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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第三章:闇に沈みし影の刃
142/224

123:プロローグ

長らくお待たせしました。三章開始です。

『……なさい』


 僅かに声が聞こえた。

 だがはっきりと聞き取る事は出来なかった。

 その言葉に耳を傾ける。


『……ごめんなさい』


 それは何処からとも無く聞こえてくる深い後悔の念が込められた謝罪の言葉。

 幽かに揺らめく陽炎の様に声の主の姿を確認する事は出来ない。


『……ごめんなさい』


 繰り返される謝罪の言葉。

 この言葉の主の言葉に聞き覚えがあった。

 忘れられる筈も無い。

 だがその人物は既にここにいない。


『……本当にごめんなさい』


 その謝罪の言葉に嘘が無いのは理解出来た。

 だからこそ、その言葉に苛立ちを覚える。


 いや、苛立ちを通り超して怒りが湧き上がる。


 どんな謝罪の言葉を述べようが赦すと言う選択肢など存在しないのだから。

 だからこそ惨たらしく、惨めに慈悲無く殺したのだから。


 今更謝罪をされたからと言っても既に遅い。


『……ごめんなさい』


 この世に未練を残した亡霊の様に謝罪の言葉を続ける。


「黙れ……」


『……ごめんなさい』


「黙れ」


『……ごめんなさい』


「黙れ!」


 止まない声に声を張り上げる。


『……ごめんなさい』


 唯々……深い後悔の念を込めた謝罪の声が静かに響き渡る。

 その声が更に苛立ちを募らせる。


「いい加減に黙れぇ!!」


『……ごめんなさい』


 声の主には言葉が届かない。


「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」


 その言葉を振り払う様に怒鳴り続けた。

 最後の方は最早絶叫と言っても過言では無い。


『……ごめんなさい』


 その声が酷く心を抉る。

 殺されて当然の事をしたのだから殺して何が悪い、と思った。

 だがその言葉はまるで罪深い罪人であるかの様に責め立てる様に聞こえた。


『……ごめんなさい』


 謝罪の声は壊れた機械の様に同じ言葉を続ける。


「もう、黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 本当の絶叫だった。

 もうこの言葉を聞きたくない。

 ただそれだけだった。

 声の主の姿が僅かに見えた。

 その顔は酷く憔悴し、深い後悔、悲しみ、慙愧の念が混じった複雑な表情だった。


 意識はそこで離れた。



******



 アリアは布団から思わず起き上がる。

 嫌な汗で寝巻きが肌に張り付き、その呼吸は酷く荒い。

 頬には涙の後があるのが感じた。

 きっと酷い顔だろう。


 夢にしては酷い夢だった。

 まるで現実と思うぐらいだった。


 意識しながらゆっくりと息を吐き、呼吸を落ち着かせる。

 アリアはふと気が付く、横にいるマイリーンが心配そうに見ている事に。

 他の仲間はまだ深く寝ている。

 まだ周囲は暗かった。


「アリア様、酷く魘れていましたが、大丈夫ですか?」


 アリアが落ち着いたタイミングでマイリーンは心配そうに声を掛ける。


「……大丈夫だよ。ちょっと悪い夢を見ただけだから……」


 アリアの表情は明らかに大丈夫と言える様な物では無かった。

 マイリーンはその表情がベルンノット侯爵家に来た時と比べ物にならないぐらい酷いと感じた。


