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閑話26:ミレル・ランベルト⑦

 騎士になって一年程経った頃、ここで一つの戦争が始まる。

 カーネラル王国の北に位置するランデール王国との戦いで第一次ランデール戦役と呼ばれている。


 カーネラル王国とランデール王国は長年に渡る因縁があり、彼此三百年は争いを続けている。

 ランデール王国の土地は南北を山脈に囲まれ、冬場になると乾燥し寒さが厳しい。

 その為、食料品は他国からの輸入に頼っており、周辺との関係から主に帝国から輸入している。

 そして山脈の南に位置するのがカーネラル王国でランデール王国とは対照的に温暖で肥沃な土地が広がる。

 ランデール王国から見れば喉から手が出る程、欲しい場所なのだ。

 帝国も国土は広いが、国力が余りにも違う為、喧嘩を売る事が出来ない。

 そこは大陸一の大国と言える所だろう。


 少しでも肥沃な土地を求めて侵攻してくるのだ。

 カーネラル王国とランデール王国との国境は南の山脈が途切れる東の端、国境を守るカーネラル一と言われるアルシアック要塞が防衛の要となっている。

 ここは長年に渡って侵攻を繰り返すランデール王国からの侵攻を防ぐ為に建造された要塞だ。


 因みに他の侵攻ルートは無い。

 カーネラル王国とランデール王国を隔てる山々は険しく、ランデール王国は過去に何度も山脈経由での侵攻を試みたが全て失敗に終わっている。


 北に関しては長大な山脈が隔てているのもあるが、その先に広がるのは広大な大森林。

 カーネラル王国よりも広い面積を誇る大森林は正にランデール王国にとって未開の地に等しい。

 北の大森林はエルフが治めるキルナラ森林都市連合がの土地である。

 この森は余りにも広大な為、南側はランデール王国の西に位置するバークリュール公国側からのルートしか無い。

 更にランデール王国から近い場所に街等は無く、山々も険しい事もあり、メリットが無いので侵攻対象にはならない。


 そして西側に位置するバークリュール公国とはどうかと言うと常に一触即発の状態が続いている。

 だが、国境全域に長城が築かれており、攻め入るには難しい。

 実際に何度も小競り合いを起こす度に返り討ちにあっている。


 侵攻難易度は西、南共に高いが、メリットが大きい南を攻めの中心としているのだ。

 その為、定期的に戦争となっているのである。

 他にも何か因縁があるらしいけど、私はそこまでは知らない。


 第一次ランデール戦役で私は前線に出る事は無かった。

 この時には前任の隊長は座を退いてリアーナ隊長に代わっていたのだが、リアーナ隊長の判断により経験の浅いメンバーは基本的に前線に行かない事になったからだ。

 第五騎士隊から前線に向かったのはリアーナ隊長を筆頭に後の副隊長であるイライザさんを中心として実力派の面々だ。

 イライザさんは戦闘の腕は平凡で並程度しか無いけど、戦略に限っては隊随一と言われる切れ者。

 リアーナ隊長の謎の直感に埋もれて目立たないけど、情報を分析してそこから最適解を導き出す能力は凄い。


 難点は少し理屈っぽい所。

 根拠も無い直感で動くリアーナ隊長とはしばしば言い合っている事がある。

 傍から見てる反りが合わなさそうに見える二人だが、実は仲良しだったりする。

 何と言っても食堂でおかずを取り合う二人の姿は見物で、これをこそっと王妃様方に話をしたら大爆笑を頂けた。


 話を戻すが私は戦争の間は王宮で通常通りの任務に勤しんだ。

 前線に出た仲間が多いのでシフトはかなり厳しいが、前線に行った仲間が安心して戦える様に精一杯努めた。


 この戦争の結果は要塞を守り抜いたカーネラル王国が勝った。

 勝ったと言ってもランデール王国を追い返しただけだが。

 前線に言った第五騎士隊の仲間では一人、命を落としたが、ほとんどの仲間が無事に戻ってきた。


 事前に王宮には情報が入って来ていたのだが嬉しい事にリアーナ隊長が今回の戦いで大きな手柄を立てた。

 リアーナ隊長が一人で千人のランデール軍を殲滅したのだ。


 リアーナ隊長が率いる部隊はランデール軍に奇襲を受けた。

 その時に仲間の一人が命を落とした。

 要塞へ撤退を指示したリアーナ隊長は仲間の殿を務めた。

 そこに首級を挙げようと襲い来るランデール兵を悉く倒していった。

 その所業は一騎当千の英雄で神が遣わした戦乙女では無いかと誰かが言った。


 緑色の草原は敵の地で真っ赤に染まったと言われている。

 死体が広がる草原に血塗れの姿で佇むリアーナ隊長の姿はランデール王国の兵を恐怖で震え上がらせた。

