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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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105:襲撃者無惨

 アリアは地の底から地上へと続く長い螺旋階段を上っていく。

 深淵の寝床と地上を繋ぐ階段はかなり長く、歩けど歩けど地上まで中々着かない。

 下りる時はそう感じる余裕が無かった。

 改めて見ると地下へ向けて掘られた穴はまるで螺子穴の様に階段が続いている。


 アリアはどうやってここを掘ったのか謎だと思った。

 人力で掘るには規模が大き過ぎるからだ。

 この穴は貴族の屋敷ぐらいだったら簡単に収まる程の直径があるのだ。


 深淵の寝床は神教の文献にもはっきり書かれていない程、古くから存在している。

 この巨大な地下へと続く場所は誰が何の目的で作ったのかは解明されていない。

 神教が唱える通説は女神アルスメリアが悪神を封印した場所と言う物だ。

 だが神話に悪神は出て来ないので、研究者達は神教の唱える通説を否定している。

 そして、現在は悪魔を封印する場所として使われている。


 ある程度上ると暗がりの所為で底が見えなくなってきた。

 その代わり階段の先が漸く見えてきた。

 階段を上り、目の前の通路を進み扉を開ける。

 そこには一際広い長い廊下が続いていた。

 アリアは扉を過ぎると足を止める。


 一見、何も無いただただ長く続く廊下だが、明らかに敵意のある気配が複数潜んでいるのをアリアは感じ取っていた。

 今まで戦いとは無縁だったアリアだが、カタストロフの力を受け継ぐ事により、人としては感じられない負の感情の気配を鋭敏に感じる事が出来る様になっていた。

 特に自らに向けられる敵意、殺意、嫉妬、渇望、憤怒と言った感情が手に取る様に分かる。


 アリアはその気配に気付きながらもそこには何も無かったかの様に歩みを進める。

 静かな空間にひたひたと裸足で歩く足音だけが響く。


 潜んでいる者達はアリアが己の存在に気付いているとは露とも知らない。

 近づいてきた所で息の根を止めるつもりでいた。

 彼らはボーデンの命によりアリアの奪還に来るであろうリアーナ達を抹殺する為にここに待機していた。


 予想外だったのは封印を破ってアリアが目の前に現れた事だ。

 彼らは正直、困惑していた。

 アリアに関しては何も命令を受けていなかったからだ。

 彼らはアリアをどうするべきか判断に迷った。


 だが封印されていた者が逃げ出そうとしているのであれば殺してしまって良いのでは、と彼らは考えた。

 息を潜めてアリアが近づくのを待つ。

 足音が徐々に近づいてくる。

 彼らは知らない。

 アリアがもう聖女では無く単なる復讐者と成り果ててしまった事を。

 そして彼らには見えていなかった。

 暗がりでアリアが返り血で血塗れの姿だと言う事に。


 足音が止む。

 潜んでいた者達はアリアの行動を訝しむ。

 このタイミングで歩みを止める意味が無いからだ。


 アリアは足を止め、近くに獲物がいる事に喜びを感じ、笑みを浮かべる。

 そして両手を広げて魔力を解放する。


「狂え、狂え、杯は血に満たされ其の血は愚者の血也。我が心の欠片から導き血の審判を此処に下さん」


 詠唱と共に血の様に赤い魔法陣がアリアの足元に浮かぶ。

 その光景を目の当たりにした彼らは自らの存在が気付かれていた事を知る。

 それと同時に柱から躍り出る。

 目の前の少女の息の根を止めようと殺到する。

 アリアは躍り掛かってくる者達を見て妖しく口角を吊り上げた。


狂気の審判ジャッジメント・インサニティ


 魔法陣から赤い光が彼らに向かい、赤い魔力の鎖に変わり、それに囚われた瞬間、潜んでいた者達は赤い十字架に突如、磔にされる。

 そして通路に柱と同じ様に整列した形で赤い十字架が並べられた。

 彼らも一瞬でこの様に拘束されるとは思いもしなかった。

 抜け出そうと必死に抵抗を試みるが、拘束は強固でビクともしない。


 アリアは一人に男へ近づく。


「これ、誰の命令?」


 何も話すつもりは無い。

 彼らは神教の人間と言うよりはボーデンの私兵だった。

 ボーデンの命で密偵や暗殺を行っている部隊でカナリス家に代々受け継がれている影の部分。

 彼らはカナリス家に忠誠を尽くしており、裏切る事は無い。

 万が一、裏切ればそこには死が待っている。


 アリアは男の顔に触れる。

 男はアリアが触れた部分に湿った感触がある事に違和感を覚えた。

 それはずぶ濡れの手で触られたかの様に。

 男は気付いた。

 魔力の光に照らされたアリアの様相に。

 全身血塗れでその手も滴る程濡れていたのを。


 男はアリアを見るのは初めてでは無かった。

 監視の為、何度もその姿、顔を見ていた。

 その時の彼女はもっと明るく血生臭さとは無縁の存在だった。

 よくよく考えれば彼女は封印されていたのにどうやって出たのだろうか?

