2日目 その3
「やってきました! 外の世界!」
パジは大空にむかって両手を広げる。
「はしゃぐな」
魔法を手にしたら試したくなるのは人の性だと思います。
西門から歩いて30分。ゲオルクと出会った場所とは反対側にある河まできていた。
「火の生活魔法を初めて使うと、たまーに、でっかい炎になることがある。だから、こういう場所で使うほうがいい」
「へぇー」
「なるほど」
二人はキラキラした目で見上げてきたので、ゲオルクは急に恥ずかしくなり早口に話し出す。
「んじゃ、まー、はじめるか。指先に火が点るような気持ちで、“マッチ”」
オレンジ色の小さな火が点り、ゆらゆら揺れてパッと消えた。
「おお! すごい!」
「べ、別にすごくねぇよ。パジ、やってみろ。人に向けるなよ。向こうの河にむかってな」
「うん、“マッチ”」
どこかで、魔法はイメージと聞いたがまさにそれだという結果が現れた。青みがかった白い炎がパジの指先から出現した。先ほどのゲオルクの炎のように揺らぎもなく、バーナーのように力強く出続けている。
「おっ、一発か。しかもその色はかなり魔力が強いな」
「色味で魔力の強さがわかるのですか?」
「んまー、一概にはいえねぇが。魔法を使う連中はそういってたな。よし、止めていいぞ。んで、レナもやってみろ」
「“マッチ”」
どっかんという音とともに爆風が吹き大きな炎が立ち上がった。三人の髪が巻き上がり、体が傾げた。映画でみたことのある火炎放射器並の勢いだ。
「おわっ! やめ、やめ!」
「レナちゃん、すごいねー」
「結構、びっくりしました」
しかし、レナの顔は無表情、声は平坦だ。変わらないという安心のクォリティーだ。
「すげぇな! レナは魔力が強いな。たぶん魔導師クラスだ」
厄介な予感がしたレナはすかさずゲオルクを制した。
「このことは、くれぐれも内密に」
「あ? なんでだ? あいつらは討伐も楽々だぜ。登録も金かかんねぇし」
「いえ、興味ありませんので。とにかく、見なかったということでお願いします」
「いいけどよ、もったいねぇーな」
「次の魔法をお願いします」
「あん? あー、じゃあ水を出すぞ“ウォータ”」
ゲオルクの指先から水が注がれている。それは見る間に少なくなりコップに1杯程度で消えた。
「おお!」
「俺は魔素がねぇからなー。遠征中も人から水をもらったりして凌いでたな。よし、じゃあパジもやってみろ」
パジは河に指を揃えて向けた。
「“ウォータ”」
ホースで水まきしているようなイメージの水が河に流れていく。
「いい感じだな。止めていいぜ」
「なんかもったいないね。今度はバケツにいれて使いたい!」
レナは姉の勇姿を見ながら脳内で計算していた。魔素、魔力の強さ、水、バケツ、炎。
チキチキチーンとなる。
「お姉さま、素晴らしいです。流石ですね。この調子で毎日練習していきましょう。きっとバケツからもっと大きな入れ物にも水が貯められるようになりますよ。やはり、生活に水は欠かせませんから」
そう、来るべき風呂を沸かす日に備えて。
「うん! そうだね、がんばる!」
家には井戸があるという言葉を飲み込んだゲオルクにレナは微笑みかけた。今、絶対に心を読んだよなとはゲオルクの心の声だ。
「じゃあ、ちょっと嫌な予感がするがレナもやってみろ」
ゲオルクとパジは心持ちレナから離れる。
「“ウォータ”」
レナは人差し指だけを河に向けていた。そこに水柱が立ち上った。それは生活魔法ではすでにない感じの水量だった。おとぎ話に登場する水竜みたいな水柱だ。
「…ちょっと、逃げましょうか」
「…ああ、もう帰るぞ」
「はーい」
その頃、西門入口では
「河に水竜がでた? そんなわけないだろう」
「いや、確かに出たんだよー」
「は? 火竜? ないない」
などなど、竜の目撃情報が門番に入り、ついにはギルドで確認のために捜索隊が結成された。
「「「………」」」
それから、しばらくの間三人が河に行くことはなかった。