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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第三章:闇に沈みし影の刃
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168:アリア自分の正体を知る

「あれ?そう言えばヒルダさんの姿がずっと見えないけど」


 アリアは昨日からずっとヒルデガルドの姿が無い事に気が付いた。


「ヒルダ殿ならグラーヴァ殿がミレルに送る剣を打つのに鍛冶工房で泊まって寝ずに打っているらしい」


 リアーナはベリスティア経由で連絡を受けていた。

 ハルファスはアスモフィリスと話すのが余り得意では無いのでバジールやベリスティアを経由する事が多い。

 カタストロフに関しては畏れ多くて伝言を伝えにくいのだ。

 ハルファスぐらいの悪魔にとってはカタストロフは偉大な存在なのだ。


「でもどんな剣になるんだろう?それだけ気合が入っているって、事だよね?」


「それは間違い無いだろう。余程魅力的な素材なんだろうな」


 リアーナは剣の話をするヒルデガルドを見て、過去に王都でいつも世話になっている武器屋の店主を見ている様だった。


「当たり前だ。あれは我の牙だからな」


 部屋の扉をノック無しに開けて入ってきたのはグラーヴァだった。

 手には不似合いなバスケットを手にしていた。


「女性の部屋に入るならノックぐらいはしたらどうだ?そのぐらいのマナーは覚えておいた方が良いだろう?魔物の王」


 リアーナは一瞬でグラーヴァが魔物である事を見抜く。

 これはアスモフィリスと融合した事により今まで以上に仔細に魔力を判別する事が出来る様になったからだ。


「それは失礼だった。次は気を付けるとしよう。ミレルに嫌われたくはないからな」


 グラーヴァはバスケットをアリアに手渡す。


「これは何?」


「見舞いの菓子だ。ミレルのオススメだ」


 菓子と聞いてアリアは顔を輝かせる。

 アリアへの手土産では無いが、リアーナはアリアに食べさせるのは火を見るより明らかなので誰も気にはしない。

 事後処理で手が放せないミレルはグラーヴァに見舞いを頼んだのだ。

 グラーヴァ自身もリアーナと話をしたいと思っていたので都合が良かった。


「流石に分かるか。そっちの悪魔王の娘の方が早いと思ったが、お前の方が早かったか」


 グラーヴァは二人に正体を隠す気は無かった。

 アリアとリアーナの体に起こっている状態も見抜いていた。


「ふむ、差し支えなければ正体を教えてもらっても良いだろうか?」


「構わない。我はアドレナール山脈の奥地に住むキングベヒーモスの長を任されている」


 リアーナはキングビヒーモスと聞き驚きを隠せなかった。

 伝説でしか伝わっていない魔物が目の前にいる事が信じられないのだ。

 一方、アリアはベヒーモスが獣系の魔物なのでそのモフモフ感が気になった。


『それは期待しない方が良いよ。筋肉質で毛は硬いから』


 アリアの思考を読み取りカタストロフが忠告する。

 そして正体を隠す意味が無いと判断し、カタストロフは姿を現す。


「久しぶりだね、グラーヴァ」


 カタストロフは懐かしい旧友に話しかける様な軽い調子で挨拶をする。


「そうだな。五百年ぶりだな。貴様も未練がましい奴だな」


 グラーヴァは一瞬、アリアに視線を移して言った。


「う~ん……手厳しいね。事実には違いないけど」


 グラーヴァの言葉にカタストロフは思わず苦笑する。


「貴様は昔からそんな奴だ。そう言う所は昔と変わらん。貴様は何を考えている」


 グラーヴァは鋭い視線でカタストロフを射抜く。


「君達には迷惑を掛けるつもりは無いよ。彼女は復讐。僕はアメリアを探す。それだけだよ」


「アメリアか……。あの女はここ数百年消息を絶っているな」


 二人はアメリアが生きているかの様に放す事にリアーナは不思議に思い、質問をした。


「何故、聖女アメリアが生きている前提なんだ?いくら魔道を究めても五百年は生きられない筈だ」


 以前に似た様な質問をしたが、カタストロフは答えなかった。

 アスモフィリスとは記憶を共有しているが、肝心な所はリアーナに見せない様にしていた。


「貴様は教えていなかったのか?」


「まだ早いと思っただけだよ」


 グラーヴァはカタストロフの言葉に少し考える様な素振りを見せる。


「まだ早い、か。言わん事は分からなくは無いな。我は貴様の言う事を聞く義理は無いがな」


 カタストロフは僅かに眉を顰める。


「全部を明かすのは無理だが、少しは答えよう。アメリアは原初の魔王であるリナリール様の子だ。この程度であれば良いだろう?」


「ギリギリかな」


 カタストロフは少し苦い表情をするが、ギリギリ許容出来る範囲の情報だった。


「聖女アメリアは何者なんだ?そもそもリナリールとはどの様な魔王なんだ?」


 原初の魔王リナリールについては詳細な文献が何も残っていない。

 その為、どの様な魔王か全く分かっていない。

 神話では創世の女神アルスメリアに叛旗を翻し、封印されたとだけ伝えられているだけだった。


「アメリアについては人間では無い。どの様な種族だったかは私から話すべき事では無い。リナリール様については許可無く我から話す事は出来ん。それはこ奴も同じだ」


 リアーナはリナリールについての情報を聞く事を諦める。

 グラーヴァが敬意を払う相手、それに加えてグラーヴァが許可を得なければならない相手、それが一体何者なのかは分からないが、少なからずこの世界において頂点に近い者では無いかと推測した。

