第4章 資産
第4章 資産
今成誠治は名刺を眺めた。変な肩書きだ。代表取締役と書かれている。別に変でも無いのだが、今成誠治にはそう感じられた。
一郎は代表して取り締まられる役を俺から持った筈だ。そうだこの肩書きには「取締」と「役」の間に{られ}と言う文字を入れるべきだ。
今成誠治の名刺には常務取締役と書かれている。これは「常に務めて取り締まる役」と今成誠治は理解している。
今成誠治は亀山一郎の名刺を裏返して見た。のっぺりした白い一枚の紙である。今成誠治はそこに亀山大三郎の顔を見た。
「一郎をよろしく頼む」
その顔は今成誠治にそう言った。
「任せてください。わたしは一郎君とあなたの資産を利用して世界生命保険相互会社の中で揺るがない席を確保して見せますよ。」
言葉が終わると今成誠治は亀山一郎の名刺を床に捨てた。
今成誠治は世界生命保険相互会社には内緒で亀山不動産に常務取締役として席を確保した。
大三郎の遺言であるから、その日から亀山不動産の実権を一郎の後見役としてではあるが実質掌中にしたも同然である。
基本的に亀山大三郎の残した亀山不動産は自社の持つ貸家、貸事務所、貸店舗、更に膨大な山林などの資産を管理運営するだけの事業と言う形態に変わっていた。いわゆる家主業である。
だから従業員も経理をとり仕切る川田、彼は亀山大三郎が40年程前に運送業を興した時に経理として入社した番頭格である。それに若い経理事務を行う女性、貸家全般を管理するこれも50年輩の吉原とその部下3名、受付をする45歳になる未亡人の神山佐和子と若い女性が2名、それに一郎とその妻良枝の合計12名である。
今成誠治は不動産に関しては全くの素人であり、何をすれば良いのかは全く判らなかったが、世界生命保険相互会社と同じ様に営業政策をとる為に、セールスレディの募集を始めた。保険業務も定款に入れ、代理店として亀山不動産を利用するためである。
「いっちゃん、僕も会社を手伝う様にしたのだから撲専用の部屋を一つ欲しいんだけれど良いかい。」
久し振りに社長室にいる一郎を見つけて今成誠治が言った。
「僕は余りこの部屋を使わないから、ここを使ったら良いじゃないか。」
「そうかも知れないけれど、たまにこうやっていっちゃんが使っていると僕の仕事が出来ないからねぇ。しかも常務取締役室なんて役員室が別に有れば格好いいじゃないか。隣の部屋が空いているのだからあれを貸さないで撲専用の部屋にしてもいいだろう。」
「それもそうだね、じゃぁ廊下も取り込んで役員室を作ろうか。僕から川田のおっさんに今日でも話しておくよ。」
「話しが決まったら明日からでも内装工事にかかって一カ月後の募集面接に間に合わせたいんだ。」
「オッケー」
「じゃ、今日にでも机なんかを見に行こうよ。」
「いいねぇ、いいねぇ、じゃぁ銀座の駐車場で4時にね。勿論店へは行くだろう。」
「いっちゃんにはかなわないなぁ。毎晩じゃぁないか。たまには家にも帰って良枝さんを介抱してやれよ。」
「なに言ってんだい、誠ちゃんだって言えた義理じゃないだろう。この前に家に帰ったのはいつだっけ。」
「ははは、、、僕の所は埼玉県だろう、帰るにはちょっと遠いからね。もうよそうよ、お互いに短い人生なんだから楽しんで損は無いし。」
「判った。じゃ3時にね。」
と言って一郎は受話器を取り上げた。
◎作者より◎
今回は少し短くまとめ過ぎの感じですが、次号は保険業界に少し触れてみます。お楽しみに。