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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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95:カーネラル王国の事情

 国王は執務室で頭を抱えていた。

 神殿から連絡があったアリアが教皇を殺害した件の事だ。

 何度か国王自身もアリアと話した事があるし、教皇であるアナスタシアとの仲が良い事も二人で訪問した時にその様子を見ているのでよく分かっていた。

 だからこそ今回の件は不可解だった。

 しかし、詳細はまだ何も分かっていない。

 神殿からはアリアを教皇殺害容疑で拘束したと言う連絡だけしか来てないのだ。

 神殿の連絡係に聞いても詳細は聞いておりません、とオウムの様に返事をするだけだ。


 そしてこの件を聞いたリアーナが王宮で大暴れした件も頭痛の種だ。

 負傷者は二十名以上、殺気に当てられて気を失った者が五十名以上、更に暴れた場所は半壊、ほぼ廃墟と化している。

 死人が出なかった事は幸いとも言えた。

 ただこの件が長引けばリアーナが国を離れてでも神殿に乗り込むと国王は踏んでいた。

 謹慎六ヶ月にしたが、ほんの気休めでしか無い。


 それはカーネラル王国にとって英雄を失うと言う大きな損失だ

 実際、リアーナ一人にカーネラル三強二人掛かりで敵わなかったのだ。

 ヴァレリアが止めなければ敗北は確定していた状態だ。

 北に構えるランデール王国との事を考えるとその損失は避けたい所だ。

 直近で二回の戦争をし、どちらも勝利を収めたが、両方ともリアーナの活躍が大きかった。

 特に先の戦ではリアーナ一人でランデール王国の一部隊を殲滅すると言う非常に大きな功績を残している。

 それだけに何としてもリアーナを失う訳に行かないのだが、引き止める材料が国には少なかった。


 リアーナの大切にしているアリアが神殿で拘束されている。

 更に王国と神殿との間にはお互いの内情には不干渉の取り決めが存在しており、拘束されているアリアへの対処が何も出来なかった。

 急ぎで密偵に神殿を調査させているが、何処まで状況が掴めるかはまだ分からない。

 そんな悩める国王の傍には王太子であるヴィクトルが控えていた。


「父上、アリアが教皇猊下を殺害をするとは到底思えません」


「そのぐらい分かっている」


 息子の言葉に国王は少し苛立ちを見せながら返した。


「怪しいのは枢機卿のボーデンだ。あの二人を排除して利益があるのはあの男だけだ」


 国王もリアーナと一緒の答えに辿り着いていた。


「かと言って神殿へ迂闊にちょっかいを出す事は出来ん」


 カーネラル王国の隣国であるランデール王国、ガル=リナリア帝国はアルスメリア神教との繋がりの深い国であり、迂闊に仕掛ければ外交面で危うくなりかねない。

 特に大陸一の大国であるガル=リナリア帝国を敵に回す様な真似は絶対に出来なかった。


「アリアが処刑されるとなれば誰もリアーナを止められませんよ」


 頭の痛い問題だった。

 処刑されると判明した場合、先日より酷い事が神殿で起きるのは容易に想像出来た。


「それは何としてでも避けねばならん。しかし、神殿に対しては精々抗議を送る事しか出来ないだろう」


 神殿との取り決めが邪魔で仕方無かった。


「リアーナには当面、監視を付けて見張らせ、神殿の同行を探って様子を見るしか無いだろう」


 つまり打てる手が無いのだ。


「こんな事なら強引にでもお前の婚約者にでもしておけば良かったか……」


「それは無理でしょう……と言うかその話を出してリアーナに睨まれていたでしょう」


 夜会の事を思い出して懲りない親だと思うヴィクトル。


「……あれぐらいならまだマシだがな……」


 何処か遠い目をする国王にヴィクトルはまさかと思った。


「既に打診していたのですか?」


「近衛が倒れるレベルの殺気を食らった。あそこまで本気になるとは思わなかった……」


 その時の事を思い出し思わず身震いする国王。


「と言うかリアーナを義母と呼びたくないですよ。友人が母とか嫌過ぎます」


 義姉ならともかくリアーナを義母と呼ぶ自分を想像したくなかった。

 それ以前に呼んで無事でいられるだろうか心配だった。


「あれが子の成せぬ身でなければ万事解決だったのだ。あの事件は本当に忌々しい……」


 ヴィクトルに良い婚約者が見つからない事も頭の痛い問題だった。

 何だかんだで問題が有り、婚約が無くなるのだ。