 更に人にとって都合の悪い可能性があるとも予想した。


「それなら良い。聖女アメリアの事が少し分かっただけ良かった」


 だがそこからリアーナは一つの結論に至る。

 アリアが完全に人から掛け離れた存在だと言う事に。


「私は何者なの?」


 アリアは純粋に疑問をぶつける。

 その質問にカタストロフはしまった、と思わず表情に出してしまう。

 この話はアリアが眠っている時にリアーナとハンナに話しただけでアリアには一切話していなかった事だった。

 アリアがカタストロフの記憶から読み取ったのはアメリアがカタストロフを封印した場面だけで具体的な事は何も聞いてはいなかった。


「私、初めから人間じゃ無かったって事?」


 カタストロフはアリアの質問にどの様に答えるべきか迷った。

 素直に教えてしまって良いのかと思ってしまった。

 それがアリアの心にどれだけ負担を掛けるか想像出来なかった。


「私は何なの?」


 アリアは自分の出生を一切知らない。

 直ぐに孤児院に預けられた。

 シスターも何も知らないのだ。


「貴様、娘に何も話していなかったのか……?」


 グラーヴァはアリアの瞳に浮かぶ動揺の色を見逃さなかった。

 さっきまでは平然としていたのに今は幼子の様に見えた。

 その動揺は非常に危うく感じたのだった。


「アリア、おいで」


 場の空気を変えたのはリアーナの優しい言葉だった。

 アリアは素直にリアーナのベッドに腰を掛けてリアーナの横に来る。


「アリア、私は元々魔族の血が入った人間だ」


 リアーナはいつも以上に優しく語り掛ける。


「でも今は人間と呼ぶには無理があるな。もう悪魔と言っても間違い無いだろう。だからと言って私とアリアの関係は変わらないだろう?」


 言葉にすると人間で無くなった事を改めて認識すると心がギュッと締め付けられる様な気がした。

 リアーナは落ち着いて話しているが、悪魔になってしまった自分を見つめきれていない。


「アリアがどう言う生まれなのかは私は知らない。だが私の娘だと言う事に変わらない。ほら、悪魔になったお陰でアリアとお揃いだぞ」


 リアーナは自らの髪をアリアへ見せる。


「私もアリアも実質、悪魔と言っても問題無いぐらいに変質してしまっている。二人とも悪魔なら今まで以上に家族らしくは無いか?」


 リアーナがやっているのは答えを先延ばしにしているだけに過ぎない。

 だが、今この場で真実を告げるのはアリアが受け止めきれないと判断したのだ。

 いつものアリアなら話をしても大丈夫かもしれないが、精神が疲弊しているアリアでは無理だった。

 それだけ疲弊しているのだ。


「私とアリアは血の繋がりは無いから一緒な物が何も無かった。でもこれで一緒だな」


 アリアは一緒と言う言葉に不安が少し薄れる。

 リアーナと一緒と言うのはアリアにとって大事な事だ。

 いくつもの意味にいおいて。


「それにアリアは一人じゃない。私以外にもハンナもいる。ヒルダ殿もいる。マイリーン殿もベリスもいる」


 少しずつアリアの心に安心を積み重ねていく。


「生まれがどうだろうと私はアリアの母親なのは変わりは無い」


 リアーナは鋭い目線をカタストロフへ送る。

 その意図が分かると溜息を吐く。


「はぁ……分かったよ。僕が話せる範囲でなら話そう。アリア、君はアメリアの複製だ」


 複製と言われたアリアは以前にカーネラル国王と出会った時の事を思い出した。

 肖像画を見てカーネラル国王が言った一言が鮮明に甦る。


『王国に残っている聖女アメリアの肖像画と顔が非常によくにておるのだ』


 アリア自身も鏡を見ている様な気分だった事を覚えている。


「はっきり言って目的は分からない。そこはアメリアと再会出来れば分かるんだろうけどね」


 アリアは何かがストンと嵌った気がした。


