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悪魔となって復讐を誓う聖女  作者: 天野霧生
第一章:復讐の聖女
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10:ヒルデガルド・オーデンスの目的

「ヒルダさんは護衛も付けずになんで一人でこの街に来たの?」


 ここに来た一番の目的はこれだ。


「私もあなたの様な立場の者が護衛も付けずに神殿から隣国に来るなんて普通には考えられんのだ」


 ヒルデガルドは膝の上に乗せていたアリアを自らの横に座らせ向き直る。


「護衛なんか付く筈がありません。一人で勝手に来たのですから。リアーナさんと同じですよ。それに考えている事はアリアちゃんと一緒だと思います」


 それを聞いたアリアはパッと頭の中にある言葉が浮かんだ。


「復讐……?」


 アリアの問いにヒルデガルドは迷わず応える。


「はい。私と母は血が繋がっておりません。それでも実の娘の様に育てて頂きました。私は母として教皇として慕い、尊敬していた母を亡き者にした者を許せる筈がありません!」


 理由は聞くまでも無かった。

 前教皇アナスタシアの娘であるヒルデガルドは元々捨て子で赤ん坊の時に拾われたのだ。

 女神アルスメリアに身を捧げてきた前教皇アナスタシアは結婚をする事はなかった。

 アリアは前教皇アナスタシアがヒルデガルドの事をとても愛していたのをよく知っていた。

 その逆も然り。


「あの者達をこの手で断罪すると誓ったのです。母がそんな事を望まないのは承知の上です。だからリアーナ様を追ってこの街に来たのです」


「私を追ってきただと?」


「はい。私の復讐に協力して頂けそうな方はリアーナ様しか思い当たりませんでした。私はギルド等でリアーナ様の後を追っていったのです。まぁ、地方の視察名目でしたが、もうバレて神教を追放されているでしょう」


