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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第三章:闇に沈みし影の刃
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140:女子が揃えば姦しい

 ヒルデガルドの一言にアリアを除く面々の表情が一気に変わった。

 その言葉と同時に普段、顔を出さないバジールとハルファスが姿を現した。


「それ良い案。前々から行きたいと思っていたんだよねぇ」


「私も行きたいわ。このホテルに泊まりたい!」


 バジールは乗り気満点でハルファスは懐から雑誌を取り出して広げる。

 ハルファスの指した記事にはエステから食事まで一通り揃った高級ホテルだ。

 突然、ハイテンションで現れた悪魔達にアリアはコテンと首を傾げた。

 だが他の面子はそうでは無かった。


「コルドバーナか……照り付ける太陽、その下でアリアと一緒に遊ぶのも……」


 リアーナは親子水入らずで遊べる事を想像し、思わず表情が緩む。


「コルドバーナは流行の最先端のショップも充実しているのも見逃せません」


 ハンナはハルファスが広げたショップ情報を食い入る様に見ている。


「このブランドの新作、お洒落ねぇ」


「でしょ!このショップも良いと思わない?」


 バジールとハルファスも一緒にショップのオススメを見ながらテンションが上がっていた。


「エステ……」


 マイリーンは雑誌のエステの記事を見ながら自分の体を見て肩を落とす。

 三十を超えた身としては肌の手入れは他の面子以上に気にしているのだ。

 だが合成獣(キメラ)の体ではお店に受け入れて貰えないのでは思ったのだ。

 そんな落ち込むマイリーンに救いの手が伸びた。


「大丈夫だ。私も一緒にお願いしよう」


 二人は視線で語り合う。

 リアーナも三十に王手が掛かっているので肌の事にはかなり敏感なのだ。


「リアーナ様!?」


 目を潤ませるマイリーンを余所にアリアは一人ポツンと取り残されていた。

 こう言う流行には全く分からないので話に付いていけなかった。

 仲間と思いベリスを見るといつの間にか雑誌に食い付いていた。

 彼女も年頃の女性なのでこう言う流行には敏感であった。

 女性がこう言う話になると盛り上がるのは何処も一緒だった。

 約一名、女性ではないが、置いておく。


 アリアは少し寂しげに一人茶菓子のクッキーをポリポリと食べる。

 あのリアーナでさえも心躍らせている。

 一人蚊帳の外にいる様な気分になっていた。

 寂しくお茶を飲む。


 アリアは今まで女性のこう言う姦しい会話に参加した事が無かった。

 孤児院では流行を気にするなんて贅沢をする余裕が無かった。

 リアーナ邸では周囲の温かい環境に囲まれて幸せを満喫しており、流行なんて気にも留めなかった。

 神殿に行ってからはほぼ毎日、同じルーチンで生活し、アリアの周りには敬虔な信者ばかりでそう言う話をする人間がいなかった。

 改めて自由を手にしたアリアだったが、気が付けば普通の女の子と言うのはこう言う物なのか、と何処か自分から遠くの物を見る様な目で見ていた。


「アリア」


 そんなアリアに声を掛けたリアーナだった。


「あんまりリゾートは好きではないのか?」


 アリアは首を横に振る。


「そうじゃないよ。ただ……よく分からなくて……」


 アリアの悲しげな表情にリアーナは屋敷に来たばかりの時を思い出した。

 表情がその時と重なった。


「そうか……。それなら落ち着いたら目一杯遊ぼう。水遊びは楽しいぞ。海は川とはまた違うからな。それに海は川とは違った遊びがあるから良いぞ」


 リアーナは過去に一度だけ家族旅行でコルドバーナへ行った事があった。

 弟達と海ではしゃぎすぎて日焼けをしてしまい、アレクシアが真っ青になると言う事があったのも、今のリアーナにとっては良い思い出だ。

 アリアが楽しさを知らないのであれば教えてやりたい。

 そう言う純粋な気持ちだった。


 その思いに反してアリアは複雑な気分だった。

