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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第三章:闇に沈みし影の刃
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134:森と腐海

 現在、冒険者ギルドで森の魔物を討伐するメンバーが一同に会していた。

 アリア達に加えて昨日、出会ったカヤそれに加えて冒険者ギルドの職員が二名だ。

 冒険者ギルドから職員が二名随行する事になった。


「ギルドから同行させて頂くのが職員のレナードさんとジョージさんです。どちらも元冒険者です」


 受付嬢が順番に紹介していく。


「ギルドで解体をメインに担当しているレナードだ。これでも元冒険者で一応、Bランクだ」


 がっちりとした筋肉に覆われた髪を短く刈り上げた気風の良い感じの男だ。


「僕は治療担当のジョージです。正しくは治療と現場確認、新人育成担当でCランクです」


 ジョージがレナードと違い少し線の細い青年だ。

 前衛と言うよりは後衛でサポートメインと言う感じだ。

 もう一人見慣れない男が一人いた。


「こちらがプレゼで狩人をしているダナンさんです」


「ダナンだ。森の案内を頼まれている。俺達だとあの魔物には手が出ない。済まないが宜しく頼む」


 ダナンは申し訳無さそうに頭を下げた。

 本来なら街の者で解決すべき問題と言う認識を持っており、外部から来た強者が依頼を受けてくれて感謝の念が強いのだ。


「ダナン殿、頭を上げてくれ。我々も何処まで出来るか分からないが全力を尽くそう」


「……ん」


 リアーナはダナンに全力で解決に力を入れると宣言し、カヤもそれに静かに頷く。


「それでは皆さん宜しくお願いします」


 一行はプレゼを出て森へと足を踏み入れた。

 森は非常に鬱蒼としており、まだ午前中にも関わらず暗い。


 先頭に案内役である狩人のダナン、それに続くのはアリア、リアーナ、カヤ、中央にはギルドの随行員のレナードとジョージ、その後ろにマイリーンとヒルデガルド、最後尾にハンナと言った形だ。

 ランクの関係からランクの低いレナードとジョージを守る形にならざるを得ない。

 戦闘は基本、マイリーンとハンナは後方で二人の護衛、後は昨日リアーナが言った通りの布陣だ。

 アリアだけは接近戦も遠距離からの援護も可能なので状況に応じて臨機応変に対応する形になる。


「ダナン殿、今から向かうのは?」


「基本的にあの魔物は悪食(グリードイーター)を何故か狙って食べる傾向がある。他の魔物も食べるみたいだがな」


 ダナンは邪魔な蔓を鉈で払い、歩みを進めながら話す。


「基本的には俺が知っている悪食(グリードイーター)の狩場を中心に回る感じだ。俺が見たのも狩場だからな。でもあんな気色悪い魔物は初めてだ」


 ダナンは森で何度か例の魔物と遭遇している。


「狩場にあの魔物がいたらどうするんだ?」


「逃げの一択だな。幸い俺の場合、既に被害が出て情報が結構、出てからだったからな。俺達は狩人だ。生きて獲物を獲ってくるのが仕事だ。あんたらもそうだと思うけど、死んでしまったら元も子もないだろ?」


「それは正しい。生きていればどうとでもなるからな。遭遇して気になった事とかはあるか?」


 リアーナはダナンからも聞く。

 何せ未知の魔物なので少しでも情報が多いに越した事は無い。


「そうだな……と言っても二、三回しか見た事が無いからな。基本的に動きはあんまり早くは無い。だがある一定の間合いに入ると飛び掛ってくる感じだ。動きはデカイ蛇だな。頭に幾つも顔が引っ付いているからどの方向でも噛み付いてくる。やっぱ腐海の魔物なのかねぇ……」


