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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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17:サリーンとアリア

 宿舎に戻ってきたアリア達は部屋でのんびりお茶をしていた。

 本日、都合何杯目か分からないお茶だが、気にはならない様子。

 この光景をミランダが見ればお茶を飲む暇があるなら依頼を受けてくれ、と言いそうである。


「一応、ヒルダさんにここでの対象の話をしておくね」


 お茶会から目的の話に切り替えた。


「ピル=ピラでの対象はサリーン・ボネット。多分、ヒルダさんなら知っている人物」


 ヒルデガルドは少し考えると一人の顔が頭に浮かんだ。


「確かアリアちゃんの身の回りを担当していた神官の方でしたか?あんまり印象は強くはありませんが、遊びに行った時に何回か見掛けた覚えがあります」


「元々は私と一緒の孤児院出身で治癒魔法の適正があったから私が聖女になると一緒に神官見習いとして入ったの。当時は私の側仕えの神官だった」


 サリーンはアリアと同じ境遇だ。

 孤児院にいる頃は一緒に遊んだり、悪戯をして怒られたり、日銭を稼ぐ為に内職をしたりと仲が良い二人だった。


「それは知らなかったです。私は彼女と話す機会は無かったし、私自身が神官達からは腫れ物の様に扱われてもいたから……」


 ヒルデガルドは神教内では教皇の娘と言う事もあり、身分が低い神官からは扱いにくい存在として避けられていたのだ。


「サリーンの事はずっと親友だと思ってたよ。でもね、あの時に私を裏切ったの」


 アリアの眼に仄暗い光が宿る。


「あの日、アナスタシア様に呼ばれてアナスタシア様のお部屋にサリーンと一緒に向ったの。ノックしても反応が無くて部屋に入ると剣で心臓に突き刺されて亡くなっておられるアナスタシア様を発見したの。私はそれを見て一歩も動けなかったよ。サリーンは悲鳴を上げたと同時に枢機卿のボーデン達が部屋に雪崩れ込んできた」


 アリアの表情に怒りが徐々に帯びてくる。


「そしてサリーンは言ったの!私がアナスタシア様を刺したって!」


 アリアは声を荒げた。


「呆然としていた私は騎士達に取り押さえられて牢獄に放り込まれた。私が騎士達に押さえ付けられている時、彼女の顔は忘れない。あの顔を見て私は彼女に売られたのだと。今に思えばおかしい点はあった。アナスタシア様は自室に呼ぶ事は無いし、サリーンの悲鳴を上げてすぐにヘンリー隊長を含めた第四騎士隊が来るのはあり得ない。そこで嵌められたと確信したの」


 アリアの言葉にヒルデガルドは怒りに震えた。


「ここで彼女を始末すると言う事ですか?」


 アリアは首を縦に振る。


「うん。ここでサリーンには死んでもらうよ。まぁ、まだ彼女の行動を把握出来ていないから、もう少し周辺調査してから襲撃する予定」


「周辺調査している時にヒルダ様を見つけた訳ですが……」


 ハンナはヒルデガルドを横目に見ながら呟く。


「現状は周辺調査も大した成果は出ていない。そう言えばヒルダ殿は例の孤児院に寄っておられたが、どの様な理由で?」


「孤児院に寄ったのはハデル神父に会う為です。彼は現教皇派なのですが、神官である身分から神父になった人物なのです。ただ孤児院を管理する神父が定期的に神殿に来られていたのが気になって寄ったのです」


