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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第三章:闇に沈みし影の刃
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169:悪魔とは

「悪魔は一般的に二つに分けられる。まずは下級悪魔と呼ばれて見た目がおどろおどろした様な姿をしている存在だね。主に人を騙したり、生気を吸い取ったり、大地の力を奪ったりする感じかな。悪魔狩りと呼ばれる人間が狩るのは主にこっちだね。悪魔と言ったらこっちのイメージが強いと思う」


 リアーナの持つ悪魔のイメージはカタストロフが言った下級悪魔と同じだった。


「もう一つは上級悪魔と分類される悪魔だね。こちらについては僕やアスモフィリス、君達がこっちに分類される。見た目は見ての通り人間と大差は無い。人間への影響と言えば……まぁ、アスモフィリスは色々とやらかしてるけど、ほとんどは人に紛れてひっそりと暮らしているかな」


 カタストロフの言葉にリアーナの中でアスモフィリスは口笛を吹きながらとぼけていた。


「そもそもなんだけど、実は上級悪魔と下級悪魔は悪魔と一括りにされているけど、全く別の存在だ。そもそも成り立ちが違う。まず下級悪魔は所謂精霊が変質した存在だ」


 精霊とは大地に宿る万物の力を司る存在で、人々にとっては姿は見えていなくても身近な存在だ。

 精霊が多い場所は土地が豊かで精霊が少ない場所は荒れていく。

 精霊は世界にとって無くてはならない存在なのだ。

 その為、精霊が多く済んでいる場所に人は集まり街を築く。

 エルフは精霊との交信が出来ると言われており、精霊の多く住む場所に居を構える。


「精霊は綺麗な魔力が集まる場所を好むんだけど、負の魔力、所謂瘴気にうっかり侵されてしまう事があるんだ。瘴気は世界から放出される負の感情が集まって出来た魔力だから憎悪、怨念、怒り、妬み、そう言った感情に汚染されたされていて影響されてしまうんだ。基本的に人に無害だった精霊が瘴気に侵されて生ある者に害を成すんだ」


 精霊は基本的には無害だが、人に害をなす精霊も存在する。


「瘴気に侵された精霊は土地を守る役目を放棄してしまう。そして彼らは守っていた土地を放れて負の感情が集まる場所へと向かう。それが人の住む町だ。特にスラム街は下級悪魔にとって居心地が良いからね。後は戦場だったり、王宮みたいな所も好むね」


 リアーナは王宮に負の感情が集まるのは素直に頷けた。

 自らの権勢を得る為に貴族達が争う様は正に悪魔の好む感情が渦巻く場所である。


「ただ土地を守っている精霊はそんなに力を持っている訳じゃない。成り立ての下級悪魔だったら人でも簡単にどうにか出来る。悪魔狩りの連中は基本的に下級悪魔をポチポチと狩っているんだ。下級悪魔ははっきり言って僕達にも襲い掛かってくるからどんどん狩って欲しいね」


「そうすると上級悪魔は何なんだ?」


「やっぱ気になるよね?簡単に言えば世界に悪者と言う概念を押し付けられた神の眷族の成れ果てだよ」


 カタストロフの言葉にリアーナは驚きを隠せなかった。

 だがここで一つ問題があった。


「と僕が折角、良い感じに正体を明かしたのは良いんだけど、アリア起きようね?」


 リアーナとグラーヴァの視線がアリアへ向けられる。

 そこには頭をコックン、コックンさせながら遠い夢の彼方に意識を飛ばしているアリアの姿があった。

 リアーナはそれを見て溜息を吐いた。


「はぁ……すまない」


 何とも居た堪れない気持ちに苛まれる。

 静かに拳を握ったリアーナは居眠りをするアリアに容赦なく拳骨を落とす。


「あ痛っ!!な、何!?」


 突然、頭に走った衝撃にアリアは何が起こったのか理解出来なかった。

 体力が戻っていないとは言え、リアーナの拳骨はマイリーンの尻叩きと比較にならない痛みだった。

 寝ていたアリアを目覚めさせるには充分な一撃だ。


「うむ、起きたな」


 アリアの視界にリアーナの顔が飛び込んできた。

 今の言葉でアリアは状況を察した。

 自分がカタストロフの説明中に居眠りをして拳骨で起こされた事を。


「ちゃんと真面目に聞くんだ。アリアにとっても大事な事だ」


「……ごめんなさい」


 アリアは素直に謝った。


「やっぱり教育は大事だね」


「そうだな。あの女も身近にこの様な者はおればあんな性悪にはならなかったであろう」


 カタストロフとグラーヴァはつい聖女アメリアとアリアを比較してしまった。

 それ以上に親の教育と躾が如何に大事かを知る良い例でもあった。


「それじゃ話を続けるよ。元々、僕にしてもアスモフィリスにしても神に仕える存在だったんだ。ちょっと細かい事情についてはまだ話せないから省かせて貰うけど、創世神であるアルスメリア様は堕ちた神の眷属を悪としたんだ。世界に必要な悪としてね。堕ちた眷属も一つにまとまっていた訳では無くて、いくつか派閥に分かれていたんだ。その中でも一番強かったのが僕で結果として悪魔王と呼ばれる事になったんだよ。因みに別のグループの頂点にいたのがアスモフィリスだね。だから彼女は特に肩書きは無いけど、魔王と比肩する存在なんだよ」


