こんな夢を観た「一発芸のネタを探す」
今度の休みにみんなで集まって、一発芸を披露し合うことになった。
「おれ、腹踊りをするぞ。得意なんだ、あれ」桑田はそう言うと、腹を出して体をくねらす。
「ちょっと。今、やることないじゃん。見せないでよ、そんなお腹っ」わたしは思わず顔をそむけてしまった。
「そうですねえ、なら、わたしはマジックでもやりましょうか」志茂田の長い指が、ひらひらっと踊る。パッと、ピンク色のカーネーションが現れた。
おーっ、と歓声が上がる。
「すごいじゃねえか、やるなあ、お前」桑田が手放しで褒めちぎる。
「いいなあ、みんな芸があって。ああ、どうしよう。何をしたらいいか、わからない」わたしは困り果てた。
「何かできるだろ? 例えばほら、歌って踊る、なんてどうだ」桑田が勝手なことを思いつく。
「音痴だし、踊りなんて、小学校の時に体育の授業でやったマイム・マイムしか知らないよっ」とわたし。
「落語はどうでしょうか、むぅにぃ君。座布団に座って、ただ一席ぶつだけですよ。簡単でしょう?」志茂田はこともなげに言う。
「えー、毎度ばからしい話しを1つ。熊さんや、隣の塀に囲いができたってねえ? だから、どうしたっ」テレビの寄せで見た演目を、うろ覚えでしゃべってみた。
「あー、落語以外の、何か別なものを探すとしましょう」志茂田の顔に、あからさまな落胆の色が浮かぶ。
もうっ、自分で振っておいて!
「とにかく、簡単なものがいいのよ」中谷までもが口を入れてくる。「なんてったって、あんたは不器用だし、覚えが悪いし、それに慌て者だからさぁ。幼稚園児でさえできる、むっちゃ簡単なもの。何かないかなあ……」
考えてくれるのはありがたいけれど、どうしてこんなに腹が立つんだろう。
「そうだ。あんた、睫毛にマッチ棒を載せなさいよ。それならできるでしょ?」
「そんなの、一発芸でも何でもないし」わたしは渋った。
「なら、もっとすごい物を載せればいいじゃない」
「例えば、どんな?」わたしは聞いた。
「バーベルなんてどう?」そんな無茶を言う。
できるわけないでしょ、と口を開きかけた時、あちこちの席でパラパラと拍手が起こった。
「いいな、それ。見てみたいもんだ」「うんうん、盛り上がること間違いなしだぞ」「おいら、会社の同僚も連れてきちゃおうかな」
期待と尊敬を含んだ嵐のような拍手が、広がっていった。
「一発芸大会、すごく楽しみになってきたなあっ!」
今さら、断ることなんてできやしない。
帰りの道で、わたしは近所のホーム・センターへ寄った。
脇目も振らずにスポーツ・コーナーを目指し、バーベルを選ぶ。こうなったらヤケだ。一番重いやつを買っちゃえ。
「すいません、このバーベルください」近くを通りかかった店員に声を掛ける。
「はい、こちらの60キロですね。ありがとうございます。お持ち帰りですか?」
「いえ、今持ち上げようとしたら、びくとも動かなかったので、家に送ってください」わたしは頼んだ。
「かしこまりました。お届けは明日でよろしいでしょうか?」
「ええ、午前中なら部屋にいますから」
店員は、バーベルを片手でひょいっとぶら下げて、レジへと運んでいった。
明日から、睫毛でバーベルの練習かあ。まぶたが腫れたらどうしよう。やだなあ、面倒くさいなぁ……。




