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113:街道を行く冒険者とアリア

 街道をネッタに向かって一両の馬車が走っていた。

 特に変哲の無い幌馬車で御者台には中年の少し恰幅の良い商人の男と如何にも冒険者と言った体の青年、馬車の後方にも冒険者の様相をした青年と女性が待機していた。


 御者代に座っている冒険者の青年レナードは横に座っている商人の護衛でネッタの北の中継都市のデランドからやってきた。

 レナードはネッタを中心に活動する冒険者の一人で一緒に護衛を受けている青年ラッカと三人組の紅一点のレナスとパーティーを組んでいる。

 三人共、Bランクの冒険者でそれなりの経験を積んでいる。


 デランドは神教の中心であるヴェニスとネッタの中間にあり、バクリュール公国を結ぶ街道との分岐点でもある。

 デランドから三日の旅程だったが、何事も無く進んでいた。

 レナードは周囲を警戒しながらもネッタと半日も掛からない距離まで来ており、日が沈む前に街へ入れる事に静かに安堵を覚えていた。


 主要街道とは言え安全が保証されている訳では無い。

 人里を離れれば魔物は普通に現れるし、盗賊だって珍しくも無い。

 特に荷物をたくさん積んでいる商人の馬車は盗賊から見たら格好の獲物だ。

 その為、商人は移動の際は必ず護衛を付けて移動する。


 ネッタの様な交易都市やデランドの様な街道の分岐点の街の冒険者ギルドでは商人の護衛依頼が多い。

 護衛依頼は誰でも受けられる訳では無い。

 個人の護衛であればCランク、商人の護衛であればBランク、貴族の護衛であればAランク以上と最低ランクが冒険者ギルドによって設けられているのだ。

 これは護衛依頼のリスクを考慮した結果である。

 冒険者にとってランクとは実力だけでは無く、これまで積み上げてきた信用とも言えるのだ。

 レナード達も地道に実力と信用を築き上げてきたパーティーと言える。


 馬車は小さな丘を越えようとしていた。

 この丘を越えればネッタの街が見えてくる。

 レナードはふと前方の茂みに何かがいる様な違和感を覚えた。

 彼は腰に提げた剣で床を二回叩く。

 その音に後ろにいるラッカとレナスも反応し、周囲への警戒を強める。


「どうしましたか?」


 レナードの突然の警戒に商人の男はは声を潜めて尋ねる。


「オーウェンさん、近くに何かが潜んでいるかもしれません」


「だ、大丈夫でしょうか?」


 その言葉にオーウェンは不安を覚える。


「分かりません。取り敢えず、私達が馬車を降りて周囲を警戒しながら進めましょう」


 レナードの予想では盗賊では無く、魔物が潜んでいると踏んでいた。

 ここの丘は茂みが点在する以外は見晴らしが良く、盗賊が襲撃するには向いていない場所だ。

 そうすると考えられるのは魔物だけだ。

 魔物も威圧しながら進めば襲ってこない場合もある為、速度は落ちるが周囲で警戒しながら進む判断をしたのだ。

 レナードとレナスが馬の左右に陣取り、ラッカが馬車の後方の警戒に当たる。


 馬車がちょうど茂みに差し掛かると茂みから赤い影が躍り出て、馬に跳び掛かろうとした。

 レナードは直ぐにその間に入り、剣で弾き返す。

 周囲の茂みからぞろぞろと赤い狼の魔物が姿を現す。


「ヘルハウンドか……」


 レナードは厄介な魔物が現れたと思った。

 赤い狼の魔物、ヘルハウンドはこの大陸の中部地域の森、平原に生息する魔物で気性が荒く、獰猛で危険な魔物だ。

 単独だとBランク下位の魔物ではあるが、群れで行動する為、下手なAランクの魔物よりも危険と言われている。


「コイツらを振り切って逃げるのは無理だ!応戦するぞ!だが馬車からは離れるな!オーウェンさんは馬車の中へ!」


「はい!」


「了解!」


 レナードの号令に応じ、レナスとラッカも臨戦態勢に入り、オーウェンは御者台から荷台へ隠れる。

 ヘルハウンドが十匹弱の群れで馬車の周囲を取り囲んでいた。

 正直、楽観視出来る状況では無かった。

 一体であれば問題無く倒せるが群れとなれば話が変わってくる。

 ヘルハウンドの様な群れで連携を取ってくる魔物は特にそうだ。


 レナード達は襲い掛かってくるヘルハウンドの攻撃を凌ぎながら反撃の機会を必死に伺う。

 護衛対象を護りながら自分達より数の多い魔物を相手にするのは厳しい。

 三人は必死にヘルハウンドを仕留めて数を減らそうとするが、向こうも警戒しながら応戦しているのでそう簡単に仕留める事が出来ない。


 そんな膠着状態の戦況の中、突如前方から颯爽と黒い装備を纏い大剣を手にした少女が現れた。


「やぁぁ!!」


 その少女はヘルハウンドの背後から一閃。

 目の前の冒険者に気を取られていたヘルハウンドは避ける事も出来ずに大剣の一撃に力無く倒れた。

