表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
117/224

101:アリア救出へ向けて

 リアーナは朝から屋敷の鍛錬場で剣を振るっていた。

 アスモフィリスと契約してから自分の体を慣らす為に一日のほとんどを鍛錬に注ぎ込んでいた。

 根本的な魔力量が桁違いに上昇している為、魔力強化した時の動きが今までと比較にならない程向上していた。

 今までの自分の動きを越えているので、体を慣らす必要があったのだ。


 リアーナのその動きは舞う様に滑らかであり、力任せの剣では無かった。

 力で叩き伏せるイメージの強いリアーナだが決してそう言う訳では無い。

 持ち前の膂力を生かす為に日々鍛錬を欠かさない。

 その膂力を十全に生かす技が彼女の強さの秘密だった。

 重いハルバートをまるで普通の槍の様に扱う技量は力任せに振るって出来る事では無い。

 剣は幼い頃から鍛錬してきた武器なので体に馴染んでいる。

 それに王宮で警護に就く時はハルバートは使えないので必然的に剣になる。


『凄いわね。契約する前から人をやめているわよ』


 呆れ声で語りかけるのはリアーナと契約した悪魔アスモフィリスだ。


『誰でも鍛錬を続ければ辿り着けるレベルだ。実体化していても良いんだが』


 アスモフィリスの姿は鍛錬場の何処にも姿が無い。

 封印から解放され本来の力を取り戻したのだが、契約した事により別の障害が発生し、極力、実体化をしない様にしていた。


『それが出来ればのんびりお茶でも飲んでるわよ。相性が良すぎて困っているんだけど』


『そんな事言われても困る』


 文句を言うが、契約を持ち出したのはアスモフィリスなのでリアーナは困った顔をする。


『まさか私があなたに引っ張られるなんて思わないわよ』


 いざ契約をしるとアスモフィリスの意識は何故かリアーナの魂に引っ張られるのだ。


『で、私はどうなるんだ?』


 この状態をアスモフィリスなりに考察していたのだ。


『いつかは私とあなたが融合して私と言う意識は消えてしまうでしょうね』


 アスモフィリスの出した結論ははっきりしていた。


『お前はそれで良いのか?』


『良くないわよ。まぁ……目的を果たした後なら問題無いわ』


 アスモフィリスは少し不満そうな感じを漂わせながらも何処か諦めたような言い方だった。


『私の能力を使わなければ緩やかに進むから大丈夫よ。普通に魔法を使う分には問題無いから』


 リアーナは少し怪訝な顔をする。


『そんな事より連絡が取れたわよ』


 アスモフィリスの言葉にリアーナの顔が険しくなる。


『カタストロフの話だと毎日、ここに住んでいた時の話をされて大変らしいわよ』


 アリアが思いの外、元気そうで安堵する。


『向こうからは近づいたら連絡をくれれば結界を内側から破壊して出てくるそうよ』


『結界を壊せるのか?』


 そう簡単に封印の結界を壊せるのだろうかと思ったリアーナだった。


『それは大丈夫よ。破壊の魔王の名は伊達じゃないわよ』


 アスモフィリスは人間が張った結界程度、カタストロフからすれば紙切れの様な物だと言う事をよく知っていた。


『それなら早々に神殿へ向かおう』


 リアーナは手にした剣を鍛錬場の武器置き場へ戻す。

 そしてアリアを救う為に動き出した。



******



 リアーナを屋敷を監視する者達がいた。

 それはカーネラル王国の騎士隊の中でも特殊な部隊だ。

 主に諜報、暗殺を専門とし第零騎士隊と呼ばれ、その存在は騎士隊でも隊長、副隊長しか知らず、どの様な騎士が所属しているか明かされていない。

 今、リアーナの屋敷の周囲には十名の監視が付いていた。

 これはリアーナが規格外と言うのもあり、国王が割り振った人数なのだ。

 それだけリアーナに対する不安が大きいとも言えた。


 監視の男はいつも通り向かいの建物の屋上に潜みリアーナの屋敷を観察していた。

 この場所は周囲から目立たず屋敷の様子を監視出来る数少ないポイントの一つだ。

 ただ監視は屋敷の者には既に知られている。

 屋敷の使用人は非常に勘が鋭く、監視中にこちらに向かってお辞儀をしたりするのだ。

 これは監視している人間からすればお前が見ているのは分かっている言わんばかりの挑発だ。

 一番、酷いのは監視ポイントに監視を労う手紙と食事が置かれているパターンだ。

 これには監視を行う騎士達も困り果ててしまった。

 結果、プライドはへし折られながら監視するしか無かった。


 屋敷を監視しているとリアーナが馬車へ乗り込む姿が目に入る。

 暫くすると馬車が出発した。