 カタストロフは少し意味ありげにリアーナを見る。


「でもそれなら悪魔になるのになんで負の感情に染まった心臓が必要なの?」


 アリアは悪魔が神の眷属であれば自分のやっている行為は必要無いと思ったのだ。


「それは概念の力だね。長い年月を掛けてこの世界に広まり浸透した悪魔と言う概念がそうさせてるんだ。世界が悪魔をそう言う存在として認識してしまったから。僕もアルスメリア様では無いからはっきりは分からないんだけど、悪魔は悪を成す存在として定義する為に長い年月を掛けてそう設定したんだ。百年単位ではそうはならないけど、千年以上と言う長い年月で浸透した事は世界が事実として認識してしまうんだ」


 アリアは理解出来ず首を傾けた。


「これは無理して理解しなくて良いよ。僕もはっきり分かっていない事だから。僕達は元々そう言う存在だったと思ってくれれば良いよ」


 リアーナは何処か腑に落ちない部分があったが、頭の中でアスモフィリスが今は納得しておけ、としつこく言うのでここでは言葉にする事は無かった。


「実はもう一つ区分があって中級悪魔と言うのが存在するんだけど、これは僕達から生み出された悪魔の事を言う。バジールやベリスティアの様な存在だね。堕ちても僕は神の眷属だが、彼らは違う。純粋な悪魔と言う意味では中級悪魔がそうなるんだろうね」


 中級悪魔だけ悪魔として生まれてくるのだ。

 ベリスティアに関しては若干違うが。


「ざっくりではあるけど悪魔と言う存在の説明は以上だね。因みに話せない事は話すつもりは無いから質問は受け付けない方向で」


 カタストロフは話せない事が多いので掻い摘んだ説明だけしかしていない。

 この説明に具体的な背景は一切、語られていない。

 アリアは小難しい話で話半分にしか聞いていないのであれだが、リアーナはカタストロフが意図的に幾つか説明に入れなかった部分がある事を気付いている。

 カタストロフもリアーナがそれに気付いている事を知っていて釘を刺したのだ。


「下らないかもしれないが聞いて良いか?」


「答えられる事なら」


 質問は受け付けないと言いつつも内容によっては答えようとするカタストロフ。


「悪魔には寿命があるのか?」


 リアーナが気になったのはそこだ。

 アリアと一緒にいる時間が何よりも大切だから聞きたかったのだ。


「無いよ。老化とかは無いし、成長したらずっとそのままだね」


 カタストロフの言葉にアリアが反応する。


「もしかしてこれ以上成長しない?」


「あー、そうだね。大体、そのぐらいの年齢の姿で成長が止まるんじゃないかな。特に変質してなった場合はその時の年齢で止まるから」


 子供の時に悪魔になったら子供の姿のままである。


「そうすると身長も胸も大きくならない?」


「あー、ごめん」


 カタストロフの言葉にアリアが肩を落とす。

 将来はリアーナ程とは行かなくてももう少し身長が伸びて、胸の大きさももう少し大きくなって欲しいと願っていたのだ。

 女性としての希望が儚く散ってしまったのだ。

 アリアは標準的な女性より少し小柄で胸も小さめなのを実は気にしていたのだ。


 肩を落とすアリアに場は何とも言えない空気が場を支配する。


「アリア、今の体型でも充分、綺麗で可愛いぞ」


 リアーナがフォローに入る。


「そうだな。愛らしいとは正に娘の様な者を指す言葉だ。あの性悪と違って非常に好ましいと思うぞ」


 グラーヴァも思いつくだけの誉め言葉を並べる。

 比較が聖女アメリアな辺りが何とも言いにくいが。


「……でもみんな胸大きい……」


 アリアの言葉に慰めの言葉が見付からない一同。

 実際にリアーナとマイリーンは大きい分類に入る。

 ハンナとヒルデガルド、ベリスティアは標準的な大きさだ。

 それでもアリアよりは大きい。

 アリアのは標準以上あるリアーナの胸へ恨みがましい視線を送りつつ将来の無い自分の胸を見て余計に沈んだ表情を浮かべた。

 カタストロフの言った言葉はある意味、死刑宣告に近い言葉だった。


「取り敢えず、我は用事が済んだから次の用事があるのでここでお暇させて貰おう」


 グラーヴァはそう言って椅子から立ち上がる。

 因みに用事があると言うのは嘘である。

 女性のデリケートな話題にこれ以上関わるのは危険と判断して逃げの一手に出ただけだ。


「あぁ、態々すまない。ミレルにはよろしく言っておいてくれ」


 リアーナは何とも言えない雰囲気だが建前上の挨拶はしておく。


「分かった。無理はせん事だ」


 グラーヴァはそう言って部屋から出て行った。

 リアーナの横で落ち込んでいるアリアを残した部屋は何処と無く沈んだ雰囲気だった。

 リアーナはそんなアリアのご機嫌を取る為、グラーヴァが持ってきた菓子の手土産をベッド脇の棚から皿を取り出して乗せていく。


「アリア、折角だから貰ったお菓子でも食べよう。お茶を淹れてくれないか?」


 アリアは顔を上げるとテーブルの上にマドレーヌが皿に盛って置かれている事に気が付く。


「うん。直ぐ準備するね」


 アリアはパタパタと部屋の外へお湯を取りに行く。

 困った時の甘い物頼りである。


「まさかあんな所で落ち込むと思わなかったよ」


 カタストロフは少し申し訳なさそうな顔をしながら言う。


「仕方が無いさ。そう言う年頃だ。偶には一緒にどうだ?」


「そうだね。折角だから僕もご相伴に預かるとしようか」


 カタストロフは棚から茶器を準備する。

 こうして暗いムードか和やかなお茶会へ移行した。



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