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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第三章:闇に沈みし影の刃
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155:暗殺者アジト強襲

 姦しい散策三人女子組みであるアリア達と半分趣味に走っているヒルデガルドとは裏腹にリアーナとハンナ、そしてバジールが険しい面持ちでピル=ピラのスラム街へ来ていた。


 発展したピル=ピラでも貧困層が集まるスラムは存在する。

 ピル=ピラは大きくの区画で分けられている。

 旧トゥクムスラ王家が管理する王城がある中央区。

 ここは主に行政を司る建物が多い。

 そして街の北に位置する港湾区はその名の通り港を有する地域を指し、多くの商店がある為、ピル=ピラで一番賑わっている場所である。

 住居が多い東街区、西街区、南街区となる。


 街の南街区は森が近くスラムがある事から非常に治安が悪い。

 森にいる盗賊は大抵スラムを仕切っている裏の犯罪組織と繋がっている事がほとんどだ。

 盗品を普通に売買は出来ないので裏の犯罪組織を経由して売買をしているのである。

 南の外壁には幾つか抜け穴があり、盗賊達はそこを通じてスラムへ出入りしている。


 領主もスラムを何とかしたいと言う思いはあるが、迂闊に手を出せない理由があった。

 ピル=ピラ、ハルネートを拠点とする犯罪組織は物流、建築分野の元締めだからだ。

 表向きは全うな大きな商会で潰せば経済的な打撃が大きいのである。

 特に交易都市であるピル=ピラの街にとって物流は欠かせない事業であり、そこを押さえられているのが痛かった。

 そんな事情があり、ピル=ピラのスラムは悪化はしていないが、改善もされない。


 三人はスラムのある一角へと向かっていた。

 それは逃げた暗殺者達が潜む隠れ家だ。

 襲撃時に監視しているメンバーを追わなかった様に見えるが、密かにバジールが追っていたのだ。

 暗殺者達を潰す為に三人はここに来たのだ。


「マイリーン殿をガルド殿に押し付けられたのは良かった」


「そうですね。流石にギルドマスターを狙うなんて事は無いでしょう」


 リアーナは忙しいガルドの事務処理の手伝いと言う名目でマイリーンを冒険者ギルドに置いてきたのだ。

 マイリーンにはガルドと一緒になる時間を作ると言う名目だったが、本来の狙いは危険から遠ざける為だ。


 実はこの行動に関してはアリアとマイリーンには秘密にしていた。

 バジールが追跡した結果、リアーナ達を狙った者が判明した。

 リアーナ達を狙ったのはモーリス・シュレンマー、元ランデール王国の指揮官だった男。

 最初、バジールから報告を受けた時、リアーナは狙った本人が暗殺者をやっているなんて露とも思わなかった。


 ランデールとの戦争は直近で二回行われており、六年前の戦争を第一次ランデール戦役、二年前の戦争を第二次ランデール戦役と呼び分けている。

 彼は第一次ランデール戦役でリアーナと衝突した部隊を率いていた指揮官だったのだ。

 リアーナの印象では冷静に状況を判断し兵を大切にする指揮官と言う印象が強かった。

 実際に撤退時、モーリスは最後まで殿を務めているのを見ていたからだ。


 相手が分かった事でリアーナに対して恨みを持つ人物と言う事が明らかになった。

 そして同種の憎悪の感情を持つ人間をアリアに見せたくなかった。

 リアーナは同種の感情がアリアに何かしらの刺激を与えないか不安になったのだ。

 その為、アリアには知られない様に秘密裏に叩く事にしたのだ。


 バジールがアリアやカタストロフに告げずに協力しているのはリアーナの言う事が理解出来たからだ。

 彼自身、未熟ながらもカタストロフの力を引き継いでいるアリアを主として認識しており、感情面に関しては人一倍気にしていたりする。

 最初は納得していない雰囲気だったバジールだったが一緒にいる内にアリアの事が可愛くなってきたのだ。