「それで何か分かったのですが?」


「いいえ。孤児院の中には入ったのですが、特別変な所はありませんでした。でもサリーンは見掛けませんでしたね」


 訝しげに首を傾げる。


「中ではハデル神父とシスターしか見掛けませんでした」


「対象は孤児院から一歩も出ないのだ。中で会わないのは不自然だな。偶然、部屋にでも篭っていたか?」


「寧ろ部屋で待機させていたのかもしれません。私自身はよく知られていますので」


 良くも悪くもヒルデガルドは前教皇の娘として名が知れ渡っている。


「暫く様子を見るしかないな。当面は私とハンナで対象の監視、アリアとヒルダ殿はランク昇級の依頼をこなしてもらう形だな。出来れば二日に一回は街に戻ってきてくれ」


「分かりました。暫くはアリアちゃんと二人っきりですね」


 笑顔で言うヒルデガルドにアリアは苦笑いを浮かべるしかなかった。





 翌日、アリアとヒルデガルドは指定された朝の九時にでギルドの受付に来ていた。


「お二人ともお待ちしておりました。今日から一週間、監督官として一緒に行って頂く方をご紹介致しますのでこちらへお願いします」


 受付のミランダに案内された酒場の一席にその冒険者はいた。

 年齢は三十代ぐらいだろうか。

 黒の短髪に切れ長の鋭い眼光、首元にマフラー、装いは限りなく軽装に近く要所をレザープレートで守っているだけだ。

 腰には大振りのナイフが二本と曲刀が一本携え、前衛と言うよりは斥候タイプだ。

 特徴的なのは全身黒一色な事だろう。


「こちらがこの街のAランクの冒険者のニールさんです」


 ミランダの紹介に椅子から立ち上がりアリアとヒルデガルドを交互に見据える。


「ヒルデガルドです」


「アリアです」


 二人は軽く一礼した。


「俺はニールだ。今日は監督役としてだが基本的にはこの街を拠点に活動しているから困った事があれば気軽に声を掛けてくれ」


「昨日も説明しましたが、ニールさんにはこちらのヒルデガルドさんの昇級を兼ねた依頼の監督をして頂きます。アリアさんは付き添いなので非常時のみ動いて頂く形をなります」


 ミランダはヒルデガルドの方を促しながらニールに説明する。


「ほう……お前がゴザをフルボッコにした噂の新人か。今回の仕事は当たりだな」


 ニールは説明を聞いて感嘆の声を漏らす。

 彼にとって監督役の仕事は手軽で割りの良い仕事ではあるが、つまらない新人の監督だと見ていても面白くない。

 強い新人であれば戦い方の一つとっても興味深いのだ。

 当たり外れの多い仕事だが彼にとってはある意味、楽しい仕事なのだ。


「一応、同行するお嬢さんのランクを聞いておこうか?」


「Sランクだよ」


 ニールの質問に対して懐からカードを取り出して見せる。


「マジか!?もしかして噂のマーダーウルフを持ってきた三人組の一人か?」


 ギルドカードを見て驚きの声を上げる。

 Sランクの冒険者はそうそう出会う機会は少ない。

 Sランクの災害指定の魔物を討伐する冒険者は限られるしギルドですぐ噂になる。

 当然、ニールもそれを知っていた。


「あー、あのでっかい狼は私とリアーナさんとハンナで倒したよ」


「それなら安心だな」


 ニールは一気に楽になったと思った。

 同行する冒険者がいる場合、大概はニールよりランクが低い場合が多く、護衛も兼ねなければいけない事もあるのだ。

 自分より実力のある人間が同行するとなれば余計な心配もせず、自分の身の安全も格段に上がる。


「手荷物が全く無いが、準備とかは大丈夫か?」


 ニールは二人が野営の荷物等を持っていないので確認する。


「はい、大丈夫です。私は空間収納が付与されたポーチがありますし、アリアちゃんの方は空間収納の魔法が使えますから」


「それなら問題無いな。それにしても虚無魔法が使えるとはSランクは違うな」


 しみじみと言うニール。

 虚無魔法使いはかなり希少であり、更に空間収納が使用出来る人間は非常に少ない。


「ニールさん、それではお二人をお願いします」


「あぁ、それじゃぁ、行くか」


「「はい」」


 こうしてアリア達はニールと一緒に昇級の為の依頼をこなしに街の西北の海岸沿いを目指した。



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