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閑話18:悪魔ベリスティアの一日

 私は朝の憂鬱から気分を切り替えて食堂へ向かい、適当にパンとサラダを取り適当な席に座ります。

 ここはピル=ピラの冒険者ギルドの宿舎の食堂です。


 私はアリア様の下を離れて一人でこの街にいます。

 リアーナ様からある人物を捜す様に命じられたからです。

 それはアリア様を貶めた人物の行方です。

 一人目はアリア様の幼い時から一緒に育ちながら裏切ったと言うサリーン・ボネット。

 二人目は大司教でありながら所在が謎に包まれているガリア・ノルンド。


 今、目星を付けているのがサリーンです。

 彼女はリアーナ様の情報に寄ればあの事件の後、異動になっているらしいのですが、

その詳細が掴めないらしいのです。

 私は行方を追う為にアリア様とは別行動と言う形でヴェニスへ向かいました。


 ここで私の力について少し説明しておきます。

 悪魔になる前は簡単な風魔法の適正、と言ってもあんまり使える訳ではありませんが、多少役に立つ程度に使えるぐらいで自慢の双剣でやってきました。

 悪魔になってからはウェパルとウヴァルの能力に加えて絶大な氷魔法、それに虚無魔法が使える様になってました。

 それに加えて私にのみ宿った能力として千里眼がありました。

 これは私が意識すれば距離が離れた場所でも覗く事が出来ます。


 何とも諜報活動にお誂え向きな能力でしょうか。

 この能力の真骨頂は私の持つ虚無魔法と組み合わせるとカーネラル王国内程度なら行った事が無い場所でも転移が可能となるのです。

 千里眼で覗いた場所なら何処へでも転移出来るのです。


 千里眼の幾つかの欠点があります。

覗いている時は無防備になる事です。

 その為、使う際は周囲の状況をよく確認してから使わないといけません。

 そして魔力を帯びた屋内を覗く事が出来ません。

 理由は分かりませんが、神殿を千里眼で覗こうとして出来なくて調べてみると、その様な結果だったからです。


 ヴェニスで私は夜な夜な神殿に侵入しながら情報を集めました。

 そこで掴んだのは移動先はピル=ピラの孤児院となっていた事です。

 ガリアについてはかなり裏で動いている様で足取りが全く掴めません。

 精々、かなり危ない橋を渡る様な事を担当していると言う噂を手に入れた程度です。


 情報の精度が低いのでガリアについてはもう少し情報が集まってから動く事にするしか無さそうなので、私は居場所が判明したサリーンの足取りを追う為にピル=ピラへ来ているのです。


