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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第三章:闇に沈みし影の刃
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130:カルピモデナ内乱勃発

「何か初めて見る光景だね」


「そうだな」


 リアーナは馬車の中からプレゼの街を見ながら興味深そうに言うアリアを見ながら頷く。


 プレゼは森の中を貫く街道の中継地として発展した街だ。

 元々は森の中にあった集落だったが、ちょうど南北の交易の中間地点にあったと言う事もあり、徐々に人が集まってきた。

 それに加えて森の中を走る川から近いのもある。


 街の周囲は堀で囲われ、独特の組み方で作られた木製の壁で覆われている。

 これは悪食(グリードイーター)から街を守る為だ。


 素材は森に自生するベウネと言う木で作られており、ベウネの木から発する匂いは悪食(グリードイーター)嫌う為、森に住む人間にとっては昔から建材として使われてきた。

 堅さも非常に優れていて頑丈なので、この辺りの家は全てこの木で作られている。


 ピル=ピラやカーネラルの一般的な家は都市部では石造り、田舎では木組みに土壁と言った造りが多く、木製の家は少なかった。

 精々、小屋程度の物だ。

 その為、アリアにとって木だけで出来た家々が並ぶプレゼは珍しいのだ。


「プレゼの街はこの辺りでも特殊な環境の街なので初めて訪れる者にとっては新鮮でしょう、私も初めて訪れた時はつい、興奮しながら街並みを見ていましたよ」


 ハンスは二人に頷き、街の事に触れる。

 彼も仕事でプレゼには幾度も訪れており、ここの街の事もよく知っていた。

 ハンスにとって森は希少な魔物がいる非常に有益な場所だから。

 それに加えて森の中にある街で同じ国内でも何処か異国情緒感じる街並みでもある。


「丸太を組み合わせた家は初めて見たかも。でも何で家の下に隙間があるんだろう?」


 アリアは馬車の窓から家を指した。

 プレゼの街では丸太を組み合わせて家を作っている。

 全て家と地面の間が人より少し高さが空いていた。


「あれは鼠避けと浸水対策ですね。この森は雨季になるとかなりの量の雨が降って、街が水に浸かってしまうんです。各家の傍に小船があるでしょう?」


 そう言ってハンスは家の柱にロープで括り付けられた小船を指した。


「本当だ」


「水に浸かるとあの小船で街中を移動するんです。この街は川に近いので毎年増水する度に水に浸かるんですよ。雨季はこの街道は基本的に使えません」


 プレゼ周辺は雨季の一ヶ月間は街と街道が水に浸かってしまう為、通行が出来なくなる。

 どうしても用事がある者は現地のガイドを伴って船で移動になる。

 ただ雨季の森は魔物の生態系も変わる。

 特に水に浸かってしまう場所は水棲の魔物がよく現れる様になる。

 水棲の魔物の中でも普段は川に生息するギガースゲイターと言う大型の鰐の魔物が活動する範囲を広げる。

 ギガースゲイターは非常に獰猛で気性の荒い魔物で毎年被害が出る魔物だ。

 無理に船で街道を抜けようとして襲われる事も珍しく無い。


「今は雨季まで三ヶ月以上あるので特に問題はありませんが、長居する時は注意が必要ですね。迂闊に雨季に突入すれば街から出るのが難しくなりますか」


 ハンスとプレゼの話をしている内に馬車が一軒の店の前で止まった。

 ここが目的地のリードル商会のプレゼの支店だ。

 支店と言ってもプレゼでは販売は行っておらず仕入れのみを行っている。

 一行は馬車を店の横にあるスペースに置いて店の中へ入る。

 割と簡素であるがアリア達は応接室に通される。