 まるで何かに呪われているかの様に。


「他の家も大した娘はおらんからな」


「そうですね。そう言えばハーノア侯爵からは熱烈なアピールを受けていますね」


 思い出したかの様に言うヴィクトル。


「ハーノア家はダメだ。カナリス派との繋がりが強すぎる。それにグレースが私の側室の時点で無理だ。しつこい様なら私から言おう」


「お願いします。分家からも迫ってくるので面倒なのですよ」


 疲れて嫌そうな表情で言った。


「それなら注意しておこう。アナスタシアの娘が良いとは思ってはいたんだがな」


「教皇猊下に断られていたじゃないですか。学生時代は仲が良かったとは思いますが、そう言う目線では見た事が無いですね」


 ヴィクトルにとってヒルデガルドは気兼ねなく話せる友人としか見ていなかった。

 そしてお互いに結婚は無いと思っている。


「私の事よりリアーナの謹慎が明けたら動き出しますよ」


「何か良い手が打てれば良いが何も思いつかん」


「死ぬ気で今の内に婚約者を当てますか?」


「当然、お前がやるんだろうな?」


 国王はその役だけは絶対にやりたくないと思った。


「私がやっても良いですが、確実に断られるでしょう。勅命を出したら出したで国を出て行きそうな気がしますし……」


 ヴィクトルは現在の状況ではリアーナを引き止めるのは不可能だと考えていた。


「薄情な言い方で嫌ですが、成り行きに身を任せるしかありませんね」


「歯痒いがな……」


 国王は奥歯を噛み締めながら苦々しく吐き捨てた。



******



 リアーナは王宮を出て徒歩で自宅へ向かっていた。

 普段は馬車だが、王宮で大暴れした所為で馬車は伝言の為に屋敷へ帰っていたのだ。

 しかし、今のリアーナには気分転換にちょうど良かった。

 それに王宮から屋敷までは歩いて十五分もすれば着く距離なので歩いた所で何も問題は無い。


 それよりもこれからどうするかが問題だった。

 すぐに動こうと考えていたが、明らかに監視と思われる気配の存在を感じていた。

 あれだけ暴れて謹慎は処分としては軽い方で監視が付くのは極々普通だ。

 リアーナ自身も騎士団の密偵だと言う事が分かっていたので無視する方向にしていた。

 だが監視の前で変な動きを見せる訳にも行かなかった。

 すぐにアリアを助けには行きたいが、自分自身の愚かな行動によりそれが出来なくなった。

 そうこう考えを巡らせている内に屋敷に到着した。


「私だ」


「お帰りなさいませ!」


 警備はリアーナに深く頭を下げる。

 リアーナは屋敷へと入っていくとすぐにベルナールがやってきた。


「奥様、お帰りなさいませ。お急ぎでご報告したい事が」


「分かっている。私の部屋で聞こう」


 リアーナは真っ直ぐ自室へ戻り、椅子に腰を掛ける。


「すまない。心配を掛けた」


「いえ……アリア様の事を思えば致し方無い事でございます」


「既に知っていたか」


「はい。ハンナが休まずにスレイプニールを走らせて報告に参りましたので」


 リアーナはハンナが神殿に捕まっていない事に安堵した。

 ベルナールはハンナから聞いた状況を報告した。

 それを聞いたリアーナの表情が険しくなる。


「懸念していた事が現実になったか……」


 リアーナはアリアが神教の政争に巻き込まれる事を以前から懸念していた。

 こんな事なら何としてでも行かせるべきでは無かったと激しく後悔した。


「はい。神殿への密偵はティエナを派遣しております。連絡役にミルとラグノートが対応しております。ただ私の予想ですが、次の教皇が決まるまでは大きな動きは無いと思っております」


「何故だ?」


「いくら枢機卿であるカナリス卿と言えども一枢機卿でしかない彼が独断でアリア様を裁く事は難しいと思います。ベルデン卿も教皇猊下がいないとは言え発言力の大きい方です。それを無視出来る程の権限はありません。恐らく早い段階で教皇選を行い、教皇になってからアリア様の処遇を決める物と踏んでおります」


「それでも状況が悪いな。ベルナールの予想だと教皇が決まるまでどのぐらい掛かると思う?」


「三ヶ月」


 ベルナールは断言した。


「それだけあればカナリス卿には十分な時間でしょう」


「私の謹慎が明けるより早いか……情報を集めろ。何としてでもアリアを救出する」


「御意」


 リアーナは屋敷で大人しくしているつもりは更々無かった。

 国を出奔する事も頭の中にあった。



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