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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第三章:闇に沈みし影の刃
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153:女子三人のスイーツ巡り

 アリアとミレルとベリスティアはピル=ピラの大通りをドーナツを食べながら散策していた。

 リアーナ達は襲撃関係の後処理をすると言う事で別行動だ。

 スイーツ散策初日は偵察ついでにスイーツ漁りをしていたベリスティアのオススメのお店を巡った。

 ベリスティアもスイーツには目が無い。

 ネッタにいた頃は暇な時は街のスイーツ店巡りが趣味の様にやっていたぐらいだ。

 そう言う意味ではこの三人は非常に気が合う。

 色んなお店を回りながら只管スイーツ三昧である。

 今、食べているドーナツも道中の屋台で買ったのだが、それぞれ違う味にして食べ比べをしている。


「シンプルに砂糖を塗してあるのも悪くないよね」


 アリアが食べているのはオーソドックスな砂糖を塗しただけのドーナツだ。


「このナッツを混ぜたアイシングも悪くないかしら。ちょっと香ばしいのが癖になりそう」


 ミレルのはローストしたナッツを砕いてアイシングに混ぜた物を塗した物だ。


「こっちの生地にメープルシロップを練り込んだのも美味しいですよ」


 ベリスティアのドーナツは生地にメープルシロップを混ぜ込んで香りよくしたので、仄かに香るメープルの匂いが食欲をそそり、上には塗した砂糖が焦がされてカラメルになっている。


「アリアちゃん、少し良いですか?」


「んっ……ありがとう」


 ベリスティアはハンカチを取り出しアリアの口の周りを拭く。

 砂糖で口の周りが白くなっていたのだ。

 マイリーンがいないので代役を任されているのだ。

 そのマイリーンは仲良くギルドマスターのガルドと一緒にデートだ。


「次はどのお店にしようか?」


 アリアは指に付いた砂糖を舐めてからハンカチで拭く。


「氷菓子を扱っているお店があるらしいから行ってみる?」


「氷菓子?」


「アリアは知らないかー」


 ミレルはアリアを呼び捨てで呼ぶ様になっていた。

 これはアリアが様付けで呼ぶのをやめて欲しい、とお願いしたからだ。

 今は特別な身分がある訳でもなく、気楽に接して欲しいと言う意味も込めている。

 基本的に年長者に様付けで呼ばれるのが苦手と言うのが一番大きい。


「冷たいスイーツで今日みたいな暖かい日には最高かな。ひんやりしてさっぱりする感じかな」


 ミレルの言葉からどんなスイーツか想像するアリア。

 イメージしたのはジュースを凍らせた物を舐めて食べるスイーツだった。


「折角だから食べてみたら良いと思うわ」


 必死に想像を膨らますアリアにミレルはその店にする事に決めた。


「冷たいスイーツって食べた事が無いから楽しみ!」


「私も冷たいスイーツは経験がありませんね」


 ベリスティアも冷たいスイーツは想像が付かなかった。

 そもそもカーネラル王国でスイーツは主に小麦粉を使った焼き菓子とフルーツが周流である。

 何故ならカーネラル王国は大陸でも有数の小麦の生産国だからだ。

 カーネラル産の小麦は周辺諸国へ非常に多く輸出されており、輸出先には砂漠の大国であるメッセラント王国や獣人の国であるバンガ共和国等が名を連ねる。

 その為、カーネラル王国は食料供給と言う非常に大きな手札を持っている為、熱帯域を持つ南側の国には欠かせない存在となっているのだ。


 カーネラル王国の北に位置するランデール王国も豊かで肥沃な土地を狙って戦争を仕掛けているのである。

 ランデール王国は南北を大きな山に囲まれた内陸の国で、非常に冷たく乾燥した気候なので作物を育てるには厳しい環境なのだ。

 作物を育てても収穫が温暖な地域より遥かに少ない。

 西に隣接バークリュールは海から風と南方から暖かい風が吹いてくる事もあり、ランデール王国よりは温暖であり、友好国であるカーネラル王国からも食料品の輸入をしている為、食料を心配する事は無かった。

