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114:喧騒の酒場

 夜になると冒険者ギルドの酒場は賑わいを見せていた。

 日中は討伐等の依頼で街の外へ出ている冒険者達も夜になると街へ戻ってくる。

 そして街の酒場で飲み明かす。

 何処にでもあるいつもの光景だ。


 そんな時間でもギルドの受付は忙しい。

 受付の終了時間に駆け込みで来る冒険者がいるからだ。

 その中にアリア達とレナード達がいた。


「依頼の護衛完了と街の近くでヘルハウンドの群れを討伐したからそれも一緒にお願いするよ」


 レナードは受付嬢にそう言ってカードを出す。


「街の近くですか……どのぐらいの規模で場所は何処でしょうか?」


 受付嬢はカウンターに街周辺の地図を広げた。


「数は十三匹。場所はここだ。ちょうど丘の天辺付近」


「なるほど……ここで強い魔物の報告は今まで出ておりませんので調査が必要ですね。情報ありがとうございます」


 受付嬢は先程の内容をメモに記載して、机の横に置く。


「買取の分配はパーティーで均等割りする形でしょうか?」


「いや、それに関してはこっちの子が四匹倒しているからその分はこっちに回して欲しい」


「畏まりました。カードをお願いしても良いですか?」


 アリアはギルドカードを受付嬢へ渡すと表情が一瞬で驚きに変わる。


「Eランクですか?ヘルハウンドはBランクの魔物なのですが……」


 信じられないと言う表情で言う受付嬢に対しレナードは毅然とした態度で言った。


「間違いない。一緒に戦った僕達は当然だが護衛対象のオーウェンさんも一緒に見ているから」


 受付嬢は渋々と言った感じで処理を始める。


「あら、アリアちゃんじゃない。おかえり」


 カウンターの奥から優しい声にアリアは反応した。


「リントさん!」


「ダメですよ、ナイヤ。ランクが低くても実力のある方はいるんですから。それに表情に出ていますよ」


 リントはレナード達の対応している受付嬢ナイヤへやんわりと注意した。

 ナイヤはまだ受付嬢としては歴が浅い。


「君はリントさんと知り合いだったのか?」


「私の試験を担当してくれたの」


「リントさんが直々とはアリアちゃんは強いんだな」


 レナードは感心した様にアリアを見る。

 ネッタの冒険者ギルドでリントが試験官を担当するイコール期待の新人と言う意味を表すのだ。


「アリアちゃんは強いですよ。私と引き分けでしたから」


 リントの言葉にレナード達とナイヤが表情を変える。

 その言葉の意味する事が分からないレナード達では無い。

 まだ受付嬢歴の浅いナイヤも二つ名持ちの冒険者だったリントが強いと言うのに驚きを隠せなかった。


「そう言えば薬草はどうでしたか?」


 アリアはすっかり依頼の事を忘れており、腰に提げた袋をカウンターへ置く。

 リントはさっと袋の中を確認する。


「結構、たくさん採ってきましたね。もう解体コーナーは終わっていますし、受付も終了時間なのでヘルハウンドと薬草の査定は今日中にしておきますので、明日また来て下さい。数が多そうですから」


