136:森の中の襲撃者
アリアは徐に焼き尽くされた魔物へと近づいていく。
そして手にした大剣を一閃。
焼き尽くされた魔物の体は切り落とされ、地面に落ちると崩れていく。
アリアは周りは焼き尽くしていても中が生きているのでは無いかと思ったのだ。
どうもされは杞憂に過ぎなかった。
「……大丈夫そう?」
カヤが少し離れた所から聞く。
「多分」
アリアは大剣で何度も突く崩しながら答える。
何度か大剣を入れていると何か硬い物に当たる感覚があった。
「アリア、どうかしたか?」
「んー、ちょっと……」
アリアはその硬い部分がある所まで突き崩す。
そうすると何処か妖しげに光る石が姿を現す。
「あれは何でしょうか?」
もう大丈夫と思い、近づいてきたヒルデガルドが疑問を口にする。
「さぁ?」
アリアは分からないと言わんばかりに首を傾げながら大剣でそれを魔物から取り出し、地面に転がす。
その石から放たれる気配に危険を感じて手に取るのを避けた。
地面に転がったその石は一瞬で塵と化した。
「何だろう?」
「……」
アリアとカヤは視線を合わせながら首を捻る。
「魔物の核みたいな物か?想像でしかないが」
リアーナも自信がある訳では無く、思った事を口にしただけだった。
後方で退避していたレナードとジョージ、ダナンも近寄ってくる。
「倒したのか?」
真っ黒になった魔物を指しながら聞くダナン。
「多分。一応、中は生きていたら嫌だから崩して中を確認していたんだけどね」
アリアの言葉に一同はあの中から触手が這い出て蠢く様子を頭に浮かべた様で少し気分の悪そうな表情になる。
「レナード殿にジョージ殿、これで討伐になるだろうか?」
リアーナがギルド職員である二人に問題が無いか確認をする。
「あの再生の仕方ならこう言う倒し方しか無いだろう。」
「そうですね。これなら討伐完了でギルドに報告します」
二人ともあの魔物の再生能力を考えると致し方無しと判断した。
「それにしてもコイツは一体なんなんだ」
「また現れたら堪りませんね」
二人は焼く尽くされた魔物を見ながら言った。
「私はあの事件の合成獣が関係していそうな気がするけど」
「あぁ……ピル=ピラの事件のヤツか……」
レナードも合成獣事件の事は記憶に新しかった。
「確かそちらのマイリーンさんが……」
ジョージが少し言いよどみながらマイリーンを見た。
マイリーンは少し気まずそうに顔を伏せる。
「あ、すみません!そう言うつもりでは……」
ジョージはマイリーンの曇った表情に失言だった事に気が付き、慌てて取り直す。
「おい、もう少し考えて言わねぇとダメだろ?」
レナードはジョージの頭に拳骨を落とす。
「痛っ!レナードさん、いくらなんでも叩く事は無いのでは?」
「失礼なヤツには拳骨で充分だ」
そんなやり取りをしているとカヤが徐に口を開く。
「……この残骸、どうするの?」
「これだとどうにもならんからある程度崩してここに置いていくしか無いだろう。調査しようにも真っ黒焦げでどうしようもないしな」
「すまない」
リアーナはレナードに頭を下げた。
「いや、あんたは悪くねぇよ。そもそもあんたらの予想が当たって普通に討伐出来ないヤツだっただけだ。でもこれが合成獣となると、ちょいとなかり面倒だな」
そう言ってレナードは皮袋に残骸の一部を拾って入れる。
「ま、少しは念の為、持って帰るか。どうせ直ぐに捨てる事になるだろうが……」
後処理の話をするレナードを横目にアリアはある気配を感じていた。
『これって、私達を狙ってる?』
アリアは静かにカタストロフへ確認する。
『多分、そうだね。巧妙に気配を隠していたみたいだ。かなり距離を空けていたから気付かなかったんだと思うよ。中々、上手いね』
アリアは弱い敵意、殺意の様な気配が近づいてくるのを感じ取っていた。
『バジールとアスモフィリスには伝えておくよ』
『よろしく』
アリアは周りを確認する。
森の中で襲われるのは分が悪いと判断する。
『知らないふりしてここに誘き出して始末する方向で』
『了解』
