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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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107:アリアの精神状態

「それ以前に貴様は何者だ?」


 リアーナは警戒を崩さずに尋ねた。


「あぁ、僕はカタストロフ。悪魔王とか破壊の魔王と言った方が分かりやすいかな。契約者の諸君」


 リアーナとハンナはある程度予想はしていたが、彼の破壊の魔王と名高い悪魔カタストロフがこんな何処にでもいそうな青年だとは思いもしなかった。

 正直、拍子抜けしたと言っても良い。


「あれ?何その反応は?みんなもっと驚いても良いんだよ?こう、何と言うかまさか!?や何だと!?みたいな」


 カタストロフは二人の反応が余り無い事にもっと反応を返して欲しいと言わんばかりだった。

 リアーナは思った。

 悪魔が思いの外、人間臭いと。


「少しは驚いてくれてそうなだけマシなのかな?彼女の時は本当に凹みそうだったから……」


 その様子に申し訳無さそうにハンナが聞いた。


「アリア様が何か変な事を仰られたのですか?」


「嫌、そもそも僕の存在を知らなかったんだよね。僕って、そんなマイナーな存在かな?神教の聖女が僕を知らないって有り得ないよね?」


 ハンナは原因に物凄く思い当たる節があった。


「大変申し上げにくいのですが、恐らくアリア様は授業で習っている筈です」


「え、でも彼女知らなかったよ?」


「それがですね。その授業の担当の時は居眠りをしているか悪戯をして逃げ回っているかのどちらかだったので……」


 横で話を聞いていたリアーナは困った顔をしながら頭に手を当てた。

 マイリーンの授業風景を思い出していた。


「それ以前に僕の話って、有名だよね?」


「はい。私は当然、存じておりますが、アリア様は読書はあまりお好きでは無いのと、孤児院で育ったのでそう言うお話をする方がいなかったのでは無いかと」


 正にハンナの言う通りだった。

 孤児院にいた時はアリアは本を読むより外で遊ぶ方が圧倒的に多かった。

 そしてある程度大きくなるとシスターの手伝いだったり、自分より小さい子の世話でそれ所では無かったのだ。


「彼女が特殊なんだよね?」


「誠に残念ながら……」


 リアーナは少し恥ずかしかった。

 この辺りでは誰もが知っている話をアリアが知らず、更に授業で居眠りしていた事に。


「すまんが、その話は置いておいて、アリアの事を説明して欲しいのだが?」


 話が脱線してしまっているのを軌道修正をする。

 余り居眠りの話をされると義理とは言え母親として辛かった。


「ごめん、ごめん。彼女の話なんだけど、普通に見えてかなり危ない状態だ」


 カタストロフが真剣な顔付きに変わる。


「彼女の心は一度、壊れていて僕が修正したんだ。例えるなら割れた硝子のコップを接着剤無しで治した状態だと思ってくれて良い」


 その例えに如何にアリアの精神が危ないのか理解出来た。


「ちょっとした感情の揺れ動きで崩れ掛かってしまう。さっきのは君達を巻き込んでしまったショックによる物だろう。彼女にとって余程大事な存在なんだろうね。こうなると分かっていたから君達が契約者だと言う事は彼女に教えなかったんだ」


 カタストロフはアリアがこうなる事は予想出来ていた。

 誰もいないあの地下の奥深くでアリアがこうなれば脱出所では無くなる。


「……つまりアリアの精神は一度死んでしまったと言う事か?」


「そう言う事だね。あの地下でやる事は無いから眠っていて、彼女の存在に気が付いた時には体は生きてはいたけど心が完全に壊れてしまっていたんだ。あれを治すのは大変だったよ。正直、二度とやりたくないね」


 本当に大変だったよ、と疲れた顔で言うカタストロフ。

 リアーナはアリアの精神が一度、壊れてしまっていた事実に思わず奥歯を強く噛み締める。


「あの封印は君達で破る事は出来ないから無駄だったと思うよ」


 リアーナの思っている事を読んだかの様に言った。

 あの封印が破れなければアリアの救出は不可能なのだ。


「貴様の目的は何だ?何故、アリアに肩入れをする?」


 リアーナにはカタストロフがアリアを助ける理由が分からなかった。


「僕はね。アメリアを探しているんだ」


「遺体をか?」


 リアーナは既に亡くなっている人間を探す意味が理解出来なかった。


「彼女は死んでいない。と言うか人間如きが彼女を殺せる筈が無いんだ。アメリアを殺せる者は僕と数える程の奴しかいないよ。この五百年の間、表に出てこない所を見ると何処かに囚われている可能性が高そうだけどね」


 リアーナとハンナはカタストロフの言葉を容易に信じる事は出来なかった。

 聖女アメリアは今から五百年も前の人物なのだから。


「ま、そんな顔をするとは思ったけどね。そもそも彼女は人間じゃないからね」


「それはどう言う事だ?」


「言葉のままの意味さ。アメリアの真実を知るにはまだ早いからこれ以上は話せない。別にアメリアを殺したいとかそう言う訳じゃ無いから。僕があそこに封印されたのはアメリアの為だったんだけど、僕がいない間にこんな事になっているとは思わなかったよ」


