子なら問題ないか」
ニールはハンタータームの数の多さに舌を巻きながらも状況を確認する。
実際に倒したハンタータームの数は五十を軽く超えている。
ヒルデガルドとアリアの様子を確認するが二人とも疲労した様子は無かった為、ニールは問題無いと判断した。
そう思った矢先、巣の入口から赤い影がニールに突進してくる。
「なっ!?」
ニールは曲刀を咄嗟に前に出し盾にする。
「ぐわっ!!」
突進の衝撃でニールは吹き飛ばされる。
「ニールさん!」
すかさずアリアがニールと赤い影との間に入る。
ニールは胸に痛みを感じながら身体を起こす。
突進してきた赤い影を確認する。
「ブラッディタームだ!?」
「何それ!?」
アリアはニールの声に返す。
赤い影は血の様に赤いハンタータームだった。
「ハンタータームの変異種でハンタータームより強くて凶暴だ!」
ブラッディタームはハンタータームが突然変異した種だ。
正しくはハンタータームのクイーンが突然変異するのだ。
その様相は血の様に赤く強靭な顎だけではなく、刃が付いたかの様な鋭い切れ味を持つ前足が凶悪だ。
「ヒルダさん!コイツは私が何とかするからニールさんの手当てを!」
ヒルデガルドは目の前のハンタータームを両断し、ニールの元に駆け寄り治癒魔法を掛ける。
アリアはブラッディタームに大剣で切り掛かる。
しかし、ブラッディタームの前足でガッチリ受け止められる。
ハンタータムの甲殻は虫系の魔物中では柔らかいがブラッディタームの甲殻は非常に硬い。
「硬いなんて聞いてない!?」
アリアは振り下ろされる反対の前足を避ける。
そして横から胴体の節目に切りつける。
しかし、胴体に食い込んだだけだった。
「おい!離れろ!!」
ニールが叫ぶ。
アリアの頭上から前足が振り下ろされようとしていた。
「破壊!」
突如、ブラッディタームの胴体が真っ二つに弾け飛ぶ。
これがアリアと契約した悪魔の能力。
接触した物を破壊する力。
接触しないと発動しないがどんなに強固な物でも破壊出来る。
「何だあれ?いきなり吹き飛んだぞ……」
ニールはいきなり真っ二つに吹き飛んだブラッディタームに目を丸くした。
ヒルデガルドはあれがアリアの悪魔の能力だと理解した。
巣からは他のハンタータームが出てくる様子は無い。
「ニールさん、大丈夫?」
アリアは巣から目を離さずニールに確認する。
「あぁ、大丈夫だ。治癒魔法のお陰で大丈夫だ」
「一旦、体勢を立て直す為に引きますか?」
ヒルデガルドは一旦、引くのも有りだと考えた。
想定外の変異種の出現だ。
無理は禁物だと思った。
「いや、俺なら大丈夫だ。巣を刺激したから可能なら駆除してしまわないとここを通る奴が襲われる可能性が高くなる」
巣を刺激すると攻撃的になるのだ。
「まずさっきの赤いのは何?」
「あれはハンタータームの変異種のブラッディタームだ。さっき戦って分かっていると思うが装甲がハンタータームより遥かに硬い。当然、力も強い」
「ニールさんはあれを単独で何とか出来る?」
まずは戦力の確認だ。
「切り札を使えば何とかなるがいざと言う時まで温存しておきたい。出来ればお嬢さんにメインをお願いしたいが出来るか?」
「まぁ、あのぐらいなら何とかなるかな。力は強くて硬いけどさっきのあれで壊せば良いだけだし」
「あれは魔法か?」
「まぁ、私が作った無属性の魔法だよ。対象に接触しないと使えないし、構成がややこしいから他の人に教えるのは難しいけど」
アリアは悪魔の能力を魔法と言う事にして誤魔化した。
「そうか。向こうも数が減って様子を見ている状態だろう。少し休憩したら巣に突入したい。前衛はお嬢さんで申し訳ないが真ん中が俺で後がヒルデガルドでお願いしたい。俺じゃブラッディタームが出てきたら苦戦は必至だ」
ニールではブラッディタームは相性が悪かった。
破壊力のある手段が無い訳では無いが使える数に限りがある為、温存したかったのだ。
「私はそれでいいよ。昨日は暇だったから身体を動かさないとね」
「私も問題ありません」
アリアとヒルデガルドはニールの案に頷いた。
アリア「10000PV達成。読んでくれてありがとー!!」
ヒルダ「いつも読んで頂きありがとうございます」
ア「前回無かったのはこの為らしい。そんな訳で今回は焼肉!カルビ!ロース!ハラミ!タン!」
ヒ「食欲に塗れてますよ。焼肉は昨日食べたから今回は違いますよ」
ア「えー、ヤダ。断固焼肉を所望するよ!焼肉じゃないとお仕事しない」
ヒ「そんな子供みたいな事を言っていると毎日野菜になりますよ。アリアちゃんの嫌いなセロリパーティーにしましょう」
ア「あんなの食べ物じゃないんだよ!」
ヒ「我侭言っている間に19話から22話までの所を見ていきましょう。地味に追いかけてくる人がいるけど、この少女は何者なのでしょうか?」
ア「誰だろうね。設定上だと誰かの妹らしいよ。あんまり出番が増えてこないと良いな。私の出番を持ってかれそうな予感」
ヒ「可愛い子ですよね。モフリストとしてはあのクアールが気になります。それにしてもマスタークアールを手懐けるなんて普通の子では無いのは確かですね」
ア「私にはハンナさんの尻尾でモフるから良いんだよ。寝込みにモフると怒られるけど……」
ヒ「普通は人の布団に入ってモフっていたら怒られますよね。気持ちは分からなくは無いですが、傍から見ると変態要素高いですね」
ア「そう言えばハンタータームって蟻と言うか白蟻だよね。つまりGの仲間」
ヒ「アリアちゃん、それを言うと後で後悔しますよ」
ア「???何かあったけ?」
ヒ「後で後悔して下さい。あ、それとアリアちゃんと言うかカタストロフの能力が初披露ですね」
ア「やっと触れてくれた。詳しくは言えないけど接触した物をただ破壊するだけなんだよね。接触しないといけないから結構、使い勝手が悪いしタイミングもあるから難しい。そう考えるとヒルダさんの錬成の方が使い勝手が良いかな」
ヒ「錬成も結構、不便な所はあるんですよ。剣雨とかは土魔術で鉄を先に用意しないといけないので手間が掛かるので実践では使いにくかったり。因みにあの鉄を生む魔法が五級ぐらい使えるレベルは必要だったりします」
ア「意外とハードルが高いね。階段作るのとかは?」
ヒ「あれぐらいならイメージさえしっかり出来ていれば何とかなりますよ。今は簡単に使えますがあれが出来るまで五年ぐらい掛かりましたから」
ア「ヒルダさん、努力してるんだね。私もまだ手札は全部出してないから徐々に出せると良いな」
ヒ「似非治癒魔法はまだ使ってませんからね」
ア「あれは後二十話ぐらいすると出てくるはず!」




