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閑話25:ミレル・ランベルト⑥

 騎士の登用試験だが、無事合格となった。

 ミルマットにいる両親に合格の旨を伝える手紙を出すと合格の祝いが書かれた返事が来た。

 王都ドルナードからミルマットまでは距離があり、手紙のやり取りに時間が掛かってしまうのだが、私にはある特権があった。


 それは一部の冒険者が持つ特権で冒険者ギルド間に張り巡らされている魔道具による通信網を使用する権利だ。

 私はお父さんから王都で冒険者活動をしながら色んな情報を集めてくる様にお願いされていた。

 ミルマットでは王都の情報は中々手に入らない。

 一応、王都の冒険者ギルドには懇意にしている職員がいるらしいが、仕事が忙しい事もあるので中々頼みにくいのだとか。

 それを出汁にしてこの権利を貰ったのだ。


 なので割と直ぐに返事が来るのだ。

 冒険者の活動は学院に通っていながら続けており、卒業する頃にはCランクに昇格。

 冒険者見習いは卒業して一人前と言われる所まで到達出来た。


 そんな事は置いておいて騎士になった、正確には騎士見習いになった私は王都の一角にある騎士専用の宿舎へと居を移した。

 ここは王都に家を持たない者が住む為の場所だ。

 王都に実家がある者は宿舎に住まない。

 と言っても実家から通うのはそこそこ爵位の高い家の貴族の者だけだ。

 平民の私には関係の無い事だ。


 騎士に登用された者は半年は騎士見習いとして扱われる。

 配属は半年後に決定する。

 この半年は騎士として必要な事を徹底的に叩き込まれる。


 この半年に二割程の人間が騎士隊から去る。

 理由は難しく無い。

 訓練が非常に厳しいからだ。

 特に私が入った年から五年は地獄だった。

 何故なら扱き担当がリアーナ隊長だったからだ。


 リアーナ隊長は鍛錬に対しては人一倍厳しい。

 その基準で訓練内容が作られているのだ。

 だがその内容も他の騎士隊長達からかなり指摘されて優しくなっているらしい。

 リアーナ隊長曰く、熱湯風呂に浸かるぐらい程度にしたつもりがぬるま湯程度になってしまった、との事だ。


 そんな本人がぬるま湯を評する訓練だが、これが地獄だった。

 リアーナ隊長が指導するのは週四日なのだが、週に一度地獄の行軍が私達を苦しめた。

 内容は大して難しくはなく、王都の城壁外周を隊列を組んで巡回するだけだ。

 巡回するだけと言っても慣れないフルプレートの鎧に身を包んで重い荷物を背負っての行軍。

 これが休憩を挟みながら早朝から日没まで行われる。


 春のポカポカ陽気と言えば良く聞こえるかもしれないが、フルプレートの鎧を着込んでいると中は物凄く暑い。

 太陽の熱で鎧に熱が蓄積するのだ。

 因みに荷物の重量の半分は水だったりする。

 これは自分達が飲む為の水だ。

 暑さで脱水症状にならない為の物。

 最初は重い荷物だが日没になる頃にはかなり軽くなっている。

 それだけ水分を消費しているのである。


 因みに隊列を乱せばリアーナ隊長の怒号が飛ぶ。

 最初は文句を言って噛み付く者もいたが、それは直ぐにいなくなる。

 模擬戦の訓練で私達騎士見習い全員が素手のリアーナ隊長に叩き伏せられたからだ。

 私は別に文句があった訳では無いが、一種の通過儀礼みたいな物である。


 この訓練はリアーナ隊長も同じ格好で行っているが、その動きは軽快で疲れた素振りを見せた事は一度も無かった。

 後で分かった事だが、事体力に関しては騎士隊の中で一番あるらしい。

 私個人の意見も含めれば騎士隊最強はリアーナ隊長だと思っている。

 これを言うと第一騎士隊長ヴァン様を慕う派閥やヘクター隊長の派閥と喧嘩になるので心の中に仕舞っておく。

 でもこれが事実だったと言う事は私は身を以って知る事となるのはまだ先の事。


 一応、座学だったり宮廷マナーだったりそう言うのも学んだりはするが、実践系訓練のしんどさにそっちの訓練は騎士見習いにとっては休憩みたいな物だ。


 必死に訓練に励む事、半年が経つと見習いから正式に騎士になり、配属先が決まる。


 私の中の良い同期のほとんどは第二騎士隊への配属となった。

 平民出身は基本的に第二騎士隊に配属される。

 私は第五騎士隊に配属になった。


 平民である私が何故か第五騎士隊に配属されてしまった。

 当時は下級学院の騎士科を卒業した私はちゃんとした礼儀作法が出来る人間では無かった。

 お母さんから習っていたし、授業でも習っけど、どうせ王都警護の第二騎士隊に配属されると思っていた。

 過去の傾向で平民出身の騎士の六割は王都警護の第二騎士隊へ回されているからだ。