 冒険者リントとして活動出来ない私がどうしているかと言えば髪型を変えてベリスと言う冒険者として活動をしています。

 腰まで伸ばしていた髪をバッサリ肩口まで切り、後ろで軽くまとめてる形です。

 髪の色、髪型、瞳の色が変わっていれば早々、私と分かるものではありません。

 流石に武器は双剣は変えるのは不安なのであれですが、アリア様から頂いた魔剣を一本だけ携えております。

 普段、携えているのはウヴァルが封印されていた魔剣の方です。

 氷魔法と相性が良いのでちょうど良いです。

 もう一振り、ウェパルが封印されていた方は空間収納にしまってあります。


 極力、必要時以外は双剣の使用を控える様にしていれば私をよく知る人間で無い限り大丈夫です。

 以前、私が使えなかった氷魔法と併用すればまず大丈夫でしょう。


 一つ辛いのがランクだけはEからだと言う事でしょうか。

 頑張って取ったAランクを捨てるのは少し名残惜しかったですが、仕方がありません。

 今は適当な魔物を狩りながらランクを上げている最中でもあります。

 これはギルドの受付嬢をやっていたから分かる事なのですが、ランクを上げたければ強い魔物を討伐してギルドへ持ち込めば良いのです。

 そうすれば向こうから勝手にランクアップの話を振ってくるので、後は昇格試験の依頼をしっかりやれば問題ありません。


 ギルドとしては依頼を受けて欲しいのでこのやり方は教えません。

 自分の力量を測る為に魔物相手がちょうど良いですから一石二鳥です。


 私はのんびり朝ごはんを食べてます。

 悪魔になってもお腹が空くんですよね。

 私はてっきり人の魂を食べたりするのかと思っていたのですが、それはどっちでも良い様です。

 ウェパルが言うには私は既に力のある悪魔として確立してしまっており、人間の魂を取り込んだ所で余り意味が無いそうです。

 寧ろウェパル的には私が食べたり感じた事は伝わるみたいで美味しい料理を食べてくれる方が嬉しいみたいで人食いなどをせずに済みそうです。


 ただ徐々にそう言う事に対する忌避感が日が経つに連れて薄れている感じがします。

 これは精神的な物が人間から悪魔に変わった影響で本能的な物みたいです。


 私は朝食を終えてギルドの宿舎を出ると孤児院の方へ向かいます。

 どうもこの孤児院は色んな箇所に魔力の痕跡が有り、千里眼で覗く事が出来なかったので実地で確認しに行きます。

 と言っても中へ忍び込むのでは無くまずは周囲の建物や街の事について聞き込みをします。

 千里眼で周囲は確認出来ますが、実際に自分自身が行って確認すると違う発見をする可能性もありますので、現地確認は大事です。

 道中のお店を冷やかしながら店員さんと他愛無い話をしてりしながら情報収集しつつ孤児院への前へと到着しました。


 見た目は極々普通の孤児院の様です。

 まだ出来て新しい孤児院らしく建物が非常に綺麗です。

 孤児院内は外から見えない様に人より少し高い塀に囲まれており中の様子は外からは見えません。

 周囲をざっと歩き回りますが、これと言った事は無く、直ぐに一周してしまいました。


 このまま帰るのはあれなので休憩がてら近場の喫茶店へと入ります。


「いらっしゃいませ~」


 元気の良い店員へ案内されお店の奥の席を陣取ります。


「レモンティーとチーズケーキをお願いします」


 私はさっと注文し、意識の半分を千里眼へ向けます。

 近場で千里眼を使うと魔力消費が少なく意識を千里眼へ集中しなくて済むのです。

 建物の中は見れませんが、庭や窓を覗く事は充分可能です。

 夜だとどうしても限界があるので現地調査は必要ですね。


孤児院の上から覗いてみると子供達が庭で元気良く遊んでいますね。

 何かこれを見ていると心が安らぎます。

 大人の女性が一人いますね。

 神教の法衣を着ているので神官の様です。

 フードを被っているのではっきり顔が見えません。

 雰囲気からして女性でしょうか?