「こちら鷹、対象移動、地上班追跡を頼む」


 監視の男は手元の石を口元に当てて話す。


『鳩、了解』


 彼が手に持っているのは遠距離通話が可能な魔道具だ。

 かなり希少な魔道具で第零騎士隊でしか導入されていない。

 通信範囲は王都内なら連絡が可能であり、諜報活動には打ってつけの魔道具だ。

 監視の男は再び屋敷の様子を監視する。


 三十分後、再び通信が入る。


『こちら鳩、馬車内は使用人の女が二名のみ。対象の姿無し』


 これはおかしな話だ。

 監視の男はリアーナが馬車で乗り込むのを確かにこの目で見たのだ。


『こちら鷲、馬車の中に残っているのでは?』


 自分に見間違いは無かった筈だと思った。

 馬車に残って使用人に用事を済ませる事が無い訳では無い。


『こちら鳩、再度対象が馬車にいない事を確認』


『こちら梟、鷹と同様に馬車に乗り込んだのを確認している』


 梟の監視の情報に自分の見間違いでは無い事に安堵する。

 だが途中で馬車から降りれば監視の目に引っ掛かる筈だ。

 何かがおかしい、と監視の男は思った。

 監視の男はある事を思い出した。

 それはこの屋敷が元々は王族の建てた屋敷だと言う事を。


「こちら鷹、屋敷に隠し通路が有り、敷地外に繋がっている可能性は?」


 馬車にいないのが事実だとすれば元々乗ったのがリアーナでは無かったと考えた。

 リアーナの格好に似せた者を馬車に乗せて途中で馬車の中で着替えさせたのでは無いかと。

 その予想があっているなら何かしらの陽動とも取れなくも無い。

 この屋敷が王族の屋敷であれば脱出用に敷地外に脱出出来る場所があってもおかしくは無い。


『こちら鶯、可能性有り。宰相へ確認中』


 屋敷を見るが動きがありそうな雰囲気は無い。

 監視の男には長年、諜報活動を行ってきた勘から何も無い様には思えなかった。

 だが憶測で迂闊に動かす事は出来ない。

 暫く待つと通信が入った。


『こちら鶯、屋敷に隠し通路有り。北地区の一角に出るとの事』


 監視の男はやはりと思った。


「こちら鷹、梟、鷲、雀は急いで現地で確認」


『梟、了解』


『鷲、了解』


『雀、了解』


 監視の男の指示に従い、隠し通路の出口付近を調べに行く。

 勘が当たらない事を祈っていた。

 しかし、その期待はあっさり裏切られる事になる。


『こちら雀!対象と思わしき人物の目撃情報有り。目撃時間は四時間前!』


 監視の男はその報告にしまったと思った。

 四時間があれば十分、王都外へ出る事は可能だ。

 やはり馬車は囮だと言う事に歯噛みする。


「こちら鷹、急いで王宮へ報告する!鳩以外は手分けして街門へ向かえ!」


 完全に出し抜かれた事に頭が痛くなった。

 監視の男は王宮へ連絡を入れようと魔道具を手に取った。


「こちら鷹、対象が屋敷の隠し通路から脱出。現在、捜索中」


 これは明らかに不味い状況だ。

 王国と神殿の関係に皹を入れかねない。


『こちら鷺、対象は既に王都を抜けた模様』


 監視の者達は完全にリアーナに出し抜かれていた。

 国王はこの報告にまたもや頭を抱える事になる。



******



「上手く出し抜けていると良いが……」


 リアーナはスレイプニールを走らせながら呟いた。


「大丈夫です。スレイプニールなら追い付けません。それに屋敷の皆が協力してくれています」


 ハンナは自信を持ってリアーナに返す。


「そうだな」


 リアーナとハンナはスレイプニールに跨り神殿があるヴェニスへ続く街道を北上していた。

 王都の屋敷で馬車に乗っていたのはリアーナに扮した使用人だ。

 それを囮にして少しでも監視の目を誤魔化そうとしたのだ。

 本来ならこの様な事をする必要は無い。

 だがリアーナが謹慎してから毎日、何かと用事を付けて誰かしら訪問客が来るのだ。

 その訪問客は外出中には来ず、必ず屋敷にいる時に来る。

 つまり訪問客は監視からリアーナがいるタイミングを聞いてから来ている事になる。


 外出が明確になっているタイミングで訪問客が無ければいない事がすぐにバレる事は無い。

 その為、態々囮を出したのだ。

 リアーナ達は馬車の出発する二時間前には屋敷の隠し通路から脱出していた。

 王都の街門の通過はスラムにある城壁の抜け道を利用した。

 今、走らせているスレイプニールも事前に手配させていた。

 それを城壁の抜け道の先に待機させていたのだ。


「神殿へ急ぐぞ」


 リアーナとハンナは手綱を握り、神殿へと向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