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閑話30:ミレル・ランベルト⑪

 目を覚ますと私は王宮の救護室のベッドで寝ていた。

 直前の光景を思い出し、私は咄嗟に顔を思わず手で触れて確かめる。

 特に痛みは無く首は繋がっていた。

 それは当然で首が飛んでいたら意識が戻る筈も無い。


「おや、起きたみたいだね」


 私の前に現れたのは王宮に控える治癒術師だった。


「大丈夫だよ。ちゃんと綺麗に治したから。リアーナ様もしっかり手加減してくれていたみたいだ。恐らくだけど本気だったら首から上が吹き飛んでいたんじゃないかな?」


 あれで手加減されていたと思うと何とも悔しかった。

 まだ及ばないとは分かってはいるけど、必死に鍛えてきたのが何だったのかと思えてくる。

 私だって第五騎士隊の中では五指に入る強さを持っている。

 それがこの様だ。


「ただ結構、体力を使っている筈だから二、三日はここで療養して貰う事になるけど」


 確かに体力が戻っていないのか体がだるい感じがする。


「それでどうなったのでしょうか?」


 私は一番、聞きたいのはあの後どうなったのかだ。


「君が倒れた後はヴァン様にヘクター様が応戦されたと聞いているよ。ただ二人掛かりでもリアーナ様を取り押さえる事は出来なかったらしい」


 私はその言葉に血の気が引いた。

 そうするとリアーナ隊長はそのまま神殿に乗り込んだとすれば大惨事だ。


「そんなに心配する必要は無いよ。偶然なのかは分からないけどヴァレリア様が現れた事によって何とか騒動は治まったから」


 ヴァレリア・ガル=リナリア、ガル=リナリア帝国の皇帝の側室であり、元カーネラル王国の王女でリアーナ隊長の幼馴染。

 無事に止められた事に私は安堵した。


「ヴァレリア様が強引にリアーナ様を牢に放り込んだらしいよ。あの方は昔からお転婆だからね」


 リアーナ隊長を強引に牢に放り込めるなんて他の人間だったらまず無理である。

 どうやって止めたのか気になる所だ。


「リアーナ隊長の処分は……?」


「気になるだろうけど、僕も知らないんだ。恐らく、今日、陛下から下されると思うよ。極刑にはならないんじゃないかな。昨日の件で実質カーネラル王国最強の騎士と言う事が判明してしまったし、手放す事は出来ないんじゃないかな。まぁ、僕の予想でしか無いんだけどね」