 彼の国では鮮血の虐殺姫と呼ばれる事になる。


 ランデールの奇襲は失敗に終わり、それが痛手となり、攻勢に出たカーネラル王国軍によってランデール軍を追い返す事に成功する。

 ランデール王国軍は敗走を余儀なくされた。


 この戦でリアーナ隊長は国王陛下より勲章を授与された。

 正に一騎当千の活躍を遂げた英雄としてだ。

 褒章として王都の王族管理の屋敷を下賜された。


 何度もあの屋敷にお邪魔をしたが、はっきり言って大き過ぎる。

 リアーナ隊長もこんなでかい屋敷はいらない、と愚痴を零すぐらいに大きい。

 リアーナ隊長の実家であるベルンノット家の屋敷より大きいのだ。


 そんな大きい屋敷に引っ越す事になったリアーナ隊長だが、この屋敷には他の屋敷とは違う所があった。

 それは贅を凝らした大浴場がある事だ。


 実は私は一度だけ入った事がある。

 戦勝記念と言う事でリアーナ隊長の親しい騎士を屋敷へ呼んで宴会をしたのだ。

 その時に全員で入ったのは良い思い出である。


 この時意外だったのは普段は真面目なリアーナ隊長とイライザさんが広い浴槽で泳いでいた事だ。

 これには一緒にいた仲間も驚きを隠せなかった。

 まるで子供の様な二人に思わず笑いが零れた。


 そんな感じではしゃいでお風呂でに長居しているとリアーナの侍女であるエマさんがのぼせているんじゃないかと心配してやってきて、リアーナ隊長がしゅんとなって叱られている光景も貴重だった。

 そして一緒にいた面々がお風呂上りにエマさんにこんこんと正座で叱られると言う貴重な経験もした。


 はっきり言ってはしゃぎ過ぎだったと思う。

 私とイライザさんは平民だが、他の面々はそれなりの家格の貴族である。

 いくら女性しかいないとは言えはしたない。

 皆で叱られたのも今となっては懐かしい。


 因みにイライザさんは平民だが最初から第五騎士隊にいた訳では無い。

 リアーナ隊長が隊長になった時に王宮警護の第三騎士隊から引き抜いたのだ。

 情報を扱うのが得意な騎士が必要と言うのもあったのと、王宮警護の騎士なら第五騎士隊に異動しても問題無く任務に就ける。

 王都警護の第二騎士隊出身の平民の騎士ではマナーと言う面でまずアウトだ。

 そう言う意味でも都合が良かったと言える。


 それから間も無くリアーナ隊長が養子を迎える事が決まり、隊内に激震が走る。

 常々、一生独身を公言しているリアーナ隊長が結婚をすっ飛ばして養子を迎えると言う事に騎士仲間は一様に驚きを隠せなかった。

 特に独身組の驚きようは凄かった。

 独身組はリアーナ隊長が独身な事に安心感を覚えていたのだが、いきなり子供が出来ると有り、安心出来なくなったらしい。

 そんな私も独身組だが、ここで指すのは年齢が上の独身の仲間の事。


 色々話を聞いていくと政治的な思惑が見え隠れしてくる。

 リアーナ隊長が養子に迎えるのは神教の聖女となる予定の少女。

 簡単に言えば後見の為。

 そんな思惑が見え隠れする中、肝心の義理とは言え母親になろうとしている当の本人は……浮かれていた。


 普段は貴族のご令嬢らしいドレスを見たりしないリアーナ隊長が子供用のドレスのカタログを見ながら一生懸命に選んでいるのだ。

 そして、周りの騎士達にどんな物を買ってあげたら喜ぶか等を聞きながら楽しそうにしている光景は今まで見た事が無い乙女の一面だった。


 一番、驚いた事は用事があって屋敷に行ったらリアーナ隊長がドレスを着ていたのだ。

 屋敷でも騎士の様な格好をしており、夜会でしか着ない……いや、リアーナ隊長のお母さんのお願いしか着ないのに普段着として着ているのがどれだけ貴重な光景か分かるだろうか?

 これを騎士隊の同僚に話すと皆驚いていた。


 後で話を聞くと神殿から派遣された神官のマイリーン様が母親になられるなら男らしい騎士服では無くドレスを着る方が良い、と進言したらしい。

 私が屋敷を伺ったタイミングは予行練習だったらしい。

 そもそも貴族のご令嬢がドレスを普段着にするのに予行練習とかどうなのか、と言いたいがこれは心の内に留めておく。


 養子となる少女を迎えに行くに際して護衛と第五騎士隊と近衛である第一騎士隊から数名が同行する事となった。

 これは国としてのアピールもある。

 近衛から人員を出す事により聖女に対して人員を割いている事を示す為だ。

 第五騎士隊からは私ともう二名が同行する事になった。


 そして、私はアリア様と初めて出会う事になる。



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