 感覚的に可愛い妹が出来た様な気分である。


 ベリスティアとミレルには事情を説明し協力してもらい、護衛を兼ねながらアリアと一緒に遊びに行かせているのだ。

 この二人がいれば暗殺者程度なら楽に退けられると踏んでの事だ。

 ヒルデガルドに関しては偶然にもミレルの剣を作ると言う用事が出来てしまったので単独行動となった。


 リアーナはこの件は自分で片を付けるべきとも考えていた。

 発端である自分が幕を引く方が良いだろうと。

 そうして一軒のボロい石造りの家の前まで来た。

 一見、ただの廃屋に見える。

 入り口から中が見えるが特に誰かがいる様な気配は無い。


「ここで良いのか?」


「ここの地下がアジトみたいねぇ」


 バジールは地面を指した。


「さっさと片付けてしまおう」


 三人は正面から堂々と入っていく。

 人質等がいる様であれば慎重に行くのだが、今回は敵の殲滅なので細かい事を気にしなかった。

 藪蛇になる心配についても余りしていなかった。

 それで釣れるならそれも有りだと考えているからだ。


 部屋の中は特に荒れている事も無く、壊れかけの棚やテーブルが置いてあるだけだった。

 使われていない雰囲気の建物の割には床に埃が少ない。

 三人は静かに地下へ続く場所を探し始める。

 そんなに広い一軒屋では無いので探す場所は多くはない。

 寝室に来ていたハンナは注意深く部屋を観察していると一つの戸棚が目に付いた。

 特に綺麗な訳では無いが、不自然に汚れている場所が目に付いた。

 近づいてそれを見ると僅かばかりだが血の匂いがした。

 何度も拭き取ったのか強い匂いを放っている訳では無いので、獣人ぐらい嗅覚が優れていないと気付くのは難しいだろう。


 ハンナは軽く戸棚の周囲を観察すると隙間から空気の流れがある事に気が付く。

 ここに何かしらの扉であると確信した。

 ハンナは決して戸棚には触れなかった。

 何かしらの細工がされていたら面倒だと思ったからだ。

 隠し通路の扉等に侵入者検知の魔法を仕込むなんて事は珍しくも無い。

 乗り込む前に気付かれるのは面白くも無い。


 リアーナとバジールを呼び、先程見つけた戸棚を見せる。

 二人は戸棚を確認し、隠し通路がある事を確認する。

 ハンナとバジールがいれば交換(スイッチ)や虚無魔法で戸棚の後ろに隠し通路に移動すれば良いと思うかもしれないが、そんなに都合良くは行かない。


 まずハンナとバジールが持っている能力である交換(スイッチ)は一度見て、その場に変化が無いと言う条件があるのだ。

 その為、見た事が無い物を入れ替える事は出来ない。

 虚無魔法の転移系の魔法も同様の為、使用出来ない。

 そう言う意味ではこの場にいないベリスティアの千里眼と虚無魔法の相性は抜群である。

 千里眼があれば魔力を帯びた建物以外、ほとんどの場所を覗く事が出来る。

 ベリスティアの諜報能力の高さは群を抜いている。


 三人は視線で合図し、戸棚を極力、音を立てない様に動かす。

 とは言えども気持ち引き摺る音が小さい程度だ。

 バジールは魔法の発動の形跡が無い事をハンナとアスモフィリスに伝える。

 三人は息を潜めて戸棚に隠されていた階段を下りていく。

 地下へ続く通路をある程度進むと光が漏れているのが確認出来、話し声も聞こえてくる。

 バジールに先行させて中の様子を確認させる事にした。


 と言っても静かに気配を殺して扉の方へ近付き、気付かれない様に中の様子を探るだけである。

 バジールは中の様子を確認すると、部屋の中にいる男達は服装から見て先日、襲撃した一味と同様の服装をしており、お仲間だと言う事は直ぐ分かった。

 人数はバジールが予想しているより多く十五人程。


『寝込みを襲ってきた輩で間違いなさそうだねぇ。人数は十五人。見た感じそこそこの味がしそうな感じだねぇ』


 バジールは念話でハンナに状況を伝え、更にリアーナに伝達する。

 リアーナは状況を聞き、迷う事無く突入を決め。静かに剣を抜く。