 アリアは頭に手を当てた。

 正直、彼女がここまで行動を起こすとは思っていなかったのだ。

 リアーナとハンナも少し唖然としている。


「えっと……ヒルダさんは私達に一緒に行動したくてこの街に来たと?」


「はい」


 ヒルデガルドの答えにアリアは悩む。

 自らの状況を友人に話す勇気が無いのだ。

 きっと友人をまた悲しませてしまうと思ったからだ。

 アリアはリアーナを見ると強い視線で返される。

 これはアリア自身で判断しろ、と言う事だ。

 悪魔になろうとしている自分を受け入れてくれるとは思えなかったのだ。

 一緒に行くと言う事は彼女に事情を隠す事は出来ない。


『ねぇ』


 ふとカタストロフに語りかけられる。


『今は悩んでいる所なんだけど。さっきまで寝ていたのに何?』


 声を出す訳にはいかないので頭の中で聞き返した。


『彼女に正直、話してみたら?』


 カタストロフの提案にアリアは驚いた。


『何を言ってるの?』


『これは僕の予想なんだけど彼女、何か勘付いているよ』


 それこそどう言う事か分からなかった。


『は?』


『それに彼女、契約印があるよ』


 カタストロフの言葉にアリアは驚きを隠せなかった。


『契約印もかなり馴染んでいるから君より悪魔と慣れ親しんでいるんじゃないかな』


 カタストロフとの会話に気を取られているとヒルデガルドがアリアの手を握った。


「アリアちゃんがこの一年で変わってしまったのは出会った時に分かっています。リアーナ様もハンナ様も」


 カタストロフの予想を裏付ける発言だった。

 そして彼女は徐に神官服のボタンを外し、胸を晒す。

 彼女の胸から腹部に掛けて禍々しい紋様が刻まれていた。


「なっ!?」


「えっ!?」


「な、何で……ヒルダさんに契約印が?」


 三人は神教の司教であるヒルデガルドに契約印がある事に驚きの声を上げた。

 神教で悪魔と契約する事は信徒としてあってはならない事だ。

 見つかれば即時、粛清だ。


「そう、悪魔との契約印です。これは私が赤ん坊の頃から刻まれていました。長年、悪魔と一緒にいた私は悪魔の気配には敏感なんです」


 赤ん坊の頃に契約と言うのは普通には考えられないが、前教皇アナスタシアをそれを知っていて養子にしたと言う事になる。

 ヒルデガルドは優れた魔術師の一面を持っていたが、悪魔との契約者なら当然の事だった。


「アリアちゃんもリアーナ様もハンナ様も私と同じ悪魔の気配がします。契約の経緯は存じませんが、私も一緒ではダメですか?」


『だから言ったでしょ?』


 アリアは腹を括った。

 友人にここまで正直に話してもらって首を横に振る事は出来ないと思った。


「ヒルダさん、分かったよ」


 ヒルデガルドの要望に首を縦に振った。


「私達はあいつらに復讐をする事。ヒルダさんと一緒だね」


 アリアは契約についても話す事にした。


「復讐の為に悪魔と契約をした。そして私は悪魔に力を貸してもらう代わりに悪魔になる」


 ヒルデガルドの表情が驚愕の色に染まった。


「そ、そんな!?ちょっと待って!?悪魔になるって、どう言う事ですか?そんな事出来るの?アリアちゃん、人じゃなくなって良いのですか?」


 どうやらヒルデガルドは人が悪魔になれる事は知らなかった様だ。

 彼女にとってアリアは友人と言うより可愛い妹の様な存在に近い。

 そんなアリアが人をやめる、と言っているのだ。


「なれるよ。もう半分ぐらいは人じゃなくなってるし、そう言う契約だから」


 平然と述べるアリアにヒルデガルドは困惑した。

 悪魔の事を話したのは自分からだが、ただ力を得る為に契約していたと思っていた。

 今まで悪魔になる契約等聞いた事が無かった事に加え、人が悪魔になれる事に半信半疑なのだ。

 ヒルデガルドの戸惑いを意に返さず続けるアリア。


「私はあいつらを殺すためなら何だってする。それが人の道から外れても私にはそれしかないのだから。今の私を見ればアナスタシア様は凄く怒って悲しむのは分かってる。それでも許せない。でもね、女神様は私を止めなかった。最後にあなたの好きにしなさい、と言ってくれたよ」


 ヒルデガルドは何て言ったらいいのか分からなかった。

 ただ封印されている時にアリアが歪んでしまい壊れてしまったのだと。

 彼女はそこで何が行われたかは分からないが、これだけ変わってしまう絶望がそこにはあった事は理解出来た。


「アリアちゃん……」


 それでもアリアの傍にいてあげたいと思った。

 自分がいる事でアリアの人間らしい部分が少しでも残せるのでは無いかと思ったのだ。


「私を軽蔑してもらっても構わないよ。私は人を殺すし、人を餌だと思っている。もう人と呼べないくらいに変わってしまってるから」


 既に理解が出来る所を通り過ぎてしまったのかヒルデガルドに顔は如何にも泣きそうな顔だ。


「……アリアちゃんにとって人である私は餌ですか?」


 ヒルデガルドの問いにアリアは困惑した。

 人を餌だと思っている事には間違いは無かった。

 しかし、親しい人に対しては考えた事が無かった。

 ましてや数少ない友人であるヒルデガルドにだ。


「……」


 アリアは答えられず俯く。

 ヒルデガルドはアリアの頭を撫でた。


「意地悪な事を聞いてごめんなさい。私はアリアちゃんを軽蔑はしません。だって私の大切な唯一の友人だから」


 アリアはヒルデガルドの言葉が凄く嬉しかった。


「結論としてはヒルデガルド殿は我々に着いてくると言う事で宜しいのか?」


 リアーナが間に入って結論の聞く。


「はい。それと私の事はヒルダとお呼び下さい。外では少し仰々しいと思いますので」


「ああ、分かった。一緒に来るなら神教の法衣をやめて別の服に着替えてもらって良いだろうか?」


 ヒルデガルドは神教の司教の法衣を着ていて外では非常に目立つのだ。

 それでは身動きが取り辛い。


「それは大丈夫です。この法衣を着ていたのは孤児院に寄る為ですから。普段は馬車も含めて普通の物に戻しますよ。この格好は非常に目立ちますから」


 彼女の馬車も神教の刻印が刻まれた物だ。


「ヒルデガルド様、大変失礼ですが神教の刻印がされた馬車の様相替えをやって頂ける所があるのでしょうか?」


 ハンナの質問は尤もだ。

 神教の刻印が刻まれた馬車を普通の様相の馬車に変えるのは普通では考えられない行為だ。

 そんな事をするのは馬車を盗んだ者だけだ。


「それなら心配には及びません。様相を変える程度なら私一人で出来ますので。私が悪魔と契約して得た能力は【錬成】です」


 【錬成】―――

 それは錬金術と同様の物である。

 錬金術はあらゆる物質を分解し、再構築する魔法の一つだ。

 多種多様な魔術儀式を組み合せる事によって成す事で出来る魔法で非常に手順、手間が多くもの凄く労力が掛かる。

 しかし、ヒルデガルドは悪魔の能力によって手順を簡略して使用する事が出来る。


「なのでご安心下さい。明日にそちらの宿に移る形で宜しいでしょうか?」


「こっちはギルドの宿舎に泊まっているのだが、ここみたいに綺麗な場所では無いが問題無いか?」


 ギルドの宿舎ははっきり言ってそんなに綺麗ではない。

 荒くれ者が泊まるのだ。

 そこは致し方が無い部分もある。


「私は構いません。あ、でもギルド証を持っておりません」


 普通、神職の人間は冒険者ギルドに登録はしない。


「それなら明日は宿を移すついでに登録もしてしまおう。それで良いか?」


「はい。宜しくお願します。アリアちゃんもこれから宜しくね」


 ヒルデガルドはまたアリアの頭を撫でる。

 アリアは気恥ずかしそうに頷いた。

 アリア達は今日の所はギルドの宿舎に戻る事にした。




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