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117:リントの正体

 リントは目が覚めると見覚えのある様な無い様な天井が目に飛び込んできた。

 ここは冒険者ギルド内にある医務室だ。

 リントはリアーナに担がれてここへ運びこまれたのだ。

 意識がはっきりしていく内に勝負の最後の瞬間を思い出す。

 リアーナ相手に全く歯が立たず負けた事を。

 ゆっくり体を起こす。


「意識が戻ったみたいだな」


「リアーナ様!?あっ!?」


 声の主はリアーナだった。

 ベッドの傍にいたにも関わらず全く気付かす、そしてリアーナの呼び方を間違えてしまう。


「やはりな。君が誰か漸く分かったよ。ディートリント・エペルレーズ」


 リアーナは悪い笑顔を浮かべる。

 リントは顔が青くなる。


「学院で会ったと言うのは嘘だな?」


「……はい」


 正体がバレてしまい素直に白状する。


「まぁ、会った事があるのは間違っては無いな。確かコルネリアの一つの下の妹で一度だけ稽古を付けた覚えがある。あの時は腕白少年みたいな感じだったから全然、君と結びつかなかった。エペルレーズ伯爵家は成長すると見た目が変わりすぎて困る。コルネリアも学院に来た時は誰か分からなかったからな」


 懐かしい記憶を思い出しながら困った様な表情で語る。

 コルネリアはリアーナの学院時代の同級生であり、小さい頃から親交があった。


「思い出したのは戦っている時だ。あの真剣な目は記憶にあった。今、思えばよくここまで鍛えたな」


 リントはリアーナに褒められて純粋に嬉しかった。


「これは憶測でしか無いが、君がここにいる理由も分かった」


 リントの表情が青くなり、シーツを握る手が震える。

 そしてリアーナの表情も笑顔から真剣な物へと変わる。


「君は第零騎士隊の人間だな?」


 第零騎士隊―――

 それは騎士隊の中でも諜報を主体とした部隊。

 他の隊と連携する事は無く、他の騎士隊には所属の騎士に誰がいるか明かされる事が無い。


「この街の情報を得る為に冒険者ギルドの受付嬢をしていると思えば任務としては違和感は無い。不可解な事に冒険者ギルドにいる時だけ監視の目が無かった。そこに大きい違和感があった。それが君なら自然と納得が行ったよ」


 リントは何も答える事が出来なかった。

 任務の性質上、話せば処罰されるのだ。


「別に君が話す必要は無い。私の憶測を語っているだけだからな」


 リアーナは第零騎士隊の性質を理解している為、リントがその事を白状するとは思っていない。


「そんなに震えるな。別に君をどうこうするつもりは無いぞ」


 俯いて震えているリントにリアーナの言葉は届いていなかった。


「そもそも普通に受付嬢として接していれば私も気が付く事は無かったぞ。監視対象に近付き過ぎだ」


 リントは必要以上にリアーナに接しなければ気付かれる事はまず無かったのだ。


「……信じられなかったんです」


「ん?」


「リアーナ様が騎士隊を抜けてアリア様の為に全てを捨てるなんて信じられなかったんです……」


 リントはネッタでリアーナの監視するに当たり神殿で起こった事などの情報は聞いていたのだ。

 ただそれはリントにとって簡単に信じられる内容では無かった。


「私にとってリアーナ様はずっと憧れでした。気高く強い孤高の騎士」


 リアーナは孤高と言われ少し複雑な気分になった。

 その言葉がまるで友達がいない一匹狼の様に聞こえたからだ。


「任務を受けた時は余り接触しない様に思っていました。でもアリア様と一緒にいるリアーナ様は今まで見た事が無い程、幸せそうな表情を浮かべておりました。あんな風に笑う姿は見た事がありませんでした」


 学院時代やそれ以外でも笑顔を見せていたと思っているリアーナだが周りの印象は違っていた。

 リアーナと親しいのは極僅か一部の人間だけだ。

 ヴァレリアやコルネリア、ヴィクトルぐらいだ。

 学院時代は騎士科のトップとして君臨し、騎士隊に入ればその圧倒的な強さで周りを寄せ付けない雰囲気があった。

 そう言う意味では第五騎士隊の面々はリアーナと気兼ね無く接するので少々特殊とも言える。


「そんなリアーナ様を少しでも見ていたいと思いました。模擬戦の誘いを受けた時は凄く嬉しかったです。少し慢心はありましたが、憧れと戦える機会を逃す事は出来ませんでした」


