13:夜の語らい
アリア達はヒルデガルドと別れた後はそのままギルドの宿舎に戻っていた。
ギルドはいつも通りの喧騒に包まれていた。
冒険者が多いと言う事は街が賑わっている証拠だ。
アリアはそんな食堂で賑わいを横目に一人でパフェを食べていた。
ヒルデガルドと話していた時言われた事。
『・・・・・・アリアちゃんにとって人である私は餌ですか?』
この言葉が頭から離れなかった。
アリア自身、カタストロフと契約をする時に覚悟を決めたつもりだった。
人は自分の目的を達する為の餌だと。
ただその中に親しい者を含める等、考えてもいなかった。
大切な人は二度と失いたくない。
アリアは実の両親の顔を知らない。
孤児院に引き取られたのは赤ん坊の時で、物心が付いた時には孤児院だった。
だから実の両親は大切と言う分類には入らない。
アリアの中で大切に分類されるのは孤児院で育ててくれたシスターに義母のリアーナ、侍女のハンナ、親友のヒルデガルド、憧れでもある前教皇アナスタシアだ。
でもその人達を犠牲に出来るかと言うと出来なかった。
それは守りたい、手放したくない存在だからだ。
ヒルデガルドの問いはアリアの心の中で答えを見つけられずに彷徨っていた。
『ねぇ、そんなに悩む事かな?』
パフェを掻き回しながら悩んでいるとカタストロフから声を掛けられる。
勿論、頭の中に。
『いきなり何?』
少し不機嫌そうにアリアは返した。
『さっきからずっと面白い顔をしてるからさ。パフェも勿体無いし。別にさ、全ての人間を餌と思う必要なんて無いんじゃない?』
あっさりと言ってのけるカタストロフ。
別に悪魔だからと言って情が無い訳ではない。
寧ろ彼はかなり情に絆されやすい悪魔であった。
封印された理由は守りたい人がいたからだ。
『別に人間を敵視までする必要は無いし、嫌なら嫌で良いじゃん』
この明け透けな言い方にアリアは苛立ちを覚えた。
『意味分かんない』
口を尖らせながらパフェを一口に放り込む。
『人間だろうが悪魔だろうが関係なく好きな奴は好き、嫌いな奴は嫌いで区別したら良いんじゃないかな?僕は割りとそんな感じだし。人間でも好きな人はいるし、大切にしていた人もいたからね』
アリアはこの悪魔は何を言っているのだろう、と思った。
『君にとって復讐は大事かもしれないが他にも大事なモノがあるだろう?』
『……だから何?』
『そんなに意固地になってないで……』
パフェを勢いよく掻きこむ。
『はしたないなー、パフェをそんな食べ方しなくてもいいのに』
苛立ちによるやけ食いである。
アリアは悪魔なのに何を言っているのか、と思っていた。
『……どうしてそんな事を私に言うの?』
お前は悪魔だろう、とアリアは言いたかった。
『私があの人に似ているから?』
『やっぱそう思うよね。半分正解で半分は違う。僕は君には無理をして欲しくない。別に契約は復讐が達成するまでに果たさなければいけない、なんて契約になっていない。急いで答えを見つける必要なんてないさ』
何か大事な事を悪魔に諭されるのが気に入らなかった。
でも彼の言っている事は理解出来ない訳ではない。
それを理解して肯定していいのかが判断出来なかった。
急いで結論を出す必要は無い、とアリアは思った。
一度、棚上げも有りかもしれないと。
『もういいや。今日はこれ以上考えるのはやめとく』
パフェの底に溜まった溶けたアイスを器ごと傾けて食べてしまう。
『うん。それがいいよ。』
アリアは食べ終わったパフェを食器の返却口まで持って行き、また注文のカウンターへ向う。
「チーズケーキセット一つ下さい」
やけ食いは終わってなかった様だ。
『まだ食べるのかい?程々にしないとお腹が痛くなっても知らないよ』
アリアのやけ食いに呆れるカタストロフ。
そしてアリアの方はと言うと心の中でお前は母親か、と突っ込みを入れた。
案の定、夜中にお腹が痛くなりトイレの主となったアリアであった。
『言わんこっちゃない』
「……うるさい」




