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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第四章:深淵に揺蕩う悪夢
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181:次の対象の動向

先週、予約投稿したと思っていたらされていなかったので今週は先週更新分を含めて二話投稿になります。

「夜の間に神殿を確認した所、関係の有りそうな対象に動きがありました」


 ベリスティアの言葉にアリアは面持ちが一気に厳しい物へと変わる。

 夜な夜なヴェニスの神殿に転移し、諜報活動を行っていたら情報を掴んだのだ。

 これは千里眼の能力と優れた虚無魔法の適正を持つベリスティアだからこそ、離れたピル=ピラの地からヴェニスの神殿での諜報活動が出来るのだ。


「誰?」


 アリアは逸る心を抑えながら聞く。


「アリア様の尋問を行った騎士の一人、マルクス・ハンゼンです」


 アリアは直ぐに顔を思い出した。

 トール、ガリアと一緒にいた壮年の騎士は忘れ様が無かった。


「アイツが……アイツの所為で……」


 アリアは無い筈の右目が疼き手で押さえる。

 マルクスはアリアの自己治癒能力が気になり面白半分で眼球を抉り出したのだ。


「アリア、大丈夫か?」


 リアーナは心配そうに声を掛ける。。


「……うん、大丈夫。ゴメンね。続けて」


「はい。フランク・タウアー大司教が親善訪問でファルネットのラゴスレシュ領のテルエレンシアに向かい、その護衛にマルクスが同行する様です」


 ベリスティアは簡単に報告をする。


「テルエレンシアとはまた辺鄙な……言ったら悪いがかなり遠い場所だな」


 リアーナは都市名を聞いて少し難しそうな顔をする。


「そんな辺鄙な場所なの?」


 ファルネット貿易連合国の地理には疎いアリアはリアーナに聞き返す。


「あぁ。そもそもラゴスレシュ領はファルネットの最も西、半島の先端にある領で領都であるテルエレンシアは領の最西にある。西の大陸と貿易を始めたのも旧ラゴスレシュ王国だと言われていて、海洋での交易が盛んな場所だ」


 リアーナの説明にへー、とそんな場所もあるんだと思いながら頷くアリア。


「フランク大司教ですか……。母の派閥の方なので面倒な案件を押し付けられたのでしょうね」


 ヒルデガルドはフランク大司教とは仕事柄、よく一緒になる事が多かった為、既知の間柄だった。

 実際の所、ヒルデガルドの予想は当たっていた。

 旧教皇派はボーデンが教皇になってからは肩身が狭い。

 そして布教が進んでいない地域、且つ重要度が低い訪問は軒並み、旧教皇派に振られているのだ。


「もしかして、いつも菓子パンを差し入れてくれるおじさん?」


「アリア様、確かにそうですが、それだと少しフランク大司教が可哀想だと思いますよ」


 アリアの言葉にハンナが肯定しながらやんわりと哀れみの言葉を出す。

 フランク大司教は気の良いおじさんと言うのは間違いでは無く、アリアの所に来る時は気を遣って甘い菓子パンを手土産にしていたのだ。

 ハンナはそれをいつも申し訳無いと思いながら受け取っていたのでよく覚えている人物だった。


「話を戻すがそれにマルクスが護衛として付いてくるのだな?」


「はい。編成はフランク大司教に随行の神官が二名、下働きの見習いが四名です。護衛はマルクスがリーダーで第四騎士隊から五名、それに加えて冒険者が五名となっております」


 リアーナはベリスティアから齎される細かい情報にこの周辺の国でベリスティアを超える諜報活動を出来る者はいないのでは無いかと思った。

 ベリスティアはこの情報は千里眼でフランク大司教の部屋を見て確認している。

 現地にいなくても遠隔で覗き見が可能な千里眼の能力は諜報活動には打ってつけだった。


「出発と経路は分かるか?」


「それも分かっております。出発は二週間後です。経路はピル=ピラまでは陸路、そこからテルエレンシアまでは海路になります」


 海路と言う言葉にリアーナの表情が渋くなる。


「海だと都合が悪いの?」


 アリアはそこまで表情が渋くなる理由が分からずリアーナに尋ねる。


「あぁ……都合が悪いな。海だと船での移動なのだが、襲撃の難易度が高いと言う事が挙げられる」


「リアーナ様の言う通りで今回の移動は中型船を貸しきる形なので船への侵入はまず困難です。半島沿いに行くので定期的に港に停泊するとは思いますが、接触は難しいと思います」