 やらなければいけない事があるのに出来ないもどかしさ。

 リアーナからは焦らなくても良いと言われても気持ちはどうしても先走ってしまう。

 目を瞑れば暗い地下での事や尋問の光景が甦ってくる。

 脳裏に響くは自らが生み出す怨嗟の声。

 その声に導かれる様に逸る復讐心。


 アリアを複雑にさせるのはリアーナの存在だ。

 今のアリアにとってリアーナ以上に大切な存在はいない。

 復讐に反対と言いつつも色々を手を焼いてくれて協力してくれている。

 今の話も自分を労わってくれていると言うのが分かっているのだ。

 少しでも気が紛れれば、少しでも復讐から心を離れてくれれば、と思う気持ちも理解しているだけに葛藤する。


 そんな悩んでいるアリアの様子にリアーナは気付いていた。

 リアーナはそっと抱え上げてアリアを膝の上に乗せた。


「ちょ、ちょっと!?リアーナさん!?」


 突然のリアーナの行動に戸惑いを見せるアリア。


「大丈夫だ。心配しなくて良い。アリアの気持ちを無にする事なんてない」


 何処までも優しい声だった。

 でもそれ以上に恥ずかしかった。

 アリアが声を上げた事により全員の注目を集めてしまっていた。


「可愛いわねぇ。流石、私の主ねぇ」


「可愛いのはアリアだけじゃないわよ。私のヒーだって昔はすっごく可愛かったんだから。四歳ぐらいの時なんて将来は綺麗なお嫁さんになるって、神殿の中で大声で言いながら走り回っていたんだから」


 バジールの言葉にハルファスは負けじとヒルデガルドの小さな頃の話を始め、慌てて止めに入るヒルデガルド。

 恥ずかしさの余り顔が真っ赤だ。


「ちょ、ハル姉!そんな事を言いふらさないで下さい!!」


「それで、むごっ!!」


 ヒルデガルドは強引にハルファスの口を押さえて喋れない様にする。

 もごもごと必死に抵抗するが、自分の恥ずかしい過去の拡散を防ぐ為に必死だ。


「ヒルダさんの可愛い話を聞けると期待したのですが……」


 ベリスティアは少し名残惜しそうに言うとリアーナは悪い笑みを浮かべた。


「アリア、ベリスが七歳ぐらいの話を聞きたくないか?」


「うん!」


 二人のやり取りに気が付き、ベリスティアは顔を青くした。

 彼女にとってその時期は余り人に語られたくない時期だった。


「リ、リアーナ様!?お、お願いですからあの当時の私の話は何卒ご容赦を」


 必死に止めようとするベリスティアにアリアはコテン、と首を傾げ、リアーナはどうしようか、と言わんばかりに笑みを浮かべている。


「ベリス、どうしたの?」


「実はだな……」


 リアーナは流石に全員に聞こえる様に言うのは可哀相なので、アリアの耳元でコソッと教える。


「あぁ……」


 ベリスティアはこの世の終わりの様な顔をしていた。

 それを聞いたアリアは徐にリアーナの膝から下りてベリスティアの傍へ行き、その手を強く握る。

 当の本人も何故、握られているか分からず不思議そうな顔をする。

 耳元で小さい声で言う。


「大丈夫だよ。私、十歳でやっちゃたから」


 アリアはベリスティアを慰めたのだ。

 その経験はあなただけじゃない、と。

 二人は固く握手を交わす。


 ベリスティアはリアーナが王都のエペルレーズ邸に泊まりに来た時におねしょをしてしまい、一人でシーツを洗って干している所を見付かってしまったのだ。

 彼女にとってこれは人生最大の汚点で、消去してしまいたい黒歴史なのだ。


 固く握手を交わしたアリアはと言うとリアーナ邸に移って間もない頃、慣れない環境でリアーナと一緒に寝ている時にやらかしてしまったのだ。

 これはベリスティアより恥ずかしい。

 後始末はリアーナがこそっと水を撒いて誤魔化すと言う何とも言えない形だった。


 アリアが懐から離れてしまい何処か心許ない感じのリアーナは適当に茶菓子に手を伸ばして食べ始める。

 こうわいわいとした光景が微笑ましくなり、つい笑みが毀れた。

 女子が集まれば姦しいと言うが正にその通りで、この騒ぎは夜遅くまで続いた。



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