 この森に住む者は未知の魔物は腐海から来た魔物と言う認識が一般的だ。

 それも強い魔物であれば尚更だ。


 腐海は人が踏み入れる事が出来ない大陸でも有数の危険地帯だ。

 腐海に勝るレベルで危険な地域として挙げられるのはメッセラントの砂漠地帯の中央にある焔獄の海と呼ばれる溶岩の湖だ。

 そこは余りの高温で人が近寄る事すら出来ない場所で伝説では魔王の一角が封印されていると云われている。


 人が踏み入れる事が出来ない腐海に生息する魔物に関してはほとんど未知と言ってもいい。

 腐海に関しては過去に何組かの冒険者が挑んでいるが、腐海に近付く事は出来ても詳しい調査は出来ていない。

 その冒険者が決して弱いと言う事では無い。

 基本的にAランク以上の人員で構成されたパーティーで行ってもダメなのだ。

 そもそもミドラ高原の腐海に近い場所は高ランクの魔物の巣と言っても過言では無い。

 Sランクの魔物が普通に群れで生息している魔境なのだ。

 そんな事もあり、調査から帰ってきた冒険者は口々に人の立ち入れる場所では無い、と言う。


 環境の問題なのか幸い腐海の魔物は腐海周辺から離れる事がほとんど無い為、人々は平穏に暮らせている。

 特にミドラ高原にあるミルマットや高原の南に位置するフィエルローラ比較的、腐海に近いにも関わらず街の近辺で腐海の魔物が目撃された事が無い。


 腐海の魔物が腐海以外で唯一、現れるのが迷いの森と呼ばれているこの森である。

 腐海の魔物の情報はここの森の狩人の目撃情報が元なっている。

 腐海の魔物が現れると言っても非常に稀な例で一般的には森の中に入り迷った結果、偶然にも人里に近い場所まで来てしまっていると言う認識だ。

 狩人は必然と未知の魔物の時点で腐海の魔物と判断してしまう。


「腐海か……大陸でも人が踏み入れる事が出来ないと言われる魔境か……」


 腐海と言う言葉にリアーナはその可能性は否定は出来ないと思ってしまう。

 直感ではあるが合成獣(キメラ)可能性が高いと考えている。


「でもどうやって腐海の魔物って、見分けるの?」


 アリアは素朴に疑問に感じた。

 人が踏み入れる事が出来ない場所なのにどうやってそこの魔物と特定出来るのだろうかと。


「腐海の魔物とは言っているが実際はよく分からないと言うのが正しいな。ただこの付近で強い魔物が生息している場所が腐海周辺と言うのもあってそう考えているんだ。もしかしたら森の奥地にだけ住む魔物と言う可能性は否定は出来ない」


 狩人も確証がある訳では無い。


「おじさんは腐海に行った事はあるの?」


「俺は無いな。でも森の東側に流れる川の近くの集落に住む狩人ならあるんじゃないか?あそこは腐海から一番近い人里と言われているからな。人が住んでいけるから腐海の魔物がそんなに出る訳では無いんだろう」


「そうなんだ」


「ただ川の西側には行ってはならないとは言われているな。多分、腐海に近いから危険なんだろう」


 ダナンの話を興味深く聞く一行。

 腐海関連の話はプレゼのギルドの職員であるレナードとジョージも耳を真剣に傾けている。

 ギルドでも腐海の情報は多くない。


「そういや、狩人が自分の狩場を教えるなんて珍しいな」


 レナードがダナンに疑問に思っていた事を尋ねる。

 狩人は基本的に狩場に関する情報は極力、他人に明かさない。

 狩場は狩人にとって財産に等しい。


「俺達も狩場を教える事はしたくないさ。でも今回はあいつがいたら仕事所じゃない。こっちのおまんまが無くなる訳だからな。正直な所、そんな事を言っている場合じゃない。狩場を教えて解決してくれるならそっちの方が良い。狩場ならまだ探せば良いだけだ」


 狩人の全員がダナンと同じ考えを持っている訳では無い。

 狩場を教えるのを拒否している狩人も当然いる。

 ただダナンはこの状況が続くよりはその方が良いと判断しただけだ。


「あんなのが森にウロウロされたら仕事にならんからな。リスクも今までより高い。まー、あれだ。損して得を取れみたいな?」


 レナードはなるほど、と腑に落ちた感じだ。


「実際はギルドに狩場一箇所教えるに当たって情報料として報酬を貰う契約になっているからな」


 親指と人差し指で輪を作り、にんまりするダナン。


「そうですね。狩場は狩人にとって財産みたいな物なのでタダで教えろとは言えませんね」


 ジョージも狩人の事情を知っているので狩場に対して情報料を払うのは至極当然と言った感じで頷いている。


「それにしても森が静かですね」


 ジョージは森の様子が今までと違うと感じた。


「それは俺も思った。もっと生物の気配があるんだがな」


 レナードも同じ事を感じていた。

 二人ともプレゼを中心に冒険者をしていたので森の事は狩人程では無いにしろ、それなりに知っている。


「あの魔物は悪食(グリードイーター)だけじゃなく生物であれば何でも食う。ある意味悪食(グリードイーター)より悪食だな。あいつの所為で森の生物がかなり減っちまった」


 ダナンの話を聞きながら歩みを進めると突如、ダナンが足を止めた。


「ここが一つ目の狩場だが……どうやら奴が来た後みたいだな」


 周囲には骨が散乱していた。

 それを見たダナンは苦々しい顔付きになる。


「血は乾いているな。骨の状態から見るに二、三日は経っている様に見えるな」


 リアーナは散乱する骨を拾い、状態を確認して言った。


「そうだな。意外とそんなに遠くには行ってなさそうだな」


 ダナンも周囲の骨の状態を確認していく。


「骨は一応、拾っていく。質は少し悪いがしっかり洗えば素材として使えるからな」


 落ちている悪食(グリードイーター)の骨は貴重な収入源なのだ。

 質が良く無いので金額はかなり低くなるが、無収入よりマシだ。


「分かった。手分けして拾えば直ぐ終わるだろう」


 アリア達は手分けして周囲に散乱している骨を拾い集めてダナンへ渡す。


「別に全部、俺に渡す必要は無いぞ」


 だがアリア達は一斉に首を横に振る。


「……それ、臭くていらない」


 カヤは顔を顰めながら不要と告げる。


「ちょっとあの匂いは……」


「あれを持ち運ぶのは……」


 カヤの言葉に同調する様に言うヒルデガルドとマイリーン。

 食い散らかした後の骨なので腐敗臭が結構、しておりそれを自分の鞄に入れたくないのだ。

 面子のほとんどが女性陣なので嫌がるのは無理も無い話しだ。

 骨を拾い集める時もヒルデガルドがその場で即席のトングを鉄で練成していると、女性陣が一斉に自分にもそれを作って欲しいとねだるぐらいだ。

 直接触るのも抵抗があったのだ。

 使い終わったトングは回収して鉄の塊に戻してある。


「これだから女ってヤツは……」


 ダナンは少し呆れながら小銭稼ぎが出来たと割り切り諦める事にした。

 労力を掛けずに骨を手に入れられただけ良しとした。



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