「それなら気分転換に少し屋上で涼みますか?私も眠れなかったので」


 このままでは眠れないだろうと思い、気分転換を促す。

 ふとアリアはマイリーンの言葉の後半が引っ掛かった。


「マイリーンさんも夢見が良くないの?」


 アリアの質問にマイリーンはにこやかに笑顔を浮かべた。


「ここではあれなので少し外に行きましょう」


 マイリーンは質問に答えず、静かに部屋を出る。

 アリアもその後ろを付いて行く。

 宿舎の屋上へ出ると夜風が心地よく、傾いた月が美しく輝いていた。


「少し肌寒いと思うのでこちらへどうぞ」


 アリアはベンチに腰を掛け、マイリーンが毛布を包ませる。


「落ち着きますね」


 それはアリアだけに向けた言葉の様には聞こえなかった。

 その言葉はマイリーン自身に語り掛ける様だった。


「別に私自身の夢見が悪い訳では無いのですよ。ただ眠くならないだけなんです」


 アリアは静かに耳を傾ける。


合成獣(キメラ)になってから一度も寝る事が出来ないんです。夢を見る以前の問題なんですよ」


 マイリーンは合成獣(キメラ)となってから眠る事が出来なかった。

 これはハンタータームクイーンの生態に因る所なのだが、その生態の詳細は全く知られていない。


「眠らなくても特に疲れとかは無いので大丈夫です。そう言う性質みたいなので」


 アリアは心配そうな顔をしていた事に気が付き、慌てて表情を戻す。


「ただ……人とは余りに違う体に憂鬱になりますがね」


 マイリーンの表情に影が差す。

 合成獣(キメラ)の体となってから自分の体が目に入る度、化け物だと言う事を嫌でも実感する。

 一人でいる時は幾度も無く狂いそうになりながら辛うじて正気を保っていた。

 寧ろ正気を保っていたからこそ辛いのだ。


 マイリーン自身も普段は涼しい顔をしているが、その心はアリア同様に不安定だった。

 それを表に出さない様に抑えていただけだった。

 それでもアリア達と一緒にいる様になり、精神的には大分落ち着いてきてはいた。

 心に闇を抱えているのはアリアだけでは無かった。


「すみません。暗い話で……」


「今は……辛い?」


 マイリーンは静かに首を横に振る。


「いいえ。少しあの時に戻ったみたいで楽しいですよ。こんな風に過ごす事なんて無理だと思っていましたから。ちょっと、アリア様の悪戯が相変わらずなのはあれですが」


 突然、悪戯の話をされて気まずくなるアリア。

 ついマイリーンから視線を逸らす。

 悪戯と言っても昔みたいに水を掛けたり、本に虫を挟む様なのでは無く、後ろから跳び付いたり、くすぐったりとスキンシップ系なのでマイリーンもキツく叱る事は無い。

 アリアが少しでもマイリーンに構おうとしてやっている事と分かっているのもあり、無碍に叱れないのだ。


「アリア様は変わった私を怖いとは思わないのですか?」


 ずっとマイリーンが気になっていた事だった。


「お尻を叩くマイリーンさんは怖いけど、今のマイリーンさんの姿を見て怖いとは思わないよ。そんな事を言ったら私なんか悪魔王であるカタストロフの力を取り込んでいるから私の方が怖い存在かもしれないし」


 マイリーンはアリアと一緒にいるとその事を失念しそうになる。

 悪魔王の力を持つ事が流布されれば人々は恐怖するだろう。


「だから大丈夫だよ」


 アリアはそっとマイリーンの隣に腰を下ろしてもたれ掛かる。


「今のマイリーンさんって、私と一緒だと思う。どっちも酷い目に会ってマイリーンさんは人をやめさせられて、私は人をやめようとしている。だからマイリーンさんと一緒にいると安心する」


