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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第四章:深淵に揺蕩う悪夢
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188:寝苦しい夜と朝風呂

 その日の夜は過ごしやすい夜だった。

 温暖なコルドバーナの夜は海からの涼しい風が街を包む。

 そのお陰で寝苦しさは無い。


 それとは対照的にアリアは大粒の汗を掻きながら苦しげな様相を見せていた。

 悪夢に魘される回数は昔に比べて減っているとは言っても全く無い訳では無い。

 一時期は落ち着いていたが、最近に至っては増えている傾向にある。


 その様子を心配そうに見つめるマイリーン。

 眠る事が出来ない彼女はこうしてアリアの傍に控えているのが日常となっている。

 起こさない様にそっと髪を撫でる。

 そしてベッドから落ちそうになっているアリアのお気に入りのぬいぐるみを優しく抱かせる。


 苦しげにしていたアリアだったが、少しずつ落ち着いてくる。

 マイリーンは色々と試しながらこうすると比較的落ちつくのが分かってきたのだ。

 だからと言って完全に落ち着く訳では無い。

 少し落ち着くだけで根本的に魘されていないなんて事は無い。


 マイリーンは乱れた布団をそっと掛け直す。

 苦しげなアリアの姿を見る度にマイリーンはアリアの神殿行きを止めなかった事を後悔していた。


 神教の聖女は派閥の道具として扱われている事は知っており、アリアがそれに巻き込まれるのは予想出来ていた。

 人間至上主義者の思想を受けない様に教育はしてきたが、それだけでは不十分だった。

 アリアの身に起きた事を思うだけで憤りが湧く。

 それ以上にそんな場所に送った自分が許せなかった。

 この感情はマイリーンだけでは無くリアーナも同じ様に持っている。


 だからこそ今、苦しんでいるアリアの助けになりたい。


 マイリーンはアリアの髪を優しく撫でながら温かく傍で見守った。



******



 アリアは目が覚めると汗で寝巻きが湿っぽくなっている事に気が付く。

 記憶には無いが魘されていたのは想像に難くない。

 酷い魘され方をした日の朝は気分が悪い。

 感情の制御が覚束なくなる。


 アリア自身も理解してはいるが、抑えが効かない。

 それで周りに迷惑が掛かるのは避けたいと思いながらも心配を掛けてしまっている事が心苦しく感じてしまう。


 ふと視線に優しい笑顔が入ってくる。


「おはようございます。アリア様」


「マイリーンさん、おはよう」


 アリアは傍にいるマイリーンを見て不思議な心地良い安心感を覚えた。

 リアーナとはまた違う何かを。


「お風呂に入りませんか?汗を流したらスッキリしますよ」


「うん、そうする」


 アリアは汗で寝巻きがベッタリと張り付いて少し気持ち悪い感じがしていたので、風呂に入ってサッパリする事にした。

 ハンナはさっと浴室で風呂の準備を始める。

 朝が弱いハンナではあるが、最近はマイリーンがアリアが起きるより少し早くに起こしてくれるお陰でしっかり起きる事が出来ていた。


 因みにではあるが、リアーナとヒルデガルドは朝が遅い。

 ベリスティアは前日の夜の行動次第だ。

 監視等を遅くまで行っていると一番遅いが、全員と同じ時間に眠ればアリアと似た様な時間に起きる。


 アリアは眠い目を擦りながら浴室へと向かうと既にお湯が張られていてハンナが待っていた。

 アリアはハンナに寝巻きや下着を脱がしてもらい、浴室へ入って湯船に浸かる。


「ふぃ~」


 だらしのない声を出しながら肩までお湯に沈めた。


「朝のお風呂は気持ち良いねぇ」


 普段は朝から風呂に入る事は無い。

 そもそもギルド併設の宿の場合は共同浴場なので時間によっては入る事が出来ない。

 汗を流す場合は簡単に水浴び程度しか出来ない。

 ただ今回泊まっている宿は高級な宿なので部屋に浴室が備わっている。

 更に魔法が使えれば宿の従業員に頼まなくてもお湯を張る事が出来るので入りたい時に入浴が出来るのだ。


「さ、アリア様。お体を洗いますのでこちらにお願いします」


 アリアはハンナに促されたので湯船から出て浴室の中央に立つ。


「頭から順番に洗っていきますので目は瞑っていて下さい」


 アリアは目を瞑りお湯に備える。

 ハンナに頭から順番に洗われていく。

 正直、朝なのでお湯で簡単に汗を流す程度で問題は無いのだが、綺麗になるならその方が良いと思い、特に文句を言ったりはしない。

 頭が洗い終わり体を洗っている途中、鏡に写った自分の体をマジマジと見る。


