144:ミレルと再会
日が既に赤く染まりもう一時間もすれば日が落ちてしまう頃、アリア達はピル=ピラの門を潜る。
プレゼを出発してから襲撃は無く、道中に現れた魔物を狩りながら戻ってきた。
移動中に静粛の黒烏の襲撃があると警戒していた。
実際に静粛の黒烏狙われた者は夜に襲われる事が多いので野営時は特に警戒した。
対応に遅れの無い様にリアーナ、ハンナ、ベリスティアが寝ずの番をし、日中に交代で馬車の中で睡眠を取る形にしていたのだ。
三人は普通にしているが、顔には出さないだけで実はそれなりに疲労が蓄積している。
ハンナが馬車をギルドの前に着ける。
「私とヒルダ様は馬車を置いてきますので宿泊の手続きをお願いします」
アリアを含めて他の面々は馬車を降りる。
馬車は冒険者ギルドの裏手へと走っていく。
「今日はゆっくり休もう」
リアーナはそう言って冒険者ギルドへと足を踏み入れる。
アリア達は真っ直ぐ、受付へと向かうと、その姿に気が付いた受付嬢のミランダが声を掛けてくる。
「やはり戻ってきたのですね」
ミランダは冒険者ギルドの職員なので当然、ミルベールの状況を把握している。
彼女がこの事を知ったのはアリア達が出発した翌日の事だ。
「あぁ、領軍が駐留していて通れないそうだ。すまんが、前と一緒の部屋が空いていればお願いしたい。それと一人追加で頼む」
ベリスティアがリアーナの横に立ち、ミランダに挨拶をする。
「リアーナ様とパーティーを一緒にする事になったベリスティアです」
「お久しぶりです、ベリスティアさん。若手の有望株まで一緒とは凄いパーティーになりましたね」
元はAランク冒険者の双剣のリントとして名を馳せたベリスティアなのでランクに対して実力が高いのは当然だった。
「ミランダさんも元気そうですね」
「はい。それでは前と一緒の部屋は空いてますので鍵はこちらになります」
ミランダはさっと鍵を出す。
リアーナ達が戻ってくると言う事が予測出来ていたので部屋を押さえておいたのだ。
これはギルドマスターであるガルドがマイリーンの事を気にしての事だ。
ミランダは一行の身元が分かっているので前回の情報を元にサクッと処理を行う。
「ありがとう。少しはこっちにいるが、暫くしたらまた発つ事になると思う」
「そうですか……出来れば少し依頼を受けて頂けると助かるのですが……」
Sランク冒険者のアリア達には難易度が高い案件を出来れば処理して欲しいと言う切実な状況だった。
特にSランクでもリアーナの強さは群を抜いている事が判明しているから尚更だ。
「直ぐにでは無いから内容によっては受けても良い。どんな依頼がある?」
「少々、お待ち下さい」
ミランダは急いで依頼資料を取りに行く。
リアーナはアリアの方へ向き直る。
「私は依頼の話を聞くからアリアとベリスとマイリーン殿は先に酒場の方で休んでいてくれ」
「分かったよ」
アリアは踵を返し、酒場へ走っていく。
「アリア様、お待ちください!走ったら危ないですよ!」
「大丈夫だよ!」
マイリーンは慌てて注意をするが、アリアは聞かずに専用席へと向かう。
「前を向いて下さい!、あっ!?」
「何?うわっ!?」
アリアはマイリーンに気を取られて冒険者と思しき女性とぶつかりそうになり、寸での所で回避するが、その所為で転びそうになる。
その女性は転びそうになったアリアを受け止めた。
「大丈夫?前を見て走らないとダメよ」
アリアに優しく声を掛ける女性冒険者。
「ごめんなさい!……!?」
アリアは顔を上げて体を受け止めてくれた女性の顔を見て驚きの余り声を上げそうになる。
そして相手の女性もアリアを見てその場で固まってしまう。
「アリア様!すみません!大丈夫でしょう……か……え……」
マイリーンが急いで女性冒険者に謝る為、駆け寄ると、その女性の顔を見て一瞬、言葉が詰った。
「ミレル様?」
アリアがぶつかった女性はミレルだった。
街で聞き込みをして酒場でブレンとグラーヴァと合流する予定だった。
「……アリア様に……マイリーン様?」
ミレルは記憶にある二人との違いに理解が追い付いていない。
彼女が戸惑うのも無理は無い。
アリアは右目を眼帯で隠し、マイリーンは髪が赤くなり、下半身が明らかに人間とは違う様相になっているのだから。
「ミレルさんが何でここに?」
騎士である筈のミレルがここにいる事にアリアは動揺していた。
自分の追っ手としてミレルが来たのではないか、と思ったからだ。
だがミレルからは敵意や殺気は感じ取れなかった。
「えっとですね……」
ミレルは困った顔をしながらどう説明しようか言葉に詰る。
まさかこの様な形で出会うと思っておらず、頭の中が混乱していた。
困惑している三人を尻目にベリスティアは冷静だった。
彼女自身、ミレルと直接の面識は無い。
だが情報としてリアーナの信頼の置ける部下だと言う事は知っていた。
ミレルに敵意や殺意があればアリアがはっきりとした行動を取っているので、害を成す心配は無いと判断していた。
誰かしらの命令で追ってきた可能性が高いと思っていた。
ベリスティア自身が離反した事で監視が無くなり、リアーナやアリアと親しいミレルを向かわせたのでは無いかと予想した。
「一度、飲み物でも飲んで落ち着きませんか?」
ベリスティアは戸惑っている三人に提案する。
「何かあったのか?」
そうこうしている内にリアーナがやってきた。
依頼の説明は思っているより短かったので早く用件が済んだのだ。
「ミレルか?久しぶりだな。」
困惑している三人を余所にリアーナは平然としていた。
「あ、お久しぶりです、リアーナ隊長!」
ミレルはアリアを肩に抱きながらリアーナの声に答える。
「ま、何だ、立ち話もあれだから向こうに行こうか」
リアーナはギルドの真ん中で目立っているに気付いていたので、取り敢えずいつもの席へと促す。




