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閑話28:ミレル・ランベルト⑨

 ここで一つとある間男の話をしようと思う。


 第二次ランデール戦役が終わった後、女所帯で男に縁が無い私に春が来た。

 来たと言っても寒い北国の春で一瞬で終わる程度。


 事の始まりは祝勝会での事だった。

 祝勝会と言っても国が行った物とは別で戦に言った仲間達を労うと言う目的で騎士隊独自で行われた物だ。

 因みに王宮でも祝勝会はしっかり開かれているが参加したのはリアーナ隊長と副隊長のイライザさん、後は位の高い貴族家出身の者だけで、私の様な平民出身の騎士は通常通り女性王族の方々の警護の任に就いていた。

 リアーナ隊長はその時に更に勲章を賜った。


 それは置いておいて私の話に戻すと、騎士隊の祝勝会は各騎士隊で王宮の祝勝会が出ていない者が対象となる。

 特に優先されるのが前線へ赴いていた私が所属する第五騎士隊と応援で来ていた第二騎士隊の騎士だ。

 流石に騎士全員を呼ぶと警護面等の問題も有って出来ない。


 ただこの祝勝会は中々難しい面があった。

 第五騎士隊の面々は騎士とは大半は貴族のご令嬢が占める。

 第二騎士隊はほとんどが平民の騎士で占めている。


 いざ祝勝会が始まると第二騎士隊の男性騎士達はここは酒場か、と言わんばかりに盛大に騒いで飲み始める。

 何も可笑しい事は無い。

 私もそんな物だと思う。


 だが貴族のご令嬢達は違う。

 祝勝会と聞いてパーティーの様な物だと思っていたのだ。

 街の酒場になど行った事が無い様な面々が揃っていると言っても過言ではない。


 戦場での経験はあるが、こう言った経験はほぼ皆無なのである。

 その為、ほとんどの第五騎士隊の面々は引いてしまった。


 男性陣を避ける様に隅っこで飲むと言う微妙な感じになってしまったのだ。

 貴族の女性にとって街の酒場の雰囲気には馴染めない。

 彼女達はどう混ざって良いかが分からないである。


 決してそこに混ざるのが嫌な訳では無い。

 寧ろ興味を持っているぐらいだ。

 単純に未知の世界へ飛び込む勇気が無いのだ。

 騎士とは言え、第五騎士隊は女の園。

 そう簡単に男性騎士の中には飛び込めないのである。


 しかし、私は至って普通の平民なので気にする必要は何も無い。

 こんなどんちゃん騒ぎは冒険者ギルドに通っていれば珍しくも無い。

 寧ろ大きな依頼の達成がある度に行われている。


 一応、女性騎士がいない訳では無い。

 他の隊にも女性騎士はいるので男ばかりと言う訳では無いが、比率としては少ない。

 更に第五騎士隊の騎士とは接点がほとんど無いので向こうから話掛けてくる事は無い。


 そんな中、意気投合した男性騎士がいた。

 それが第二騎士隊所属のブレン・サドウィック。


 私と同じ平民出身の騎士で私より一つ年上の先輩騎士だ。

 第二次ランデール戦役では私達とは別部隊で応援に来ていた。

 別部隊なのでその時は全く接点は無かったが、第五騎士隊で他の男性騎士と話しているのを珍しく思って声を掛けてきた様だ。


 ブレンは王都のスラム出身で私と同様に犯罪歴があった。

 そう言う意味では境遇が似ているのでついつい話に華が咲いた。

 周りの騎士に出来ない話もブレンとだったら気兼ねなく出来るから。


 それから私とブレンはプライベートで飲みに行ったりする様になり、いつの間にか付き合うようになっていた。


 恥かしい話だがどちらか告白したとかでは無く、飲んだ後に勢いで体を重ねて流れのまま付き合う感じになってしまった。

 私自身、ブレンとは気が合うので悪くは無いと思い、付き合う事にした。


 余談だが、第二騎士隊の女性騎士は大体同じ部隊の騎士と一緒になる事が多い。

 理由は簡単で給料が良くて安定していて、仕事の中身も分かっているし、何よりも相手が身近だからだ。

 騎士は危険な仕事ではあるが、同じ部隊にいれば寝食を共にする事も多い。

 その環境が二人の間を縮めるのだ。


 私達が付き合い始めてから特に変わりは無かった。

 国も隣国との戦や大きな事件が無かったので平和と言えた。


 ただ私とブレンの付き合いは一年で終止符を打つ事になる。

 幾度も体を重ねて二人の距離を詰めてきたが、どうしても後一歩踏み込めなかった。


 ブレンの事決して嫌いな訳では無い。

 寧ろ好ましいと言える。

 だがそこ止まりなのだ。

 それ以上に想う事が出来なかった。


 一緒にいるが、何処か一歩置いた様な間があるのだ。

 それは私だけではなくブレンも一緒だった。