 船を貸しきる時点で向こうの警戒振りが窺える。

 神教にとってテルエレンシアまでの道程は布教が進んでいない地域を進む事になるので、危険と判断しているのだ。

 ハルネット貿易連合国には神教反対派の亜人が多い。

 それは西へ行けば行く程、多くなる。

 そんな事もあり、護衛が手厚くなっているのである。


「それにこのメンバーで船に乗った事があるのが、私とハンナしかいない事だ」


 実はメンバーのほとんどが船に乗った事が無いのだ。

 そもそもカーネラル王国は大陸の内陸にある国の為、船が必要な場面が少ない。

 国内の主要な街道には橋が整備されているので船に乗る機会が無いのだ。

 因みにリアーナは乗った事があるとは言っているが、幼い頃にコルドバーナは行く為に船に乗った事があるだけなので、安心材料とは言い難い。


「一番怖いのは潜入して軒並みに船酔いになったら目も当てられん。それに知識も少ない。更に嵐に飲み込まれたら本当にどうしようもない」


 リアーナの言葉にアリアはしゅん、となる。


「そう逸るな。後は船に乗る前か降りた後になる」


 その言葉にアリアは期待の目を向ける。


「警備状況で言いますとピル=ピラまでは先程挙げた護衛以外にも第三騎士隊から応援を貰う様です。船までの道程も中々厳しいかと」


 ベリスティアは少し難しい表情で言った。


「ベリス一人で暗殺するなら早いんだがなぁ……」


 リアーナがふと思った事を零した。


「そうなの?」


「あぁ。アリア、考えてみろ。ベリスは千里眼で対象を離れた所でいつでも観察出来る。それに千里眼で見える範囲なら転移が出来る。つまり、相手が完全に寝入ったタイミングで寝込みを襲って、転移で帰ってくるだけで終わる」


「はっきり言って暗殺者より暗殺者に向いてますね」


 リアーナに続いてハンナも言葉を続けた。

 それを聞いたベリスティアは少し複雑な表情を浮かべていた。


「私だって好きでこの能力を得た訳では無いのですが……」


「すまん。そんなつもりで言った訳では無いんだ。ただ一番手っ取り早い手段と思ってしまったんだ」


 ベリスティア自身もそれが一番早いと言う事を理解している。

 ただ暗殺者では無いので一緒にされるのは何となく嫌なのだ。


「そうするとテルエレンシアまで行くのですか?」


「そうせざるを得ないだろうな。海路は我々では手の出し様が無い。ここでやれない事は無いが、騒ぎになれば身動きが取りにくくなる」


 リアーナはマイリーンの言葉に頷く。

 ピル=ピラ前に襲う事は可能だが、足が付く事を恐れたのだ。

 この付近では有名になり過ぎて動きが取りにくいのが大きい。


「向こうが出発するまで二週間があるからちょうど良い場所がある」


 リアーナが笑みを作る。

 その笑みの意味に最初に気が付いたのはヒルデガルドだった。

 正しくは姿を現していないハルファスだが。


「つまりコルドバーナへ寄ってから行くと言う事ですか?」


「あぁ。向こうが出発するまで二週間あるからな。その間はゆっくりするのも良いだろう。一週間コルドバーナに滞在してからテルエレンシアへ向かう」


 コルドバーナ行きを推すのはリアーナ自身がアリアと一緒に遊びたいからだ。

 アリアが特に反対しないのはリアーナがそれを望んでいる事をハンナから聞いたからだ。

 アリア自身もリアーナと一緒に遊ぶのは嫌では無い。

 寧ろもっと一緒にそうしたいと思っている。


「でも海って、どうやって遊ぶの?」


 アリアは別の方向に話を向ける。

 対象の事は向こうに着いてから考える事にしたのだ。

 現状、現地の状況が分からないので向こうに行ってみないと分からない部分が多い。


「そうだな。定番は海に泳ぐとかだな。海の水は体が勝手に浮くんだぞ」


 リアーナは幼い頃の記憶を思い出しながら話す。


「え、沈まないの?」


 アリアの感覚では水に入ると沈むと思っていた。

 今まで経験しているのが、川や湖だから真水なので浮きにくい所でしか泳いだ事が無いのだ。


「海の水は不思議な事に浮くんですよ。だから川で泳ぐのとはまた違った楽しさがありますよ」


 ハンナは海で泳いだ経験があった。

 遊びでは無く任務で海に飛び込む機会があったからだ。


「それにコルドバーナは一大観光地だからカジノもあるし、遊ぶ所には困らないな」


「カジノは許可しませんよ」


 リアーナの言葉にマイリーンがピシャリと釘を刺す。


「カジノは少し早いか。食事も美味しいから期待していると良いぞ」


 コルドバーナは海の幸が豊富に獲れる場所でもあるので食事も充実している。


「遊ぶ場所があって、美味しいご飯もあったら何も言う事は無いね」


 アリアは前回、他の面々が浮かれていたのが理解出来なかったが、今は何となく分かった気がした。


「私は向こうに着いたら様子を見ながら監視に力を割こうと思います」


 アリアはベリスティアの言葉に少し申し訳無さそうな顔をする。


「ベリスごめんね」


「適任が私しかいませんから。一応、リアーナ様からしっかり報酬は貰う予定なのだ、大丈夫ですよ」


 アリアは報酬と言う言葉に首を傾げる。


「リアーナさん、ベリスに何かあげるの?」


「あぁ……少し変わった報酬だったがな……」


 今一歯切れが悪いリアーナの様子にベリスティアが何を要求したのか気になった。


「アリアちゃん、ダメですよ。これは秘密です」


 アリアが質問する前にベリスティアが釘を刺す。

 内容としてはそんなに難しい事では無いが、リアーナにとっては少し複雑な気持ちになる事だった。

 ある意味、大変かもしれないが、労力としては高が知れている事だ。


「私の事は心配せずに楽しんでくれれば良いのです。ふっふっふっ……」


 突如、怪しい笑みを浮かべ始めたベリスティアにアリアはよく分からなかった。

 心配しないで良いのであればベリスティアなら確実に情報を掴んで来てくれるので安心出来た。



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