 そして、それはヘルハウンドの群れの統率を乱すには充分だった。

 予想外の襲撃者に戸惑いを見せるヘルハウンドの隙をレナード達は見逃さなかった。


「たぁっ!!」


 その一瞬で三匹のヘルハウンドが倒される。

 数が減れば対処はしやすい。

 大剣を持った少女は馬車の外側にいるヘルハウンドを薙ぎ倒していく。

 連携の瓦解した群れは戦線が崩壊し、レナード達に各個撃破されていく。


 大剣の少女が参戦してからあっと言う間に周囲のヘルハウンドは一掃された。


 レナードはラッカとレナスにオーウェンの事を頼み、加勢したくれた少女の方へ向かう。

 少女は大剣を一振りし、剣に付いた血を払って背中に担ぐ。

 少女が振り返り、レナードに声を掛けた。


「大丈夫?」


「君のお陰助かったよ。ありがとう」


 レナードは青い髪の黒に赤い差し色で縁取られた外套を羽織る少女に一瞬、ドキッとした。

 まだ幼さの残るその顔が目に焼きついた。

 そしてこの少女がヘルハウンドを倒した事に内心驚いていた。


「ううん、偶々襲われているの見えたから……」


 少女は控えめに首を横に振った。


「本当に助かったよ。まさか街道でヘルハウンドの群れに遭遇するとは思わなかったからね。君のお陰で雇い主も荷も無事だったから」


 レナードはにこやかな笑みを浮かべながら素直に礼を述べた。


「そう言えば名乗るを忘れていたよ。僕はレナードだ。Bランクだ。よろしくね」


 レナードは少女に向けて手を差し出す。


「私はアリアだよ。まだEランク」


 アリアはレナードの手を取り握手を交わす。

 レナードはアリアがEランクな事に驚いた。

 年齢で言えばまだ少女と言って差し支えないと思ってはいたが、ヘルハウンドを単独で倒す腕を持ちながらEランクだと言うのが信じられなかった。


「それだけ強いのにEランクなのかい?」


「昨日、登録したばかりだから」


 レナードはアリアの答えに少し予想が出来た。

 偶にあるのだ。

 別口で鍛えていた強者が突如、冒険者になりランク不相応な強さを持っているパターンが。


「なるほどね。君はこれからどうするんだい?僕らはネッタへ向かうんだけど」


「アリア!」


 突如、アリアを呼ぶ声が響き、アリアは後ろを振り向くとリアーナとハンナが走ってこちらへ向かってきた。。

 二人は森を抜けた所でアリアを見失い探すのに手間取ってしまった。


「リアーナさん!?」


 アリアはすっかり二人の事を失念していた事に気付き、少し気まずそうな顔をした。

 アリアは森を出てからレナード達が襲われている所を発見したのだ。

 メイルスパイダーと言うご馳走を前にどうするか悩んだアリアだったが、目の前で戦っているレナード達を放っておけなかった。

 当然、追い掛けていたメイルスパイダーには逃げられてしまった。


 リアーナは辺りに魔物の屍骸が散見しているのが目に入った。


「アリア、これは何かあったのか?」


「レナードさん達が襲われていたから応援に入ったの」


 リアーナはアリアの傍にいる冒険者の男に目を移す。


「彼女のお陰で助かったよ。ヘルハウンドがこんな街の近くに現れるとは思ってはいなかったからね。彼女が来てくれなかったら危なかったよ」


 リアーナは魔物の屍骸を確認する。

 確かにそれはヘルハウンドだった。


「それなら良かった。アリアも良くやったな」


 アリアはリアーナの言葉に笑顔を浮かべる。

 純粋にリアーナに褒められた事が嬉しかった。

 だが褒められるだけでは終わらなかった。


「でも一人で魔物を追い掛けるのは頂けないな。ああ言う行動は周囲に迷惑を掛けるとは思わなかったか?」


 アリアは自分の取った行動を思い返し、しまったと気が付き、肩を落とす。

 ついメイルスパイダーと言うご馳走を目の前に周囲の存在が目に入って無かった。

 突如始まったお説教にレナードは可愛い所もあるんだな、と思った。


「森で団体で入る時、単独行動の危険性はアリアの方がよく分かっている筈だ」


 森での知識はアリアの方が二人より詳しかった。

 当然、複数人で行動している時に誰かが単独行動をする危険性も充分理解している。


「今回は何も無かったが、万が一が無いとも限らない」


 完全に肩を落として意気消沈するアリア。

 突然、始まったお説教にまぁまぁ、と言ってレナードが間に入る。


「そのお陰で僕らが助かったので許してあげてよ。後、日が沈む前に街に入りたいんだ」


 リアーナはしまった、と言わんばかりに頭を下げた。


「すまない。私達も街に戻るから一緒に行こうか?」


「そうしてくれると助かる」


 アリア達とレナード達は一緒にネッタへと向かった。




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