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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
19/224

19:追いかける者

 ミレルとブレンは王都ドルナードから西にあるネッタの街へ向う乗り合い馬車に乗っていた。

 王太子ヴィクトル・カーネラルの密命によりリアーナ・ベルンノットと接触する為にピ=ピラへ向っている。

 ピル=ピラへ向うにはネッタからファルネットの国境に近い街、ミルマットへ行き、そこから国境を越えてドーソンを経由する事になる。

 国境付近はミドラ高原を横切る形だが、街道沿いに山道は無い為、比較的安全なルートだ。

 一番速く移動出来るのは馬だが今回は馬車にした。

 理由は一つ、一般人に紛れ込み騎士とバレるのを防ぐ為だ。

 特に各地に間者を放っている神教側に行動を知られたくないのが一番大きい。

 神教は封印から逃げたアリアを血眼になって探している。

 彼らは神教側より早く手を打つ為に動いているので見つかる訳にはいかないのだ。


 王太子ヴィクトルからリアーナ達の移動した痕跡も聞いていた。

 神教の総本山で神殿のあるヴェニスを脱出した後、バークリュールに半年以上滞在していた事が調査で分かっている。

 冒険者ギルド内にいる密偵からカーネラルとバークリュールの国境近くの街のウィッターでアリアが冒険者登録した情報が入っており、暫くそこに滞在してからピル=ピラへ向ったと踏んでいた。

