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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第四章:深淵に揺蕩う悪夢
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182:船旅と船酔い

 アリア一行は海の上にいた。

 ミレル達との別れを済ませ、一路コルドバーナへ向かっていた。


 コルドバーナまではピル=ピラから半島の反対側にあるバンガ共和国の港町であるコースベックへ移動し、そこから船で行く。

 ピル=ピラからも船で行けない事は無いが、半島を大きく迂回しなければならないので時間が掛かってしまうのだ。

 コースベックからであればコルドバーナとは同じ湾内にある港町なので海も荒れにくく、時間もそんなに掛からない。


 そんな海の上でマイリーンとヒルデガルド以外のメンバーは景色の良い甲板の上でグロッキーになっていた。


「うぷぅ……ヤバイ……かも……」


 アリアは真っ青な顔をしながら口許を手で押さえる。


「……奇遇ですね……アリア様……。前回は大丈夫だったのに……」


 横になりながら気持ち悪さと格闘するハンナ。

 幼い頃、西の大陸から渡ってくる時は平気だったのに何故かダメだった。


「……リアーナ様も大丈夫って、豪語していましたよね……?」


 ベンチにもたれ掛かりながら横で吐き気と格闘しているリアーナの行った台詞を思い出すベリスティア。

 リアーナは船に乗る前に前回乗った時は大丈夫だったと自慢げに言っていたのだ。


「……私も……大丈夫だと……思っていたんだ……」


 天を仰ぎ、苦しげに言うリアーナ。


「ほら、大人しくしていて下さい。濡らしたタオルを持ってきたので冷やせば楽になる筈ですよ」


 マイリーンはリアーナに濡れタオルを渡す。


「……すまない……助かる……あぁ……」


 濡れタオルを首筋に当てながら弱弱しい声を出す。

 船酔いをしていないヒルデガルドも濡れタオルをアリアの首に当てる。


「……ヒルダさん……ありがと……」


「いいえ、良いんですよ」


 ヒルデガルドは横になっている一人に目を移す。


「ヒー……私にも頂戴……」


 苦しげに濡れタオルを要求するのはヒルデガルドと契約している悪魔のハルファスだ。


「はいはい。どうぞ」


「ありがと……気持ち悪い……」


 濡れタオルを首筋に当てながら完全にグロッキーだ。

 バジールは船酔いする姿を見せたくないので姿を消したままだ。

 浮かれて出てきたハルファスの失策だった。

 調子が悪くて姿を消せない情けない状態だったりもする。


「それにしても悪魔も酔うんですね?」


「そんなの知らないわよ!うっ!?」


 ヒルデガルドの言葉に反応して声を出した瞬間、ハルファスは自分の声で胃を刺激し、手で口を押さえて甲板の縁へ駆け寄る。


「おぇぇぇぇ……」


 盛大に海にぶちまけるハルファスの様子を一行は目にしない様にする。

 これは吐き気を貰わない為だ。

 ヒルデガルドは被害を晴らす為、初歩的な風の魔法を発動させて、胃酸の匂いが来ない様に別の方向へ流す。

 風の適正は無いが、そよ風を起こすぐらいは出来るのだ。


「船への潜入はやめて正解でしたね」


 マイリーンの言葉に全員が無言で頷いた。

 リアーナの心配は見事に的中したと言った所だろう。

 もし船に潜入して襲撃等を行っていれば散々な結果になったのは火を見るより明らかだった。


「この調子で後三日ですか……はぁ……」


 惨澹たる状況に思わず溜息が出たマイリーン。


「何で……ヒルダさんと……マイリーンさんは平気なの……?」


 アリアは平気そうな二人が不思議で仕方が無かった。


「それは何ででしょうね?」


「私もよく分かりませんねぇ?」


 二人とも酔わない原因は全く思い当たる事が無かった。

 そもそも二人とも船に乗るのは初めて同士だ。

 問われても分かる筈が無い。


「……うぅ……」


 アリアは気持ち悪いので横になって楽な体勢になる。

 込み上げてくる吐き気はヒルデガルドから貰った濡れタオルのお陰で少し収まったが、気を抜けない状態は続いていた。

 そんな苦しげに耐えているとふと視界に何かを捉えた。


「……きぼぢわるい……」


 ふらふらしながら見覚えがあるハットを被った女性が視界を横切った。


「……もう……だめぇぇぇ……うぇぇぇぇ……」


 甲板の縁の柵に掴まりながら盛大に海へ撒き散らした。

 アリアは重い体を起こして立ち上がる。

 邪魔をされた挙句、逃げられたのを忘れる筈が無かった。


「……あいづ……とっちめて……やる……」


「ちょ、ちょっと、アリアちゃん!?」


 突然、立ち上がって甲板の縁へ歩き始めたアリアにヒルデガルドは慌てて後を追う。

 吐き気と格闘しながら何とか近付く。

 相手の方もアリアが近付いて来るのに気が付いて死にそうな顔を向けた。


「……みつけた……」


「……」


 ハットを被った女、フルフルは何故、目の前にアリアがいるか分からず、言葉が見付からなかった。

 それ以上に吐き気と格闘するのに意識を回している所為で碌に頭が回らなかった。


「……あ……ヤバイ……うぉぇぇぇぇ……」


 フルフルはアリアに構っていられる状態では無かった。

 吐き気を我慢出来ず盛大に海へ吐く。


「……うっ!?」


 アリアはフルフルに目も暮れず甲板の縁の柵に掴まって乗り出す。


「おぇぇぇぇぇぇぇ……」


 盛大なマーライオンだった。

 アリアは失敗を犯していた。

 それはフルフルの風下にいた事だ。

 そして吐いたフルフルの胃酸の匂いに刺激を受けてしまったのだ。


「何をやっているんですか……」


 後ろからヒルデガルドがやってくるが、知らない人と並んで吐いている姿に呆れていた。

 さっと濡れタオルを作って二人の首筋に当てる。


「……誰か……知りませんが……ありがとぅ……」


 フルフルはヒルデガルドがアリアの仲間と分かっているが、このタイミングでは素直に感謝を述べるしか無かった。


「……コイツに……いらないよ……」


 ヒルデガルドはフルフルを知らないのでアリアが睨んでいる理由が分からなかった。

 あの戦いには参加していないので知る由も無かった。

 でも分かる事はある。


「船酔いをしているんですから大人しくして下さい」


 ヒルデガルドは少し強引に二人を柵にもたれ掛からせる様にして座らせる。。

 そしてフルフルのシャツの一番のボタンを緩める。

 船酔いをしている時に締め付けると余計にしんどくなるのだ。

 空間収納のポーチからコップを二つ取り出して魔法で水を注いで二人へ差し出す。


「ほら、口の中をこれですっきりさせて下さい」


 二人は大人しくコップを受け取って少しずつ飲む。


「……生き返ります……」


「……ありがと……ヒルダさん……」


 水を飲んで少し落ち着いた二人だが、予断は許さない状況だった。

 フルフルは絡まれるのは分からなくは無いが、このタイミングは勘弁して欲しいと思った。

 そしてアリア達が自分と同じ便に乗っているとは予想だにもせず、内心しまった、と思っていた。


 アリアはカッとなって絡んだは良いが、船酔いが悪化しただけで何も得て無い。

 それ所か仲良くヒルデガルドに介抱される始末。

 アリアとフルフルの目が合った。

 二人は船酔いがお互いに収まるまで大人しくしようと視線で交わした。

 この状況を悪化させたくない二人だった。



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