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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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02:朝のモフモフは程々に

 窓から差し込む太陽の光の眩しさにアリアは目を覚ます。

 今日は夢を見なかった。

 夢を見なかった朝は気分が良い。

 同じ部屋の他のベッドで寝ている仲間はまだぐっすり寝ている様だ。

 アリア自身も朝は早い方では無いのだが、他の二人は更に弱い。

 取り敢えず、起こす事にした。


「ハンナ、起きて。もう朝だよ」


 布団から狐の耳が出ている少女、ハンナの身体を揺する。


「……むにゃむにゃ……後……ホットケーキ五枚……」


 何とも美味しそうな夢を見ている様だ。


「ハンナ。起きないと尻尾をモフモフするよ」


 再び、揺すって声を掛けるが起きる気配が無い。


「そう言う事で至福のモフモフタイム~」


 アリアは起きないハンナの布団に潜り込む。

 ハンナの尻尾を優しく掴み、頬でモフモフを堪能する。

 獣人の尻尾は勝手に触るのは厳禁なのだが、アリアはハンナの了承を得ている。

 寝ている時に触る許可は取っていないが。


「ひゃっ!?」


 ハンナはいきなり尻尾をモフられて声を上げる。

 獣人にとって尻尾は非常に敏感な場所なのだ。


「ハンナの尻尾は最高だね~」


「アリア様、人の布団に潜り込んで勝手に私の尻尾を触るのはやめて下さい」


 そう言ってハンナはアリアを引き離す。

 アリアは至福の時間をもう少し堪能したかったが、あんまり朝からやり過ぎると怒られるので大人しく離れる。


「だって起こそうとしてもハンナ、起きないし」


 ハンナはベッドから下りて立ち上がる。

 さっきは布団でハッキリ見えなかった肩に掛かるぐらい長さの金色の髪から生える耳。

 ハンナは獣人でも狐の獣人、金狐族だ。

 先程、アリアがモフっていた尻尾は綺麗な毛並みに柔らかさとボリュームがある毛量、金狐族の自慢だ。


「よくそれで侍女なんて出来たね」


「ぐっ……私は夜型なのです」


 ここは開き直る。

 実際、侍女になる前は夜型の生活で、侍女になってからは昼型の生活をしていたが朝は滅法、弱い。

 元々、ハンナはアリア付きの侍女であったが、主はアリアでは無い。

 ハンナの主はもう一つのベッドで寝ている銀髪の女性だ。

 ハンナは顔を洗い、自らの服装を整える。

 白いフリルが付いた黒のワンピース、その上から長袖の白のボレロ、皮のショートブーツにニーハイソックスと言う少しメイド要素の残る出で立ちだ。

 主を起こす前にアリアの髪を梳く。

 アリアの髪を梳くのはここ数年来、ハンナの仕事だ。


「アリア様、じっとしていて下さい」


「うん」


 ハンナにとって朝のアリアの髪を梳く時間が好きだ。

 アリア付きの侍女ではあるが、何処か妹を可愛がる様な感じがするのだった。

 朝のこの作業によって滑らかな蒼い髪に輝きを与えるのだ。

 アリアは基本的に身動きがしやすいポニーテールが好きなので、髪を梳いた後は後頭部で髪を束ねる。

 束ねた後に眼帯を付ける。

 アリアの右目は失われている。

 失われた眼球の代わりに怪しげに光る石が眼窩に収まっている。


「アリア様、終わりました。私はリアーナ様を起こしてきます」


「分かったよ。でもリアーナさんって、寝ている間は全く動かないよね」


 ハンナの主はの名はリアーナ・ベルンノット。

 カーネラル王国の侯爵家、ベルンノット家の長女でアリアの義母だ。

 彼女はとある事件により子を産めない身体になり、つい最近まで王国の騎士隊に所属する騎士だった。

 侯爵家の長女ではあったが、子を産めない女には貰い手はいない。

 リアーナが騎士になったのは家から独立する為だった。

 彼女は第五騎士隊の隊長まで上り詰め、騎士爵ではあるが一代限りの爵位を得るまでとなった。

 しかし、ある事情によりアリア達と共に国を出奔する事になった。

 そんなリアーナだが朝は三人の中で一番弱い。

 更に寝ている時は全く動かないのだ。

 リアーナ付きの侍女になる者は寝た状態から全く身動きせず死んだ様に眠る姿に焦るのが通過儀礼となっている。


「リアーナ様、朝です。起きて下さい」


 リアーナはハンナの声に導かれベッドから身体を起こす。

 まだ眠いのか目を擦っている。


「濡れタオルです。どうぞ」


 ハンナから濡れタオルを受け取り顔を拭く。

 リアーナ目覚めの儀式の一つだ。


「ハンナ、おはよう。朝からすまんな」


「おはようございます。そんな事はありませんよ」


 リアーナから使い終わった濡れタオルを受け取り洗面所へ促す。


「もう侍女では無いのだから、そこまでする必要は無いぞ」


「いえ、私が動かないと朝が終わりませんので」


 ハンナの言葉にアリアはジト目で抗議の視線を送る。

 朝が弱いのはお前もだろう、と。

 洗面所に入っていく二人を見送り、アリアは着替える事にした。

 虚空に手を翳すと着替えがベッドの上に出現する。

 虚無魔法の一つ、空間収納だ。

 亜空間に物を仕舞う魔法である。

 彼女の普段着は麻のシャツにホットパンツ、上からノースリーブで黒地に赤い文様で縁取られたコート、黒い皮のニーハイブーツ、黒のロンググローブ、剣を背負う為の皮のベルトだ。

 黒に差し色の赤をアクセントにした彼女の出で立ちは暗殺者の様である。

 部屋の姿見で確認していると二人が洗面所から出てきた。


 リアーナも空間収納から着替えを取り出し着替えを始める。

 彼女の服装は割りと大胆で胸の下までしかないトップスにズボンと言う臍出しスタイルだ。

 上から長袖の青いコートを羽織り、胸の上だけ留める。

 皮のショートグローブ、脚甲付きのロングブーツ、投擲用の短剣と鞘止めの付いた皮のベルト付け、腰にはロングソード。

 軽く姿見で確認し、準備が終わる。


「食堂に下りて朝食にしようか」


「「はい」」


 リアーナに促されアリア達は食堂に下りる。



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