 別れた当時は何故、そうなのかは分からなかった。


 別れてから気付くのは根底に同じ境遇と言う事があって、それがお互いを近付かせないのでは無いかと思ったのだ。

 私達は決して良い環境で育った訳では無い。

 寧ろ周りの同僚達と比べれば悪い環境と言える。

 良くも悪くも私達はお互いの過去を慰めあってたに過ぎなかった。

 ただ居心地が良かっただけなのである。


 別れてから体を重ねる事は無いが、一緒に飲んだりは普通にした。

 お互い嫌っている訳では無い。

 関係が恋人から異性の友達と言う形に変わっただけ。

 正直、心残りが無い訳では無いが、別れたのは正解だったと思う。


 ただそんな間男的なブレンが半年後には新しい彼女を作っていたのは少し腹が立った。

 私は第五騎士隊と言う場所柄、大した出会いが無いのにさらっと相手を見つけていたのだ。

 八つ当たりなのは自分でも分かってはいるけど腹が立つのは仕方が無いと思う。

 三ヵ月後に別れたと聞いて盛大に笑ってやった。


 ブレンと別れたは良い物の三十歳手前に差し掛かりつつある私は少し焦りはあった。

 平民の女性の賞味期限、結婚適齢期と言うのが三十歳までと言われているからだ。

 これはカーネラル王国では一般的だが他国ではそうでは無い。

 他国より女性進出が進んでいるカーネラル王国ならではと言える。


 他国だと女性は家の事をするのが当然と言う文化が根底にあり、未だにその習慣が強いので二十歳前後で結婚する事が多い。

 大体は恋愛結婚では無くお見合いによる結婚だ。


 カーネラル王国は女性が仕事をしている関係で平民の晩婚化が進んでいた。

 仕事にやりがいを持つ女性が増えて、結婚をすると育児やら家事やらで仕事を辞めざるを得ない現状があるので中々厳しいのだ。

 第五騎士隊の面々みたいに貴族で屋敷に使用人がいて家事や育児を代わりにやってくれる人間がいる所は良いが、平民はそんな余裕は無い。

 騎士でも最低でも班長、男爵より下の一代限りのギリギリ貴族と呼ばれるレベルの騎士爵が貰える役職は無いと給料面で厳しい。


 私が貰っている給料は平民の平均給与よりは多いが、使用人を雇える程の額では無い。

 一般の騎士は等級によって給料が変動し、実績がある者は上の等級に位置付けられる。

 下は見習いである六等級から始まり、一番上は一等級となっており、私は現在三等級。


 月に銀貨五十枚も貰えているのでそれなりに稼いではいたりする。

 平民の倍以上なので決して少ない訳では無いが、使用人を雇うとなれば銀貨二十枚ぐらいは払わないと行けないのだ。

 そうすると中々厳しい物がある。


 私の場合は婚活の為に化粧品やドレスや装飾品に給料を持っていかれるのでそんな余裕は当然無い。

 使用人なんて必要ともしてないけど。


 因みにではあるが騎士隊長でリアーナ隊長の給料は毎月金貨十枚に加えて褒章手当てで更に金貨四十枚と言う超高給取りだったりする。

 褒章手当ては特別な功績を残した者に与えられる手当てで二度の戦での褒章によりかなりの金額の手当てになっている。


 この金貨五十枚と言う金額は領地を持たない貴族、それも男爵相当の爵位ではまず難しい金額である。

 王宮から給与として支払われる金額しては下手な大臣より高い。

 上司である騎士統括長より高く、騎士統括長と飲む時はリアーナ隊長が会計を持つらしい。

 家の維持費やら何やらで騎士統括長のお小遣いは実は少ないらしい。

 そのお小遣いも貴族との付き合いや部下に奢ったりする事で消えてしまう。

 そう考えると偉くなるのも大変だと思った。


 騎士と言っても貰えるお金は上と下では恐ろしく違うのだ。

 私はプライベートでリアーナ隊長とよく買い物を一緒にするのだが、金銭感覚が恐ろしく違う。

 私は平民でリアーナ隊長は侯爵家の長女なので当たり前と言えば当たり前の話だが、実際に目の当たりにすると本当に驚いてしまう。


 銀貨二枚の物を買うのに悩んでいるとリアーナ隊長は簡単に買ってやる、と言うのだ。

 本人は日頃から世話になっているから、と言うのだが、私からすれば銀貨二枚はそれなりの大金だ。

 稼げる様になったから良いが、貧しい時は銅貨一枚大切に握り締めていたぐらいだ。


 奢ってくれたりするのは非常に嬉しいのだが、私だけ贔屓されている気がして申し訳無いのだ。

 一度、その事を本人に言うと程よく奢れるのが私らしい。

 貴族の仲間の場合、実家との関係性を考えてする必要があるらしい。

 特に派閥が対立派閥の場合は注意が必要みたいで何とも面倒な事だと思った。

