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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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96:深淵の寝床

 アリアは冷たい牢獄で横たわっていた。

 あれから拷問と自白の強要が続いていた。

 最初は長時間の恫喝だった。

 次に待っていたのは鞭打ちだった。

 痛みで何度も意識を飛ばした。

 その度に冷たい水を掛けられて無理矢理起こされる。


 ただアリアには普通の人には無い驚異的な自己治癒能力があった。

 そのお陰で拷問で命を落とす事は無かった。

 鞭で打たれた背中も翌日には綺麗に治っていた。

 それが事態を好転に導いた訳では無かった。


 日に日に拷問は酷さを増していった。

 石を抱かせ、長時間の水責め、焼き鏝、殴打の応酬等の有りとあらゆる責め苦をアリアは受ける事となる。

 自己治癒能力が高いアリアではあったが、隷属の首輪によって魔力を封じられている為、傷は治るが欠損は治らない。

 酷く憔悴したアリアの右の眼窩にはあるべき物が無かった。

 右目の眼球が失われていた。

 拷問を行った騎士が面白半分でアリアの右目を抉り出したのだ。

 その時は痛みの余り意識を失い、目が覚めて自らの右の眼球が無い事に愕然とした。


 そんな拷問を受けても尚、アリアはやってない罪を認める事は無かった。

 向こうが無実なのを知って拷問をしているのはアリアも理解していた。

 罪を認めても処刑されるとしか思えなかった。

 それなら罪を認めるなんて事はしたく無かった。

 きっとリアーナが助けに来てくれる事をを信じていた。


 だからこそ認める事は出来ない。


 この牢に入れられて何日経ったか分からない。

 暗く冷たい陽の入らないここにいると時間の概念が分からなくなってきていた。

 拷問で意識が途切れて気が付けば牢屋へ戻ってくる。

 そんな事を繰り返す内に時間の感覚を失っていたのだ。


 そして無実の罪で投獄されて三ヶ月が経つ頃、牢屋へ騎士と神官がやってきた。

 アリアはまた拷問をしに来たのかと思った。

 横たえた体を動かす事は無かった。

 反応する意味も無い、

 どうせ無理矢理連れて行かれるのだから。


「連れて行け」


 騎士は神官に指示を出し、アリアを強引に立たせて牢屋から引きずり出す。

 無理矢理引っ張られた所為で壁に頭を打ちつけ血が流れるがアリアは気にしなかった。

 投獄された当初は声を出して抵抗したが、相手は反応を楽しむ事が分かってからは無反応を装う事にしたのだ。


 アリアは牢屋から更に深い地下へと連れて行かれる。

 暗い地の底に空いた穴をひたすら下りていく一行。

 そして一番下まで下りるとそこには大きな扉があった。

 その前には何人かの神官と見覚えがある顔がそこにはあった。


「貴様の処刑が決まったぞ」


 嬉しげにそう言ってアリアの傍へ歩み寄ってきたのは教皇の法衣を着たボーデンだった。

 アリアは言葉を発さず睨んだ。


「生意気な小娘だ。まだそんな眼をする気力があったとはな。まぁ、精々この地の底で絶望する事だ。お前は教皇を殺害した悪魔として神殿の最深部、幾多の悪魔を封じた【深淵の寝床】に封印される事となった」


 アリアは断頭台だと思っていたので意外だった。

 だがこの地の底に封印されるのは死も同然だった。

 だがボーデンにはアリアを殺せない事情があった。


「ここは聖女アメリアが封じた悪魔王カタストロフでさえ逃げ出す事が不可能な強力な結界が施されている。それは決して中からは打ち破る事は出来ん」


 悪魔王カタストロフ―――

 悪魔を統べる王とされ魔王の一角で大陸にある数々の街を焼き払った伝えられている伝説の悪魔だ。

 そしてアルスメリア神教の総本山であるヴェニスの神殿の最深部には数々の強力な悪魔が封印されているのだ。

 アナスタシアが封印したとされる煉獄の悪魔アスモフィリスもここに封印されている。


「お前は神教の人間として最も不名誉な罪人では無く悪魔としてここに封印されるのだ」


 アルスメリア神教では悪魔は人々に害を成す存在として定義されている。

 何よりも不浄な存在として扱われる。

 その為、悪魔と認定される事は奴隷より酷い扱いであり、人間に対して行う事では無い。

 だが悪魔については研究段階で詳しくは分かっていない事が多い。


「教皇であるアナスタシアを殺した悪魔アリアよ。最後に何か言う事はあるか?」


 ボーデンの問い掛けにアリアは何も言わず鋭く睨みつけるだけだった。


「ふん、良いだろう。これでお別れだ。やれ」


 ボーデンは神官に命じると神官達は詠唱を行う。

 これは目の前の扉の封印を開ける為の詠唱だ。

 詠唱が終わると扉が自然と開く。

 そこは先が見えない程長く通路が続いており、通路の左右にはいくつもの扉があった。


 アリアは騎士と神官に引っ張られ入り口を潜ると、今まで感じた事が無い様な魔力を至る所から感じた。

 その異様な魔力に思わず体を震わせる。

 アリアを引っ張る騎士と神官も何処か顔色が悪い。

 これは封印から滲み出る悪魔の魔力の所為だと云われている。

 通路は長くどんどん奥へと進んでいく。

 ただ一行が歩く音だけが響き渡る。

 そして奥へ進めば進む程、異様な魔力が濃くなっていく。


「ここがお前の朽ち果てる場所だ」


 ボーデンが指したのは一番奥の手前の扉だった。


「精々、絶望するが良い」


 扉が開けられ、アリアは体を放り投げられる様に部屋へ放り込まれる。

 バランスを崩して地面に転がる。

 顔を横に向けると部屋の扉が閉められようとしていた。

 隙間から僅かにボーデンの顔が見えた。

 その顔は笑みを浮かべアリアを見下す様に見ていた。

 最後までアリアはボーデンを睨みつける。

 しかし、部屋の扉は無情にも閉じられる。


 部屋の外では詠唱を唱える神官の声が聞こえた。

 それはアリアのいる部屋を封印する結界を張る為だ。

 そしてアリアは朽ち果て様が永遠にここから出る事が出来なくなる。

 大きな魔力が発動すると、外にある気配が遠ざかっていく。


 アリアは部屋の奥の壁にもたれ掛かった。

 リアーナの事を思い出していた。


 出会った時は侯爵家の人と聞いてとんでもない身分の人だと思って萎縮した。

 聖女と言う名目で身売りされたのだと思った。

 でもそれは違う事が分かった。

 リアーナは寂しい時は横で一緒に寝てアリアを慰めた。

 気が付けばリアーナの横はアリアにとって安心出来る掛け替えの無い場所となっていた。

 アリアには母親と言う物がどう言った存在なのか分かっていなかった。

 でもリアーナはアリアの中で母親と思える様な存在だった。

 アリアを暖かく包み込み、大きく強い背中で守り、困った事があれば導いてくれる存在。

 世間一般的な親子関係とは若干ずれている二人の関係だが、アリアにとってはリアーナが唯一の母親だった。


 見知らぬ生みの親に何も感情が湧かないが、リアーナはそうではない。

 この地の奥に閉じ込められて二度と会えないと思うと辛かった。

 せめて最後に会いたいと思い、涙が流れた。

 床の石畳が涙で濡れる。

 ただ静寂に包み込まれた空間にアリアのすすり泣く声だけが空しく響いた。



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