 男は今になってこの疑問が湧いた。


 下には常駐の神官達がいる事は事前に聞いており、彼らが上がってくる様子は無い。

 そして血塗れの目の前の少女。

 血生臭い道を進んできた男にはアリアの血が返り血である事は容易に判断出来た。

 そこから導き出される答えに男は戦慄した。


 そんな事は有り得ないと男は思った。

 深淵の寝床の入り口に待機している神官は悪魔狩りのエキスパートだ。

 対悪魔に特化しているとは言え、戦闘のプロフェッショナルに代わりは無い。

 戦いを知らない少女に負ける道理が無いのだ。

 だが今、自らが置かれている状況を考えると否定は出来ない。

 彼らとてプロフェッショナルなのだ。

 そう易々とやられる様な者達では無い。

 しかし、現実として見知らぬ魔法で十字架に磔にされ、身動きの一つも取れない状態だ。

 そう、現実に少女はプロフェッショナルである男達をいとも簡単に拘束し、生殺与奪の権利をその手に収めていた。


「教えてくれないかな?」


 アリアは首を傾げて問う。

 その動作は無邪気な様で非常に不気味に男は感じた。

 男は黙秘を貫いた。


「ま、たくさんいるから問題無いよね」


 アリアの言葉に不穏な物を感じた。

 手足を動かそうとするが、体を縛る鎖に緩む気配は無い。

 無駄な抵抗をする男にアリアは詰らなさそうな顔をした。


「もう良いや。さよなら」


 アリアのその言葉と同時に十字架から無数の棘が突き出し、男の体を貫き、血を噴き出しながら絶命する。

 その血を浴びながら平然としているアリアに男達は恐怖した。

 次は自らの番だと言う事に。

 アリアはなんて呆気無いのだろうか、人はこうも容易く壊れるのかと思いながら男の心臓を抜き取った。

 他の男達は何をするのか全く理解出来なかった。

 アリアは手に掴んだ心臓を街の露天で買った果物の様に齧りつく。

 その口から血を滴らせながら振り向く。

 彼らにはアリアが正に人食いの悪魔の様に見えた。


 血で濡れた床を湿った足音が響く。

 その音は彼らにとって死へのカウントダウンに聞こえただろう。


「誰か教えてくれると嬉しいな。そうすれば解放してあげるよ」


 アリアの言葉は悪魔の囁きその物だった。

 彼らは迷う。

 助かる為には話すしか無いが、話しても同じ末路が待っているのではないかと。

 だが拘束されているこの状態で助かる可能性は喋る以外に無い。

 例えそれが悪辣な罠の可能性があっても。


「ボーデン様だ!ボーデン様の命を受けて侵入者の排除を命令されたんだ!」


 一人の男が叫ぶ様に言った。

 アリアは笑みを浮かべ男の方へ向いた。


「じゃ、他のは処分だね」


 その言葉と同時に先程の男と同様に十字架から突き出てきた棘に串刺しにされて喋った男を残して絶命した。


「で?」


 アリアは他には、と聞きだす。


「私達はカナリス家に仕えていて諜報行っている部隊だ!聖女奪還に来る者がいるから侵入者を排除する為にここで待機していたんだ!」


 これが唯一、助かる術と信じて男は必死になって言葉を吐き出す。

 仲間が死んだ今、恥を気にする事も無い。

 生きる為に形振り構ってはいられなかった。


「他には……私の事を何か言ってなかった?」


 アリアは本題を切り出す。


「ボーデン様は次の教皇になるのに邪魔だからと仰られていた。私達がやっていたのは監視だけだ!」


 監視程度であれば予想の範囲内だった。


「アナスタシア様を殺したのはあなた達?」


「違う!私達では無い!」


