表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
102/224

86:微妙に困るお土産

 アリアはあれから教皇と一緒に聖女として国王との謁見を行い、王都の人々を治療して回った。

 謁見自体は終始和やかに進み、何事も無く終わった。

 想定外だったのは王都で治療を希望する人の多さだった。

 当初は二、三日の滞在だったのだが、最終的には一週間も滞在する事になった。

 アリアにとっては嬉しい誤算であったが、旅の行程を管理する神官にとっては神殿へ連絡を取ったり、各所への調整とてんやわんやだった。


 そんな事もあったのでアリアは日中は王都の各所で公務、夕方には屋敷に戻って王都にいた時の様にのんびりしていた。

 とは言ってもアレクシアとレイチェルが屋敷に滞在しているので賑やかだ。

 これはリアーナがアルシアック要塞へ赴く前にアレクシアにアリアが来たら相手をして欲しい、お願いしていたのだ。

 三人川の字になってリアーナのベッドで寝る日々だ。

 これに関してはアレクシアの我儘だったりする。


 アレクシアとレイチェルのお陰でアリアは寂しい思いをせずに一週間を過ごす事が出来た。

 リアーナはいなかったが、楽しく過ごした日々はあっと言う間に過ぎ去っていく。

 気が付けば出発の日を迎えていた。

 アリアはリアーナの執務室に話しかった事をたくさん書いて置手紙を残してきた。

 いくら仕方が無いと割り切っていてもリアーナに会えないのは寂しいのだ。


 馬車に乗ると寂しさが増す。

 神殿に戻りたくない気持ちがあった。

 一種の五月病みたいな状態だった。

 帰りの道中も行きと同様にたくさんの人を癒していた。

 愛想笑いで聖女らしく振舞い、人々を救済する。

 アリア自身、自分自身を聖女ではなく偽者の聖女と思っていた。

 いくら崇められて敬われ様が自分が何故、聖女なのか理解出来なかった。

 外では自分らしく振舞えないのが辛かった。

 公務なのでいつも以上に頑張って笑顔作り、人々を癒す。


 ただそれは苦行以外の何でも無いだろう。

 自らを偽って行い続けるには無理がある。

 いつか破綻してしまうだろう。


 アリアは神殿へ戻ると酷く疲れた様子で、その日は自室ですぐに眠りに就いた。

 帰りは軽い五月病と公務が重なり精神的な負担が非常に大きかったのだ、


 今回の旅の影響は非常に大きかった。

 何せ新たな聖女が実際に各地に赴き、たくさんの人々を救済したのだ。

 事前にアリアを聖女にする旨の通達は出ていたのだが、アリアを実際に目の当たりにした信者は新たな聖女の誕生に喜んだ。

 神教の地盤は更に磐石となったと言えよう。


 神殿に帰ってきた翌日、アナスタシアから呼び出しを受けていた。

 部屋にはアナスタシアだけではなくボーデンとマイリアもいた。


「アリア、救済の旅、ご苦労様でした。たくさんの人々から感謝状が届いてます」


 アリアに癒された人々が神殿に感謝の手紙を送っていたのだ。

 上は貴族から下は平民までたくさんの人々から届いている。


「聖女の披露も兼ねて来月にガル=リナリア帝国、半年後にはメッセラントより南にあるイエゲル神国、ネーヴェル王国、キエザ大公国へ行ってもらいます。どちらも私とボーデンが同行します」


 ガル=リナリア帝国は人間至上主義の先鋒とも言える国で神教へ多大な寄付を行っており、無碍に出来ない相手だ。

 イエゲル神国、ネーヴェル王国、キエザ大公国はメッセラントの南に位置する小国郡で敬虔な神教の信者が多い国である。


「ランデール王国に関してはカーネラル王国と戦争中の為、訪問は様子を見て判断します」


 ランデール王国は神教に従順な国ではあるが、隣国であるカーネラル王国とは戦争中、バークリュール公国とも小競り合いが続いており、ヴェニスからランデール王国へ向かうと前線を越えなければならず、危険が多い。