 普段はハルバートを使っているが、こう言う狭い場所の場合は剣を使わざるを得ない。

 だからと言って不得意では無いので戦闘に支障は全く無い。


 息を殺しながらリアーナとハンナは先行しているバジールの近くまで行き、手で突入の合図をする。

 リアーナは乱暴に扉を蹴飛ばし、近場にいた男の首を刎ねる。


「何者だ!?」


 部屋の中にいる暗殺者達は直ぐに臨戦態勢に入る。

 ハンナは部屋の左右へ交換(スイッチ)で移動し、虚を突いて数人を斬り伏せる。

 絶命する暗殺者の声が空しく響く。

 暗殺者達は冷静に対処したつもりだったが、リアーナへ気が集中した事で入り口以外の場所の注意が薄れた。

 思わぬ方向からの刺客の出現に動揺が走る。

 その動揺を見逃すリアーナでは無い。

 隙が出来た暗殺者を一瞬で斬り捨てる。


 扉の影からタイミングをずらしてバジールはリアーナとハンナのいない空間に魔力の刃を放つ。

 バジール程の悪魔になればこの程度は無言で発動する事が出来る。

 敵が二人と油断していた暗殺者達は想定外の方向からの攻撃に直に数人、魔力の刃で切り裂かれ、地面へ倒れ伏す。


 暗殺者達が無言でリアーナは襲い掛かる。


「ハァッ!!」


 だがそれも虚しくリアーナが剣を振るう度に物言わぬ屍へと化して行く。


風撃(エア・ショット)


 リアーナの背後から暗殺者の一人が風の弾丸を飛ばす。

 しかし、後ろを振りむく事も無く僅かに体の位置をズラして避ける。

 横を通り過ぎていった風の玉は暗殺者の仲間の顔に直撃し、意識を刈り取り崩れ落ちる。

 乱戦の場合、魔法での攻撃は味方を攻撃してしまう可能性が高く、狭い建物内での戦闘の場合は注意が必要で暗殺者は集団で自力のみでの戦いが不得手なのがリアーナの優位に働いた。


 暗殺者達も馬鹿では無く、リアーナ達から距離を取る。

 入り口付近にリアーナ達が陣取り、部屋の奥に暗殺者達が陣取って睨み合う構図となる。

 だがその数は既に六人しかいない。

 残りは全て物言わぬ死体となって地面に転がっている。


「リアーナ・ベルンノット……」


 暗殺者の中央にいる男が歯軋りが聞こえそうなぐらい苦々しく吐き捨てた。


「どうも。私の事を知っている様で何よりだ」


 リアーナは剣を振って剣に付いた血を飛ばす。


「……何故、ここが……」


「さぁ?何故だろうな?」


 相手を嘲笑する様に肩を竦めながら知らないふりをする。

 別に話すそんな事を話す必要は無いからだ。


「聞いても無駄かもしれんが依頼主は誰だ?」


 聞いて答える様なら暗殺者とは三流だろう。

 先程の男が口を開く。


「……依頼主ならドンネル伯爵だ」


 素直に答えた暗殺者にリアーナは意外そうな顔をする。


「暗殺者にしては偉く殊勝な事だ。それにしてもドンネル伯爵か……あの豚はいつになっても懲りないらしいな」


 リアーナはドンネル伯爵の顔を思い浮かべる。

 ドンネル伯爵はカーネラル王国の南東部の辺境に領地を持つリアーナ排斥派の一人だ。

 豚と言うのは肥え太った姿をしており、圧制を敷いている訳では無いが、かなり豪遊をしており評判が良くない貴族の一人として有名だ。

 騎士隊長時代に小言や嫌味を言われる事は数知れず。

 リアーナは全く相手にしなかったが。


「話してしまって良いのか?」


「どうせ奴も依頼完了後に殺す予定だったからな……」


「ふむ。それなら言っても良いか」


 リアーナはドンネル伯爵を暗殺してくれるならちょうど良い害虫掃除になるのでそれなら話しても変わらないと納得した。


「それ以上に貴様達の目的は何だ?」


 リアーナ鋭い視線で暗殺者に問う。


「それを答える必要は無い。時間稼ぎしたかったのはこっちだったのでな」


 暗殺者は懐から黒い玉を取り出した。

 その黒い玉から禍々しいオーラを放っていた。


「贄を喰らい顕現せよ。真紅の死を象徴する蠍(アンタレス)



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