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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第二章:貶められた聖女
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84:アリアを愛でる会

 天気の良い昼下がり、アリアはヒルデガルドの所へ来ていた。

 今日は特に用事の無い日でふらっと覗きに来たのだ。

 ヒルデガルドのいる部署は神殿のお金を管理する部署で各部署に予算配分を決めたり、収支の確認をしたり等、神殿の中では一番地味な仕事だ。

 だがそこの長になると権限は侮れず、色んな部署の長からの予算増額の陳情をしにやって来る。

 基本、余程の事が無い限り予算の増額を認める事はない。

 神教内の組織は大きく内務部、祭事部、武官部の三つに分かれておりヒルデガルドは内務部の出納担当になる。


 今日は休憩にアリアが来ている事で出納担当の事務室はいつも以上に賑やかだ。

 休憩机にはたくさんのお菓子が並べられ、各自にお茶が配られ和気藹々と世間話で盛り上がっている。


「聖女様ー、これ美味しいですよー」


「あ、ずりぃぞ。俺があげようとしていた菓子なのに」


「聖女様に食べさせていいのは俺だけだ」


「何だと!聖女様は皆に平等なんだぞ」


 ヒルデガルドの部署では誰がお菓子を食べさせるかでヒートアップしていた。

 そしてアリアの席はいつの間にかヒルデガルドの膝の上が定位置となっていた。

 長権限でヒルデガルドが独占しているのだ。


「オーデンス担当長、顔が緩みっぱなしだぞ」


「と言うか休憩後、仕事になるのかしら?」


「大丈夫です。聖女様が来た後の担当長の仕事の速さは神掛かってるから」


「あぁ、恐ろしく速い。普段も仕事が速い人だが更に速くなる」


「それにしてもあの顔はヤバくないか?」


「はっきり言ってそのままお持ち帰りしそうな雰囲気ですね」


 部署のメンバーは好き勝手にヒルデガルドの事を言っているが、アリアで癒されている時は何も気にならない。

 アリアがいるだけで部署に活気が出る。

 神殿の人間にとってアリアはある種のアイドルやマスコットみたいな存在となっているのだ。

 教育担当のマードックが管理する内務担当の部署に行ってもアリアは大人気だ。

 内務担当は平均年齢が高いのでアリアを自分の孫の様に可愛がっている。


「聖女様はどんなお菓子が好き?」


 眼鏡を掛けた女性神官がアリアに好みを聞く。


「甘い物は大体好きだよ。クッキーは特に好きかな。ハンナが焼いたのがとっても美味しいんだよ」


「へー、気になるなー」


 眼鏡の女性神官はハンナの焼くクッキーに興味深々だった。


「それなら次にこちらへ参る時に作って持参しましょうか?」


「良いんですか?」


「クッキーぐらいなら簡単に作れますので」


「ありがとう。期待して待ってます」


 ハンナはどんなクッキーにしようか少し考えた。

 二色のアイスボックスも悪くないと思いながら。


「聖女様、ここには大分慣れた?」


「うん。もう半年は経つからね」


 思いの外、時間が過ぎるのが早いと感じていたアリア。

 毎日がルーティンワークの様に過ぎていく。

 少しでも変化を付ける為、暇があれば色んな人の所へ今日の様に遊びに行っている。

 大体週の内、三日はヒルデガルド、後はマイリアとアナスタシアの所を回っている。

 稀にボーデンからお茶に誘われたりする。

 何故か仲直りしてから誘われる機会が増えた。

 アリアは面倒だから避けているのだが、誘われたら断る訳にも行かず、そんな時はハンナを自室に残して行く。


「でも神殿にいても暇だからあんまり楽しくないかな」


「そうだよね。俺も来た時は神殿に篭ってばっかり……と言うか今でも篭ってばかりだな」


「何で神殿に来たの?」


 アリアはふと気になった。


「ウチは普通の商人なんだけどさ、四男になると家にいても邪魔者扱いされるんだよね。まぁ、学校へ行かせては貰えたから計算とか読み書きはバッチリなんだけど、ちょうど卒業の時に神殿の出納部門の求人を目にしたんだよ。神殿なら下手な商会で働くより安定しているからかな。給料も悪く無いし」