 男は首を必死に横に振る。


「あの時はお前の監視をしていた!恐らくガリア大司教の手の者だ!」


 アリアはあまり聞き覚えの無い名前に記憶を辿る。

 しかし、何も引っ掛からなかった。


「誰それ?」


「ガリア・ノルンド大司教、カナリス派の中でも強硬派と言われる連中の筆頭だ。狡猾で油断ならない爺さんだ」


 神教に大司教の地位に就く者は二十人近くもおり、仕事の繋がりが無ければ知らない事は珍しくも無い。


「異端審問を担当するのがガリアだ」


 実際、アリアはガリアと会っている。

 だが尋問時に相手が名乗る訳では無いので顔と名前が一致しないのだ。


「ふーん……」


 その名前を心に刻んだ。

 自らを嵌めた人物の一人として。


「なぁ、頼む。助けてくれ!知っている事は話した!」


 男は必死に懇願する。


「うん、解放してあげるよ。その十字架から」


 アリアは素直に十字架を消して男を拘束から解放した。

 それと同時に肉塊と化した男の同僚達も地面に転がり一面、血の海を作る。

 アリアは踵を返して男に背を向けて神殿の入り口の方へ歩いていく。


 男は助かったと安堵する。

 アリアの背中を見つめながら懐からダガーを取り出す。

 仲間の敵を討つべく男は無防備なアリアの背中へ向けて駆け出す。


「喰らい尽くせ、災禍の顎門ヘスティアーマ・カウリオドゥース


 小さな声で魔法を発動した。

 アリアは最初から男が襲ってくる事が予想していた。

 そして襲い掛かってくるのを待っていた。


 男は突如、体が宙に浮き腹部に強い痛みを感じた。

 地面から巨大な獣の顎門によりその体を咥えられていたのだ。

 周囲を見ると地面から這い出てきた獣の顎門が男へと襲い掛かる。


「折角、助けてあげたのに残念」


 詰まらない見世物を見た様な顔で獣の顎門に無惨に食い千切られる男を見て言った。

 その獣は肉塊となっていた男達も食い尽くした。


 その場に残ったのはただの血溜りだけだった。




ヒルダ「アリアちゃんの新しい能力がここで披露されましたね」


アリア「心象魔法だね。結構、便利だけど外だと悪目立ちするからリアーナさんから禁止されてるんだよね」


ヒ「確かにあれはちょっと……私の練成もあれですが、アリアちゃんのはちょっと異端染み過ぎてアウトですね」


ア「便利だけど一章だと基本、外での戦闘だったから使えなかったんだよ」


ヒ「それにしてもえげつない魔法ですね。十字架で拘束して串刺しですか……それに魔獣の一部を具現化させて食わせるとか……血生臭いにも程がありますよ……」


ア「いや、ヒルダさんも充分血生臭いからね。追っ手を練成した剣を飛ばして串刺しにしてるからね。私だけじゃないよ」


ヒ「それは何と言うか……マイリーンさんが私達の良心」


ア「マイリーンさんだけ残酷描写が無いもんね。リアーナさんも少なめかな」


ヒ「私もその部分は具体的には書かれていないのに……」


ア「いつかヒルダさんも私と同じ感じに」


ヒ「なりません!さ、アリアちゃん、ハンナさん特製の美味しいクッキーが」


ア「食べる!!と言うかクッキーで私を釣ろうとしてもダメだよ」


ヒ「このクッキーはお預けですね。特製プリンもあるんですけどねぇ」


ア「ぐぬぬぬ……」


ヒ「あ、そう言えば私は用事を思い出したので」


ア「え、ヒルダさん!?おやつは!?」


ヒ「それはまたの機会で」


ア「そんなぁ~」


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