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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第四章:深淵に揺蕩う悪夢
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186:悪魔の能力と絵本

 アリアはデッキチェアに体を委ねてゆったりしていた。

 その横には飲み物を飲みながら寛ぐリアーナの姿があった。


 昼食後、全員で浜辺でボールを使って遊んだりした疲れて一休みしているのだ。


「それにしてもリアーナ様があの様にはしゃいでおられるのが少し意外でした」


 リアーナの横にいるマイリーンが意外そうに言う。


「あ、私も思った!」


 アリアもマイリーンの言葉に同調した。


「そ、そうか?私も年柄も無く楽しくてな。今まではこんな風に遊べなかったのもあってつい、な」


 アリアが王都にいる時は教育と言う名目があったので何処かに行って旅行する事は出来ず、神殿に行けば聖女としての公務があり疎遠になっており、こうやって遊ぶのは初めての事だった。


「確かにそうかも。王都にいる時はお屋敷から出られなかったし、神殿にいたら会えなかったし……」


 少し寂しそうに言うアリアに二人は何処か申し訳無さそうな表情を浮かべた。


「でもとても楽しかったよ!またこんな風に遊べたら良いな」


「そうだな。私も最近、こうしてゆっくり落ち着く事が無かったから良い機会だった」


 リアーナは騎士隊に入ってからは忙しい日々を過ごす事がほとんどだった。

 主な要因はランデール王国と神教関係だ。


 アリアは浜辺を見るとヒルデガルドとハルファスが砂場でかなり精巧な城を作っているのが目に入った。


「二人とも器用だな~」


「どっちも職人だからな。あの細かい造形はかなり拘りがありそうだ。私は不器用だから刺繍すら満足に出来ん」


 正しくは出来ないと言うよりはやりたくない、と言うのが正解である。

 それでもお世辞にも上手とは言えないので見せる機会は無いだろう。


「刺繍はエマさんに少し教わったよ」


 アリアは屋敷にいる時に刺繍だけでなく、ダンス等も習っている。

 アリアは手先が器用なので刺繍は下手では無い。

 だが一からデザインするセンスが無いだけで。


「そう言えば昔、アリアから貰ったハンカチは今でも大切に持っているな。初めて貰ったのは額に飾って綺麗にしてある」


 アリアはリアーナの言葉に少し恥かしくなった。

 リアーナに渡したハンカチは刺繍を覚えて初めてプレゼントした物でお世辞にも上手とは言えない出来だからだ。

 しかし、リアーナにとってはアリアが頑張って入れた刺繍と言うだけで十分だった。


「確か父上もアリアから貰ったハンカチを書斎に飾ってあったな」


 アレクシアもアリアから貰った刺繍入りのハンカチは娘の作った物と同じ様に大切に取ってある。


「言われると恥かしいなぁ……。そう言えばベリスの姿が見えないけど?」


 アリアは辺りを見てベリスティアがいない事に気が付く。


「ベリスは定時の監視で部屋に戻っているぞ。少し頼り過ぎで申し訳無い気もするが、ベリスの千里眼は優秀過ぎるからなぁ……」


 ベリスティアはフランク大司教とマルクスの監視を行う為、一足早く宿へ戻っていた。

 監視すると言ってもまだ船に乗っていないので街道を上空から覗くだけの簡単な内容だ。

 ここから距離があるので長い時間は監視出来ないが、目的地が分かっている為、定期的に確認して移動の進み具合を見るだけなので負担はそこまで大きくない。


「幾つか欠点があるって、言ってたよ」


 そうベリスティアの千里眼には欠点もある。


「確か魔力の帯びた建物内を覗けない、だったか……。でも建物内に入ってしまえば使えるし、欠点だとしてもそれを差し引きしても大きい。ベリスの能力が各国の重鎮が知ったら喉から手が出る程欲しがるだろうな」


 千里眼があれば現地に行かずとも楽々に諜報活動が出来るのだ。

 対象の監視も楽な物だ。

 暗殺するにしても監視していて無防備になった所で転移して殺害するだけである。

 個人としての戦闘能力としてはアリアやリアーナに劣るが、能力としては抜きん出た物がある。


「ねぇ、カタストロフ?」


「どうしたの?」


「カタストロフの知っている悪魔で千里眼を持っている悪魔って、いた?」


 アリアは素朴に他に同じ能力を持った悪魔がいるかが気になった。


「う~ん……僕の眷属にはいなかったかな。千里眼の能力は初めてだね。近いのだと予知能力を持った奴はいたよ」


 カタストロフは記憶を辿りながら答える。


「それは確定した未来なのか?」


 リアーナの問いにカタストロフは静かに首を横に振る。


「そんな凄い物では無いよ。起こりえる未来の映像が何パターンか見える感じ。本人が言うにはちょっとした行動で未来の分岐が変わるから意外と使えないって、嘆いていたよ」


「因みにだが、悪魔の能力でカタストロフから見て危険と思った物はどんなのがあるんだ?」


 リアーナが他の悪魔の事が少し気に掛かっていた。

 現状、悪魔と対峙してはいないが、そうなる時が来た時の為に聞いておこうと思ったのだ。


「僕基準かぁ……。君達が知っている悪魔だと笛吹きのアムブシャの能力『感染』かな。この能力は病気の蔓延では無くて感情を無差別に感染させると言う能力なんだ。格上の相手には通じないが、格下には効果覿面だ」


 リアーナはその能力の使い方にピンと来た。


「暴動や扇動に使うのか?」


「当たりだ。彼は色んな国で暴動を起こしていた。彼の笛が鳴る度に何処かで暴動が起こる。兵士を差し向けられれば恐怖を感染させたりして足止めをする。本人自体は強くは無いんだけど、非常に厄介な奴だ」