 アリアはそう言う考え方があるのかと少し感心した。


「ここで働く様になってからは結構、生活に余裕があるから何も無い所は難点だけど悪くない職場かな。それに上司は美人で聖女様もいるし」


 アリアと話していた神官はアリアの頭をポンポンと叩く。


「っと、そろそろ休憩時間が終わりだな」


 既に休憩を始めて三十分も経っていた。


「担当長、現実に戻ってきて下さい。仕事始めますよ」


「後一時間……」


 ヒルデガルドが駄々を捏ね始めた。

 これには部署の人間も呆れてしまった。


「ヒルダさん。お仕事しないとダメだよ」


 アリアはヒルデガルドの腕から逃れ様とするが、ガッチリとホールドされているから抜け出せない。


「もう少しだけ」


「後でマイリア様に報告するよ」


 ヒルデガルドはさっとアリアを膝の上から椅子の上に下ろして自らの机に戻る。


「さて仕事を再開しましょう」


 ヒルデガルドの豹変振りにその場にいる全員が呆れ果てて溜息を吐いた。


「流石の俺達でも呆れますわ、担当長」


「アリアちゃんに癒されているとつい現実を忘れてしまうだけです。あ……」


 ヒルデガルドが書類を取ろうとした時、ヒルデガルドの懐から一枚のカードが落ちた。

 アリアは足元に来たので拾ってそのカードを見て固まった。

 後ろで控えていたハンナもそのカードの存在に思わず動揺した。


「ヒルダさん、このカード何?私の見間違えでなければアリアを愛でる会と書いてある様に見えるんだけど?」


 ヒルデガルドはさっと目を逸らす。

 そして部署の人間、全員の視線が泳ぐ。


「ヒルダさん、これが何か私に教えて欲しいな」


「いや……それは……えっと……あれですよ。街の喫茶店の看板娘のファンクラブで……」


 ヒルデガルドはしどろもどろになりながら言う様子にアリアは目を細める。


「ふーん……名前が私と一緒なんだ?」


「偶然です。そう、偶然です!」


「でもここに描いてある絵って、昔、リアーナさんと書いた絵なんだよね」


 アリアは猫を描いたつもりだったが、絵心が無かったので残念な仕上がりになったのだ。


「偶然ですねぇ……」


 アリアはヒルデガルドの傍まで来てじーっと見つめる。


「じー……」


「……」


「じー……」


「……」


「……」


「ごめんなさい!これは夜な夜なアリアちゃんの可愛さを語り合う集まりなんです!」


 ヒルデガルドはアリアの視線に耐え切れず白状してしまった。

 アリアはぐるんと振り返り、じと目でハンナを見る。

 ハンナはやましさしか無いので目を逸らす。


「この絵はヒルダさんじゃ入手出来ないんだよね。そうなるとここで唯一、屋敷の物を自由に出来るのはハンナしかいないんだよね」


 ハンナは黙秘権を行使した。


「黙秘しても良いけど……今後、ハンナの大好きな甘い物を禁止にするから」


 アリアは切り札を出す。

 ハンナは三食の食事より甘味が大好きなのだ。


「アリア様、白状しますからそれだけはお許し下さい!」


 ハンナはアリアに縋りつく。


「で、これは何?」


「それはアリア様の可愛さと尊さを語り合う同好の士と言う証です。基本的にはアリア様について語り合う集まりです。因みに私は会員No.1です」


「ここ犯人がいた!?そうするとハンナが会長?」


「いえ、会員No.0が会長です」


 ふとアリアの頭の中で会長に該当する人物が思い浮かんだ。

 ハンナがNo.1だとすると考えられる人物は一人しかいなかった。


「もしかして……リアーナさん?」


「はい。No.2にエマさん、No.3にマイリーン様、ベルンノット侯爵家一同に屋敷の使用人は全て会員です」


 アリアは気が遠くなってきた。


「因みに国王陛下、王妃のルクレツツィア様、教皇猊下、マイリア枢機卿も会員になられております」


「陛下や猊下は何してるの?」


「因みにここの部署は全員、会員です」