 アリアの言葉にマイリーンは不思議と安心する。

 マイリーンは強制的に合成獣(キメラ)され、全てを失った。

 アリアは教皇殺害と言う罪を着せられて深い地の底へ封印され、カタストロフの力を取り込み悪魔になろうとしている。

 貶められた者同士と言う点で言えば一緒だった。

 二人はそう言う意味で気持ちを分かち合う事が出来た。


「……私もです」


 マイリーンは月を見上げた。

 熱い物が思わず零れ落ちそうになった。


「アリア様は復讐を続けるのですか?」


「……うん」


 アリアはマイリーンにも自らを事情を話している。

 復讐についても話していた。


「私はリアーナ様がハデルを殺した事により復讐を成し遂げました」


 本人が望んだかは別にしてマイリーンを合成獣(キメラ)にした張本人であるハデルはリアーナの手によって葬られた。


「私は何処かスッキリするかもしれないと思いました」


 自分を合成獣(キメラ)にした者を恨まなかったかと言えば嘘になる。

 暗い穴の底で怨嗟の声の誘惑に幾度と無く負けそうになった。

 それでもマイリーンは復讐は望まなかった。

 彼女自身、復讐を願う程強くなかったと言うのもあるが、復讐自体が単なる自己満足でしか無い事に気が付いていたからだ。


「彼が死んで良かったとは思いますが、心が晴れた訳ではありません。心に残ったしこりは今でもあり、取れていません。これ以上私の様な被害者が出ないのは嬉しい事ですが」


 マイリーンの語る言葉にアリアは複雑な思いだった。

 境遇が似ているが故に語る言葉が重く感じた。


「私はアリア様の復讐を無理に止めようとは思いません」


 出来る事ならやめて欲しいと言う願いもあった。


「何で?マイリーンさんなら絶対に止めると思った」


 アリアは復讐を止めて欲しい訳では無いが、マイリーンが止めない事が不思議だった。


「本当はやめて欲しいとは思っていますよ。でも止めるにしても成すにしてもアリア様の納得する形を見つけて欲しい。……ただそれだけです」


 マイリーンは復讐を止めろ、と言うのは非常に簡単だが、本人が納得しない形でやめたとしても意味が無いと考えていた。

 特に強くそれを望めば心の中に復讐の炎が燻り続け、いつか再燃するかもしれない。

 そして長く燻る程、消すのが難しい。


 今は復讐と言う芯が消える事の不安の方が大きい。

 マイリーンはリアーナからアリアの精神状態が不安定だと言うのも聞いていたから余計にそう思うのだ。


「アリア様は復讐が終わったらどうされるのですか?」


 リアーナは色々と語っていたが、アリアの口からはその事を聞いた事が無かった。

 アリアは少し考え込みながら口を開く。


「うーん……あんまり考えて無いかな?今みたいに冒険者をやっているのも悪くないし、何処かで落ち着くのもありだと思う。でも今はあんまり考える余裕が無いかな…….」


 アリアは苦しめた者に対する憎しみが原動力になっており、目的以外の事へ思考は余り割いてなかった。

 今、見ている悪夢も復讐が終われば消えると思っていた。


 月明かりの中、二人は静かに体を寄せ合い、夜が明けるまで語り合った。




アリア「長い二章と幕間が終わって三章開始だよ!」


ヒルダ「長かったですね~。三章では私がきっと活躍」


ア「しません!」


ヒ「何故ですか!?」


ア「三章のメインがヒルダさんじゃないからだよ。と言うか一章で良い感じのバトルしてたから三章は少なめで良いと思う」


ヒ「私、二章での出番は凄く少なかったから三章で良い所が無いと空気になるじゃないですか」


ア「大丈夫。ヒルダさんはきっと細かく出番がある筈。あんまり目立たない所で……」


ヒ「それはあんまりかと。でも三章は私以外の誰かにクローズアップした章になるんですね?」


ア「そうだよ。一章はマイリーンさん。二章は私だけど、リアーナさんとハンナは出番が多かったから必然的に残るのは……」


ヒ「残るのは……」


ア「ギルドマスターのガルドさん!」


ヒ「いくらなんでもそれは無いかと。せめてイケメン枠のニールさんの方が……」


ア「マイリーンさんと燃え上がる愛とか良さそうだと思うけど?」


ヒ「それだと一章のマイリーンさんがメインになるじゃないですか」


ア「言われてみればそうかも。ま、徐々に分かってくるから今後のお楽しみと言う事で」


ヒ「そうだと思いました」



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