 リアーナ、アリア、ヒルデガルドがソファーへ腰を掛け、ハンナとマイリーンは後ろで控える形になった。


「皆様、ここまで護衛して頂きありがとうございます。道中、盗賊に襲われましたが、皆様のお陰でここまで無事に来る事が出来ました。こちらが今回の報酬になります」


 ハンスは懐から皮袋を取り出しテーブルの上へ置いた、

 リアーナは皮袋の中を確認する。


「金貨五枚、確かに受け取りました。盗賊達はあれで問題無かったでしょうか?」


 リアーナは盗賊のオリーダーと思しき男の処遇に問題が無かったか、念の為、確認した。


「はい。元々はここの狩人とは言っても盗賊に落魄れてしまえばどんな事情があれ犯罪者です。正当な裁きを受けるべきでしょう」


 盗賊のリーダーと思しき男は街の入り口にある衛兵の詰め所へ引き渡してきている。

 元狩人で街の住人だった事もあり、衛兵もその男の事は知っていた様で街の事情も有り、同情し落胆した様子だった。


「これからどうなさるのですか?」


「この後はニ、三日滞在して良い護衛依頼が見付かり次第、ハルネートへ向かう予定です」


 ハンスはリアーナの言葉に少し残念そうな表情を浮かべた。


「そうですか。もし可能であれば帰りもお願いしたいと思っていたのですが、ご都合が合わなければ仕方がありませんね。でもハルネートへの護衛依頼が無かった場合はどうなさるのですか?」


 リアーナは難しい表情になる。


「そこは少し迷いますね。ミルベールの状況にも因るのでしょうが、最悪は一度、ピル=ピラまで戻って、西のロザックからバンガを経由するルートへ変更も視野に入れないと行けないでしょう」


 一番の懸念はミルベールの状況だ。

 現在も領軍と独立派が争いを続けており、非常に情勢が危うい地帯で戦争に巻き込まれる恐れがあるからだ。

 ピル=ピラを出る時点では衝突はしてない状態だが、何時そうなるか分からない。

 ハルネートとミルベールのあるカルピモデナ領はファルネットの火薬庫なんて言う呼び方もある。

 それだけ不安定な地域だ。


「もしピル=ピラへ戻る様であればお声掛け下さい。我々は十日程滞在を予定しておりますので、何かあれば日中は商会の者に言伝頂ければ大丈夫です」


「もし戻る事になれば護衛の依頼を頂けるのならこちらも非常にありがたい話です。その時はまたご相談させて頂きます」


 アリア達も戻るついでの護衛依頼なら損は無い。

 ハンスの護衛に付いて一旦、区切りを付けて一行は冒険者ギルドへと向かった。


 冒険者ギルドへ入ると雰囲気が少し暗かった。

 明らかに活気が無い。

 冒険者も少なく、ギルドの受付カウンターも五つの窓口の内、二つしかやっていない。

 リアーナとアリアは暇そうにしている受付嬢の下へ向かい、残りの三人は護衛依頼を探す為、依頼書が張り出されている一角へ向かった


「プレゼの冒険者ギルドへようこそ。本日のどの様なご用件でしょうか?」


 暇そうにしていた受付嬢はリアーナとアリアが近付いてくるのに気が付き、佇まいを一瞬で正して営業スマイルに切り替えた。

 暇と言えどプロである。


「依頼完了処理と盗賊の件をお願いしたい」


 リアーナは懐から二枚の書類を出して受付嬢へ渡す。


「えっと……リードル商会からの護衛依頼と盗賊討伐ですね。盗賊に関しては詰め所から詳細が来てからになりますので、明後日以降にまたお越し下さい。護衛依頼の方は既に報酬は依頼者から受け取り済みで完了サインも問題無し……」


 受付嬢は手元の魔道具の端末で依頼内容と書類の内容をチェックしながら確認していく。

 リアーナは五人分のギルドカードをカウンターへ置く。


「仲間の分も一緒に頼む」


「仲間の方の分ですね。リアーナさんにアリアさん、ヒルデガルドさん……ハンナさん、マイリーンさん……。確かに受注された方のギルドカードですね。因みに他の三方はどちらに?」


