表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第四章:深淵に揺蕩う悪夢
213/224

183:アリアとフルフル

 リゾート都市コルドバーナ――

 半島の内側であるオーベル湾の内側に位置し、大陸随一の観光都市と評される。

 元々はアルシアクリェラ共和国と言う独立国でファルネット貿易連合国の元となったアルヴィラ連合国の一角を担っていた。

 ラゴスレシュ王国と並んで大陸間貿易で発展した国の一つでもある。


 コルドバーナのある半島先端のオーベル湾側は気候が温暖、海も湾内と言う事もあり非常に穏やかで大陸で最も過ごしやすい気候と言われている。

 一番の脅威であったバンガ共和国とは友好を結ぶと半島の先端側は脅威が減った事もあり、軍備より経済に力を入れ始める。


 半島の先端には旧ラゴスレシュ王国であるラゴスレシュ領、旧ヴィトリアーロ王国のヴィトリアーロ領、そしてアルシアクリェラ共和国のアルシアクリェラ領の三つの領が存在する。

 この三つの領は大陸間貿易で栄えてきたが、アルシアクリェラ領は他の二つの領と比べて不利な面が一つあった。


 それは半島の内側に位置している事だ。

 他の二領と比べると外洋に出るまで距離があった。

 大陸間の移動と言う距離を考えれば僅かな距離でしかない。

 しかし、大陸間貿易を行う商人はそうは思わなかった。

 少しでも輸送コストを抑える為に半島の先端の外側の街を拠点にする様になったのだ。


 大陸間貿易を主軸としていたアルシアクリェラ領にとっては大打撃だった。

 明らかに貿易量が減ったからだ。

 各国が独立していた頃は国を跨ぐのはそれなりにリスクが高かったが、一つの国となった事で国内の移動のリスクが大きく減った。

 昔では他国だった所がまとまった事により気軽に移動出来る様になったのが、商人の流出を招いたのだった。


 当時の首長は危機感は相当の物だっただろう。

 そこで首長は方針を大きく変更した。

 大陸間貿易は続けるが、経済の主軸を別の所へ持っていく事にしたのだ。

 元々、アルシアクリェラ共和国の首都であったコルドバーナは来賓からの評判が良かった。


 落ち着いて過ごせる気候に加えて、食料事情が豊かだった。

 穏やかな気候は類稀なる食料生産に適した土地なのだ。

 コルドバーナ産のワインは大陸では高級ワインの代表として扱われる程。

 他の二領に比べて山間部が少ないので穀物、野菜類の生産も非常に盛んに行われ、荒れる事の少ない海では豊富な魚介類も獲れた。

 アルシアクリェラ領は食料自給率が100%を越えるファルネット貿易連合国内では珍しい領だった。


 他の領であれば何かしらの食料を輸入に頼る事が多いのだが、アルシアクリェラ領はそれが無い。

 その恵まれた環境は非常に大きな武器だった。


 アルシアクリェラ領主は大きな方針を打ち出す。

 コルドバーナを大陸随一の観光都市とする計画だ。

 最初は反対する者が多かった。

 大陸ではその様な都市は存在しなかった。

 未知の事業に大きく不安を覚えたのだ。


 しかし領主はだからこそやらねばならないと感じていた。

 二領に遅れを取る大陸間貿易と食料輸出だけでは領の発展が見込めないと思ったからだ。

 食料の輸出は半島の先端にあると言う事が大きな足枷となった。

 アルシアクリェラ領と隣接するのは半島の先端にある二領だけで他の領とは距離がかなりあった。

 船での輸出は以前から行っていたが、保存が効く穀物類や保存食ぐらいだ。

 ファルネット貿易連合国、バンガ共和国全体は穀物は非常に豊富な為、輸入に頼る所が少なかった。


 そんな事もあり、既存の事をやっているだけではダメだと考えて大きな方針転換を行ったのだ。

 都市計画の大幅は簡単な物では無い。

 領民の理解を得るだけでも十年は掛かった。

 都市計画が実行に移されて徐々に効果が現れ始める。


 コルドバーナの過ごしやすさに目を付けた商人が別荘を建て始めたのだ。

 実際にコルドバーナで過ごした商人達はコルドバーナの魅力に気が付く。

 そこからは早い。

 商人と領が手を組み、一気にリゾート都市として開発が進む。


 コルドバーナでも海沿いの一角は特に人気が高かった。

 領が力を入れて作ったリゾートビーチのある場所だ。

 安全には最大限の配慮をして、安全に海で泳いで遊ぶ事が出来る唯一の場所なのである。


 海にも魔物がいるので、海で遊ぶのは漁村の子供ぐらいでは無かろうか。

 コルドバーナはお金を払えば誰でも安全に遊べるのだ。

 これに食い付いたのは貴族だった、

 他の者が体験した事が無い事、それに加えてここでしか体験出来ないと言う事は非常に魅力的だった。

 いつしかコルドバーナのリゾートビーチへ行くのは一つのステータスになる程。

 こうしてコルドバーナはリゾート都市へと成長して行った。


