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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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103:神殿への侵入と新たな力

 一方、それと同時刻に神殿の正面では無い、神殿へ向かう道に潜む人影があった。

 この道は一般的に巡礼に訪れる者が使う道では無く、神殿の神官や出入りの商人が使う裏通路だ。


「バジールが警備を上手く街へ誘導してくれました」


 茂みに潜んでいるのは神殿へ侵入を試みるリアーナとハンナ。

 神殿の正面に現れたバジールはハンナの指示による陽動だった。


「ここからが本番だ」


 声を潜めながらリアーナは気を引き締める。

 神殿の警備を街へ誘導したが、警備がいなくなる訳では無い。

 神殿の奥の警備は厳重なのには変わらない。


『向こうには今から私達が行く事は伝わっているか?』


 カタストロフとの連絡役のアスモフィリスに聞く。


『大丈夫よ。向こうも動き始めるみたいだから』


 アスモフィリスとカタストロフは連絡を取り合いながらアリアの救出計画を練っていたのだ。


『封印の結界はカタストロフで何とかするから私達はあの子を保護して上手く脱出する事よ』


『分かっている』


 リアーナは言われるまでも無いとばかりに気を引き締める。


「ハンナ、行くぞ」


「はい」


 二人は神殿へ侵入するべく闇夜へ躍り出る。

 夜の闇に紛れて神殿内部へと侵入する。

 警備の者は立っているがあまり緊張感は感じられない。

 こちらの入り口は夜に来る者なんてほとんどいないので眠そうに欠伸をしている始末。

 リアーナはハンナに案内され、警備のいない入り口へと回る。

 ハンナは神殿の構造は凡そ把握していた。

 伊達にアリアと一緒に過ごしてきた訳では無い。

 不測の事態に備えて警備の少ない脱出経路を見つけていた。

 それが今回、侵入に役立っていた。


 気配を殺し、厨房の裏の扉を静かに開く。

 厨房から外に出る扉はほとんど施錠されていない。

 正しくは鍵が壊れていて施錠出来ないのだ。

 厨房の統括責任者は鍵が壊れている事は知ってはいるが、責任を問われるのを嫌がって、黙っているのだ。


 夜中の食堂は誰もおらず静まり返っていた。

 音を立てず素早く駆け抜ける。

 二人は迷わず神殿の最深部を目指すべく廊下をひた走る。

 何故、二人が迷わずに進めるかと言うと事前に神殿の見取り図を入手していたからだ。

 これはフィンラルがティエナ経由で情報を流していたのだ。

 しかし、フィンラルと言えども詳細な見取り図は入手出来ないので分かる範囲を記載した物だ。

 そのレベルでも王族の警護を行うリアーナが見れば隠し部屋等が何処にあるか凡そ検討が付く。

 王族の警護を指揮する立場上、王宮の隠し通路も当然、熟知している。


 封印の場所は難しい場所では無かった。

 神殿の大聖堂の祭壇の奥に続く扉の先、そこが深淵の寝床へと続く道だった。

 警備の者に見つからない様に息を潜めながら進む。

 深夜の大聖堂は不気味な程、静まり返っている。

 素早く大聖堂の祭壇へと近づいていく。

 神殿の祭壇は非常に大きく、人の背丈を優に超える大きさがあり、その上には非常に大きなアルスメリア像が置かれ奉られている。

 