 アリアは思わず部署の人間を目をやるとみんな頭をポリポリ掻きながらいや~、と言った感じで愛想笑いを浮かべていた。


「会員数は既に二百人に到達しそうな勢いです」


「……聞かなければ良かった」


 アリアは聞いて心底、後悔した。

 大切にしてくれるのは嬉しいがここまで来ると少し怖い物があった。


「アリア様、そう言えば面白い集まりをご存知ですか?」


「何?」


ハンナは懐から一枚のカードを取り出すと、それを見たアリアはしまった、と言う顔をした。


「詳しく知ってそうですね、何でも私の尻尾をモフる会だとか……」


 アリアは逃走経路が無いか探す。


「アリア様、ここは三階なので窓からは逃げられませんよ。まぁ、幸いな事に会員が少ない事が救いですかね」


 部屋の入り口はハンナが完全に塞いでいる。


「良いじゃん!ハンナだって同じ事をしてたんだし。誰がハンナに教えたの?」


「マイリア枢機卿から聞きました、あの方が会員No.25と言う事は会員は屋敷の方ですか?」


「そうだよ。でも会長は私じゃないよ」


 ハンナの予想ではアリアが主犯だと思っていたので想定外の答えだった。


「リアーナ様ですか?」


「リアーナさんは入ってないよ。会長はエマさんだよ」


「エマさんですか?」


「爆睡中のハンナは尻尾をモフっても気付かないって言ってた」


「まさかあの人とは……」


 予想外の人物に呆れながら困り顔のハンナ。


「次にエマさんに会ったら夜中に私の隠してあったクッキーを摘み食いしていたのチクるから」


「そ、それはダメです!?と言うか、何で知っているんですか?」


「クッキーの缶に魔法で細工しておいたからね」


 アリアは自慢げに言う。

 細工と言ってもそう難しい物では無く、簡単な識別の魔法だった。

 教わった人物は意外な事にボーデンだったりする。

 偶々、二人でお茶をしていた時ににそんな魔法があると言う事を聞き、何かの役に立つのではないかと思い、教えて貰ったのだ。


「ハンナの手口はバッチリ把握しているんだからね。パッと見で分からない量が減っているんだよね」


 二人は睨み合っているが、そろそろ仕事に戻りたい面々からすれば迷惑極まりなかった。


「アリアちゃん、出来ればそれはここ以外やってくれると嬉しいかな。まだ仕事が終わってないから」


 アリアとハンナはここが出納担当の部屋だと言う事を失念しており、二人して勢いよく頭を下げて謝罪して自室へと戻った。

 自室に戻った二人はクッキーを食べながら少し反省するのであった。




ヒルダ「アリアちゃんを愛でる会、会員No.57ヒルデガルドです」


ハンナ「会員No.1ハンナです」


ヒ「とうとうバレてしまいましたね」


ハ「まぁ……見つかった所で問題はありません。周囲の目ぼしい人間は会員ですから」


ヒ「それもそうですね。そう言えば発足のきっかけは何だったのですか?」


ハ「大した事ではありませんよ。リアーナ様がお戯れにファンクラブを作ろう!と言い始めたのがきっかけです。正規会員は二百名弱ですが、巷では非正規の会員もたくさんいますね」


ヒ「神殿で会員になる方法を聞かれますからね」


ハ「最初はこれ程人数が集まるとは思ってもいなかったのですが、アリア様の可愛さの賜物です」


ヒ「可愛いですよね。思わずお持ち帰りしたくなります」


ハ「神殿にいる時は偶に一緒に寝ていましたよ」


ヒ「ズルいです!!」


ハ「と言いながら寝ぼけながらアリア様を抱き枕にしているではありませんか……」


ヒ「それはまた別です。寝る時からこう、添い寝するのが良いんですよ」


ハ「あんまりスキンシップ独占が酷いと会長から苦情が来ますよ」


ヒ「そこは上手い具合にやってますから。でも最近はマイリーンさんの背中の上が多いんですよね……」


ハ「あそこはアリア様の特等席になってますから」


ヒ「羨ましいです……」


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