アリアは魔物の残骸を崩しながら周囲の気配に集中する。
ハンナは静かにレナードとジョージ、ダナンの背後へ回る。
リアーナも後処理の話を進めながら警戒をする。
その三人の動きにヒルデガルドとマイリーンも気が付き、自然に周囲を警戒する。
そうするとカヤもアリア達の行動に違和感を感じ取る。
何かあったのだろうか、とアリア達の動きに注視しながら周囲へ警戒を向ける。
リアーナがレナード達と話を進めていると嗅覚の敏感なハンナが何かを嗅ぎ取った。
僅かながら何かが燃える様な焦げ臭い匂い。
一瞬、目の前の魔物の匂いかと思ったが、その匂いは徐々に強くなっている事を感じる。
そしてハンナが周囲を確認しようとした瞬間、アリア達を囲う様に火の手が上がる。
「今のは!?」
「突然、火が!?」
「何があったんだ!?」
レナードとジョージとダナンが驚きの声を上げるが、他の面々は冷静に三人を囲う様に動く。
「火に囲われたか……」
リアーナはチリチリと肌を焦がす様な熱気を感じながら周囲を冷静に分析する。
「アリア、何人いる?」
「分かる範囲で十三人ぐらいかな。気配を消すのが上手いからまだ潜んでいるんじゃない?」
アリアが正確に認識出来た数が十三人ではっきりしない気配があるのも感じ取っていた。
「面倒だから多少は良い?」
アリアはこの状況下で制限しながら戦うのが得策で無いと思ったからだ。
「状況が状況だから仕方が無いだろう。それでも程々にな」
リアーナは渋々、了承する。
「……気付いてた?」
「あぁ、ここなら迎撃が楽だろう?正直、気配を隠すのが上手い相手と森で相手するのは分が悪い」
ここはさっきの魔物のお陰でかなりの範囲で気が薙ぎ倒されて更地に近い。
「……私はどうすれば良い?」
「出来れば襲ってくる奴らを対処して欲しい。ヒルダ殿とマイリーン殿は彼らを守って欲しい」
今回はハンナを前線に出す選択肢を取った。
理由は対人戦だからだ。
ヒルデガルドもマイリーンも対人戦の経験が薄い。
相手が手練だった場合、遅れを取る可能性を考慮した結果だ。
そしてハンナは魔物より対人戦の方が圧倒的に強い。
「……分かった」
カヤは想定外の状況ではあったが冷静に自分の役割を受け入れる。
マイリーンとヒルデガルドも首を縦に振る。
「ど、どうなってるんだ?」
「謎の襲撃を受けている。相手も目的も不明。我々が守るから大人しくしていてくれると助かる」
周囲への警戒を怠らない様にしながら動揺するダナンへ返す。
ダナンはリアーナの圧倒的な強さに安心感を覚えていた為、大人しく頷いて従う。
レナードとジョージも戦闘モードに入っていた。
火の手が上がる中、一向は相手の出方を窺っていたが、襲い掛かってくる気配が無い。
「森に誘われているな。アリア、気配があるのだけ始末出来るか?」
普通なら難易度の高い要求だ。
だが気配が分かるアリアなら苦も無い。
「了解。手加減抜きに行くよ」
アリアは魔法の詠唱へ入る。
「狂え、狂え、杯は血に満たされ、其の血は愚者の血也。我が心の欠片から導き血の審判を此処に下さん」
周囲の地面に無数の魔法陣が浮かび上がる。
アリアの顔には嗜虐的な笑みを浮かんでいた。
「狂気の審判」
アリアが静かに魔法を発動させると魔法陣から不気味に赤く光る十字架が無数に出現する。
その光景にアリアの心象魔法を見た事が無い者達は目を見開く。
十字架から森に向かって勢いよく魔力の鎖が解き放たれる。
それは蛇の様に木々の合間を走り、対象を追い掛ける。
襲撃者達にとっては未知の魔法によって襲われたと言っても過言では無い。
アリアは分かっている気配に向かって解き放っており、逃げても鎖は追い掛けてくる。
これには気配を消していた者達へも動揺が広がる。
そして動揺した襲撃者の気配にアリアは口角を吊り上げる。
気配が分かっている者達は気配の分からない者をおびき寄せる為の餌だった。
そして餌となった襲撃者達がどうなったかと言うと、一斉に魔力の鎖から逃げる様に動いたが、結果として魔力の鎖に掴まり十字架に磔にされていた。