 リアーナ隊長はヴァン隊長とヘクター隊長を同時に相手にして二人を退けた。

 これはカーネラル王国の三強のバランスを崩す事になる。

 実は軍事面で各騎士隊の発言力は騎士隊の強さで決まってきた。

 今まではヴァン隊長の率いる第一騎士隊、ヘクター隊長が率いる第二騎士隊、そして第五騎士隊で微妙なバランスを取っていた。

 しかし、ここでバランスが崩れてしまい第五騎士隊一強になってしまうと少し問題が出てくる。


 騎士隊とは言え貴族の派閥の影響がそれなりにある。

 リアーナ隊長であれば当然、ベルンノット侯爵の派閥、ヴァン隊長は子爵家だが宰相であるクレイン公爵の派閥だ。

 ヘクター隊長は平民出身なので中立派、第四騎士隊のトール隊長は神教派のハーノア侯爵の派閥で意外とややこしいのだ。


 リアーナ隊長一強になってしまうと他の派閥の貴族が面白くないのだ。

 今回はリアーナ隊長の事件があるので少しでも優位に付ける為に責任を問う声が増えるだろう。

 ただ完全に下す事が出来ない状況でもあるので余計に状況を難しくしている。


 リアーナ隊長の戦力は正に一騎当千で代わりが利かない。

 手放すイコール軍事力の弱体化に繋がってしまう。

 他の派閥とは言え、それは避けたいのが本音だ。


 そこに関しては成り行きを見守るしかない。

 体を休めながらのんびりしていると救護室のドアがノックされた。


「どうぞ」


 ちょうど治癒術師の人が席を外していたので私が入室の許可を出す。

 来客は少し暗い表情をしたリアーナ隊長だった。

 私はベッドから体を起こし出迎えようとすると、リアーナ隊長は私の元まで来て勢いよく直角になるまで腰を曲げて頭を下げた。


「すまなかった!私の短慮でこの様な怪我を負わせてしまった。許して欲しいとは言わない、だが謝罪はさせて欲しい」


 貴族の人はこう言う謝罪の出来る人は少ない。

 自分より下の身分に素直に頭を下げる事が出来ないのだ。

 誰が見ていないとは言え、ここまでしっかり頭を下げて謝罪出来るリアーナ隊長に尊敬してしまう。

 それにリアーナ隊長がアリア様をどれだけ大事にしているかを知っているから。


「リアーナ隊長、頭を上げて下さい。踏み止まってくれて良かったです。アリア様の悲しい顔を見ないで済みます」


 私の言葉にリアーナ隊長の表情が歪む。


「でもアリア様を救えるのはリアーナ隊長しかいません。昔みたいみんなで笑いあえる様になりたいじゃないですか?」


 アリア様の為とは言え、リアーナ様が極刑になったら悔やんでも悔やみきれないだろう。

 リアーナ隊長は泣きそうな顔をしていた。


「そんな泣きそうな顔をしないで下さい。私の知っている隊長はもっと強く凛々しい方です。胸を張って下さい」


「……だが私はもう隊長では無い。第二騎士隊へ異動になった。向こう半年は謹慎だ……」


 国王陛下が下した処分は非常に恩情が溢れる物だった。

 あれだけの事件を起こせば普通の騎士であれば反逆罪の適用で極刑も有り得る内容だ。

 それが降格、異動でたった半年の謹慎だ。

 第二騎士隊への異動はヘクター隊長とは腹を割って話せる仲だからだろう。

 国としてもリアーナ隊長を手放す事は出来ないと判断した結果だと思う。


「それでも私の隊長はリアーナ隊長しかいません。それに半年の休みが出来たと思えば良いじゃないですか?それにその間に出来る事がありますよね?」


 私にとって隊長はリアーナ隊長なのだ。

 これは例え異動になっても変わらない。


「あぁ、当然だ」


 強い目で真っ直ぐ見る目はいつものリアーナ隊長だった。


「それでこそリアーナ隊長です」


 私は満足気に笑顔で返す。


「そうすると後任は誰になるのでしょうか?」


 気になるのは後釜だ。


「それなら既に決めてある。私の後任はイライザに頼む形にする。副隊長は一応、グレースを推薦しておいた」


 無難な後任だった。

 イライザさんは副隊長と言うのもあるし、指揮能力は第五騎士隊の中では一番高い。

 そしてグレースさんは第五騎士隊の中でリアーナ隊長を除けばトップの実力を持つ。


「でもグレースさん、引き受けてくれますかね?」


 グレースさんは自由な今のポジションが気に入っているので頷くとは思えなかった。


「それなら問題無い。グレースは私に婚約者を紹介してやった借りがあるからな」


 そう言えばグレースさんの旦那さんはリアーナ様の弟のクラウス様だった。

 これは断るのが難しそうだ。


「王妃様方が寂しがりそうですね?」


 リアーナ隊長が第五騎士隊へ配属になったのは王妃様方の要望だったからだ。


「まぁ、そこは休みの日にでも顔を出す様にするさ。さっきお会いして休みの日を教える様に念を押されたから……」


 何処か遠い目をするリアーナ隊長。

 既に手が打ってある辺り抜け目が無い。


「それなら異動無しにすれば良かったと思うんですけどね」


「それだとイライザが胃痛で倒れる」


 リアーナ隊長が部下は……イライザさんが胃を抑えながら胃薬を飲む姿に目に浮かんだ。

 無いかな。

 私がイライザさんの立場なら絶対に勘弁して欲しい。


「確かにそうですね」


 暫く談笑し、リアーナ隊長は帰って行った。


 私は体が万全に戻ると通常通りの勤務に戻った。

 いつの間にか等級が上がっていたが、恐らくリアーナ隊長がしてくれたのだと思う。

 イライザさんが隊長になって暫くはドタバタしていたが、半年ぐらい経つと落ち着きを取り戻していた。


 半年、リアーナ隊長の謹慎が解ける直前、それは起こった。

 神殿に何者かが襲撃を行ったのだ。

 神殿の一部が半壊し、神教が捉えていた悪魔が逃げたなんて言う噂が立った。

 それと同時にリアーナ隊長、メイドのハンナが姿を消した。

 既に騎士隊には辞表が提出されており、念入りにベルンノット家の籍から廃嫡されていた。

 私とイライザさんは直ぐに神殿を襲撃したのがリアーナ隊長だと確信した。


 謹慎期間に色々と準備をして決行したのだろう。

 私はリアーナ隊長が国を離れてしまう事は悲しかったが、アリア様を無事に救出して平穏に暮らしていって欲しいと言う思いの方が強かった。

 口には出さないが、第五騎士隊の面々はそう思っているだろう。


 そして私はヴィクトル殿下からの命でリアーナ隊長を追う為に王都から旅立つ事となった。



アリア「久しぶりの後書き登・場!」


ヒルダ「本当に久しぶりですねぇ」


ア「これで三章終了!と言うかミレルさんの話長いね!」


ヒ「長いですね。私の閑話は何だったのでしょうか?」


ミレル「……すみません」


ア「そ、そんなつもりで言ったんじゃないよ!?」


ミ「分かってますよ。細かい設定の説明役に起用されたミレルです。後書き初登場ですので、宜しくお願いします」


ヒ「宜しくお願いします。それにしても成人まで普通の育ち方をしている方が少ないですよね?」


ア「そうだよね。マイリーンさんとベリスぐらいじゃないかな?」


ヒ「実は境遇不幸組みだったのは知りませんでした」


ミ「あんまり過去の事は話さないからね。暗い話をしても面白くないし」


ア「えー、何々……実はミレルさん、主人公候補だったらしいよ。この資料見ると」


ヒ「そうだったんですか?どれどれ……思っていたより普通過ぎたので変更……って、普通に本人がへこむ内容じゃないですか」


ミ「私が主人公だと面白くならないから。それにアリアちゃんの方が可愛いから……」


ア「でも恋愛要素は何故かマイリーンさんとミレルさんでなんだよね」


ヒ「私達には春は遠いですからねぇ」


ミ「自分で見ていると凄く恥ずかしいからね」


ヒ「いつか恋する乙女は強い的な何かがあるんですかねぇ?」


ア「あるのかなぁ?」


ミ「二人とも楽しんでいるでしょ?」


ア「うん」


ヒ「はい」


ミ「それより四章の事は良いの?」


ア「あ、忘れてた。簡単に言うと季節外れの水着、夢、メインは私、そして誰かが……」


ヒ、ミ「「誰かが?」」


ア「それは秘密で」


ヒ「だと思いました」


ミ「そう簡単に教えないわよね」


ア「と言う訳で次回から四章!!」

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