 そんな実績も知っていたのもあってそう思っていたが予想外の配属に最初は戸惑った。


 私が第五騎士隊に配属された理由はリアーナ隊長が私を隊に入れたら良い意味で面白そうだから。

 平民育ちでここまで這い上がってきたから根性もありそうの二点だった。


 私はこの第五騎士隊の中ではかなり特殊な存在である。

 第五騎士隊は女性王族、女性の要人を警護する為の部隊だ。

 その為、第五騎士隊に所属する騎士は全員女性、それに加えて礼儀作法が出来る者が選ばれる。

 警護対象が王族に連なる方、若しくは他国の要人なので失礼があっては行けない為、礼儀作法が必須なのである。

 そう言う理由から代々騎士として仕えている爵位持ちの家出身者がほとんどだ。

 つまり、この部隊にいる女性のほとんどが貴族のご令嬢、若しくはご夫人なのである。


 私が入隊した当時は第五騎士隊にいる平民は私だけだった。

 それから徐々に増えていったがそれでも一割程度。

 任務の内容上、平民だと難しい面があるので仕方が無い。


 最初は隊に上手く馴染めるか不安だった。

 自分以外全員が貴族の職場に放り込まれるなんて思いもしなかった。

 はっきり言ってストレスで胃に穴があくんじゃ無いかと想像したぐらいだ。


 でも思いの外、好意的に受け入れられた。


 理由は難しくなくリアーナ隊長が選んだからだ。

 第五騎士隊の中ではリアーナ隊長は絶対的な信頼を置かれている。

 理由はいくつかあるが、まずは圧倒的な実力の高さ。

 入隊して二年と言う早さでの副隊長の地位は家格は勿論の事、類稀なる武力と直感に優れた指揮能力の高さがあっての事。


 そんな事もあって第五騎士隊の中では当時の生臭な隊長の言葉よりリアーナ隊長を支持する者が多かった。


 次に挙げられるのは王族からの圧倒的な支持だろう。

 これは家格にも関する事でもあるが、侯爵家の長女と言う立場もあり、幼い頃から王族の方々と懇意にしてきており、王妃様、側室の方々、王女様方の信頼が非常に厚い。


 これは第五騎士隊に入って驚いたのだが、リアーナ隊長は国王陛下とも懇意にされているのだ。

 執務の息抜きに王妃様方のお茶している場にふらっと現れては談笑をしているのである。

 護衛と言う立場で畏れ多くて私では中々、会話が出来ないのだが、自然と馴染んでいるのだ。


 リアーナ隊長の存在は他の貴族から見ても一目を置かれている。

 侯爵の地位は当主のみではあるが、副隊長の時点で男爵相当の地位になる。

 一応、私も騎士なので男爵より下の一代限りの騎士爵の地位を貰っている。

 はっきり言って平民と大差無いけど。


 話は逸れたが、そんなリアーナ隊長の存在は貴族達の中では無視出来る存在はでは無いと言う事だ。

 爵位の高い家出身の者でもリアーナ隊長に逆らうのは難しいのである。


 平民出身者がいなかった事も相まって休憩の度に平民の事について色々と聞かれた。

 全員が貴族なので意外と下々の事を知らないのだ。

 それを多少、面白おかしく話せばあっと言う間に盛り上がり、異例の平民騎士ではあったが、軋轢を生む事無く隊に溶け込んで行った。


 いざ付き合ってみると分かるのだが、貴族の令嬢やご夫人とは言え、普通の女性だ。

 身分は確かに違うけど、話せば基本は変わらないのだと気が付く。

 騎士になってから私はお菓子の美味しさに感動し、暇があれば王都の甘味を食べ漁っていたのだが、これが同じ隊の仲間に知られると皆一様にオススメのお店を聞いてくるのだ。


 貴族なら美味しいお菓子を知っていると思いきやそうでは無かった。

 話を聞くと家で出すお菓子は基本的に懇意にしているお店の物しか扱わないらしい。

 特に古い、と言うか長く続く家はその傾向が強くそう簡単に他のお店の物を購入する訳には行かず、第五騎士隊の面々は半数は王都の自宅から通っているが、市街に出る事はほとんど無いので以外とお店を知らないのだそうだ。


 第五騎士隊は基本的に王宮の中から出る事は無い。

 更に貴族のご令嬢やご夫人がのんびり市街を散策なんて簡単に出来ない様で食べ歩きなんて以ての外。

 そんな事もあり、仕事仲間からは貴重な甘味調査員となっていた。


 女子は甘味があれば仲良くなれる。

 これは間違い無い。


 特に体面を気にする先輩方は私の食べ歩きの予定を逐一確認し、金貨を一枚握らせてくる。

 これはつまり私に美味しい物を買って来いと言う事なのだ。

 本人が行けば懇意にしているお店に角が立つので私から貰った体にしたいと言う訳だ。

 貴族って、何て面倒臭いと思った。


 趣味がそのまま人間関係の役に立っているので非常にありがたい事である。



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