 その事からピル=ピラからカーネラルには向かってくる事は無い事を考えると行き先は南のハルネートか西のロザックへ向う可能性が高いと考えていた。


 ミレルは万が一、アリアがいた時の事を考え、王都でとあるお土産を買っていた。

 リアーナから聞いたアリアが好きな食べ物の一つだ。

 食べ物で釣れるとは思えないが、少しでも機嫌を損ねない様に考えての事だ。

 それだけの為に空間収納付のバッグを買ったのだ。

 当然、お金は経費で騎士隊持ちだ。


 王都ドルナードから馬車に乗る事、二日でネッタの街に着いた。

 ネッタは街道沿いの街で北にある神教の総本山ヴェニスとバークリュール方面へ行く分岐店となる街だ。

 規模もカーネラル国内では王都ドルナードに次ぐ大きさで交通の要衝となっている。

 乗り合いの馬車に乗っていたがタイミングが良いのか悪いのか同乗者はいなかった。


「ネッタに来るのは久しぶりだな」


「そう?私は実家がミルマットだから年に一回は最低来てるわ」


「ミルマットって言えばミドラ高原の入口にある街だろ?」


「えぇ、そうよ」


「あそこって魔物は結構、出るのか?」


「うーん、街道沿いならそんなに大した物は出ないわよ。南の山側付近にクアールが住み着いている噂は聞いた事があるわ」


「クアールって、マジか!?」


 クアールは髭の長い豹の様な魔物だ。

 Sランク指定の危険度の高い魔物で風と雷と水の魔法を使用し、動きも素早い。


「人里の近くに下りてきた事は今まで無いから討伐依頼とかは出た事は無いわね。こちらから手を出さない限り基本的には襲ってこないから誰も山側には近づかないわね」


「触らぬ神に祟り無しってか?」


「そんなもんよ。迂闊に手を出したら大変な事になるしね」


「クアールって、髭が長いんだよな?」


「えぇ、そうよ」


「身体は黄色で黒い斑点があるか?」


「えぇ」


「因みになんだがそれと出遭ったらどうするんだ?」


 ブレンは横目で馬車の外を見ながら聞く。


「逃げれるかは分からないけど逃げるしかないじゃない」


「それなんだが上に人が乗ってたりする事あるか?」


 ブレンの視線はミレルではなく更にその先を見ており、何故か大量の汗をかいている。


「は?何を言ってるのよ。そんな事ある訳無いじゃない。あんた大丈夫?」


 ブレンの質問に苛立ち気味のミレル。


「お前の反対側を見てみろ」


 ブレンはミレルのいる先を指す。


「は?何を……!?」


 ミレルがブレンの指した方向を見ると、馬車の後から静かに着いてくるクアールが一頭いた。

 そのクアールの背中に一人の少女が乗っていた。

 ミレルは石になったかの様に固まってしまう。

 今、自らが置かれた状況を全く理解出来なかった。


「え?」


 出てきたのは間の抜けた声だけだった。

 クアールに乗っている女性とミレルの眼があった。

 向こうもミレルと眼があったからなのか手を振っている。

 この状況をどう捉えたらいいか分からないミレルだが、クアールの背に乗っている女性がクアールを従えている様に見えた。


「ミレル……どうするよ?もしかしてリアーナ様に会う前に終わるんじゃね?」


「手を振ってるからこっちに来そうよね……」


「俺もそう思う」


「逃げるってありかな?」


「無理じゃね?」


「そうよね」


 諦めてミレルはクアールに乗っている女性に手を振り返す。


「御者さん、落ち着いて聞いて。一度、止まってもらえる?」


 ミレルは御者の耳元で小さな声で話す。


「どうしました?」


「後からクアールに乗った女性が来てるんだけど、こっちに用事があるっぽくてコンタクトを取りたいの」


「え、クアールですか!?」


 御者は驚きの声を上げる。


「静かにして。刺激したくないの。クアール相手に逃げるのは無理だから可能なら穏便に済ませたいの。どうもクアールは乗っている女性に従っているみたいだから」


「は、はい。分かりました」


 御者は馬に指示を出し、馬車を止める。


「ブレンは御者の人を見てて。私は向こうと話してみるから」


「あぁ、分かった。向こうを刺激するなよ」


「そんなの分かってるわよ」


 ミレルは馬車から降りるとクアールと一緒に女性も近づいてくる。

 近くで見るとまだ十五ぐらいの少女だ。

 少女は肩に掛かるぐらいの銀髪に旅に不相応な薄い青のドレスを着ていた。

 一見すると何処かの貴族の令嬢だ。


「驚かせてしまってごめんなさい。ちょっと迷子になって道を聞きたかったの」


 その少女は迷子の様だった。

 ミレルはその振る舞いに話しあえる相手だと判断した。


「いえ、大丈夫よ。ちなみに何処に行きたかったの?」


 ミレルはネッタでは無い事を願っていた。


「えっとね。ネッタって言う街に向ってたの。森を横切ってたらネッタがどっちにあるか分からなくなっちゃって……」


 ミレルは表情を変えずに心の中で肩を落とした。

 厄介事の予感しかしなかったからだ。

 ただクアールに襲われる可能性は無いと思った。


「もしお姉さん達もネッタへ向うんだった一緒に付いていったらダメかな?」


 クアールに乗った少女のお願いに心が揺らぎそうになるミレル。

 ただ嘘を言うのも躊躇われた。


「一応、確認するけど、そのクアールは人は襲わない?」


 これは確認しないといけない。


「うん。ルーはとっても良い子だから人を襲わないよ」


 これは諦めるしかない、とミレルは思った。


「私の一存で了承する事は出来ないけど、御者と馬車の人達には私からお願いしてみるから少し待っていてもらっていい?」


「うん。分かった」


 少女は嬉しそうに頷いた。

 クアールの方も何処か嬉しそうに尻尾を振っている。

 ミレルは馬車へ戻り、御者とブレンに事情を説明する。


「仕方が無いですね。襲われるよりは良いかもしれません」


 御者には追加で金貨一枚を握らせたミレル。

 痛い出費だが命には代えられない。

 ブレンはと言うと完全に諦めモードだ。

 幸いな事は馬車に乗っていたのが二人だけだった事だろう。

 ミレルは二人の了承を得たので少女の下に向う。


「御者も私の同行者も問題無いそうよ」


「ありがとう!私、カトリーヌ・ドリス。よろしくね」


「私はミレル・ランベルト。宜しくね」


 クアールの少女の名に何処か引っ掛かる物があったが、今一はっきりせず気にも留めず馬車に乗り込んだ。


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