 受付嬢の言葉にアリアが依頼書掲示コーナーにいる三人を指差す。

 受付嬢は三人を確認しながら端末を覗きながら驚いた表情を浮かべるが、直ぐに表情を戻す。


「ご本人様で間違い無さそうですね。完了処理をしますので少々、お待ち下さい」


 そう言って受付嬢は五人分のギルドカードを確認しながら端末に依頼完了の処理を行う。

 先程、受付嬢が驚いたのはマイリーンの特記事項を見たからだ。

 マイリーンは合成獣(キメラ)事件の被害者で合成獣(キメラ)である為、ピル=ピラのギルドマスターから各地の冒険者ギルドに対して不当に扱わない様に通達を出していた。

 この受付嬢もその事は通達で知っており、ピル=ピラから近い街と言う事もあり、事件の顛末も耳にしていたので、特記事項を見た時に驚いてしまったのだ。


 受付嬢は一通りの作業が終わると、五人分のギルドカードをカウンターへ置く。


「これで依頼完了の処理は終わりました」


 リアーナとアリアは手早くギルドカードを回収する。


「ありがとう。知っていたら教えて欲しいのだが、ミルベールの状況は分かるか?」


 リアーナの言葉に受付嬢の表情が陰る。


「……ミルベールですか?もしかしてミルベールへ向かわれるのですか?」


「あぁ、目的地はハルネートだが……」


「ギルドとしてはミルベールへ行くのはオススメしません」


 受付嬢はそう前置きし状況を語り始めた。


 つい二日前に領軍と独立派が衝突した。

 領軍が集まる前に独立派がミルベールを襲撃した形で街の中で戦いが始まってしまった。

 ミルベールは完全に内戦の渦中にある。


 プレゼとミルベールとの間の野営地にはトゥクムスラ領の領軍が待機しており、ミルベールへの通行を制限している。

 実質、通行止めだ。

 トゥクムスラの領軍が何故、そんな所に待機しているかと言えば、独立派が万が一、北上してきた時に食い止める為だ。

 つまりカルピモデナ領を応援する為では無い。


 この事からファルネット貿易連合国としてはこの争いで独立派が勝利し、カルピモデナ領が独立しても構わないと言う意思だった。

 元々、ファルネット貿易連合国としてはカルピモデナの鉄鉱石は魅力ではあったが、合併に関してはそれ程前向きでは無かった。

 やはり情勢の不安な地域を抱えるのは心配の種でしかない。


 隣接する森を挟んで街道で繋がるトゥクムスラ領主は猛反対、街道としては繋がってないがもう一つのカルピモデナと隣接する領も反対した。

 しかし、隣接しない領の多数決に押し切られる形で合併が承認された。

 そんな事情もあり、トゥクムスラ領主はカルピモデナを助けるつもりは更々無かった。

 当時、賛成した領もリスクを冒してまで守る気は無く、カルピモデナ領主からの鎮圧軍への応援を却下している。


 これに対して冒険者ギルドは職員の安全を確保する為、かなり前にミルベールから撤退している。

 一応、最低限の機能を残してはいるが、飽くまで情報収集を行う程度で依頼の受発注等は一切行っていない。


 領軍と独立派の戦力が拮抗している事もあり、この内乱が長引く事も想定されていた。


「なるほど……既に衝突は始まっていたか……」


 神妙な面持ちで頷くリアーナ。


「はい。冒険者ギルドも機能していないのと、領軍を構える野営地の通過は無理だと思います。特に皆さん、ランクが高いので巻き込まれる可能性が高いと思います」


 ギルドが一番危惧しているのは、領軍に無理矢理冒険者が徴兵される事だ。

 基本的に冒険者が徴兵される事は無い。

 これは国と冒険者ギルド間で取り決めがされている。

 だがお金を積んで依頼する場合があるのだ。

 所謂、傭兵としての参加だ。

 特にランクの高い冒険者であれば尚更だ。


 ギルドを通さない依頼の為、トラブルにもなりやすい。

 その為、ギルドはそう言う面倒事を避ける為、冒険者には紛争地域へ行かない様に注意を促す様にしているのだ。


「情報ありがとう。もう一つ聞きたい事があるのだが良いか?」


「はい。何でしょうか?」


 受付嬢は首を縦に振り、リアーナは気になっていた事を尋ねる。




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