 実はランデール王国からは今すぐにでも聖女に来て欲しいと言う要望が既に来ていた。

 ランデール王国の思惑は聖女の来訪により国の士気を上げる事だ。

 アナスタシアもそれが分かっているので、戦争が終わってから訪問すると返事をしているのだ。

 それに加えて前線を越えるとなると危険がかなりあり、アリアに万が一があっては困ると言う事情もあった。

 新たな聖女で支持を固めた反面、ここで聖女を失えば信者の心の拠り所の一つを失う。

 それは神教の支持に直結する。

 それだけは避けなければならなかった。


「アリア、暫くは忙しいとは思いますが、頑張って下さい。救済を待ち望んでいる人は多いのです」


 アリアは表情には出さないが正直、うんざりしていた。

 初回の公務であれなのだ。

 これが色んな国へ回らなければいけないと思うだけでブルーな気分になった。

 でも救える人は救いたいと矛盾を抱きながら。


「はい」


「暫くはゆっくり休みなさい。長旅の疲れは見えない所に溜まっている物です。今週は公務は入れてません」


「ありがとうございます」


 アリアは軽くお辞儀をする。

 久々にハンナのクッキーが食べたいと思った。


「今日の話は以上です」


 アリアはアナスタシアの執務室を出るとハンナと共に自室へと戻った。

 何もせずにゴロゴロしたい気分だった。

 廊下を歩いていると目の前からサリーンとフィンラルがいた。


「二人とも帰ってきたよー」


 アリアは二人に手を振りながら帰ってきたとアピールする。


「お帰り、アリア」


「ご無事に戻られて何よりです」


 アリアはサリーンの法衣がフィンラルと同じラインが入った物になっている事に気付く。


「サリーンさん、神官になれたんだね」


「えぇ、平民上がりでは最年少の神官への昇格らしいです」


 神官へ昇格するのは早くても十八歳ぐらいなのが一般的だ。

 サリーンは勉強に加え、治癒魔法の適正が高く評価され、神官に昇格出来たのだ。


「サリーンさんは将来有望だね。夢は大司教?」


「そんなの恐れ多いですよ。あんまり私を褒めてもお菓子は出ませんから」


「あ、そうだ。二人にお土産があるから後で私の部屋に来てくれると嬉しいかも」


 お菓子でアリアは二人に買ってきたお土産の事をすっかり失念していた。


「聖女様から物を賜るとは大変嬉しく思います」


 フィンラルは恐縮と言わんばかりに頭を下げた。

 フィンラルはアリア付きの神官になれて心の底から喜びを感じていた。

 それは彼の生い立ちにあった。

 フィンラルの両親は彼が生まれる前に先代の聖女に救われており、小さい頃から両親にその話を聞いていた。

 神官になったのもいつか聖女の役に立ちたいと思っていたからだ。

 彼にとってアリアは何人にも変え難い存在であり、神に等しい存在なのだ。


「それなら今から一緒に行っていい?」


「もちろん!」


 二人を連れてアリアは部屋へ戻ると部屋の奥の袋からガサゴソとお土産を取り出す。


「はい!」


 サリーンが受け取ったのは髪飾りだった。

 小さいパールが着いており僅かばかり魔力が宿っていた。


「これ、高い物じゃないの?」


 サリーンは高そうに見えたのでもらっても良いのか気になった。


「一応、私のお給金から買える範囲だから大丈夫だよ」


 サリーンの髪飾りが金貨一枚もした事は敢えて言わない。

 アリアの給金だが他の神官よりも遥かに多く月に金貨五枚と意外と高給取りなのだ。

 普段は神殿にいるのでお金を使う機会が少なく貯まる一方なのだ。

 ハンナの給金に関しては三ヶ月に一度、アリアへの仕送りと共に神殿に送られてきているので金に困る事は無い。


「だから小さい真珠のしか選べなかったの。ごめんね」


「そんな事無いですよ。こうやって選んでくれたのが嬉しいですから」


 サリーンは髪飾りを失くしてしまわない様に懐へ仕舞った。


「私のは何でしょうか?」


 フィンラルの手には魚を咥えた木彫りのホーンベアがあった。


「それはね、ホーンベアの置物で尻尾だけフサフサ癒されるかと思って」


 このホーンベアの置物は尻尾だけ何故か動物の毛で作られておりフサフサなのだ。

 職人の無駄なこだわりが見える。


「はぁ……」


 フィンラルはお土産が予想外にどうしたら良いか分からず内心困っていた。

 サリーンは声に出さない物の自分は髪飾りで良かったと思った。

 ふと二人はハンナのフサフサの尻尾に目が行った。

 原因はあれか、と思う何処か納得した様な二人にアリアとハンナは首を傾げた。


「どうかしたの?」


「何でも無いですよ。聖女様、ありがとうございます。部屋に大切に飾らせて頂きます」


 フィンラルは何事も無かったかの様にお礼を述べるが、彼の部屋がアリアからプレゼントされる無駄にフサフサした尻尾の置物がこれから増える事なぞ知る由も無かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