 ランデール王国との戦争の背景には食料事情が大きく関係しているのだ。


 因みにアリアのいた孤児院があるソージャック領は非常に土地が貧しい地域ではあるが、鉱石取引を盾に周辺の領から食料品を融通して貰っている。

 特産品を上手く生かしているが、カーネラル王国内では最も貧しい地域でもあある。

 鉱山で働く奴隷の影響やそもそもの街の成り立ち等、色々と要因あったりする。


 アリアとベリスティアは店を知っているミレルを先頭に大通りを進む。

 道中、細い路地へ入り、もう一つの大通りを進むと氷と大きく書かれたのぼりが掲げてある店があった。


「ここ、ここ。ほら、お客さんの手に持っている物を見てみて」


 ミレルは氷菓子を買った客を指す。


「あれは……削った氷に何かをかけているのですか?」


 ベリスティアは気の器に盛られた物が氷だと言う事に気が付いた。

 アリアもそれを聞いてあぁ、と言った感じで理解した。


「ほら、こっちにおいで。色んな味があるから」


 二人はミレルに手招きされて店頭の壁に貼られている木で作られたメニューを見る。


「削った氷に果実のシロップをかけるのよ」


「オランジェにパミにメーロンにナスィ……あ、シィカルもある!」


 オランジェは橙色をした甘みの酸味のバランスが取れた果実でメーロンは一応、野菜に分類されるが甘く瑞々しい実は人気が高い。

 ナスィは林檎に近い味のする果実だがさっぱりとした甘みで非常に食べやすい。

 シィカルは人の頭程の大きさのある果実で分厚い黒い皮があり、中は綺麗な青い身が特徴で、味は柑橘系と違った独特の鼻をくすぐる爽やかな香りに程好い酸味と甘みがある。

 好みに分かれるが、アリアはシィカルが果実の中で一番好きだったりする。

 屋敷にいる時に稀にデザートで出てきて、初めて食べた時はこんなに美味しい果物があるのか、と驚いたぐらいだ。


 ただシィカルはファルネット貿易連合国内でも西側で栽培される果物の為、カーネラル王国では滅多に食べる事は出来ない。

 それなりに日持ちする果実ではあるが、カーネラル王国まで運ぼうとするとそれなりに日数が掛かってしまう。

 そうすると常温での輸送では腐らせてしまう為、冷蔵機能の付いた荷台が付いた馬車が必要となってしまうので、必然とコストが高くなってしまう。

 ファルネットでは高級品では無いが、カーネラル王国では高級果実として扱われているのだ。


「本当ですね。シィカルを使っているにも関わらず値段は他と一緒とは……。やはり生産国だと当たり前に食べられていると言う事なんでしょうね」


 ベリスティアが言う通り、ファルネット貿易連合国では珍しい果実では無い。

 ファルネットの西側の特産ではピル=ピラの周辺でも栽培されており、それなりに安価なのだ。

 この街では庶民でも普通に食べられている。


「じゃ、シィカルのシロップにする?」


「うん!」


「アリアちゃんがシィカルならナスィにします。折角なので色んな味を食べ比べてみるのも良さそうです」


 ミレルは無難に定番のオランジェにし、三人分の氷菓子を頼んだ。

 店員から氷菓子を受け取るとアリアは目を輝かせる。


「わ、器が冷たい!ね、早く食べよ!」


「早く食べないと溶けてしまうからそこのベンチに座って食べましょうか」


 ミレルは店の前にあるベンチを見て言った。


「そうですね」


 三人はベンチに座って早速、氷菓子を食べ始める。


「冷たくて氷がシィカルの味がして美味しい!」


 氷菓子はアリアの予想とは全然違う物で氷を薄く細かく削った物にシロップをかけた物だった。

 口に入れればひんやりしながら氷が溶けていき、シロップの甘さとフルーツの香りも相まって味を引き立てている。


「む、これは良いですね。暑い時期には最高のデザートです」


 ベリスティアも氷菓子に舌鼓を打つ。

 カーネラルでは氷菓子は滅多に見掛けない。

 何故なら冷蔵機能の付いた魔道具はそれなり普及しているが、冷凍機能の付いた魔道具が普及していないからだ。

 冷凍の魔道具は冷蔵の魔道具と比べると魔力出力が大きい為、使用する魔石も高価なので値段が高い。

 冷凍の魔道具はある程度大きい商売をしてないと持っていない。


 ファルネットで氷菓子が普及しているのはカーネラルより気候が温暖だからだ。

 基本的に南からの暖かい風により年中温暖な地域ではあるが、それと同時に食料の保存の難しさが昔からネックになっていた。

 冷凍機能付き魔道具が出てから冷凍するれば食材の長期保管が容易いと言うのが人々にあっと言う間に広まったのだ。

 これは魔道具を取り扱っている商会のやり方が良かったと言うのもあった。

 その為、ファルネットでは高くても冷凍機能付きの魔道具を買う物が増えた。

 暑い時期には氷を使って涼む文化が育まれ、氷菓子が生まれる下地となった。


 カーネラルでファルネットみたいに冷凍機能付きの魔道具が普及しなかた要員は食料が豊富にある事だろう。

 市場には常に新鮮な食材が並んでいるのだ。

 人々は無理に冷凍して長期保存をする必要性が無い。

 そう言う意味では食糧事情が大きく関係しているのだ。


「あ、アリア!そんなに急いで食べたらダメです!」


 夢中でパクパク食べているアリアを目にしたミレルが慌てて止める。

 だが既に遅くアリアは突然、額を押さえ始めた。


「な、何かキーンってする……」


「ゆっくり食べないとから。暫くすれば治まるから」


 ベリスティアはアリアの様子を見て少し食べるペースを落とす。

 どんな感じなのかは気になるが、表情を見る限りそれなりに痛そうなのでミレルの忠告に従う事にした。


「うぅ……美味しいのにこんな罠があるなんて……」


 アリアは涙目になりながらも氷菓子を口に運ぶ。

 じっとしていれば治まると言っても氷菓子が溶けてしまうのが嫌なので痛みに耐えながら食べているのだ。


「ふふっ……」


 そんな必死に食べようとするアリアが可笑しくてミレルはつい笑いが零れた。

 三人は姦しくスイーツを食べ歩きながら一日を過ごした。



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