 リントはこの機会を逃したら二度とリアーナと接する機会が無いと思った。


「それは重大な隊務規定違反だな。監視対象と必要以上の接触は厳重注意の上、処罰されると知っているだろう?」


「……はい」


「全く……と言っても私はもう騎士では無いから君を注意する立場でも無いんだがな」


 リアーナは嘆息しつつも肩を竦めた。


「体は大丈夫か?アリアが治療したから特に問題は無い筈だが」


 リントはそう言われてベッドで体を軽く捻ったりして動かしてみる。

 あれだけ強力な一撃を受けたにも関わらず体に傷みも違和感も無かった。

 これが聖女の持つ治癒魔法の力なのか、と思わず感心したリント。


「はい。特に問題はありません。アリア様には感謝しないといけませんね……」


「アリアは君の事が気に入ってるみたいだからそんなに恐縮しなくても大丈夫だぞ。あんまり持ち上げられるのは嫌がるしな」


 アリアにとってリントは冒険者ギルドの優しいお姉さんと言う認識だ。


「そんな訳で気にする必要は無い。それよりもこれから君はどうするつもりなんだ?」


「これからとは?」


 リントは首を傾げた。


「君は重大な規定違反を犯した騎士になる。対象と必要以上に接触し、正体をバラしてしまった事になる。良くて謹慎、最悪は除隊だな」


「あ……」


 リントは自分の過ちに気が付き頭が真っ白になる。

 自らの感情を優先し、任務を放棄してしまった事を。


「今回の件は絶対にバレているだろうな、あれだけ人が集まったんだ。耳に入らない方がおかしい。この街にいるのは君だけでは無いだろう?」


 今回のリアーナとリントの戦いは冒険者ギルドではかなり話題になっており、見に来た冒険者も多い。

 その中に仲間の騎士がいない保証は無い。


「実際問題、君は今、危険に晒されているからな。明らかに敵意のある気配が複数この部屋の周りにいる。私が君の傍を離れるのを待っているのか、私共々始末するつもりなのか」


 仲間がこの部屋を取り囲んでいる。

 それはリントを始末しに来たと言う事に他ならない。

 第零騎士隊は諜報が主任務ではあるが暗殺も任務に入っており、他の騎士隊と違い裏組織的な側面も持っている。


「君に取れる選択肢は二つだ。一つは大人しく仲間に捕まり処分される。もう一つは私達に大人しく従えば国外へ逃がすまでは命の保証をしよう」


 リアーナから示された選択肢の中で選べる物は一つしか無かった。

 リントのやった事は普通の騎士隊であれば単なる隊務規定違反なのだが、第零騎士隊では裏切りに近い行為になる。

 処分されるには充分な理由だった。

 そうなると国内にいる事は難しく、国外に逃げるしか無くなるのだ。


「リアーナ様は……私を見逃して頂けるのですか?」


「そもそも私からすれば君を排除する理由は私に無い。それに友の妹だ。敵対した訳でも無いのに殺すのは寝覚めが悪い」


「……何でもしますのでお願いします」


 リントはリアーナに頭を下げた。

 リアーナはその言葉を言質にリントにある事をさせるつもりだった。


「何でもか……良いだろう。アリア!ハンナ!」


 リアーナが呼ぶと二人は部屋へ入ってくる。


「リントさん、大丈夫?」


 アリアは自分の治療に問題が無いか気になり心配そうに声を掛ける。


「アリア様のお陰で体は大丈夫です」


 リントは余裕の無い状況化に関わらずアリアに笑顔を返す。


「ハンナ、リントを先に連れて脱出してくれ。ここは私とアリアで何とかする」


「畏まりました。リントさん、失礼します」


 ハンナはリントを抱き抱える。


「え、ちょっ……」


 突然、お姫様抱っこをされて慌てるリント。


「それでは後程。交換(スイッチ)


 ハンナとリントの姿が部屋から忽然と消える。

 ハンナは脱出先の空間と自分とリントのいた空間を入れ替えたのだ。


「アリア、部屋の外には何人いる?」


「四人。暫くしたら踏み込んで来るんじゃないかな。徐々にこっちに近付いてくるから」


「私がいるのによく踏み込もうと思うな」


「勝算があるんじゃない?」


 リアーナは部屋で対処するか廊下で対処するか考える。

 結界を張れば部屋の方が後処理が楽だ。

 廊下は目撃者が出る可能性がある。


「リアーナさんはゆっくりしてて良いよ」


「そうか?私がやっても構わないぞ」


「正直、ウロチョロと蝿みたいで鬱陶しかったんだよね。少し腹いせもあるんだけど」


 腹いせで人を殺すのに何も思わないアリアを見てリアーナは何処か悲しかった。


「それなら任せる」


 だからと言って敵対する者に対しては容赦はしない。

 嘗ての同僚であったとしても。



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