「だからカタストロフは私を助けてくれたんだ?」


「そうだね。でもこれだけは言っておきたい。君はアメリアの複製かもしれない。でもアメリアでは無い。だから君はアメリアを意識する必要は無いんだ。性格は少し似ている所はあるけど、君を育ててくれた人がとても良い人だったんだろうね。本人よりも思いやりのある優しい子だよ」


 アリアは真面目に聞いていて誉められて少しむず痒かったが、それよりも聖女のアメリアの性格が少し気になった。


「聞いていると聖女アメリアの性格は碌でもなさそうに聞こえるんだけど……」


 グラーヴァが口を開く。


「ふむ。それは間違いない。奴は腹黒、陰険、守銭奴、無自覚で相手を振り回す。そんな感じだな」


「概ねそうだね。後は悪戯が酷かったかな。ドアを開けた瞬間、蓋をしたバケツに入ったゴキブリを頭から降らすとか、ベッドに乗った瞬間、床下に張った水へ落とすとかあったかな」


 グラーヴァは表情が変わらないので感情が読み取れ無いが、カタストロフは顔を引き攣らせながら語る。

 悪戯と言う言葉にアリアは少しバツが悪そうな顔をし、リアーナは変な所が似ているな、と思った。

 頭の中ではアスモフィリスが罵詈雑言でアメリアの事を喋っていた。

 この場で言われると面倒なので表には出さない。

 リアーナが許可しない限りアスモフィリスは体を使う事は出来ない。


「本当に聖女なのか?」


「……私、そんなに性格は悪くないもん!」


 リアーナ疑問は尤もだ。

 アリアはそこまで酷くないと声を上げる。


「だからアリアの事じゃないからね。言い伝えられている人物像と違うと言うのと、アリアとは別人だと言うのが言いたかっただけだから」


 実際、カタストロフもアリアとアメリアは別と捉えている。


「あれがこんな可愛い性格ならどれだけ良かった事か」


 ここまで性格を言われる聖女アメリアがどんな人物か気になるリアーナだが、会っても面倒な予感しかしなかった。


「アリアはそんな悪い子じゃないから大丈夫だ」


 そして子供の教育が如何に大事なのかをりかいした。


「話はかなり脱線したけど、何をしに来たのかな?」


 カタストロフはグラーヴァの来た用件を聞く。


「身近にいる強大な力を持つ者がどんな者かしっかりと見ておきたかっただけだ。我々に害を成す様であれば始末せねばなるまい。まぁ、そんなつもりは無いのは直ぐに分かったがな」


「そう言って貰えるなら助かる。私もあなたに害を成すつもりは更々無い。寧ろ、存在を初めて知ったぐらいだ。それに私とアリアが全力で掛かっても勝てないだろう」


 リアーナはグラーヴァの実力が足りないと思ったのは単なる勘だ。

 それでも歴戦の戦士の勘は外れる事は少ない。


「そうだな。今では無理だろう。娘が力を使いこなせる様になれば話は別だが」


 グラーヴァはアリアとリアーナを過小評価はしなかった。


「リアーナと言ったな。貴様は既に悪魔だ。人間と共に歩むのは難しいだろう。これかえらどうするつもりだ?」


 七割融合していると言う事はほぼ悪魔と言う事だ。

 悪魔は人間とは相容れない存在とされている。


「当面は正体を隠しながら今まで通りにするつもりだ。因みにだが私を見ただけで悪魔と分かるのか?」


 リアーナはアスモフィリスに会うまでは悪魔はもっと魔物みたいな存在だと思っていた。

 いざ契約してからは人間には無い力を持ってはいるが、見た目は普通の人間と何も変わらない。


「下級の悪魔なら見た目で分かるけど僕達の様な上級の悪魔は見た目では分からないと思うよ。まぁ、そこは話しておいた方が良いかもしれないね」


 カタストロフは悪魔と言う存在についてゆっくりと語り始めた。



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