 その視線は自然と気持ち程度の膨らみしか無い胸に行ってしまう。

 そしてカタストロフの言っていた言葉を思い出して肩を落とす。

 アリアは成長しない自分の体に残念な気持ちしか抱けない。


 将来はリアーナ程とは言わないまでも女性らしい姿になりたいと思っているのに、それが叶わないと言う絶望がそこにあった。

 リアーナはたくさん可愛がってくれるが、やっぱり将来は綺麗な美人になりたいと思うのだ。

 大人でも子供でも無いこの姿で過ごす事に抵抗感があった。

 だからと言って何か出来る訳では無いのだが。


 次に見てしまうのは人の体。

 ハンナは一行の中では小振りの主張が少なめの部類に入るが、アリアからすれば立派な膨らみがある。

 見れば見るほど羨ましくなってしまう。


 ハンナが体に付いた石鹸の泡を流す為に立ち上がる。

 そこでも自分の体を他人の体を比較して気にしてしまう部分があった。


 それは身長である。

 胸の大きさに関しては諦めるにしても身長があれば大人っぽく見えると思っているのだ。

 実際の所、アリアの身長は女性の平均身長より少し低い。

 低いと言っても大人でアリアぐらいの身長の者はかなりおり、ほぼほぼ平均と言えなくも無い。


 しかし周りを見ているとそうとは言えない。

 一番、身長が高いのがリアーナだ。

 だがこれを基準にしては行けない。

 リアーナの身長は男性の平均より大きいので女性らしさと言う意味ではマイナス要素である。


 ヒルデガルドもベリスティアもちょうど良い具合に身長が高い。

 高さと女性らしさのバランスが取れた身長の高さだ。

 アリアが目指したかった身長の理想がここである。


 ハンナは平均よりほんの少し高い程度なので普通。

 アリアにとってはそれでも羨望の対象である。

 周りにいる女性が軒並み身長が高めで全員綺麗であると言うのがアリアの理想の女性像のハードルが高くなっている一因でもある。

 一般的な視点で言えば身長は平均より低く、胸の大きさが足りないとは言え、アリアの容姿は平均を遥かに凌いでおり、美少女と呼ぶには充分の容姿を持っている。


 リアーナの末の妹のレイチェルが一緒にいればそこまで思う事は無かったのかもしれない。


「アリア様、湯船にもう一度入られますか?」


「うん。もうちょっとのんびりしたい」


 まだ朝も早い時間なのでゆっくりする時間はたっぷりある。


「ハンナは入らないの?」


「そうですね。折角なので私もご一緒させて頂きます」


 ハンナは体に巻いていたタオルを浴室の外へ置き、体を洗い始める。

 アリアは身を乗り出して、揺れる尻尾を触る。


「ア、アリア様!?いきなり触らないで下さい!」


 ハンナは突然、尻尾を触られた事で驚きの声を上げる。

 尻尾は敏感な部分なので不意に触られると体が反応してしまうのだ。


「濡れた尻尾はまた触った感じが違うなー、と思って」


 普段はふさふさな尻尾が濡れて毛がくったりしていて少し残念な気分だった。

 でも泡をもこもこと纏った尻尾を見ている分には楽しかった。


「私が洗ってあげようか?」


 アリアはハンナがやりにくそうに洗っている様子が気になって試しに言ってみる。


「いえ、尻尾は自分でやった方が良いので大丈夫です」


 ハンナは迷い無く断る。

 尻尾は敏感な所で尻尾の手入れには拘りがあるので他人に任せる事が出来ないのだ。

 それに加えてアリアは変な触り方をする事があるので、それを避ける意味合いもある。


「ぷぅー、つまんない」


 アリアは洗うついでに色々と触ってみようと思っていたので当てが外れて少し拗ねた様子を見せた。

 その反応は悪戯が失敗した時と反応が似ていた為、ハンナは断って正解だと思った。

 ただ拗ねると後が大変なのでご機嫌を取るのも忘れない。


「手入れが終わった後に触らせてあげますから」


「本当!?良いの?」


「はい」


 アリアは手入れ後の尻尾を触らせて貰える事に喜んだ。

 手入れ後の尻尾は絶妙な触り心地をしており非常に心地良かった。

 ただ手入れした後は基本的に触らせて貰えないので楽しみだった。

 触られる方からすれば折角整えたのに触られて乱される事を考えれば嫌がるのも至極当然である。

 誰でも髪を整えた後にワシャワシャされて気分が良い事は無い。


 ハンナは体を洗い終えると湯船に入ってくる。

 湯船と言ってもアリアとハンナが入ればそれなりにキツイ。


「朝のお風呂は贅沢です。今の内に堪能しておかないと」


「朝からお風呂とか難しいもんね」


 二人ともゆったりと朝風呂を堪能する。



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