01:プロローグ
転生聖女の道程と同じ世界観の物語です。
一人の少女が暗い部屋に放り込まれた。
少女を連れてきた者は部屋に放り込んだ彼女の事を気にする事も無く、部屋の扉を閉め、封印の魔法を掛ける。
ここは【深淵の寝床】と呼ばれアルスメリア神教の総本山、聖アメリア神殿の最も深い所にある悪魔を封印する為の場所だ。
人間と悪魔は古来から対立し、アルスメリア神教では一番強い結界が張られているこの場所に捕らえた悪魔を封印している。
この【深淵の寝床】の一室に放り込まれた少女は悪魔ではない。
一人の人間だ。
少女は犯してもいない罪を着せられ大罪人としてここに封印されたのだ。
【深淵の寝床】に封印されると言う事は死ぬまでここを出る事が出来ない。
少女は今や悪魔と同じ扱いなのである。
ここに入る時、少女は何も見に付ける事は許されなかった。
唯一、身に付けているのは黒い首輪だ。
見に付けていると言うよりは付けられたと言う方が正しい。
この首輪は隷属の首輪と言い、奴隷との主従を結ぶ為の道具で、これを付けられた者は付けた者の命令には逆らう事が出来ない。
無理矢理外そうとすれば装着者に激しい痛みが走る様になっている。
少女は何も纏わぬ体を壁に預ける。
自らが罪を犯していない事は理解している。
だが結果としてここに封印されてしまった。
少女は唇を噛む。
強く噛みすぎた事によって唇から血が滲む。
理解しているからこそ悔しかった。
自分が慕った人を殺した罪を着せられ封印される。
真実を知る者を真実と共に消される。
正に今の少女の状態だ。
少女は大切な者を奪った犯人を知っている。
その現場にいたのだから。
何も出来ない自分が悔しい。
大切な物を奪った奴らが憎い。
そんな思いが少女の心の中を駆け巡る。
幾ら思えど少女には抗う術が無かった。
この地の底でただ悔しさに唇を噛み締める事しか出来ないのだ。
嘗て少女は聖女と呼ばれ暖かい笑みで人々を癒した。
その姿は凛として美しく、聖女アメリアの再来と謂れる程だった。
しかし、今の少女にはもうその面影は無い。
少女の綺麗に整えられていた長い蒼い髪は乱れ、白く透き通った肌には痛々しい幾つもの痣、右目は尋問の時に抉られ眼球は無い。
体の痣については特に問題は無かった。
治癒魔法を使わなくても小さい傷であれば勝手に癒してしまうからだ。
だが欠損した部分を修復する事は出来なかった。
失ってすぐであれば少女の治癒魔法を使用すれば修復は出来たが、隷属の首輪により魔法の使用を禁止されており、修復する事が出来なかった。
少女は部屋で暴れる事は無かった。
暴れてもどうにも出来ない事は理解しているからだ。
ただただ自らが朽ちていくのを待つしかないのだ。
後に少女はこう呼ばれる。
――復讐の聖女と……。