 一応、アリア様とハンナさんからは特徴を聞いてましたので、フードの中が分かれば良いのですが……。


 一応、千里眼で直接覗く事も出来るのですが、私の能力は魔力の目を遠くに置いて見ている様な感じなので余り近付きすぎると気付かれてしまう可能性があるのです。

 何とか角度を変えてみますが、中々見えません。


「お客様、ご注文のレモンティーとチーズケーキです」


「ありがとう」


 店員が注文したレモンティーとチーズケーキを持ってきたので覗き見は一旦、中断。

 覗きながら食べる事も出来ますが、折角美味しい物を頂くので食べ物に集中したいのです。

 女子たる物、甘味は命ですから。

 私のこだわりとしてはチーズケーキはベイクドに限る、の一言に尽きます。

 レアは邪道です。


 私はチーズケーキをフォークで一口分にカットして口へ運ぶと少し固めですが、程よいチーズの塩っ気を僅かに感じさせながら仄かな酸味と甘さが口に広がります。

 割とあっさり目ですが、嫌いではありません。

 そしてレモンティーを一口。

 これも淹れ方がしっかりしているので茶葉の豊かな香りをしっかり生かしながらレモンもお茶の香りの邪魔をしない程度に抑えているので良い感じです。

 当面はここの監視に来るのでこの店は暫く通う事になりそうです。


 レモンティーとチーズケーキを堪能した私は監視を続けるべく、レモンティーのおかわりを注文して孤児院の監視を再開します。

 おや、庭の芝生で昼寝をしていますね。

 何とも気持ちが良さそうです。

 神官の方も一緒に寝ていますね。

 顔を確認すると……アリア様の言っていた特徴と一緒な方ですね。


 こうやって無防備にしている所を見ると自分が狙われているなんて思ってもいないのでしょうね。

 私はアリア様の復讐には関係の無いのですが、アリア様を裏切って陥れた人間と思うと何故か憤りを覚えるのです。

 私自身、彼女に特に恨みは無い筈なのに。

 ウェパルが言うには眷属になった事で気持ちがアリア様へ引っ張られるらしいです。


「お、お客様?おかわりのレモンティーをお持ちしたのですが……」


 店員が少し怯えた様に声を掛けてきた。


「ごめんなさい。つい難しい事を考えていたら。おかわり、ありがとう」


 私はにっこりと笑顔を浮かべると店員は申し訳無い感じで店の奥へと消えて行った。

 どうやら少し殺気が漏れていたみたいです。

 これは少し気を付けないとダメですね。

 今日は対象があの孤児院にいると分かったので上々でしょう。


 もう少し周辺の聞き込みと確認を取ったら報告しましょう。

 私はゆっくりと美味しいレモンティーを堪能してからお店を出た。


 外へ出ると少し日が傾き始めていました。

 彼此二時間ぐらい喫茶店にいた様です。

 あの後、他のケーキを注文したので、つい長居してしまいました。

 冒険者ギルドへ戻る道を歩いていると見覚えのある顔が私の方へ向かって歩いてきました。


 巨躯に背負った大剣、それも冒険者でもそこまで大きい剣を扱うのが困難な大きさ。

 剛剣のガリアス―――

 ピル=ピラを拠点として活動するSランクの冒険者。

 実力はSランクなので折り紙付きで、私も一度だけ彼と戦った事があります。

 その時は引き分けで勝負が付きませんでした。


 彼の様な相手に逃げるのは怪しいと言っている様なものなので、気が付かなかった振りをして通り過ぎる事にします。

 そうすると彼は進路を変えて私の方へ向かってきます。

 まさかバレたのでしょうか?

 服装も武器も髪も瞳も変わっているので気付かないと思ったのですが……。


「すまん、少し良いか?」


 彼は申し訳ない感じで尋ねてきた。


「はい。何でしょうか?」


 初対面を装いながら返す。


「一度、俺と会った事無いか?」


 私と気付いては無い様ですね。

 だけど、何かを感じ取っている雰囲気。

 どうやって誤魔化しましょうか?


「いえ……初めてだと思いますが、どちら様でしょうか?」


「あ、すまん。俺も君と一緒の冒険者でガリアスと言う者だ」


「私はベリスと申します」


 ランクは伏せましょう。

 実力とランクが乖離していると有らぬ疑いを持たれては面倒なので。


「人違いの様だ。雰囲気が昔、会った人に似ていたから気になったんだ」


 直感は欺くのは厳しそうな感じがします。

 これは早々に退散するに限ります。

 早々に素性がバレるなんて御免被りたい所。

 それにしても彼は何故、私を探していたのでしょうか?


「そうなんですか?」


「以前手合わせをした事があってな。この街に来たのなら少し話をしたかったんだ」


 私に何の用があったのでしょうか?

 気になります。

 でもここは好奇心を出す場面ではありません。

 適当に逃げましょう。


「あの……この後買い物をしないといけないので良いですか?」


「時間を取らせてすまなかったな」


 私は軽くお辞儀をしてその場を離れる。

 その後もずっと背中に視線が刺さっているのを感じながらギルドへ向かった。

 確証は持てていない様ですが、彼と接触するとバレそうですね。

 早めに調査を終わらせて退散した方が良さそうです。


 夜は夕食を食べ終えると宿舎の部屋へ戻って基本はのんびりしてます。

 千里眼で監視をしていても良いのですが、私自身、夜目が利く方では無いので少々厳しいのです。

 偶に念話でアリア様とお話する事があります。

 悪魔の能力なのか分かりませんが、ある程度距離が離れていても会話が可能なのです。

 リアーナ様とは出来ない所を見ると私がアリア様の眷属だから出来る様です。

 報告事項が無い時は専らその日食べた甘味の話ばかりで、悪魔になった割には便利能力が増えた感覚しかありません。

 長く話していると突然、会話が途切れます。

 これは寝落ちしているパターンで念話が終わると私も就寝です。


 こうして悪魔になったと言いつつ冒険者リント時代と変わらぬ生活を送っています。




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