 そんなコルドバーナを船上からアリアは眺めていた。


「凄―い!見て見て!街が真っ白だよ!?」


「本当ですね!あれがリゾートビーチじゃない?」


「そうなの?あの砂浜みたいな場所が?」


「きっとそうですよ!大きい別荘もたくさんありますから」


「本当だ!?あ、あそこに屋台がある!?」


「何処ですか!?あ、屋台も良いですねぇ」


 そんな元気一杯のアリアともう一人、ハットを被ったフルフルが仲良く盛り上がっているのをベリスティアは不思議そうに見ていた。


「何でお友達の様に仲良くなっているのでしょうか?」


 ベリスティアは思わず呟く。

 それもその筈でベリスティアはアリアやミレルと共にフルフルに妨害を受けた一人だ。

 ベリスティア自身はその仲間と思われるイリダルと相対していたが、少なからず仲良くなる要素は無い。

 寧ろ敵対している方が自然である。

 それなのにも関わらず気が付けばアリアとフルフルは仲良く話す様になっていた。


「ベリスさん、体調はどうですか?」


「油断は出来ませんが、大分、良くなりました」


 声を掛けてきたマイリーンにそう答えた。

 船に二、三日揺られていると徐々に慣れてきたのか船酔いが少し楽になってきていた。

 気を抜くと危ないが、多少動き回れる程には回復をしていたのだ。

 アリアやフルフルみたいに元気にとは行かないが。


「あの方が例の?」


 マイリーンはフルフルを指した。


「そうなのですが……」


 ベリスティアは渋い表情を浮かべる。


「凄く息があっている様に見えますけど」


 妨害された事実を知らなければ仲の良い友達にしか見えない。


「困った事に……。それに肝心な保護者も……」


 ベリスティアとマイリーンはアリア達がいる方向の反対側に目を向ける。


「お二人は未だに船酔いでダウンしておられますから」


 マイリーンは少し疲れた様に言った。

 甲板のベンチにぐったりとしながら座るリアーナとハンナの姿があった。

 二人は一向に船酔いが収まる雰囲気が無かった。

 その二人の傍にいるのはヒルデガルドだ。

 今日はずっと二人の面倒を見ている。


 ハルファスは気合で姿を消して船酔いを逃れており、コルドバーナに着くまでは大人しくしている事にしたのだった。

 因みにだがリアーナの代わりにアスモフィリスが前に出てきたらどうなるかも試していた。

 結果は酷い船酔いで早々にリアーナに体を返す事に。

 そもそも体調の不良の体に感覚をリンクすれば当然、体調不良も伝わるので意味が無い。



「それにしてもお二方ともこれ程船に弱いとは思いませんでした」


「そう考えると貴重かもしれもせん。リアーナ様が臥せっている姿は中々見れませんので」


「確かにそうですね。普段の姿だと欠点なんて無さそうに見えますから」


 普段はビシッとしているのでそう思われやすい。

 特に出奔する前しか知らない者だと余計にそうだろう、


「あれは特に良いのでしょうか?」


 マイリーンはアリアとフルフルを見て言った。


「う~ん……何とも言えませんねぇ……。実害は無さそうなので船を下りるまではそのままで良いのでは?アリアちゃんが楽しそうなので変に止める方が色々と大変だと思いますから」


 ベリスティアは機嫌の良いアリアを変に注意して拗らせるよりは今のままでも良いと考えた。

 それはフルフルが完全な敵対者では無いと判断したから。


「それにどうもフルフルと言う女性が引っ掛かるので観察しておきたい、と言うのもありますね」


 ベリスティアは何となくではあるが、フルフルが人では無い存在な気がしたのだ。

 確証は無く直感だ。

 だからこそ見極めたかった。


「そうなのですか?ただ後ろ姿を見ていると非常に似ておられますね」


「似た様な人物を知っているのですか?」


 マイリーンの言葉が僅かに気になった。


「何となくアリア様と似ておられる感じがします。話し方は丁寧ですが、動きはそっくりですよ。ほら」


 ベリスティアはマイリーンに促されて二人を見る。

 その光景に思わず目を疑った。

 まるで姉妹の様に一緒だったからだ。

 二人とも他人なのに息が合い過ぎていた。

 フルフルが誘導している様にも見えなかった。

 それぐらい自然だった。


 その事がベリスティアの警戒が一層、深まった。

 自然なのが不自然だった。

 見知らぬ他人と出会ってそんなに経っていないのに、そう言う風になれるのかと。


「暫くは様子を見るしかありませんね。リアーナ様達もダウンされていますし」


「……そうですね」


 ベリスティアはフルフルに一瞬、厳しい目を向けたが、一旦切り替えて監視対象の確認をする為に部屋へ戻る事にした。

 そして一行を乗せた船はコルドバーナは入港した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