「まだ早い……か。因みに何故生きていると思うんだ?」


「それは難しく無いよ。アリアを見て驚いたよ。アメリアと瓜二つなんだから」


 リアーナはカタストロフの言葉に王宮で見た聖女アメリアの肖像画を思い出した。


「つまり、アリアが聖女アメリアだと?」


「ある意味正解で間違いだ。彼女を治している時に記憶を覗いたんだ。彼女が何処で生まれたのかが気になってね」


 記憶を覗くのは褒められた行為では無い。

 だが今、それを突っ込んでも意味が無い。


「彼女が生まれたのは人間の女性の中からでは無い。液体が詰った硝子の様な入れ物の中だ」


 その言葉に困惑を隠せない二人。


「アリアは……何者かの手によって作られたと言う事か?もしかしてアリアの正体は……」


 リアーナには既に答えが導き出されていた。

 だがそれは受け入れ難い事実だった。


「君の予想通りだよ。彼女はアメリアの複製だ」


「そんな馬鹿な……でもそれならアリアの謎な点も合致する」


 異様に高い魔力の保有量、絶大な効果を持つ治癒魔法、聖女アメリアと一緒の顔。

 これらは聖女アメリアの複製と言われてしまえば納得出来る。

 カタストロフはアリアが使う魔法で更なる確証を得ていた。

 アリアが神殿で使用した狂気の審判ジャッジメント・インサニティ災禍の顎門ヘスティアーマ・カウリオドゥースはカタストロフの力による物では無い。

 この魔法は心象魔法と言い心の風景を具現化する。

 そしてこの魔法は聖女アメリアしか持ち得ない魔法なのだ。

 アリアには心象魔法に関する知識は無かったが、過去にカタストロフが見た心象魔法の光景を力と共に引き継いだ為、使えるのだ。

 だがアリアはこれも引き継いだ力だと勘違いしていたりする。


「そうすると聖女アメリアにもアリアと同じ治癒魔法の特性があったと言う事か?」


 リアーナはアリアの持つ特性の事を口に出す。


「治癒魔法の特性?」


「あぁ、アリアの治癒魔法には特殊な特性があるんだ。正直、何であんな特性があるのか未だに信じられないが、傷を悪化させる特性がある」


 カタストロフの表情が神妙になる。


「アメリアにはそんな特性は無い筈だよ。魔法の適正は生まれもそうだけど、後天的な要素も少なからずあるからね。それにしても傷を悪化させる治癒魔法とか初めて聞いたよ」


 悪性の特性についてはアリアは話していなかった。

 本人はそれが重要な事だと思っていなかったのとリアーナから口止めされていた事もあった。


「話が逸れたけど、彼女が複製だとするなら何処かにアメリア(本体)がある筈だ。僕はそれを探し出したい。彼女と一緒なら手掛かりが得られる感じがしたからね。ま、彼女を利用しようとしている事には変わりは無いよ」


 と前置きしながらカタストロフは何処か自嘲気味に言った。

 カタストロフはアリアを作った製作者が何らかの形で接触してくると踏んでいた。


「それでも僕にはアメリアと同じ姿の彼女を放っておく事は出来なかった。ある意味、未練がましいとも言えるんだけどね」


 二人はカタストロフの言葉を理解は出来なかったが、アメリアに対して並々ならぬ感情を持っている事は窺い知れた。


「出来れば君達には彼女を支えて欲しいんだ。彼女は一人で事を成すつもりでいるんだけど、はっきり言って彼女で一人で成すのは無理だ。僕としてはアメリアが見付かれば復讐なんてどうでも良いんだけどね」


「それなら言われるまでも無い。アリアは私の娘だからな」


 アリアが例え聖女アメリアの複製だとしても、リアーナの中では自らの娘である事には変わりは無かった。

 寧ろ当然の事だと言える。


「話が早くて良い。本当は僕ももう少し協力してあげたいんだけど、力の半分以上を譲渡してしまっているし、当面は彼女の精神維持に力を注がないといけないからね」


「そこは頼らざるを得ないのが悔しいな」


 リアーナは唇を噛む。


「君達が彼女をしっかり支えてくれれば半年ぐらいあれば全快とまでは行かないけど、自立出来るぐらいにはなるかな」


 リアーナは静かに眠るアリアに目を移す。

 前に会った時は無邪気で少し悪戯が好きな子だったのが、魔王の力を宿して、壊れている心で復讐を成そうとしている事が酷く心を苛む。

 仕方が無いと言ってしまえばそれまでだが、それでもアリアを守る事が出来なかったのは事実。

 こうして苦しめる結果となってしまった。

 リアーナは拳を硬く握る。

 復讐は望まないが神教へ対する憤りが消える事は無い。


 その表情をハンナは見逃さなかった。

 ハンナも守ると誓ったアリアを守れなかった事を悔やんでいた。

 サリーンの感情の変化に気が付いていたにも関わらずこの結果を招いてしまった。

 力が無い事であの場から逃げる事しか出来ない自分が情けなかった。

 自分の力が無い事に嘆いた。

 悪魔との契約はハンナにとって渡りに船だった。

 今度こそアリアを必ず守ると胸に秘めていた。




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