 だからと言って蔑ろにするのでは無く、そんな時は複数人を誘ったりする事でバランスを取るみたいだ。


 平民からしたらややこしくて面倒だとしか思えない。

 そう思う私は貴族には向かないのだと思う。


 かなり話は逸れてしまったが、地道に私は婚活を始めた。

 とは言っても毎月開かれる婚活パーティーに出席して良い人がいないかを探すだけだ。


 現実はそう上手く行かない。

 まともに良いと思える男性がいなかった。

 この婚活パーティーに来るのは結婚相手が平民でも問題が無い貴族や商人等のそこそこ稼ぎのある平民だ。

 そして年齢は三十歳前後、偶に四十歳越えと言う人もいるけど、基本的には賞味期限が切れそうな人か、賞味期限が切れてしまった売れ残りの集まりであり、碌なのは残っていない。


 焦って婚活を始めたが既に遅しと言う事なのだろう。


 だが婚活パーティーに行けばモテた。

 パーティー参加者の中では比較的若く、職業が騎士と言う事で意外と良物件として見られていた。

 特に貴族の微妙なのには特にモテた。


 理由は難しくない。


 私が騎士でも第五騎士隊所属だと言う事だ。

 王族からもある一定の信頼を得ている人間と言う扱いになるのだ。

 それに加えて上司はカーネラルの戦乙女(ワルキューレ)として名高いリアーナ隊長だ。

 彼らは私では無く、私の先にある人脈しか見ていない。


 困った事に私宛に伯爵家の様なそこそこの地位のある人から結婚のお誘いが来たりする事もある。

 時には私しかいないタイミングに王宮の廊下で話を持って来られる事があるくらいだ。

 正直、勘弁して欲しい。

 私としてはそんなしがらみの多い所からの結婚は全てお断りしている。


 私の婚活事情は第五騎士隊の中に留まらず、王妃様、側室の方々の耳に入っており、それはそれで悩ましい事になっている。

 本気では無いだろうが、過去二度程だが王妃様から結婚相手を紹介のお誘いがあった。

 私はその場で丁重にお断り、と言う畏れ多くて断った。

 万が一、紹介された時に私には拒否権は無い。

 王妃の紹介された方を断るのは王妃様の面子を潰してしまう事になる。

 一平民でしかない私には無理だ。


 後でリアーナ隊長に王妃様が紹介しようとした人物を聞いて私は気が遠くなった。

 一人は公爵家であるアイリア家の次男で宰相閣下の下で経済研究の研究者で、もう一人は騎士統括長の息子さんだった。

 アイリア家は側室であるマグダレーナ様のご実家で婚約者がいないのが謎なぐらいの好物件である。


 理由は難しくなく、貴族のご令嬢が苦手だった。

 そして仕事大好き人間で結婚で時間が減るぐらいなら結婚したくないと言う変わり者だった。

 叔母であるマグダレーナ様が心配をして王妃様に相談した結果、私を紹介と言う流れになったらしい。

 何とも恐ろしい流れである。

 好物件かもしれないが、どう足掻いても面倒な予感しかしない。


 騎士統括長の息子さんは第三騎士隊の騎士で何度か顔を合わせた事がある。

 年齢も私の一つ下の後輩だ。

 騎士統括長は下手な貴族は息子の嫁にしたくないみたいで、平民で騎士に理解がある私をターゲットにしたらしい。

 そしてその話を王妃様にして私の下へやってきたと言う流れだった。


 騎士統括長の息子さんに関しては正直、有りかもしれないと一瞬、思った。

 騎士統括長は貴族だが一代限りなので感覚は平民と変わらない上に、お互い騎士なので仕事への理解もある。

 ただ紹介されたとしても断られる可能性が高いと言うのが私には分かっていた。


 彼は女性として私を好まない可能性が高いからだ。

 彼自身は騎士統括長に似て実直で何事も理論的に考える仕事が出来る人間だ。

 問題があるとすれば彼の女性嗜好。

 悲しいかな、残念な事に彼は見た目が幼めの少女が好みなのだ。

 もしかしたら少しロリコンも入っているかもしれない。


 私はそう言う方向と違う。

 身長は平均よりあるし、胸はそれなりにある。

 見た目で言えば立派な大人の女性なので彼の好みとは正反対なのだ。


 無理をして公爵家の次男の方でも良いと思われる人も多いかもしれない。

 はっきり言って玉の輿と言える相手で普通なら首を縦に振るだろう。

 ただ私は自分の出自に後ろめたさがあり、それで迷惑を掛けてしまう事が怖かった。

 王妃様や側室の方々も私の過去は知っておられるので問題無いのかもしれない。

 でも私自身がそれを認める事が出来ない。


 そんな私に結婚相手が出来るのだろうか?

 不安が募るばかりである。



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