 パッと見、扉の様な物は見当たらない。

 二人は扉の周囲を隈なく探す。

 ハンナは祭壇の脇の麓に違和感を感じた。

 石造りの祭壇を手で触れながら感じた違和感が何なのかを探す。

 手で触れると僅かに隙間がある場所があった。

 隙間を手でなぞっていくと人が一人分が通れる程の大きさだった。

 軽くその部分を押してみるが、ビクともしない。


 ハンナは壁に耳を押し当てる。

 僅かに風の動く音がする。

 つまり、この先に何かしらの空間がある事は間違い無かった。

 力付くでここを突破するのは可能ではあるが、まだ気付かれるのは早い。

 ハンナはリアーナに視線を送り、発見した入り口の扉らしき物を報告する。


 リアーナも周囲を触りながら普通には開かない事に気付き、他の場所に扉を開ける何かが無いかを探し始める。

 辺りを探すが扉を開ける手掛かりが見付からない。

 ここで時間を食っている訳には行かない。


 ふとリアーナはある場所を調べていない事に気が付いた。

 それはアルスメリアの彫像だった。

 信仰対象の像に触れる事は一般的に不敬に当たる。

 無意識の内にそこには何も無いと決め付けていた。

 リアーナは祭壇を登り、アルスメリアの像と対峙する。

 ちょうど像と正面から向き合う形になり、足を止める。


 リアーナは単なる彫像の筈なのに何かを咎められる様な錯覚をした。

 ただの彫像である筈なのに自らの心が透かして見られているかの様に。

 だが気の迷いと割り切って像を触りながら調べる。

 背中の部分の手触りに何か引っ掛かる物があった。

 像の後ろに回るとそこには僅かだが彫像に細い穴が開いていた。

 リアーナは懐から針金を取り出して穴の奥へと差し込む。

 ちょうど針金が奥へ辿り着くとカチッっと機械的な音がした。

 それと同時に重たい祭壇にある扉が開いた。


 二人は祭壇下の扉を潜るとその先には長い廊下が続いていた。

 リアーナとハンナはこの先にアリアがいると信じ、封印されている深淵の寝床へと向かう。



******



 暗い闇の底のまどろみに体を委ねながら静かに眠る少女。

 少女は眠り続けていた。

 然るべき時まで体調を整える為だ。

 持ち前の治癒能力に悪魔の力を引き継いだ事による変化で強靭な肉体へと変化をしているが、精神の疲労はそう簡単に癒される物では無い。

 カタストロフは少女を無理矢理眠らせて休息を取らせていた。

 実際に契約を持ち出した時も少女の精神に彼が介入したから会話が出来、動く事が出来た。

 少女の精神は非常に歪で成長しても普通の人間の様にはならないだろう。

 一度、壊れた心が完全に治る事は無い。

 カタストロフは少女の心が壊れてしまわない様に力のほとんどを少女の心の守りに注いでいた。


 そして、外にいるアスモフィリスからの連絡を聞き、動く時が来た。


『起きて。迎えが来るよ』


「ん……ぅあ……」


 頭に響くカタストロフの呼び掛けに一糸纏わぬその体を怠そうに起こす。

 まだ半分寝ぼけ眼をしぱしぱとさせる。


「……おはよう」


『アリア、おはよう』


 まだ寝足りなさそうなアリアに爽やかな声で返す。


「漸くここから出られるんだね?」


『そうだよ』


 アリアは長かったと思った。

 まだ閉じ込められてから二ヶ月程しか経っていないのだが、一年以上経ったかの様に思えた。


「でも誰が来るの?カタストロフの知り合い?」


 アリアはまだ誰がここまで来るのかをカタストロフから聞かされていなかった。


『契約者に違いないが、君のよく知る人物だよ』


 カタストロフは敢えて誰が救出に来るのかを教えていない。

 一時的に元気な様になったアリアではあったが、状態としては一時的に盛り返しただけで実際は割れた硝子の器の欠片を集めて組み立てただけの様な状態だった。

 その状態で精神に大きな負荷が加われば簡単に壊れてしまうぐらいに脆い状態なのだ。

 その状態でリアーナとハンナが契約者だと教えるのは危険だと判断したからだ。


「誰だろう?私の知っている人に悪魔と契約している人なんかいなかったと思うけど」


 アリアの知っている中で契約者はいなかったので首を傾げる。

 当然だ。

 どちらも契約したのは最近なのだから。


『まぁ、そんなに心配する事は無いよ。それよりその格好は何とかしないとね』


 アリアは自分の格好にあ、と声を出した。

 ここに放り込まれた時は真っ裸だったのだ。

 誰もいないここでは気にはならなかったが外に出る時は不味い。

 何より不味いのは背中の見せ掛けの契約印だ。

 これは決して人に見られる訳には行かない。


「う~ん……でもここには何も無いよ?」


 アリアは裸で外に出るのには抵抗があるのだが、この地下深くに着る様な物は何も無い。

 だがカタストロフには切り札があった。


『それなら問題無いよ。僕の空間収納に服が何着か入っている筈だから』


 それを聞いたアリアはある事に気が付いた。


「ねぇ……それ、もっと早く言ってくれても良かったんじゃない?」


 カタストロフが早く言っていればアリアは契約してから裸で過ごす必要は無かった。


『でも力が馴染んで無いから無理だったと思うよ』


 アリアは顔を膨らます。


「私だって女の子だもん。好きで裸でいる訳じゃないもん!」


 アリアの抗議にカタストロフは参った、と思った。

 仕方なくここは大人しく謝っておく事にした。


『ごめん、ごめん。僕もうっかりしていたよ。僕だって人に会うのなんか五百年ぶりなんだから』


 謝りつつも多少、言い訳も言ってみる。


「仕様が無いなー。で、どうやったら良いの?」


 カタストロフはアリアに空間収納の説明をざっくりする。

 アリアはふと疑問に思った事があった。


「私、魔法は封じられているよ?」


 アリアは隷属の首輪の効果で魔法が使えない様になっている。


『それなら問題無い。そんな首輪は壊してしまえばいい。首輪が壊れるイメージをして触ってごらん』


 アリアはカタストロフの言う通りに首輪が切れてしまうイメージをしながら首輪を触った。

 その時、首輪は無惨にも千切れ、床へと落ちる。


「え……取れた……」


 アリアは普通には取れない筈の首輪がいとも簡単に取れた事に驚嘆した。


『それが僕が破壊の魔王と呼ばれる所以さ。そして君の新たな力だ』


 アリアは自由になった首に手を当てる。

 今まで戒めていない物が無いと実感する。

 そして手を広げ自分の手を見る。

 自らに宿った力を確認するかの様に拳を握り締める。

 そこに復讐を成し遂げる力になると確信出来た。


 アリアは空間収納から何着かの服を取り出す。

 しかし、出てくる服は男物ばかり。

 そして肝心な物が無かった。


「女性用の服は無いの?」


『持っている筈無いよね。僕は男だよ』


 カタストロフはアリアの抗議に呆れながら答える。

 なので女性物の下着も当然、ある筈が無い。


「取り敢えず、着れれば何でも良いや」


 無難な服を手に取り、直に着る。

 サイズが大きいので袖と裾は捲り上げて邪魔にならない様に整える。

 着替えたアリアは祭壇へと登る。

 横に寝かしてある剣を手に取った。


『それじゃ行こうか?』


「行こう」


 アリアは静かに頷き、身に余る大きさの禍々しい剣を携えて歩み始めた。

 復讐の第一歩を。




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