「そうだな。アリアちゃんはそれで良いか?」


 アリアはチラッとリアーナを見るが特に問題は無い様だ。


「私は問題無いよ」


「それでは明日もお待ちしております。さ、ナイヤ後で向こうでお話がありますから」


「は、はい!」


 リントの顔は笑顔だったがナイヤには一瞬、鬼に見えた。

 アリアもリントの笑顔はマイリーンが叱る時と一緒の表情で思わずお尻に手をやった。


「もし良かったら一緒に飯を食べませんか?今日、助けて頂いたお礼をしたいので」


 アリアはどうすれば良いか迷い、困った表情を浮かべた。


「アリア、良いんじゃないか?どうせ私達もここで食事を取るのだから」


 リアーナが困っているアリアに助け舟を出す。

 アリアはこう言う場をどう対処して良いか分からなかったのだ。


「じゃ、一緒に……」


「それじゃ行きましょうか」


 アリア達は受付を後にして酒場へと向かった。

 向かうと言っても同じフロアなので直ぐだ。


六人掛けの丸テーブルを囲み、各々勝手に注文していく。

アリアはメニューを見ながら何を頼むか迷っていた。


「アリア様、頼まないのですか?」


「ちょっと迷ってる……」


 ハンナは難しい顔をしてメニューと睨めっこしているアリアのメニューを覗く。

 そこにはアリアの大好物のハンバーグが二種類書かれており、悩みを察した。


「それなら私がもう片方を注文しますから半分ずつにしましょう」


「良いの?」


「問題ありませんよ。どちらも美味しそうなので大丈夫です」


 アリアは両方食べられる事に一気に晴れやかな笑顔になる。


「すみません」


 ハンナは手を上げて店員を呼び、メニューに書いてある二種類のハンバーグを一つずつ注文する。


「アリアちゃんはハンバーグが好きなのかい?」


「うん」


 アリアは笑顔で大きく頷く。

 レナード達はまだまだ子供だな、と思いつつも何処かほっこりする。


「アリアはハンバーグが大好きだからな」


 リアーナは笑顔でアリアの頭を撫でる。


「仲が良い。まるで親子みたいですね」


「リアーナさんは私のお義母さんだよ」


 レナードは二人を見るが親子らしい似た雰囲気を感じない事に違和感を覚えた。


「アリアは私の養子だから血は繋がっていないんだ。血は繋がっていなくても可愛い私の娘だがね」


 レナードの表情から疑念を読み取ったリアーナが答える。


「聞くつもりは無かったのですけどね……。でも今日は彼女のお陰助かりましたよ」


「あぁ……まさかヘルハウンドの群れが街道に現れるとは思ってもいなかったからな」


 レナードの言葉にラッカも頷きながら言う。


「ヘルハウンドは人里に近づかない筈なんだがな……」


 ヘルハウンドは一般的には森に住み、人里から離れた所で群れを成して暮らす。

 その為、街道に現れる事なぞほとんど無い。

 それも街から半日の距離の場所となれば尚更だ。


「えぇ……僕達もこんな事は初めてです。ギルドも調査に動くみたいですから、明日ぐらいには注意喚起が出そうですね」


 普段街道で見かけない魔物が現れた場合、ギルドは周辺を調査し、冒険者達に注意喚起を促すのだ。

 冒険者にとって魔物の出現情報は大事な情報だ。

 これによって生死が分かれる事になりかねない。

 特にヘルハウンドの様なある程度ランクの高い魔物の出現情報となれば特に重要となっる。


 レナードの予想では明日に出るのは簡易的な速報レベルで詳細は一週間ぐらい後になる。


「リントさん、調査するって言っていたね」


「そう言えばアリアちゃんはリントと引き分けたの?」


 レナスが思い出したかの様にアリアに聞いた。


「引き分けたと言うか途中で切り上げた感じかな?」


 アリアは少し納得行かない感じで言った。

 その時の状況をざっと説明する。

 最後のリントを放り投げた部分を除いて。

 リアーナとハンナはその部分が説明から抜けているのに気付いているが、本人が恥ずかしくて隠しているのが分かっているので敢えて突っ込まなかった。


「それでもあのリントさんと互角に渡り合うのは凄いですね」


「俺は無理だな」


「私も。一度、相手してもらった事があるけど、瞬殺だったわ」


 レナード達はリントと互角に渡り合ったアリアを口々に褒めた。


「それにしてもリントさんって、凄いんだね」


「双剣のリントと呼ばれるぐらい名が通った冒険者だからな。この付近のAランク冒険者の中ではかなり有名だと思うぞ」


 アリアはリアーナが知っているぐらい有名な事に純粋に驚嘆した。

 リアーナはカーネラル王国内最強と言われる存在で王宮警備の責任者の一人、且つ戦場では軍隊の指揮を執る程の人物だ。

 二つ名持ちの冒険者は当然、把握している。


「リアーナさんとどっちが強いの?」


 アリアは素直に気になった事をぶつける。


「どうだろうな。戦った事が無いから何とも言えないな。模擬戦も本気は出してなかった様だしな」


 リアーナは敢えて言葉を濁した。

 正直な所、リントに負ける事は無いとは思っていた。

 リントは人気のある冒険者で憧れる冒険者も多い。

 迂闊な事を言えば悪目立ちしてしまうので明言は避けたのだ。


「お、レナードじゃねぇか?こんな上玉連れて何やってんだ?」


 リアーナの会話に割り込むように一人の冒険者がレナードに声を掛けた。

 顔が赤く大分、酔っ払っている様だ。


「ロイドさん、そんなんじゃありませんよ。依頼中に助けて頂いたので一緒に食事をしていただけですよ」


 困った顔をするレナードとロイドに何処かうんざりした表情を浮かべるラッカにレナス。


「見掛けねぇ顔だなぁ……」


 ロイドはレナードの横に座る顔を覗き込みながら喋る。

 アリアはその酒臭さに思わず顔を顰める。

 必死に我慢をして耐える。

 下卑た視線でリアーナとハンナも順番に見る。


「おめぇ、こんな女子供に助けてもらう程、ひよっちまったのか?情けねぇなぁ……」


「まだまだ僕も鍛錬しないとですね」


 レナードはロイドの厭味をやんわりと流す。

 冒険者は男の職業だと思っている輩が多く、女性、子供の冒険者を差別する風潮が残っているのだ。


「そうだな。まだまだおめぇも若いからな。それにしてもこんなのちんちくりんの子供連れに助けられるとはなぁ……。俺なら勘弁して欲しいぜ」


 その言葉にリアーナとハンナの眉が僅かばかり反応した。

 当の本人は酒臭い息を鼻で吸わない様に必死だった。


「取り敢えず、俺も混ぜろや」


 ロイドは傍にある椅子を取り、強引にアリアとリアーナの横に割り込もうとし、アリアを強引に押した。

 タイミングが悪く酒臭さを耐えるのに必死だったのでアリアはバランスを崩して椅子から転げ落ちる。


「おっと、すまねぇなぁ」


 ロイドは悪びれもせずにアリアを一瞥し、椅子に座ろうとするが、リアーナの腕がそれを止める。


「誰が貴様が私とアリアの間に入る事を許した?」




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