 笛吹きアムブシャが封印されるまでに倒れた国は何ヶ国もある。

 メッセラント王国の南に位置する小国郡はその名残でもあった。


「基本的に感情に左右する能力は厄介だと思った方が良いよ。知らないとどんな能力かも分かりにくいから対処しにくい。君の『煉獄』は知っていても対処が難しい。僕の『破壊』ぐらいでしか防ぐ事は出来ないからね。魔力に物を言わせて防ぐと言う手立てが無い訳では無いけど、人間の魔力程度だと無理だね」


「グラーヴァ殿が相手だとどうなる?」


 身近にいた強者を挙げてみる。


「グラーヴァだとブレスで対抗するんじゃないかな。魔力での物量で消し飛ばす感じだね。魔王では無いけど、下手な魔王より強いから気を付けた方が良いよ」


 グラーヴァは表に出てくる事は無いが、全盛期のカタストロフと並ぶ力を持った強者なのだ。


「それは覚えておこう」


「他にはどんなのがあるの?」


 アリアも気になったので続きを促す。


「後は『極刺』と言うのは厄介だ。これは何でも貫通する一撃を繰り出す能力だ。簡単に言えば『破壊』を点にして繰り出す『破壊』の劣化版だね。劣化版とは言えどその貫通力は絶大だから気を付けた方が良いかな」


 カタストロフはその能力を持った悪魔はまず敵になる事は無いと思ってはいるが、相手するには危険なので説明を行った。


「『傀儡』と言うのも面倒だ。人を操る能力だが思考を自分の考え方を浸透させて洗脳させる。厄介なのが洗脳されていても完全に人格が変わる訳じゃない。相手の人格に考え方を植えつけるだけだから判断が困難だ。傾国のリリスが使う『魅了』と一緒なタイプだね」


「聞いた感じだと精神に影響を及ぼす能力が危ないの?」


「そうだね。基本的にアリアやリアーナにはまず効かないかな。でも普通の人間相手だとそうは行かない。親しい者にやられたら堪った物じゃないでしょ?」


 精神に影響を及ぼす能力は相手に効かなくても相手の近しい物に効けばかなりの効果が得られるのだ。


「知らない間に味方が敵の駒になっている可能性もある訳か……それは危険だな」


 リアーナは危険性を直ぐに理解する。


「それは……嫌だな。あ、変な能力ってあるの?こんなの使い道無い、みたいな」


 アリアは嫌な雰囲気になったので方向性を変える事にした。


「使えない能力ねぇ……。無くは無いかな。虹を生み出す能力とか?」


「悪魔とは思えないメルヘンな能力ですね」


 マイリーンが何とも言えない表情で言った。


「最初は光を屈折させているのかと思ったんだけど、本当に虹を出すだけなんだ。この能力を見た者は何の為にあるんだ、と首を傾げていたよ」


「へ~、面白いね」


 アリアは興味深そうな振りをしながら、そんな能力じゃなくて良かったと思った。


「もしかしたら虹吹きピエロは実話だったのかもしれませんね」


「私、知ってる!昔、絵本で読んで貰ったよ」


 アリアは昔読んで貰った絵本の名前を聞いて少し懐かしくなった。


「それはどんなお話なの?」


 カタストロフはその話を知らなかった。


「何処にでもありそうなお話ですよ。とある所にいる少年が住む街にピエロがやってくるんです。普通に旅の芸人と言った感じですね」


「そうそう。その少年は真面目な子なんだけど、いじめられっ子なんだよね」


 マイリーンは過去に何度もこの話を孤児院で読み聞かせた事があるので話の内容はほとんど頭に入っている。


「そうです。少年は苛められていてもピエロの芸を見ていると不思議と平気でした。ですが、苛めは次第にエスカレートしていきます。耐え切れなくなった少年は家を飛び出してしまいます」


「確かピエロの人がその事を聞いて少年を探すんだよね」


「はい。ピエロは少年を街外れの丘で見つけます。少年が苛められている事を告白するとそのピエロは勇気をあげると言って笛を吹いたのです。その瞬間、綺麗で大きな虹が目の前に現れました」


「その綺麗な虹を見た少年はいじめっ子に立ち向かっていくんだよね」


「その通りです。奇をてらった要素は無いのですが、分かりやすいので人気がある絵本なんです」


 この絵本は子供に受けが良いので色んな国で出回っており、ベストセラーの絵本と言えるぐらいだ。


「そのモデルになったのが、虹を出すしか出来ない悪魔じゃないかと言いたいんだね?」


「はい。そうだったら面白いな、と思っただけなのですが」


「有り得るかもしれないね。彼は僕の眷属なんだけど、悪魔にしては気弱で戦いが嫌いで旅に出たんだ。もしかしたら旅芸人に扮して各地を回ったのかもしれない。可能性は否定出来ないね」


 カタストロフは何とも面白い事を聞いたと思った。

 嘗て役立たずと罵られていた眷族が絵本で子供達に人気だと言うのが可笑しかった。


「でも悪魔がモチーフだと知ったら子供達はガッカリしそうだな」


「確かにそうだね。でも小さい頃はシスターにお願いして何回も呼んでもらったから一度、会ってみたいかも」


 アリアは実際のモデルなのかは定かでは無くても会ってみたいと思った。

 そして丘からその虹を見てみたいと。


「私も一緒したいですね。子供達に聞かせていたお話の虹は気になります」


 マイリーンも気になっているのだ。


「実際に見ると大した事は無いかもしれないぞ」


「それでも良いの。ね、マイリーンさん」


「そうですよ。夢の無い事は言ったらダメですよ」


 リアーナの現実的な言葉にアリアとマイリーンは頷き合う。

 海水浴を満喫した一行は日が暮れる前に宿へ戻るのだった。



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